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| ホットマは失業中 ホットマは失業中です。まだ28才なのですが勤めていた会社の景気が悪くなりリストラされたのです。 いつの間にかつきあっていた彼女とも別れてしまいました。 もう半年も失業保険をもらっているので生活には困らないのですが、このころは何をやるにも気力がなくなり部屋も汚れ放題です。 夜は何となく起きていて、寝るのはいつも朝方です。だから起きるのもお昼頃です。 いつものように夜中の2時頃にホットマはコンビニに買い物に出かけようとしてアパートを出ました。 そしたら何と言うことでしょう、向かいのアパートの端の部屋の窓が真っ赤ではありませんか。バリバリ音がします。 ホットマは急いでそのアパートの廊下に駆け込み次々にドアを思い切りノックして火事だ!火事だ!と起こして回りました。 人のいる気配のするのに出てこない部屋では、ドアに体当たりして起こしました。 すでに火は火元の部屋のドアを焼いています。 誰かが通報したのでしょう、サイレンが何個も鳴って近づいてきています。 銀色の服を着た消防士が何人も廊下に飛び込んできました。 ホットマが外に出るとすでに消防車が何台もいて放水を開始していました。 辺り一面水浸しです。消防車はまだまだ集まってきています。いったい何台になるのでしょう。 ホットマが我に返って辺りを見回すと野次馬もたくさん集まってきています。 焼け出された人たちの大半はパジャマ姿で中には下着一枚の人もいます。 いつの間にかパトカーも救急車も来ています。 ホットマは呆然となって消火活動を見ていたのですが、焼け出されて下着姿の人に服を貸してやりました。 すいぶん時間がたったような気がします。火事もすっかり消え、あちこちで水蒸気が立ち上っています。 やがて消防士が「第一発見者はどなたですか?」と大声で探していました。 ホットマはちょっとためらっていましたが「はい わたしですが」と話しかけました。 消防士の質問は内容が細かくて実際にアパートのあちこちにつれていかれ質問に答えるたびに、その場所に行って、質問よりも立ち会って回っている時間の方が長いほどでした。 ようやく消防士から解放されたと思ったら次はお巡りさんの番です。すでにあさひがのぼりすっかり明るくなっています。 まわりを見るとテレビ局の取材の人たちや新聞記者とおぼしき人たちも来ています。。お巡りさんから解放されたと思ったら、待ってましたとばかりにテレビカメラがホットマを撮影し始めています。そのカメラの前でアナウンサーがホットマにマイクを向けてきました。 ホットマは消防士にもお巡りさんにも説明をしていることなのですっかり説明がさまになっています。なんとなくホットマは自分がスターになったような気がして、ジェスチャーや顔の表情まで意識してドラマチックにインタビューに答えました。 結局テレビ局は2社、新聞社の貴社にも3社のインタビューに答えました。 あたりはすっかり朝の風景で通勤通学の人たちがぞろぞろまわりを通って行きます。 ホットマはすっかり目がさえて、とてもおなかがすき食事をしたりして気が付くとお昼になっていました。お昼ご飯を食べてようやく安心して眠ったのは午後の1時過ぎでした。 いつのまにかアパートで着の身着のままで寝ていると、盛んにアパートのドアをたたく音でホットマは目が覚めました。妙にはっきりした目覚めでドアを開けてみると、そこには昨夜焼け出されたという人がお詫びとお礼を持って来ていました。 ようやく帰ったかと思うと次から次にお詫びとお礼の人が来て、更には消防署の人もきて夜中まで来客がひっきりなしでした。 さすがに10時をすぎると来客はとぎれホットマはそのままいつの間にか眠ってしまっていました。 朝ホットマが目を覚ますと、まだ早朝の4時です。寝不足のはずなのに、なぜかとてもさわやかな気分です。きっと今日も来客が多いだろうなと思いました。 ホットマは何となく自分が世の中のヒーローになったような気分です。無造作に置かれた頂き物の箱の山を見ていると、部屋を片づけなきゃと思えてきました。 まずいらないゴミを片づけ始めました。ゴミを集めて袋に入れ終わってすっきりしたところで片づけを始めました。するとボールペンが何本も何本も出てきます。いや全部で50本はあります。 