「たんかん座異聞」
映画をはじめとする映像作品などの感想を
サイト製作者の興味のおもむくまま追加しています。
(御注意!ネタバレ有です)
 
ディナーラッシュ  
原題:dinnerrush
監督: ボブ・ジラルディ
時間: 99分


1)はじめに
 ニューヨークのトラットリア「ジジーノ」を舞台に繰り広げられる人間模様を一夜のみを切り取って描いた料理映画(というにはやや気が引けますが)。
 急転直下のラストが心地よい香辛料として効いています。


2)物語

 ニューヨーク。孫の帰りを学校に出迎える老人。だが路上に留められている高級車を一瞥すると、孫を級友に任せて単身別の道を進みだした。車から現れた男二人は老人に迫るが。

  話し変わって同じくニューヨークのトライベッカ。今や最先端スポットとして注目を集めるこの一角に長年居を構えるイタリアン・レストランの「ジジーノ」。気鋭のシェフ、料理長の「ウード」は長年同店を切り盛りしてきたオーナーにして父の「ルイス」の意に反して料理を最新の「ヌーベル・キュイジーヌ」へと変貌させてしまっていた。がしかしその料理は家庭的なイタリアンを愛するルイスの気持とは裏腹に大好評、店は数ヶ月先も予約満杯。が、方針をめぐって父と子の意見の食い違いは如何ともしがたく、今日も店の一角で親子対決が静かに繰り広げられていた。
  そして厨房は正に”戦場”。狭い中で素材を手際よく料理へと仕立ててゆく様はリズミカルでもありダンス・アンサンブルのようでもある。副料理長「ダンカン」は家庭的イタリアンをまとめることに長けていて実はルイスのお気に入り。しかも店のウェイトレス、魅力的な「ニコーレ」を巡りウードとは恋でもライバルの立場にあった。だがダンカンの欠点はギャンブル好きな事。胴元に多額の借金を重ねており、料理をしながらゲームの行方をラジオで聞いている。
 店は様々な客が入り乱れ活況を呈している。カウンターでは博識で話術に長けたバーテンダーの「ショーン」がぶらり立ち寄った金融マンをはじめ並み居る客相手に楽しい時間を創り出している。テーブルでは厳しい言葉を繰り出す画廊経営者が画家と共に芸術談義に興じている。著名料理評論家はウード目当てに友人と訪問、席へとやって来るのを待ち構える。そんな中、こわ持ての男二人が来店する。二人は地元のマフィアのメンバー、ダンカンの借金をネタに店を乗っ取ろうとルイスに迫る。

 店を護り抜くことはできるのか
、ダンカンとウードの恋の行方は。濃密な一夜はさらにふけてゆく・・・。


3)感想

 レストランの内幕を描いた一編です。冒頭の部分を除く本編はたった一夜の出来事を描いていますがその密度の濃い事。なお、監督が実在する劇中のレストランのオーナーです。

 喧騒の店内と厨房を畳み込むように切り替えて進む物語は、時に割り込む静かな情景との対比もあって小気味良いリズムを作り出しています。99分という時間を意識させないこの手腕は素晴らしいものといえるでしょう。

 物語は料理店の内側、普段客からは見る事の出来ない部分に焦点が集まっていますので、素晴らしい皿が幾つも映し出されて云々といった映像を期待するとちょっと肩透かしを喰らうかもしれません。ですが全く登場しないというのではありませんのでご安心を。
 それよりなにより。本作では主に悲喜こもごもの人間模様が描かれるのですが、ポイントは店の乗っ取りを画策するマフィアとのやりとりです。この展開が秀逸で、一見の価値ありです。あ、やられた、という小気味良い感覚は是非劇場で味わって戴きたいものです。ということでこれ以上は触れません、勿体無いですから。
 意図的にかやや誇張気味の登場人物達は、それが為に個性豊かで魅力に溢れています。ですので人物配置に戸惑うような事は少ないでしょう。一方、さすがに実在のレストラン経営者が製作に参加しているのが要因なのか、客に対する描写もスタッフに向けられたそれと変わらず強力です。有名店に集まるややもすると俗物根性丸出しの客の描写はカリカチュアライズされ辛辣ですらあります。全般に客の描写は悪意を持って行われているのではない事は良く判るのですが、薀蓄を語るよりも単純に食事やその時間を楽しんでいる人々に愛情ある眼差しが向けられているのは興味深いものがあります。そういうお客のほうが好きよというメッセージなのやもしれずこれは自戒を込めた方が宜しいのかも。

  映像的には狭い店内というハンデを逆手に取っており、凝縮されたスピード感あふれる画面となっています。特に厨房で手際よく調理されてゆく素材はリズム感がとても心地よいのですが、期待される仕上がりは映されないという、これは気になる向きはお店へどーぞというメッセージなのでしょう、上手いですね。そうそう出掛ける訳には行かないでしょうに。

 本作を観る折は是非、帰り道に気になるイタリアンを探し当てておく事をお勧めいたします。



記述:2002-10-04