中国の青島(ちんたお)に友人と行ってきました。
2000.08.11〜2000.08.15
今日はロウ山に登る。登るといってもタクシーで運んでもらうのだが。
ロウ山は青島の観光名所で、道教の山だ。ガイドブックには「仙人が住んでいると言われている」とある。
仙人。私は高校生のころ仙人になりたかった。将来何になりたいの?と聞かれて「できれば仙人に…」などとふざけたことを言っていた。でも、私はおいしいものを食べるのが大好きなので、霞だけを食べて生きていくのは無理だとわかっていた…だから仙人になるのをあきらめたのだ。
ガイドブックの「仙人」の文字を見たとたん、仙人熱がよみがえった。またしても私は「仙人に会いたい」とわけのわからないことを言い出していた。
しかし、仙人はいなかった。
ロウ山は観光客でごった返していた。観光シーズンで騒がしいから仙人も引っ込んでいるのかもしれない。
入場券を買う。中国には「順番を守る」という意識はないらしい。とにかく早い者勝ちだ。当然のように割り込むし、順番を抜かされてもそのことに対して腹を立てることはないようだ(というか、普通の状態が怒っているみたいで、よくわからない)。
私の分もあわせて友人が券を買ってくれた。
友人は日本人の中にあっても優しく礼儀正しい人なのだが、郷に入らば郷に従え。20元を手に、かなり強気で券を買おうとしていた。それでも生来の控えめさが出て、思いっきり団体さんに横入りされてしまった。
ちなみに券を売る側もものぐさで、おつりを投げてよこしたりする。
子供のころ、中華街の店員さんはなんで皆怖いんだろうと思っていたが、一度中国へ来れば疑問は解明、客に愛想を振りまく習慣などないわけだ。
仙人のいないロウ山は、日本の観光地となんら変わりはない。
しかも、山の上なので涼しいかと思っていたが、下界と大差なかった。
「海上滑降」とは何か。
文字通り海の上を滑降するのだ。
崖の上から海岸へロープが渡してある。そこを滑っていくのだ。アスレチックにある、あれ(名称わからず)の海上拡大版である。
ロウ山の入り口近くは海に面している。ロウ山へ向かう途中、「海上滑降」している人を何人も見た。
「な、なんて物好きな…」。
ところが、私の友人も物好きな人間の一人だったようだ。「あれやりたい」などと言い出したのだ。
私は最初、冗談かなと思って軽く受け流していた。が、ロウ山を一通り見た後、「海上滑降」しに行くという。「本気!?」
私はかなり慌てて止めた。
「私たちが入った旅行保険は、『危険なスポーツをした場合の傷害』には対応していないよ!!!」。
しかし、友人の決意は堅かった。「落ちたら、みんな見てるから助けに来てくれるよ。夏だから水が冷たくて死ぬこともないと思うし。でも、最悪の場合、タクシーの運転手にこれ見せて帰ってよ」と、ホテルの名前を中国語で書いたメモを差し出した。
「異国の地で、文字通り海の藻屑になるかもよ…」。そういえば、この友人は李白(注参照)のように死にたいと言っていた。やっぱり、畳の上では死ねないのか。
親御さんに申し訳ない…。
呆然としている私をよそに、友人は写真を取るための立ち位置をはかっていた。「あの岩の上に来た時点でシャッター押して」。私はカメラ係になることに。
友人は「海上滑降」の窓口でお金を払い、出発点へ向かった。
「が、がんばってね…」。遠くから友人が手を振るのが見えた。
それから私は「海上滑降」する友人の晴れ姿を写真に収めることだけに神経を集中した。
友人が身体を張って挑むのだ。友人である私も何らかの役に立たねば…。「さーいつでも来い!!」。
だが、少し様子が変だ。とっくに出発点についているのに、なかなか姿をあらわさない。何かあったんだろうか。しばらくすると、友人の黄色いTシャツを確認できた。緊張。
友人は青島の海を渡った。
青い空と青い海に黄色いTシャツがまぶしかった。
私は指示通りのポイントでシャッターを切った。そしてもう1枚。自分のカメラでも3枚撮った。
出発から到着まで、20秒はかかった。かなりの時間だと思う。
私は急いで到着点に向かった。
「あー良かった!無事で!」出迎えた私に、のんびりした口調で、友人は「いや、あっという間だったよ」と微笑むのだった。
注:李白は唐代の詩人。酒に酔って水面に映った月を捕まえようとして水死した。
〜この節は友人(海上滑降した当の本人)の記述による〜
「海上滑降」。青島の目玉、道教の聖地「ロウ山」にあって、なんて意味不明なこの企画。(しかしこの類の意味不明さが、私の心を捉えて離さない中国の魅力なのだ。)衆人環視の中、怪しいロープ一本で、相当な高さからかなりの距離を滑り降りるというものです。
