「たんかん座異聞」
映画をはじめとする映像作品などの感想を
サイト製作者の興味のおもむくまま追加しています。
(御注意!ネタバレ有です)
 
白い船  
監督: 錦織 良成
時間: 108分


1)はじめに
 スランプ気味の女教師が赴任してきた岸壁に建つ小学校で起きる、沖合いを航行するフェリー「れいんぼうらぶ」と生徒達との交流を描いた実話を基にしたハート・ウォーミングな物語。
 島根県出雲の地元の方々との密接な連携によって誕生したとされる映画の由来そのものも、ちょっとイイ話です。


2)物語

 嵐の夜、漁に出かけた家族の安否を気遣う港の人々。家族が無事戻り喜ぶ岸壁で、一人の少年が父の帰りを悲痛な面持ちで待ち続けていた。

 現在。島根県平田市の塩津集落。日本海を見下ろす崖の上に白い木造校舎の生徒数が20名に満たない小学校があった。 そこへ赴任してきた26歳になる女教師「佐藤静香」。彼女は生まれ故郷に程近いこの小学校へ必ずしも希望を持ってやってきたのではなかった。島根県松江、つまり都会の学校在任中にすっかり教師としての自身を無くしてしまっていたのだ。
  だが、そんな重い彼女の心とは関係なく、生徒は元気に日々の授業を受けていた。たとえばこの土地でした経験できない事をできるだけ見せてやろうとする先生。あるいはベテランによる土地の伝統芸能の伝承。子供たちは村人たちに暖かい眼差しに見守られている、仄かに記憶の片隅にあるか暖かい想い出のような共同体の中に存在していた。

 彼女の受け持ちは5、6年の合同の学級。海が良く見える教室。生徒の一人、6年生の「好平」は授業中度々海を見つめていて集中している雰囲気が無い。ある日、好平は海の彼方に動いてゆく白いものを見つける。他の生徒たちはなかなか見つける事が出来ずにいたが、ついには双眼鏡を持ち出し、みんなが目にする事が出来た。
 白いものは沖合いを航行するフェリーであった。「れいんぼうらぶ」、九州・博多と新潟・直津を結ぶ1万トンを超える定期フェリー。生徒たちはフェリーの船長さんへ手紙を書いてみることに。
 期待と不安をよそに、フェリーの船長さんからの返事が学校に届いた。少しずつ互いについて理解しあいだす生徒たちとフェリーの船長さんと乗組員。そんなある日、学校にフェリーの船長さんから直接電話が入る。航路を少し変えて学校の近くを通るという。これまでとは比べられない程の近く見えるフェリーに歓喜の声を
挙げる生徒達。彼らの喜ぶ様を見て少しずつ、佐藤静香の心にも変化の兆しが現れ始めていた。

 夏。好平はかねてから友達と練り上げていた計画を実行に移すべく動き出した。こっそりと身内の漁船を拝借して、フェリーに近づこうというのだ。フェリーをもっと間近で見たい、そして乗りたい。だが、海は彼らに大きな試練を与えようとしていた・・・。


3)感想

 一服の清涼剤のような映画。

 悪い人が全く出てきません。かつての想い出の中に存在する故郷に住む人々とでもいった風情。こういった郷愁に違和感を表明する向きは少ないでしょう。皆がこうあっった筈、と心の中にしまってある世界がスクリーン上に展開します。
 残念ながら、実際のところは個々人の内にあるその郷愁とやらが果たして正しいものであるのかは今となっては判りません。なんとなれば例えば疎開先で出合った辛い話などが今日残されているからです。ですが、これらも語る方々が口を閉ざしてしまうと消え行く話となってしまうのでしょう。本作はそういった事を一旦はおいておくのが宜しいのではないでしょうか。

  物語は、地元の人々の繋がり、現在と、そして過去から未来へと引き継がれるさまざまな目には見えないそれらを提示すべく展開し、クライマックスで開花します。また、エピローグからエンディング、スタッフ・ロールにもこれらは示唆されていますので、早急に席を立たないようお勧めいたします。

 本作の主人公・傷心の女教師「佐藤静香」に中村麻美。 菅野美穂が登場する映画化初代「富江」での活躍も記憶に新しいところですが、今回は悩みを持ちつつもしだいにそれを乗り越えてゆく教師、あるいは生徒達の善き先達者としての立場を好演しています。劇中、肝心なところであまりに説明的な台詞があるのはどちらかというと脚本や演出のほうの関係でしょう。教師でもあり、ごくありきたりの家族の一員、あるいは”女性”でもある、やや盛り込み気味の役ですが、肩の力が抜けた風情がとても印象的です。フェリーを見つける生徒「好平」に濱田岳、元気でありつつも満ち足りない何かを感じている雰囲気が良く出ています。そんな好平の父に中村喜葎雄、漁師として、あるいは親として風格を感じさせます。少年達の心を大切にする優しきフェリーの太田船長に「竜雷太」、美味しすぎです。そして好平の曽祖父に大滝秀治、登場するやいなや圧倒的な存在感を放つ風格は本作に重厚さを与えています。
 物語の核となる登場人物が輝くのは勿論御本人たちの力ですが、脇を固める演技派のベテランのスクラムあってこそ、といった感があります。若手と称される方々がこの作品で得た経験は、恐らく次回の作品で反映されるでしょう、期待できます。 ベテランの皆様方も流石です。抑えつつも、必要な時には前に出るその存在感、周りが輝いてこそいっそう主が引き立つ、手堅く美味しいところを持ちつつ、若手に胸を貸す、御見事です。

 この作品は実話を元にしている事もあり、製作に当っては地元の全面的な協力があった旨、パンフレットには書いてあります。”地元起し”といってしまえばそれまでなのかもしれませんが、こういった映画のあり方があるのだという一つの好例になるのではないでしょうか。終わりのスタッフ・ロールがやや長めなのはその為、ここは一つ、力を持ち寄った方々の御名前を一つ一つ拝見したいものです。
  音楽は日本ポップス界(陳腐な表現ですみません)の角松敏生。奇をてらわず、画面と共にある音楽、作品世界を確実に支えています。エンディングも映画の中でありながら一つの説話となっているかの如くで、とても楽しめます。

 画面は島根県出雲の美しい自然を描き出します。晴れた日の遠い海の青さ。風にうねりながら強くなった日差しを浴びて光り輝く田の稲の葉。夕方、刻々と変わる空と雲の彩り。これらもまた、”懐かしい”記憶に残された想い出の風景と言えるでしょう。また、本作の場合特に空気に湿度を感じます。梅雨や夏にはつらいものですが、やはり水の豊かな土地に暮らしている事の幸せを思い起こさせてくれます。

 派手な映像がある訳でなし、とって付けたような恋物語があるでなし。ではつまらないかといえば、そういう事は全く無し。そして、ベテランも愉しめる映画と言えるのではないでしょうか。少なくとも時間と代金分は確実にあると感じましたので、その点でもとても宜しいのではないでしょうか。

 ちょっと心和みたい時に。本編はお勧めできるでしょう。

 おまけ:ファンの方は既に御存知でしょうけれども、主人公の友達役に白石美帆、楽しく参加しているといった風情が好感です。



記述:2002-09-24