「アレなアニメの館」
アレなアニメの感想など。
(御注意!ネタバレ有です)
 
VISITOR・完全版
時代: 1998
監督: 徳田 淳
時間: 84分


1)はじめに

 突如太陽系内に現れ地球へと向かってくる謎の物体。その侵攻を喰い止めるべく奔走するとある民間企業の派遣社員の活躍を描くSFアニメーション。全編3DCGで描画される。


2)物語

 2099年、モンゴルの白亜紀末期の地層から出土した物体。それは6500万年前の時代には存在し得ないはずのモノ、まるでNASAの月探査指令船であった。

 同じ頃、火星軌道上には突如謎の物体が現れ基地もろとも惑星フォボスを取り込もうとした。傍を航行していたレールガン演習船の猛攻撃にも屈しない謎の物体は「カーリー」と命名された。

 そしてやはり同じ頃、TV番組を制作中のスタジオ。派遣社員の「柊 美佳(ひいらぎ みか)」は反物質エネルギーの啓蒙番組の制作に立ち会っていた。
 自社に戻った柊に縁あってか新たな業務依頼が御指名で飛び込んできた。フォボスの反物質貯蔵システムを設置した城山重工業のOBが、カーリー相手に仇を討って欲しいというのだ。柊は業務を受託すると直ちにメンバー集めに奔走する。宇宙空間でのオペレーションに堪能な「望月 リラ(もちづき りら)」をはじめ、パイロット、科学者、渉外担当者ほかほか。
 その時代、反物質と正物質の対消滅よりもたらされるエネルギーが実用化されていた。しかしその危険性から反物質は本来地球上には貯蔵されていない事になっていた。カーリーが襲ったフォボスには宇宙船用のエネルギー源供給地として反物質貯蔵システムが置かれていた。もしもカーリーの襲来が反物質目当てであれば、研究の為に極僅か地上にある反物質をも狙って来るかもしれない。地球に危機が迫っていた。

 ついに行われる国際連合宇宙軍によるカーリーへの総攻撃。カーリーの姿は一旦宇宙空間より消滅する。しかしカーリーは宇宙軍の目の前に再びその姿を現すと艦隊を次々と飲み込んでいった。所謂ワープのような能力によって攻撃を回避していたのだ。全滅する宇宙軍。もはや地球に残されているのは深宇宙探査用に準備されていた宇宙船「みろく」のみ。急遽改装してカーリーの攻撃へ向かう事となり、その作業には桂木の友人も参加することになった。

 作戦は成功しカーリーを撃退できるのか。そもそもカーリーとは何者なのか。そして出土した謎の遺物との関連は。謎が深まる中、柊は彼女達の作戦実現へ向けて奔走していた・・・。


3)感想
 本作「VISITOR」はまずもって全編3DCGにて製作されている点がセールスポイントになっていたようです。所謂オリジナルビデオアニメ、OVAとして製作されたそうで、本来は三篇に分かれていたのだそうです。ここで取り上げているのは、それらを一本に纏めた「完全版」です。1998年といえば海外では「アンツ」や「トイ・ストーリー」等が既にお目見えしていた頃ですので、当時にあっても比較されてしまうのは止む無しといった所でしょう。
 本作では、リアルさを志向する3DCGが多い中、敢えて「人形劇」を行うのだとしたその狙いそのものがとても興味深くあります。事情は良く判りませんが、結果的に製作自体が比較的安価かつ短時間で行うことが出来たようです。となれば巨費を投じた作品たちと比すること自体意味をなしませんが、観客にとってそれは認識の外なのが製作者側としては辛いところでしょう。

 物語は太陽系に現れた謎の物体を軸に進んでゆきますが、全般にやや既視感を感じるものでした。ネタバレ覚悟ではっきり申し上げますと、「星野之宣」の「2001夜物語」第2巻「第14夜・最終進化」と初代劇場版「スタートレック」(注記01)の混合です。
 たまたま主人公で女性の派遣社員・柊が地球に訪れた脅威を解消する業務を引き受ける。しかも最期には彼女の手にその計画の総て、つまり地球の命運がかかる、というのはとても日本のアニメという印象もあるでしょう。時にはしょられてしまう伏線もあるようですが、一応最期にはほぼ総てが収斂してゆきますので、物語そのものは破綻していないようです。
 脚本は「甲殻機動隊」や「パトレイバー」の「伊藤和典」、キャラクターデザインは同じく「パトレイバー」などの「高田明美」。声の出演に「千葉繁」も参加。この時点で作品のおおよその雰囲気は読めそうな感じですが、実際そうです。