一目見て「あ☆」と思った私ですが、最初は「途中で止まっちゃったらどうしよう。」なんて肝っ玉の小さなことも言っていました。でも他の人を見る限りそんなことはなさそうだったので、心を決めました。
「あれやりたい。」
そう告げた時、「海上滑降」について当初から「信じられない」といった表情を浮かべていたナキウサギさんは、一瞬凍ったのち、「頼むからやめてくれ」というようなことを言ったんだと思います。しかし、無意味な危険に身を委ねる快感=E・・もう誰にも止められない・・・。ナキウサギさんもそのことを察知したらしく、人民元を握りしめて切符売り場に向かう私を、まるで赤紙が来ちゃった息子を送り出す母の如き目をして見ていました。切符売り場では「海上滑降」の「滑降」の部分がうまく中国語で言えなかったので、身ぶり手ぶりを交えながら「シューッ!!」と言いました。そしたらオバチャンがにこやかに券を投げわたしてくれました。
さぁ、これから崖の上まで行かねばなりません。その道すがら私は何度もふり返って、岸辺で待つナキウサギさんに手を振りました。
手を振り返すナキウサギさんは、よっぽど不安だったらしく、遠目からでも不自然に腰が引けているのがわかりました。
(タンタンタンタン。)私は崖の上に続くらせん階段を上って行きます。目もくらむような高さです。途中で券を渡したら、更に上へ進みます。するとそこが出発地点になっていて、トランシーバーで着地点と連絡をとりながら客の装備を整えて、空中へ送り出してくれる監視員がいます。私は高ぶる気持ちを抑えながら、一歩一歩階段を踏みしめ、最上部に向かいました。
「よっしゃ!」と気合を入れて、監視員のお兄さんを見ると、なななななんと椅子にもたれて熟睡しているではありませんか!!
「勘弁してくれよ〜。」と思いながらも私は声をかけ続けました。が、起・き・な・い!!(この時、飛行機に乗った際にあくびをしている操縦士を見て、思わずブッとばしたという横山やすしの気持ちが少しだけわかったような気がしました。)ホトホト困り果てて下に人を呼びに行こうとしたまさにその時、お兄さんが飛び起きて私を呼び止めました。その時の彼のショボショボとした真っ赤な目を見て、一気に逃げ出したくなりました。でも、あわててロープと人とをつなぐものを私に装着しだしたお兄さんを前にして、小心者の私には何もできるはずもなく、そのまま(まるで断頭台のような)出発台へと誘導されてしまいました。下をのぞいたら、あまりの高さに意識がモウロウとしました。ここでロープと人とを金具で接続してゴー!なわけですが、私としては、それは頑丈そうな鎖か何かをギリギリと巻きつけるんじゃないかと想定していました。しかし予想に反して、その接続金具がキーホルダーみたいにチャチなもの(しかも取り外し簡単タイプ!)であったので、思わず目頭が熱 ワァー!!
背中を押されて、ハイそれま〜で〜よ〜。
海の上高く 飛ぶ自分 ロープに吊られて見る景色
フワ〜リ潮風なまぬるく お空と海との 青 青 青♪
遠くでナッちゃん泣いている・・・
着地点の岸まで結構な距離があったので、見ている人にはかなり長い時間ぶら下がっているように思えたそうです。でも、当の本人にしてみれば、ホンの一瞬の出来事でした。
「あっという間だったよ。」
「もぅー!」
無事に着地を終えた私に駆け寄ってきてくれたナキウサギさん。その顔に安堵の表情が戻ったのでした。よかった。よかった。
昼過ぎにホテルに戻って、昨日ジャスコで買った2.5元のパンを食べた。
少し休憩すると、もう夕食の時間だ。
今日はガイドブックに載っている、海のそばのレストランに行くことにした。
魯迅公園というバス停で降りる。
中国で難儀するのは道路を渡るときだ。
なにしろ交通ルールにおいて譲り合いの精神がないので、歩行者がいるから速度を落とそうなんて、そんなことはない。子供だろうが、お年寄りだろうが、手加減なしだ。
車道でも、俺の前は走らせねーぜの勢いで、自分の視界に入った車はけたたましくクラクションを鳴らしつつ追い抜くのだ。ひぇー、一般道なのに、80km出てる〜ということも。
横断歩道に信号がついていれば安全かと思ったが、歩行者側には信号があっても、自動車側に信号がないのだ。意味ない。
そんな状態でもみんな平気で道路を渡っていく。歩行者側も、平気で信号無視や斜め横断をする。目の前に公安のパトカーが通ろうと。ただ、ときおり交通法規違反取り締まり係が出ていることがある。おそろいのオレンジのジャンパーを着ていて、かなりチェックがキビシイのだ。