これらをひとまとめにすると、次は乾電池です。未使用の単三乾電池、単二乾電池、単一乾電池が次から次に出てきて引き出しいっぱいになりました。 次は薬です。風邪薬、胃薬、頭痛薬、キズばんそうこう、ホットカイロ、塗り薬など、ちょっと手を付けてはそのまま見失っていた薬が次から次へと発見されました。 こんな調子で、小銭やら100円ライターやら、シャープペンの芯やら、使い道のない大小のタッパーやら割り箸やら自分でもエーッと驚くほどたくさん出てきました。 ここまでくるとホットマは何となくあきれるやら喜ぶやらで整理整頓への情熱があふれ出てきて楽しくて仕方ありません。 服も下着もタオルもみんなきれいに畳み直してタンスや引き出しにしまいなおしました。 何ヶ月も洗わなかった流し台の水槽も中もピッカピッカに磨き上げてしまいました。 ついでに畳も拭き、壁も窓も拭きました。 すっかり満足したホットマは窓際でたばこを吸いながら、なぜか自分が大好きになっていました。そしてきれいな部屋を見せたくて誰か早く来ないかなと心待ちにしました。 と、そこに誰かがドアをノックする音です。 ドアを開けてみるとやはり火事の被災者がお礼を持って立っていました。ホットマはきれいになった部屋を自慢したくて、中に通しました。そして言いました「いやああの火事騒ぎでこのところ部屋も散らかしっぱなしではずかしい限りです」と言いました。 この日も結局は来客が絶えずに終わりました。 それから4〜5日が過ぎ、さすがに来客も途絶えがちになるとホットマは考えるようになりました。 自分はこのままではだめだ。この失業期間を活用して次のより良い就職のためにもっと自分の能力を高めておかなければと思うようになりました。 居ても立ってもいられなくなったホットマは、ジャージに着替えランニングをしてきました。 シャワーを浴びてさっぱりしたところで机に向かい、これからの人生計画を立て初めました。 |
ネギマの幸運 40才になるネギマは軽貨物トラックのドライバーです。 自分のお得意先のクライアントの所に行って、荷物を受け取り、指定された会社に荷物を届けるのが仕事です。 でもあまり仕事がなくたいていは半日で仕事が終わってしまい、あとは仕事がありません。 実はネギマの商品を届ける態度があまり良くないので、クライアントがあまりネギマを使いたがらず、他のドライバーに多く仕事を回しているのです。 ネギマもうすうす感じてはいるのですが、自分はたまたま担当者にあまり好かれていなくて、えこひいきされて居るんだと思っているのでした。 ネギマは友達にお金を貸しています。 ワカシに20万円、ヒナカに10万円、ツクネに8万円です。 しょっちゅう借金の取り立てに行くのですが、みんなはなかなか返してくれません。 だからネギマはいつも怒鳴り込んで、さんざん悪態をついて千円返してもらったり、3千円返してもらったりしていますが、借金の回収はさっぱりはかどりません。 でも行けば言っただけ少しは返してもらえるので、ネギマはしょっちゅうワカシやヒナカ、ツクネのところに通っていました。 そんなある日、友達のナンコンがネギマに、魚釣りに行こうと言ってきました。 ネギマは魚を釣っても仕方ないし、それよりはワカシの所に行って借金を取り立てた方がよっぽど良いと思いましたが、ナンコンの誘いがあまりに熱心だったので、ネギマは仕方なくついて行くことにしました。 二人は塩釜港から、沖合の大型魚礁と言うところに、かぜの子丸に乗って行きました。そして釣り始めるとカレイがどんどんどんどんつれました。 二人はお昼頃までやってカレイを80匹も釣りました。 80匹も釣るとさすがのネギマも気分良くなりました。 大型魚礁から塩釜港に戻るまでの間、ずっと潮風に吹かれながらネギマはぐっすりと眠りました。 そしてうちに帰ったら、奥さんが出てきて、クライアントから電話があって、配達があるから出社してくれと言うことでした。 ネギマは気分が良かったので、そのままクライアントの所に行きました。 そして商品を積み込み配達してきました。 次の日にネギマがクライアントの所に行くと、いつになくいっぱい仕事が待っていました。届け先は昨日行ったところです。 ネギマが配達伝票を見ていると、クライアントの担当部長がネギマの所に近づいてきました。 