『一緒に遊ぼ!』
『……うんっ!』
―――――ある日交わされた会話
ゴトンゴトン、ゴトンゴトン…。
愛鳴之藩国の主要道路を走る路面電車。その車内でリズム良く揺られている1組のおばあさんと小さな女の子。
「おばあちゃんおばあちゃん、あっちにすっごく大きい山があるよ!」
「あらホント、大きいわねぇ」
女の子は窓の外に体を向けて大はしゃぎしている。
おばあさんは他の乗客に申し訳ないように会釈をしたが、周りは気にした風もなく、むしろ女の子を微笑ましく見ていた。
愛鳴之藩国。
この藩国は愛鳴藩国とえ~藩国の合併により出来た藩国である。
7つある階層には合併前のそれぞれの藩国風景を再現した層(第三、第六)や、災害時に他国からの受け入れも可能な災害対策用に作られた層(第二)、新設の居住区(第四、第五)や食糧生産層(第七)がある。(ちなみに第一層の計画はまだ軌道に乗っていない)
国是を一言で言うなら「子供達の為に」。
ただひたすら子供達によりよい未来を受け継いでもらえるように、そのためにある藩国である。
そしてこの2人は旧え~藩国国民であり、移り住む為に愛鳴之藩国へ来たのである。
先ほど愛鳴之藩国に到着したばかりの2人は、玄関口である第三層から、新しい家がある第五層へ向かっている途中であった。
「おばあちゃん、お話聞かせてー」
外の景色に満足したのか、女の子はおばあさんにおねだりをした。
「ふふ、リルはお話が好きなのね。いいわよ、今日はなんのお話がいいかしらねぇ」
どうやらいつものことらしく、おばあさんは微笑んで何を話してあげるかを少し考えた。
そして遠くを見て少し懐かしむような表情をした後、ゆっくりと話し始めた。
「これは昔のお話。2人の女の子の物語……」
ある所にお友達がいない1人の女の子がいました。
その子は引っ越してきたばかりで、それに恥ずかしがり屋なのでなかなかお友達を作れませんでした。
だから女の子はいつも1人で遊んでいました。
そんなある日、1人の女の子と出会いました。
その子はとても元気な女の子で「一緒に遊ぼ!」と笑顔で話しかけてきたのです。
女の子は驚いて何も言えないでいると、相手の子は手を出して「ね?遊ぼ!」とまた同じように誘ってきます。
女の子は少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに「うんっ」とうなずいてその手を取りました。
女の子は1人ではなくなりました。
2人はお互いに「えっちゃん」「あっちゃん」と呼び合うようになり、毎日のように一緒に遊びました。
2人にはいつも行く大好きな場所がありました。
そこはとても綺麗な、花がいっぱい咲いているお庭があるお家です。
そのお家には笑顔が素敵なお姉さんが住んでいて、2人はお庭も好きでしたが、なによりお姉さんが大好きでした。
お姉さんはいつもお庭でお花のお手入れをしていて、2人は一緒にお姉さんのお手伝いをして土まみれになっていました。
そしてお手伝いの後はいつも3人でお茶会です。お庭のテーブルに手作りのお菓子を用意して、色々な事をいっぱいいっぱい話しました。
そんな風にいつも2人は楽しく遊んでいました。
しかし、ある日を境に大好きなお姉さんに元気がなくなっていきました。
最初の頃はたまにボーっとしているくらいでしたが、だんだんボーっとしている事が多くなっていきました。
2人は心配になりどうしたのと聞くと、お姉さんは困った風に笑って「大切な人が心配なの」と教えてくれました。
その頃、他の国で大きな争いがあったのです。お姉さんの大切な人はそこに行っていました。
とても危ない所ですが、それでも困っている人を助けたいと、その人は精一杯がんばっていたのです。
でもお姉さんはその人の事が心配で心配でどうしようもありませんでした。危険な目に遭ってるんじゃないか、怪我をするんじゃないか……。