 本作「VISITOR」の画面は、まず3DCGとしてどう観せるか、という以前の点で疑問をもつ箇所があります。場面解説や他国語台詞の字幕表示がモニターで見るには小さすぎで、判読するのが容易ではありません。アニメは暗くない場所で画面に近寄らないで観るべきものの筈ですので、この点は是非指摘しておきたいところです。
 キャラクター等については、人形劇的に観せるにしても、残念ながら全般に力及ばずといった感は拭えません。人形劇には人形劇独自の魅力がありますので、これはこれで難しさがあるのだということを再確認するような印象です。(注記02)
 キャラクターは特に望月リラが高田明美しています。このあたりからして何か別の作品を観ているようです。

 物語上大きな宇宙船が登場しますが、スケール感の表現に気を配ろうとする努力の跡が伺えるのは流石との印象を持ちました。よく使われる手として船体外板のモールディング描写が挙げられますが、太すぎたりすると一気にスケール感を失ってしまうようです。本作ではそのような事が少なかったのは流石といえましょう。(注記03
 宇宙空間を進む謎の物体カーリーの姿はブラックホールを参考にしていると思われますが、シュバルツシュルト半径外縁が輝くのはなかなか見栄えのある描写です。
 あるいは演出としての”止め絵”の難しさも3DCGならではで、セルで培われてきた技法の援用が本作ではまだこなれていないようです。画面の殆ど総てが止まってしまうと、観ている側としては違和感を禁えません。これらの点から鑑みて、この表現手法が少なくとも本編の製作段階において未だ進化途上にある事が想像できます。
 なお、人形的表現の3DCGであること、未来SFであること、宇宙を舞台にしている等から、結果的に本作は「ゼビウス・劇場版」の御先祖様と呼んで差し支えないでしょう。(注記04)

 以上を鑑み、本作「VISITOR」は、勿論、高田明美のキャラクター・デザインが好きな向きはもとより、3DCGの発展史に興味のある向きにはお薦めできるでしょう。

おまけ: 本作「VISITOR」にはSF界の大御所「アーサー・C・クラーク」や、往年のSFへのオマージュが随所に見られます。 本編中、実際に氏の作品(注記05)
に言及する台詞があるのは一部ウケといってしまえばそれまでですが、ニヤリという場面でした。

4)必要ないと思いますが一応の注記
01)スタートレック・ザ・モーション・ピクチャー
1979年の同シリーズ初の劇場版ストーリー。地球に訪れた謎の巨大雲状物体「ヴィジャー」に立ち向かう初代シリーズの面々。
02)3DCGの人形的表現としても例えば「デジタル所さん」などは、モデルになった芸能人の魅力(含む声)に加え、間を含めた動きについて洗練されていたような印象があります。また実在の人物をモデルにしない作品となれば「リブート」などが挙げられるでしょう。 尚、人形であってもリアルであれば良いという訳ではないのがこの種の表現の難しい所でしょう、え、「地球防衛軍テラホークス」のことかいと、いや、そんな、滅相も御座いません。
03)外板はスムーズで、モールディングで宇宙船の大きさなどを描写する手法は、海外のイラストレーターに多く観られます。何方の名を挙げるか迷うところですが、ここでは「クリス・フォス」を例とさせて戴きます。
04)そういえば「A・LI・CE」という作品もございましたが。今回は御容赦下さいまし。 ←改定:2003-05-08:「A・LI・CE」「海のオーロラ」の感想を追加しました。
05)「神の鉄槌」 1993年。1998年に早川文庫より日本語訳が出版。映画「ディープ・インパクト」の基になったと言われる作品。

4)ビデオ・パッケージ

230KB



記述:2003-01-27
改定:2003-05-08