「いやー、ネギマ君、実はね、昨日のお届け先から電話が来てね、君の態度が明るくて元気でさわやかでとてもいいと言うんだよ。そしてこれからは君をできるだけまわしてくれと、言ってきてるんだよ」 ネギマは何となく気分が良くなって、その日は一日中仕事で仙台市内を走り回りました。 そしたら次の日は、配達先がますます増えて居るんです。とっても借金の取り立てに行っている暇がありません。 結局そんな調子で気分良く毎日仕事に集中しているので、あちこちの届け先からの評判が良くなり、ますます指名されることが多くなる一方でした。 結局その月は、いつもの月の3倍の運賃を稼ぐことができたのです。 稼ぎがいいので、奥さんも機嫌良く、仕事が終わるとちゃんとビールとつまみが用意されています。 こんな事は15年前の新婚時代以来のことです。 更に次の月も朝から晩まで忙しくてたまりません。 ついには、配達しきれなくて、他の仲間に仕事を分けてあげるようになりました。 ネギマは仕事仲間から慕われ、ありがたがられるようになりました。 ネギマはもうすっかり借金を取り立てることを忘れてしまっていました。 そして貯金もどんどん増えて行きました。 それから1年後… ネギマは軽貨物トラック協会のセレモニーでみんなの前で表彰されてしまったのです。 さらにネギマは、成功の秘訣と題して、スピーチもしなければならなくなりました。 「みなさん、私の成功の秘訣は3つあります。ひとつは笑顔です。これは作り笑いではありませんよ。心の底から上機嫌になることです。もし、あなたが上機嫌でなかったら、上機嫌のふりをして楽しいことを想像してみてください。そうすれば本当に楽しくなってしまいますよ。そうすれば本物の笑顔も出てきますよ。 第2番目には、過去を忘れることです。過去に貸した借金を追い求めていると、相手のことを考えると、血圧が上がり、振動の脈拍も上がり、息づかいも荒くなり、人相も悪くなってしまいます。こんな人に誰が仕事を依頼するでしょうか? だから過去に貸した金も、過去の恨みも、憎しみも忘れましょう。 第3番目には、忙しくする事ですよ。人間忙しくなると悩んでいる暇がなくなります。悩まないだけで人間は心の中から勝手にエネルギーが出てきてやる気になるもんです。」 |
おばあちゃん 大好き おばあちゃんは孫が大好きでした、しかし孫の健君と娘の夫婦は仙台に住んでいるので、白石に住んでいるおばあちゃんはめったに会えません。 時々日曜日に娘夫婦と孫の健ちゃんが遊びに来るのでおばあちゃんはそれだけが楽しみでした。 おばあちゃんは一人暮らしなのでいつも寂しくてたまりません そこで仙台の娘夫婦の所に電話しました「今度いつ遊びに来るの?」電話の向こうから孫の健ちゃんが「おばあちゃんの所にゆきたくない」といっている声が聞こえてきました。 それから一月ほどして孫の夫婦が遊びに来ました。 おばあちゃんは孫の健ちゃんに将来りっぱな人になってもらおうと思っていつもいろんな事を教えます。 学校の返り寄り道しちゃあいけませんよ。ファミコンばっかりしていたら目が悪くなりますよ。等です。 そして娘にもいつも説教しています。なぜなら何といっても娘によい家庭を築いてもらいたいからです。食事をしたらすぐに茶碗を洗いなさいよ。みそ汁は毎度毎度ちゃんと作りなさいよ。でもなかなか娘夫婦はいつも2〜3時間いるとサッと帰っていってしまいます。 おばあちゃんは寂しくてたまりません。 そんなある時おばあちゃんは風邪を引いてしまい。風邪が治ってもしばらくあまり声の出せない日々が続きました。 そんなある日に娘夫婦が遊びにやってきたのです。 おばあちゃんはあまりしゃべれないので、孫の健ちゃんのしゃべるのをウンウン・ウンウンとうなづいて聞いていました。 そして娘の話もずっと聞いていました。 そうしたらその日に限ってなかなか娘夫婦が帰らず、夜までいるのです。 結局その日はみんなおばあちゃんのおうちに泊まっていったのでした。 それから何日かして、おばあちゃんが仙台の娘に電話すると、電話の向こうから「また、おばあちゃんの所に遊びに行きたい」と言っている孫の健ちゃんの声が聞こえていました。 どうして私がいっぱいしゃべると、みんな帰っていってしまうのだろう? どうして私が黙ってみんなの話を聞いていると、いつまでも居るんだろう? おばあちゃんは不思議でたまりませんでした。 そんなある日、おばあちゃんの所に健康食品を売るセールスマンがやってきました。 