東京トラベルチャンス  作:中村 純一
** 第二章 ** テレビマン(ブラウン管の中で)

 大学の先輩に誘われて、スタジオアルタで行われた某クイズの予選に参加。予選を通過したものの、本番のテレビ出演では、あえなく一問目敗退。がっくりとさびしそうに肩を落としている僕にディレクターのO氏が声をかけてくれて、○○テレビでアルバイトをすることになったのが大学二年生の夏のこと。それから半年ほど、あるタレントの番組でのクイズコーナーの手伝いをしていた。バイトは週に一、二回、午後三時、七時まで、○○テレビの編成室第二制作部に通い、視聴者のハガキを読んでいた。テレビ局の雰囲気は、ほとんどの人が楽しそうに仕事をしていたのを覚えている。

 しかし、楽しそうに仕事をしている彼らテレビマンの働きかたはすさまじい。ほとんど毎日(休みは月に一日あればラッキー!という)働き、朝十時半くらいから、夜中の十二時ある時は朝の五時六時まで、平気で働くのである。それは、ドラマやバラエティーの撮影が深夜に行われたりするからだ。よく考えてみると、現在もいろいろなバラエティー番組があるが、スタジオでの収録が深夜や明け方になることが数多くあるそうだ。だから、昼間以上に気分も高まって、タレントはもちろん、撮影している現場スタッフまで思わず笑ってしまうのかなと思った。

 また明け方になるのは、仕事だけとは限らない。おつきあいで酒を飲みに新宿や銀座、六本木などへ足を運ぶのである。僕も新宿や高田馬場へ、担当のディレクターO氏によく連れていってもらった。朝の三時ぐらいまではよく飲んでいたものだ。

「中村、最近、番組見ててどう思う?」
「ええ、オープニングに何かタイトルコールのような決め言葉があればいいと思うんですけど・・・」

「例えば?」
「あの、スーパークイズの『勝てば天国、負ければ地獄、知力、体力、時の運、早くこいこい木曜日、スーパークイズでお会いしましょう!』ってのですけど・・」

「んで、何かアイデアあんの?」
「こんなの考えてみたんですけど。『運と知力とパーソナル、お昼のひととき、クイズ天国、クイズ食べちゃて!』どうでしょう?」

「そうか、いいね。それ、会議で言っとくよ。」

 数日後、僕が考えていたそのフレーズが一部修正されて、番組の中で有名タレントさんがそのフレーズを叫んでいるのを聞いたときは、とてもうれしかった。テレビマンにとっての夜の酒の席は、アイデア発掘の格好の場所なのである。

 ある夜、バイトがはねて、O氏に高田馬場の「みよちゃん」という人一人通れるか通れないかという狭い横長の居酒屋で、話し込んでいたときのこと。

「Oさん、こんなに働いて疲れませんか。」
 「まあ、俺はもうAD(アシスタントディレクター)は卒業して、ディレクターをやってるから、夜遅いことはたまにしかないから疲れないけど、あいつら(AD)は、大変だろうな、休みないし。俺も通ってきた道だけどさ。」
 「Aさん(AD)もほとんど毎日、というより、二十四時間フル稼働のコンビニみたいな生活なんでしょう?」
 「ああ。まあ、テレビ局の中でも制作(テレビ番組を作ること)担当、俺なんかもそうだけど、視聴者(テレビを見てる人)は俺たちのことをさ、「テレビマン」って言ってさ、うらやましがったりするけど、ほんとは大変なんだよ。毎日、番組の事を考え、よりおもしろい番組を作ろうとしてるんだけど、すべては視聴率なんだよ。でもそんなもの気にしなくていいような視聴者から見れば、俺達の生活は、テレビのブラウン管に写る人気ドラマの世界にいるように見えるんだろうね。『日常的で普通の生活』なんて言葉は、ある時間を除けば俺達には関係ないのかもしんないね。」
「ある時間って?」
「テレビ局に来るときの電車の中と、家に帰るタクシーの中にいる時間だけさ。」

 O氏は、そうつぶやいて、トイレに行くと言って席を立った。歩いていく後ろ姿を見ると、今日収録したばかりの番組の台本が、二つ折りになってジーンズの後ろポケットにささっているのが見えた。

                                          つづく