そんなわけで、横断歩道を渡るのはとっても怖い。
しかも、ここでひき殺されたとしても、同情されるどころか、「トロい外国人」として笑い者になるだけだ。
左右をひっきりなしに確認しながら、真剣な面持ちで横断する。無事渡りきると「無事成功!」という達成感がある。
中国人の横断の様子を見ると、実にさりげない。急ぐでも慎重になるでもなく、歓談しながら渡ることすらある。とても真似できない…。
私は他の中国人を盾にして渡ることにした。車が来るのと反対側になるように中国人と並んで歩けば安心だ。かなりアヤシイ外国人だけど。
また、今回驚いたことは、シャツをまくり上げて、おなかを出した状態で歩いている男の人が沢山いることだ。前回中国に来たのは秋だったので、見かけなかった。いくら暑いからって、あなた…。
どうみても異様な光景だが、やってる本人も周囲の人もまったく気に留めていないようだ。
おなかを出したまま妻子とともに歩く父親。おなかを出したまま恋人と歩く青年。
「ちょっとみっともないけど、暑いしね」という雰囲気ではない。真顔で、「最近、仕事が忙しくてね」とか語っちゃってる感じなのだ、おなかを出したまま。
ちなみに、ロウ山行きの時のタクシーの運転手さんはズボンのすそをまくり上げて半ズボンにしていた。そういうものなのね。
レストランに向かう道ぞいに、貝やえびなどを売っている露店が出ている。
のどかだ。
レストランはガイドブックに載っていたのにくらべ、少しひなびた感じだ。窓の切り絵のような飾りがちゃっちくて良い。しかし、夕方だというのに照明がついておらず、薄暗い。電気はつくのだろうか。
友人が「メニューをください」と言うと、小姐(しゃおじえ=ウェイトレスのおねーさん)は「没有(ない)」と答えた。「めいよ!?」。
じゃあどうやって注文するの?と思ったら、小姐が手招きする。すると、ショーケースや水槽が並ぶ部屋に連れていかれた。
ショーケースには主に野菜や肉を使ったおかずのサンプルが、水槽やバットには材料となるお魚さんが用意されている。この中から食べたいものを選ぶシステムらしい。なるほど。
私は何気なく指をさしてたずねた。「ねえ、これ何かな。イカ?」「イカだね」。そのイカ炒め物は早速小姐の手によって注文票にカウントされた。指さしただけだったんだけど…。だが、二人揃って小心者なので取消はできず、「いいよね、食べるよね」と納得しあった。
続いて、小姐おすすめ「かぼちゃもち」を注文。
せっかくだからお魚も行っておこうということで、バットに横たわるヒラメもお願いした。青島は海鮮料理が自慢なのだ。ヒラメは比較的安価だった。小姐はナマコをすすめてくれたが、私達は激しく首を横に振った。
昨日の教訓を生かし、三品でやめておくことにした。
ヒラメはひょいっと小姐に持ち上げられ、注文票ともに厨房へ消えていった。どんな姿で再会できるか楽しみだ。
席につき、「暗いねえ。節約かな」とつぶやくと、突然あかりがついて仰天した。友人は私の驚きぶりのほうがおかしかったらしいが。
料理はどれもおいしかった。特に間違えて注文したイカ。
ヒラメは煮付けになって登場した。私はそこに香菜(しゃんつぁい)を見つけた。これが香菜。一見なんてこともないハーブだが、日本人にはかなり受け入れがたいものらしい。おそるおそる、口に入れる。うっ本当だ、これはだめだ。なにしろ、ドクダミの味がする。中国人にとっては一般的な薬味らしいが…。でもドクダミの味だぞ。香菜は皿の端に強制退去。
この店は中国では高級な部類に入るのだろうか、やたらサービスが良い。サービスというか、お茶酌みがすばやいのだ。お茶が少しでも減ると、速攻注ぎに来る。本当に一口しか飲んでいないのに、注がれる。そのたびに「謝謝」と恐縮してしまう。油断していると、いつのまにか斜め後ろに立たれているのだ。テーブルに急須があるんだから、いいのに…自分のペースで注ぐから。
充分おなかがいっぱいになり、「いや、今日はずいぶん贅沢したねー」と会計すると、111元。1500円くらいだろうか。
帰り道、アイス(2元)を買ってバス停まで食べながら歩いた。
私が買ったアイスはバニラアイスにチョコレートがコーティングしてあるアイスバーだ。まわりについているナッツが松の実なところが、中国らしい。
それにしても、「食べながら歩く」なんて日本ではあまりできないことだ。私はすっかりシアワセな気分になって、帰途についたのだった。
Copyright (C) 2002- NAKIUSAGI