そのセールスマンはおばあちゃんに、この食品がどれだけ素晴らしいか、どんな効能があるか、どんな成分か次から次へとしゃべってきました。 おばあちゃんも年齢柄、少しは知っているので、何とかこの生意気なセールスマンをへこましてやろうと思い、相手の間違いを指摘します。 すると相手は聞いたこともない専門用語を並べ立ててまくし立ててくるのです。 その話しぶりの上手なこと、なめらかなこと。すっかりおばあちゃんの負けです。 おばあちゃんはもう、何もいえません。おばあちゃんは悔しいし腹が立つし、「とくかく間に合っているから」と言ってドアをピシャッと閉めてしまいました。 それから1週間ほどして、同じ健康食品会社の別なセールスマンがやってきました。 今度の人は入り立てみたいで、説明もアペトペでおばあちゃんが質問しても全然答えられません。おばあちゃんは仕方ないので答えを自分で解説してあげました。 そのセールスマンは汗をかきかき聞いています。何かを言いたそうですが、緊張していて言葉にならないようです。 その様子を見ていて、初めはかわいそうな人と思っていましたが、だんだんかわいく思えてきました。 おばあちゃんは「しょうがない人だねえ」仕方ないからその商品を置いてお行き」と言って、結局1ダースも買ってあげました・ セールスマンが帰ってから、おばあちゃんは健康食品の山を見つめながら不思議な気持ちでした。 どうして私はあのダメセールスマンからあんなにいっぱい買ってしまったんだろう? 知識の豊富なベテランセールスマンから買わないで。 でも私はやっぱりあのベテランセールスマンはきらいだし…ペラペラ偉そうに。 そこでおばあちゃんはハッとしました。 自分は孫の話や娘の意見をちっとも聞かず、相手のためと思って、自分の優れた経験豊かな話をいつも一方的にしゃべっていたんだ。だから避けられていたし、自分が風邪でしゃべれなくて、相手の話をずっと聞いていたから好かれたんだと思いました。 |
ヒナカの憂鬱 ヒナカは毎日とても憂鬱でした。会社の同期入社が主任に昇進したのです。 自分は能力的には遜色ないと思っているのですが、なぜ彼が昇格し、自分が昇格しないのか納得行きません。 毎日それを考えると、ますますおもしろくありません。 同僚から飲みに誘われても、疲れ切っているし、とてもそんな気分になれません。 だから昨日の土曜日は、学生時代の友人とやけ酒を飲んで帰りました。 確か昨日の晩は、タクシーを降りたところで、吐いてしまい、家の前でも吐いてしまったようです。 明け方にハッと目が覚めたヒナカはとりあえずは、家の前の汚物を片づけなければと思いました。 時計を見るとまだ5時です。まだ体には酒が残っていて熱っぽいのですが、近所の人たちが起きて目撃される前に掃除してしまわなければなりません。 表に出て新聞紙で汚物をくるみ丸めるて、その後、水で流そうとしました。 しかしホースで流そうとして路上をよく見ると、他にゴミやら、落ち葉やらいろいろ落ちているので、しょうがなく箒ではき集めました。そして丹念に水で流し洗いをしていると、どうも両隣の家の前も、気になります。 そこで乗りかかった船と、両隣の前も掃き、ついでにホースで洗い流しました。 その足で、今度は昨夜タクシーを降りたところも新聞紙で汚物を拾い、ついでに箒であたりを掃き掃除しました。 そして家の前に戻ったら、家の前のクランケで2トン車のロングボディトラックが立ち往生しています。 ちょうど曲がり角でトラックの頭と荷台の後ろがフェンスぎりぎりの所で止まっており、人も通れなくなっています。 若い運転手はどうやら素人のようで、前に進もうにも、後退しようにもフェンスをこすってしまいそうです。 見かねたヒナカは、悲しそうに途方に暮れている運転手に「どれ、貸して見ろ」と言うと運転席に乗り込みました。 2〜3回の切り返しで後退して、クランケの前にトラックを戻し、あらためてクランケに進入し1回で通過してからヒナカは運転席から降り、トラックを若者に返してやりました。 そしてヒナカは若者に誇らしげに、突き放すように言いました。「おまえ外輪差と内輪差をもう1回勉強し直した方がいいぞ。そしてな鼻の短い車は一杯に頭を入れてからハンドルを切るんだぞ」 若者はぺこぺこ何度も頭を下げお礼を言って去って行きました。 