2人は一生懸命なぐさめ励ましますが、お姉さんは元気になりませんでした―――
「お姉さんに元気になって欲しいよぉ」
路面電車は既に降りて今は層間エレベータで移動している最中だが、話は続いていた。
「えっちゃんとあっちゃんも同じように思ったのよ。だから考えたの、自分が嬉しい事、元気になる事を。自分がそう思えるならお姉さんもきっとそうだって思って」
「うん、きっとそうだよ!それで2人はどうしたの?」
「ガールスカウトのキャンプで森に行く事になっててね、その森の中にある湖に綺麗なお花が咲いているって聞いたことがあったから、そのお花をみつけてプレゼントする事にしたの」
「綺麗なお花!それならきっとお姉さん嬉しくて元気になってくれるね!」
「ええ。だから2人は太陽が昇る前の暗い時にテントからこっそり抜け出してお花を探しに行ったの」
「暗いのに探しに行ったの?怖くなかったの?」
「とっても怖かったわ。怖かったけど、でもお姉さんに元気になって欲しかったのよ。だからがんばって探したんだけどなかなか見つからなくってね。それでも諦めずに探していたら不思議な人と出会ったの」
お花を探していると、不思議な人と出会いました。
その人は静かで穏やかで、冷たいような温かいような、そんな感じの人です。
「日の出前のこんな時間にどうしたんだい?」その人は尋ねてきました。
2人は勇気を振り絞り、泉に咲くというお花を探している事とその理由を伝えます。
「連れて行ってあげようか?」その人は言います。
しかし2人は自分達ががんばればお姉さんも喜んでくれると思って断りました。
それを聞くとその人は微笑み「その花が咲いている泉はあっちだよ。場所だけならいいだろう?」と教えてくれました。
そしてお姉さんに2人の想いが伝わって元気になるといいねと笑顔で言いました。
そう言った後に「これはお守りだよ。2人で手を繋いで、その繋いだ手の中に持っていなさい。きっと2人を守ってくれるよ」と綺麗な花びらを1枚くれました。
2人は言われたように手を繋いでその中に花びらを挟みました。
すると今まで暗くて怖かったのが嘘のように、怖くなくなりました。
2人はありがとうとお礼を言ってその人と別れ、教えてもらった方向に歩いていきました。
そうしてしばらく進むと、遠くにキラキラ輝いている何かが見えました。
2人は急いでそのキラキラに向かって進むと段々と森が開けていき、森を抜けたあとには清らかな澄んだ水の泉がありました。
泉の水面が反射してキラキラ光っていたのです。
ここが教えてもらった、綺麗な花が咲いている泉でした―――
「泉が見つかったんだね。ならお花もちゃんと見つかってお姉さんにプレゼントできたんだよね?」
リルの問いかけにおばあさんは静かに首を横に振って答えた。
「お花は見つかったけどプレゼントする事は出来なかったわ」
どうして?という表情のリル。それに答えるように続けた。
「泉にはお姉ちゃんがいたの。お姉ちゃんに気付いた時はどうしてこんな所にいるのか分からなかったけど、咲いている所を見てもらおうと思って2人で走って行ったわ」
悲しそうな表情でおばあさんはさらに話し続ける。
「でも……」
「え、本当にお姉ちゃん……?」
2人は自然に呟いていた。
遠目には分からなかったが、近づくにつれてお姉さんの雰囲気がいつもと違う事に気づいたのだ。
服は汚れて所々破け、髪は乱れており、表情は俯いている為見ることが出来ない。
それは普段の笑顔が素敵なお姉さんとは思えない雰囲気だった。
だから2人が自分の目を疑ったのも無理はなかった。
お姉さんの様子に不安になりつつも2人は声をかけてみると、お姉さんはゆらりと振り返り
「えっちゃん、あっちゃん……」
と、2人の名前を呟いた。
