「懐かシネマンガ」
懐かしいアニメや漫画や映画やらの感想など。
(御注意!ネタバレ有です)
 
ヒルコ/妖怪ハンター  
年代: 1991年日本
監督: 塚本 晋也
時間: 90分


1)はじめに
日本神話創世記に登場する異形の神「ヒルコ」の復活をめぐる少年ドラマシリーズ的冒険譚。原作は諸星大二郎の漫画作品。


2)物語

 日本の神話に描かれる事件や存在を、事実や何者かの比喩であると信じる説を唱え学会から異端視された考古学者、稗田礼二郎。彼のもとに友人で中学校教師を務める八部高史から「稗田の説を裏付けるかもしれない発見をした」との知らせが届く。
 同じ頃、何処かの洞窟と思しき場所を調べていた八部はついてきた生徒・月島令子に帰るよう諭していた。なかなか帰ろうとしない月島。だが突然二人は何者かに襲われたのだった。
 八部の家を尋ねる稗田。だが、八部と月島は古墳を調べに行ったきり戻ってこないという。しかも八部家に代々伝わる家宝の冠もなくなっていた。
 一方、八部が務める学校の生徒・八部まさおは背中に出来た不思議な焼けど様の傷に悩まされていた。友人達と学校でたむろしていると、憧れの美少女・月島令子の密会の場面に出くわしてしまう。不意に背中の傷が痛み出すまさおの背後に何者かが迫る。すんでのところを助けたのは稗田だった。実は八部高史の妹は無くなった稗田の妻、まさおは甥であった。稗田の話を信じないまさおは冷たくあしらう。だがまさおは校内で友人の惨殺死体を見つける。普段から怪しい風体の用務員・渡辺を疑うまさお。そんな頃、渡辺は学校の電話線を切っていた。
 夜、姿が見えなくなった友人たちを探しに学校に潜り込むまさおと稗田。だが、教室内は荒らされ、必死で逃げまどっていた友人たちも次々に襲われ無残な姿に変わり果ててしまう。
 学校では何が起こっているのか。襲ってきた者とはいったい。必死で逃げる二人に生き延びる手立てはあるのか・・・。


3)感想

 塚本晋也監督作です。DVDのライナー・ノートに”よく評論などでは僕の作品系列から外されて考えられる作品”との監督による記述があります。本項では監督を中心にではなく、同作を単体で切り離して捉えたいのでこの点については触れません。作品に面白いと感じるものがあれば御紹介したいのが「懐かシネマンガ」です。

 原作として下敷きになったのは諸星大二郎の初期漫画「妖怪ハンター」の「黒い探求者」と「赤い唇」です。諸星大二郎原作ということであれば、特有のディープな世界(注記01)の再現を期待してしまうところですが、本作では全く逆の”爽やかな”少年ドラマシリーズ風味でまとめられています。初見は公開後しばらくしてのビデオでしたが、ディープさを期待していた筆者は一瞬とまどった記憶があります。幸い、意図的に独自の路線を目指している事が読み取れるよう演出がなされていましたので、すぐさま気持を切り替え、ジュビナイルものを楽しむ風情で見る事が出来ました。後になって読む事になるDVDの同じくライナー・ノートには
作品のテイストを故意に変えた事が記されていました。流石、ナイス判断です。コアな世界観を持つ諸星大二郎の作品は、実写化に際しては如何様にやっても原作ファンに好意を持たれるように仕立てるのは難しく感じます。それならば「原案」として置いておいて、以後は自作品の持ち味に切り替えたほうが、原作ファンにとっても割り切れるでしょうし、なにより映画そのものにとって幸せです。

 物語は「少年ドラマシリーズ」ものとして手堅くまとまっています。堂々の大作、あるいはA級作品ではないにしても、90分という時間を楽しめるようになっています。「リング」シリーズに端緒をきる90年代日本のホラー映画ブームの中でも、持ち合わせた時間を楽しみ尽せない作品がありましたから、この一編は少なくとも良作の部類に入るのではないでしょうか。
 ひと夏の少年の冒険譚。そこに気になる美少女がからむ。 正に、と言う感じです。

 本作は出演陣が豪華です。異端の考古学者・稗田礼二郎に沢田研二。原作とは180度正反対のコメディなキャラを好演しています。稗田の友人で教師の八部高史を演じる竹中直人はその強力な存在感と”表情芸”を遺憾なく発揮しています。不気味な用務員の渡辺に室田日出男。さて、ベテランの中にあって爽やかな演技を見せるのが主人公の中学生・八部まさおを演じる工藤正貴。主人公が仄かに想いを寄せる同じ学校の美少女・月島令子に上野めぐみ(注記02) 。「うずまき」で主人公のガールフレンドを演じる初音映莉子はヴィジュアル的に原作のイメージそのもので、よくもまぁ引張ってきましたねと(褒めています)驚きましたが、こちらは少年ドラマシリーズのジュビナイルだったらかくあるべしの清純都会派美少女として適役、キャスティングの妙を覚えます。

 さて、肝心のヒルコの造形と特撮です。原作のヒルコは古墳に描かれた線画を元にしていますので、動かすのは難しかろうと勝手に想像していましたら、やはり変えてくれました。本作は当初から独自の世界観で構築されていましたから、これは宜しいのではないでしょうか。不思議なのは、1990年代のホラー映画の中に本作とさほど変わらない質の特撮がしばしば見られることで、これはかつて先進的だったのか、あるいは進歩を止めてしまったのか大いに疑問に残るところです。見方を変えれば、本作ではそれほど不安は無いといえるでしょう。あえて異を唱えるとすれば、諸星大二郎作品に良く見られる光と共に登場人物達が空中に垂直に舞う描写を実写化した部分でしょうか。ここは見方が分かれる部分といえましょう。

 総じて個々の水準が変わらない高さで揃っていて、出演者の演技も確かですから、 不安はありません。
 エンディングの清々しさが心地よい一編です。


4)必要ないと思いますが一応の注記

01)諸星大二郎・・・主に東洋の神話や昔話を元にした伝奇世界を独特の画風で描き出す、不世出の漫画家。いま一方、これとは異なる路線としては現代社会を舞台にしたシニカルなものとSFがあります。筆を用いたような特有の画面は好みが分かれる部分もあるのですが、常人には及ばない強力な個性となっています。日本神話を大胆に解釈した初期のエンターテイメント傑作「暗黒神話」、孔子の逸話を元にした怪異譚「孔子暗黒伝」はなんと週刊少年ジャンプに連載されていました。
02)本作で正統派清純美少女を好演した上野めぐみさんは、「深山凜(みやま りん)」と芸名を改め、新たな道を歩んでおられる女優さんです。公式サイトによれば深山凜さんは時代劇方面のTV、舞台でご活躍中の御様子、頑張って下さい。



改定:2002-09-20