「口笛おじさん」と呼ばれる男がいる(私が呼んでいるだけだが)。
夜、我が家の前を口笛を吹きながら通りすぎていく人物だ。
とにかく口笛がうまい。プロ級なのだ(口笛のプロがどのようなものか知らないが)。
抑揚のつけ方、響きわたる高音。初めて聴く曲のはずなのに、なぜか懐かしさを感じてしまう情感…。
名のある人物なのだろうか。
先日、とうとう彼の姿を確認する好機が巡ってきた。
最寄り駅からの道を歩いていたときのことだ。
後方から、あの、口笛が聞こえてきた。
私はにわかに緊張した。
「彼だ」。
しかし、いきなり振り返っては無礼だろう。さりげなく彼の方を見ることはできないだろうか。
私は、さも用事があるふうを装って手近なビルに入った。
入り口の集合ポストを眺めつつ、待ち伏せすることにしたのだ。
口笛が近づいてくる。
心の中でカウントダウンに入った。
来た。すぐそこだ。
「!!」
口笛おじさんは思いのほか早足だった。
ビルのドアの端から端まで、通過するのに1.5秒といったところだ。
そのため、ちらりとしか姿を見ることはできなかった。
その一瞬で確認できたことは、以下の3点のみだった。
気になったのは、口許に何か持っていたこと。。
色合いから、草のたぐいではなかった(草笛の音ではないし)。
とすると、市販の口笛サポート用品だろうか。。
あの音色はおじさんの実力だけによるものではなかったのだ。。
…ちょっとさみしかった。
-以上-
(1999.05.31.)
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