お姉さんに間違いはない。だが、やはりいつものお姉さんとは違っていた。
それでもあっちゃんはお姉さんに話しかけた。
「お姉ちゃん、お姉ちゃんに見てもらいたいのがあるの」
「……見たくないわ」
振り向いた時と同じようにお姉さんはボソリと呟く。
それにショックを受けるあっちゃん。お姉さんはいつも笑顔で話を聞いてくれていたのだ。
「あっちに綺麗なお花があるの。私たちお姉さんにプレゼントしようと思って探して、それで……」
「何も見たくないのッ!!」
えっちゃんが話しかけたが、お姉さんの叫びがその言葉を遮った。
今まで叫んだ所はおろか怒っている所さえ見たことがない2人は、お姉さんの叫びに竦んでしまった。
「お、お姉ちゃん、いつもと違って怖いよ。どうしちゃったの?」
竦みつつも問いかける。するとお姉さんは
「私の大切な人……死んじゃったんだって」
とまるで他人事のように言った。
「あの人は、もう私の所には帰って…こない。私がどんなに会いたくてももう…会えないのよ。そんなの…イヤ、なのよ……」
悲しむ事にさえ疲れたのか、なんの感情もうかがえない声音でお姉さんは続ける。
なんと言っていいのか分からずに何も言えないでいる2人。するとお姉さんは
「あの人がいない世界なんて、そんなの…何も、見たくない。だから……」
そう言って泉の中へと進んでいった。
死のうとしている。
お姉さんは死のうとしている。
「いや、いやだよそんなの……」
「お姉ちゃんがいなくなるなんて……」
このままではお姉さんがいなくなってしまう。
笑顔が素敵でいつも優しい大好きなお姉さん。
それがもしこのままなら死んでしまう。
もう会えなくなってしまったら、死んでしまったら……。
その想像が頭をよぎった瞬間2人は心の底から叫んでいた。
「「行かないで……お姉ちゃーんッ!!」」
/*/
その様子を泉の周りの木の枝の上から、リスのような生き物が見ていた。
森に入ってきた女の子達を見かけ、心配してここまでコッソリとついてきていたのだ。
優しいその子は女の子達の力になりたいと思い、自分に出来る事を考えた。
そして、手を叩いて拍手を始めた……。
夜明け前、色彩を取り戻す前の暗闇の世界。
1人の魔術師が、森の中の開けた場所で遠くの空を見つめ、心を澄ましていた。
澄ました心に小さな拍手が聞こえたのか、それにあわせるように歌いだした。
優しく勇気のあるあの子達の想いが届くよう、ただひたすらにそれだけを祈って……。
1匹の犬士が遠吠えを始めた。
その人とは比べ物にならない聴力で何かを捉えたのか、はたまたなにかを感じとったのか。
そしてその遠吠えは国中の犬士達へと広まっていった。
それはまるで犬士達全員で1つの音楽を奏でているようだった。
がんばれ、がんばれ、と言っているかのような……。
その音楽を聞いていた者がいた。
深夜帰宅になったサラリーマン、新聞を配達中の人、徹夜で勉強をしている学生など、その時間に起きていた人達だ。
まったく違う人達だが、しばらくすると音楽に釣られたのか歌を口ずさみ始めた。
その歌は彼らが子供の頃に聞いた、子供達の幸せであるようにと願いが込められている歌。
まったく違う人達だが、昔自分に歌ってくれた人と同じように誰かの為に願いを込め、その歌を歌いだした……。
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それはあるけれどないもの
それはないけれどあるもの
さわれないけれど
みえないけれど
確かに感じられるもの
それはつなぐ手のぬくもり
誰かが祈る願いの言葉
優しさの一雫
信じるからこそ生まれるもの
感じるからこそ触れるもの
それは一人では生まれず
つなぐ手があってこそ
交わす眼があってこそ
無より生まれ 有よりも確かに
宵より生まれ 暁よりも明らかに
それは子らに
それは花に