ワカシがまわりを見ると近所の人たち10人ほどが見物していました。 よく見ると、みんな手に箒やチリトリ、大きなビニール袋を持っています。 日曜日の早朝の町内会掃除をしに来た人たちです。 みんなはヒナカの英雄的行為を目撃し、更にはヒナカの家の近所が、すっかりきれいに掃除されているので、好意的な目でヒナカを見ています。 その中の一人が「ヒナカさん偉いねえ」と言いました。 成り行き上、ヒナカは近所の方々と道路掃除をする羽目になってしまいました。 町内会の掃除終わると、ヒナカは定例のお茶のみに誘われてしまいました。 ヒナカは今まで一度も町内会の掃除に参加したことはなかったのですが、ヒナカが断っても、みんな明るく笑顔でしつこく誘うので、結局参加してしまいました。 お茶のみでは、ヒナカがご近所を水洗いするまでにきれいにしたことや、トラックを窮地から1発で救ったことなどが話題の中心になってしまい、ヒナカはそれを打ち消すのに必死でした。 誰かが、あのクランケは以前から車が良く立ち往生して、車をこすりながら脱出した話や、フェンスは擦り傷だらけであることなどを言い出し、それが話題に鳴り出しました。 話を向けられたヒナカは「あそこは並みの運転手の腕では、ちょっと通過は難しいね。立て札でもたてて警告を出しておいた方がいいね」と言ってしまいました。 全員がそれは良い考えだと賛成しました。 そしてヒナカにどんな立て札がいいだろうかと水を向けてきました。 ヒナカは言った後、しまったと思いました。 ヒナカが、イメージしている立て札を説明すると、みんな感心し、誰かが「その費用は町内会費で出すから、ヒナカさんそれを作ってくださいよ」と言いました。 全員が大いに賛成し、ヒナカは断れなくなってしまいました。 ヒナカはさっそく日曜大工の店に行き角材と板、ペンキ類を購入してきました。 とりあえず、その日は木材の加工をし、ペンキを塗るだけにまで仕上げました。 残りは翌日から毎日、仕事から帰ってから作ることになりました。 毎日の作業は、かんなをかけたり、色を塗ったり、乾いてから塗り重ねたり、子供時代の夏休みの工作を思い出させるような面白みがあり、結構仕事にはまりこんでいました。 手にもペンキが付くので、作業が一段落したらすぐに風呂に入り、風呂の中で手についたペンキをゴシゴシおとし、乾かしている立て札を横目に満足して布団に入りました。 作業は結局その週いっぱいかかり、立て札を全部で6枚作りました。 「トラック進入禁止。この先クランケあり」が2枚「この先行き止まり。通り抜けできません」が4枚です。 次の日曜日、みんなでスコップで穴を掘り立て札を立てました。 結局その日も立て札完成の祝宴になってしまいました。 ヒナカは、迷惑な話だと思ってはいましたが、あまりみんなが自分を立てるので、まんざらでもない気分になってきました。 その席上、誰かが町内会のスケジュールを持ち出し、ヒナカに説明を始めました。 2週間に一度の町内の早朝道路掃除を初め、河原の清掃、ゴミ置き場の清掃、福祉施設の慰問、その他、芋煮会、運動会、海水浴、忘年会など行事は目白押しです。 ヒナカは自分は仕事であれだけ苦労しているのに、とてもこれだけの物には参加できないと思いなんとかそのうち断る理由を探そうと思いました。 翌日の月曜日にヒナカが会社に行き、机に座っていると女子社員の子がお茶を持ってきてヒナカに話しかけました。「ヒナカさん、最近張り切っているじゃない」ヒナカはその言葉に考えてみると、そういえば先週は、家に帰ってから立て札を作るために、とにかく仕事をどんどんこなして、やり残し仕事を残業に持ち込まないようせいを込めていたのを思い出しました。 そして考えてみると、この1週間は全く憂鬱さを感じないで過ごしたのがわかりました。 自分でも信じられません。この違いをもっともっと考えてみると、先週は仕事をどうすれば良くできるかを考えていたのに、今までは、仕事のことよりも憂鬱さを悩んでいたなと気がつきました。 だから先週はいつも以上に仕事に精を出し、夜は夜で、立て札作りにも精を出したのに全然疲れを感じなかった。 それまではあんなに毎日疲れ果てていたのに。 こう考えると、力がわいてくるようでした。 今は仕事に集中することに自信がもてます。この調子なら、今の仕事をしながらも、町内会の行事をもこなすことが十分できるなと思いました。 |