「懐かシネマンガ」
懐かしいアニメや漫画や映画やらの感想など。
(御注意!ネタバレ有です)
 
60億のシラミ  
作者: 飯森 広一
時代: 1979〜
発行他:

秋田書店(週刊少年チャンピオン)



1)はじめに
 地球は氷河期へと突入している。この恐るべき事態に立ち向かう人々を、日本を舞台にその宿命を絡めつつ描く、シミュレーションSF。緻密な解説もあり、月刊誌であったにせよ、当時としては深い内容でした。全五巻、残念ながら打ち切りのような終わり方でした。


2)物語

 異常気象の続くなか、ついには8月に雪が降る。そんなさなか、動物園園長「八洲 民人」は吾が子の誕生を心待ちにしていた。男子無事出産の報を聴き「大地」と名付けるが、安堵する間もなく院長「大和 武蔵」から驚くべき話を聞かされる。大地は九つ子として生まれる筈だった。しかし、大地だけが生き残ったのだ。驚いた八洲民人は調べると世界各地に多産の記録が増えている事に気が付く。久方ぶりに動物園に出向く八洲民人。動物園では世界でも稀といわれる象の出産が無事に終了していた。だが、その仔象はマンモスかと見間違う程の多毛であった。同じ頃、ハワイ沖で航行中の貨物船が氷山に遭遇していた。しかも同じ海域で、絶滅した恐竜・バシロサウルスに似たシー・モンスターと遭遇していた。
 数日後、これらの答えを確認する為、八洲、大和は気象科学者「敷島 朝日」博士宅を訪問する。期せずして居合わせた同貨物船船長「綿津海」と共に自らが体験した事を語る。彼らが導き出した結論は「地球は寒くなる」。子供を多く生み、あるいは寒さに強い時代の体に先祖帰りして、生物は種族保存へ向けて活動を開始していた。
 敷島は内閣総理大臣に極秘緊急会議の開催を要請。この未曾有の危機への対応を始める。次第に乏しくなる食料、物資。治安維持の為の特殊部隊の創設。その政策に不満を持つ者達。いったい世界は何処へ向かおうとしているのか。
 一方、登場人物の前に幻のように現れては消える謎の男。彼はいったい何者なのか・・・


3)感想

 今日でこそ地球は熱くなるという意見が主流となっています。ですが本作が提示された時代、目の前に起きている異常気象は例年より寒冷である場合が多く、氷河期が来るという大前提は現在の目で見るほどには荒唐無稽には感じられなかったものです。地球温暖化の懸念は既にありましたが、10年や20年といった期間では大きな気候の変動は理解しにくいことの現れといえそうです。
 さて、本作はまず冒頭の世界観の説明が圧巻です。特に第一巻。地球が氷河期を迎えている事を示唆する例示の数々は、民俗学、経済学にも及びます。ちょっと少年誌には難しいのでなかい、という程でした。ある程度の時間が掛けられ、かつ頁数が多い月刊誌ならではの構成と言えるでしょう。また、 食料や物資の備蓄準備の為に日々の生活が困窮してゆく様、暴動の可能性、鎮圧の為の特殊部隊の創設、施政にたいする不満と抵抗。従来ですと小説の形で表現されるシミュレーションSFが漫画で構築されてゆきます。
 一方、人間ドラマの軸となるのは天変地異神話などを参考にした縁物語ですが、こちらは膨らませる以前に 話が終了してしまいました。 物語の落とし所が難しかろうと勝手に想像していましたが、そうなってしまったようです。内容は盛りだくさんなのですが丁寧なシミュレーションSFの為、アクションシーンやスペクタクルシーン満載というわけではありません。 この辺りが人気に今一つ勢いが出なかった理由かもしれません。
 序盤に丁寧な物語構築があったのでとても残念です。



記述:2002-09-10