黒澤の遺稿を元に黒澤の助監督を努め続けてきた小泉監督が、黒澤組のスタッフと
作り上げた時代劇として、話題を呼んでいる「雨あがる」を東京国際映画祭で一足先に
見てきた。
原作は人情味溢れる時代小説で多くのファンに現在も読み継がれている藤沢周平。
黒澤が存命であったなら、久し振りの時代劇監督作品となったはずだったこの作品は、
黒澤ゆかりの製作者達の手で、確かな黒澤の遺伝子を強烈に感じ取れる仕上がりとなっていた。
貧しくとも逞しい庶民の暮らし振りの描き方、美しい自然描写と、瞬間で見せる殺陣。
端役の一人に至るまで、活き活きと魅力に溢れたキャラクター描写と、ユーモアのエッセンス。
映画全編を通して感じられる雰囲気は、全盛期の黒澤時代劇の印象に近い。
穏やかな表情の下で強い信念を上手く表現した寺尾聡や、
豪快な名優の面影を感じさせる好演を見せた三船史郎の存在も大きかった。
ストーリーは、最近の速いテンポの映画になれていると緩やかで地味な印象だが、
決して飽きさせない。
いや、むしろかえって新鮮に感じるくらいである。
そしてまた余韻が素晴らしい。
爽やかで、とっても優しい気持ちになるのである。
事実、映画祭の会場を終映後に包み込んだ拍手はとても暖かいものだった。
映画化のタイミングも良かったのかもしれない。
黒澤の没後1年という話題性だけでなく、個人の生き方を見つめ直す事を求められている
今の時代に公開された事で、きっと幅広い観客から共感され、評価されていくのではないだろうか。
「雨あがる」は期待以上の秀作だった。
個人的には晩年の黒澤映画よりも、はるかに面白かった様に感じる。
今後、黒澤を失った黒澤組が、果たして次の邦画界にどの様な風を吹き込んでいくのか、
嫌がおうにも期待させられるだけの魅力がこの映画にはあった。
是非、ロードショーでは一人でも多くの人に映画館でこの映画を楽しんでもらいたい。
Tideway Cabin/NARIZO