それは空に
それは風に
包み 癒し 抱(いだ)き 護る
祈り 応え 願い 伝え
世界にとけて 広がり染まる
それはあるけれどないもの
それはないけれどあるもの
はじまりからそこに あるもの
/*/
「「行かないで……お姉ちゃーんッ!!」」
叫んだ次の瞬間、2人が繋いでいた手から光があふれ出した。
驚いて2人は繋いだ手を見た。
すると先ほど貰った花びらが暖かな光を纏わせて手の平の中で輝いていた。
その上その花びらは増えており、今も2人の手の平から次々にあふれ出続けているのだ。
その影響なのか、2人の目にはお姉さんの胸に纏わりつく黒い靄が見えた。
「きっとあの黒いモヤモヤのせいでお姉ちゃんはおかしくなったんだッ!」
「あれさえ消えればきっといつものお姉ちゃんに戻ってくれるはず!」
無意識に黒い靄を悪しきものと感じ取り
「私たちが!!」
「お姉ちゃんを助ける!!」
と2人が心の底からそう思って叫んだ瞬間、2人の繋いだ手から今度は剣が出現した。
それは刀身に美しい文字が刻まれている剣であり、2人のお姉さんへの想いと思い出の数だけあるかのように多くの美しい装飾に彩られていた。
その剣を掲げてみると、刀身から花びらが流れ落ちていった。
そう、手から花びらが出ていたのではなかったのだ。この剣から花びらが溢れ出ていたのだ。
それは2人のお姉さんを思う心が具現化した結晶。
子供達の幸せを願う人々が祈った結果。
ただ思いを伝えるだけの魔法の剣。
故に、その剣は人を傷つけるものではありえなかった。
2人は剣を前に突き出した格好で走り出した。
この剣ならお姉さんを助けれると信じて。
お姉さんの事を思い。
お姉さんを助ける事だけを願って。
剣の軌跡に花びらが舞う。
そして。
「お姉ちゃんーーーーーーーーッ!!」
剣は深々とお姉さんの胸に突き刺さった。
意識を失って泉に崩れ落ちるお姉さん。
2人はあわててお姉さんを抱き上げ、剣が刺さった胸を見た。
が、その直後に剣は幾多の花びらに変わり、風に舞って消えていった。
あとには剣が突き刺さった痕などは微塵もなく、胸に2枚の花びらだけが残っていた。
お姉さんに纏わりついていた黒い靄はもう完全に消え去ったのだ。
/*/
その後、お姉さんは病院に運び込まれ入院する事になりました。
栄養不足の上、睡眠もちゃんととっておらず、ゆっくりと体を治す必要があったのです。
「えっちゃん、あっちゃん、ありがとう。私はもう大丈夫よ。もう悲しみに負けたりしないから」
2人がお見舞いに行くとお姉さんはそういって笑いました。
その笑顔は2人が大好きなお姉さんの笑顔でした。2人も嬉しくて同じように笑顔になりました。
みんな笑顔になっていると、病室をノックする音がしました。
そして入ってきた人を見たお姉さんは、驚いて、そして泣き出してしまいました。
そう、入ってきた人は―――
「お話しはこれでおしまいよ」
「えー!来たのは誰だったの?」
「さあ、誰でしょうね。でもきっと思っている通りの人よ」
その言葉にリルは安心して笑顔になった。
今は路面電車から降り、徒歩で新たな家へ向かっている最中である。
その途中で公園の横を通りかかった時、1人で遊んでいる女の子がいる事にリルは気づいた。
すると「おばあちゃん、ちょっと待ってて」と言って返事を待たずに走り出し、女の子の元まで行くと元気に話しかけた。
「私の名前はリル、あなたの名前は?」
突然話しかけられたので女の子はビックリしながらも
「わ、私、スーって、いうの」
と名前を答えていた。
「スーちゃんっていうんだ、わかった。じゃあスーちゃん!」
そして先ほど聞いたお話の女の子のように手を差し出してあの言葉を言った―――。
その様子を公園の入り口で微笑みながら見つめていたおばあさんにも、後ろから話しかける人がいた。
「えっちゃん」
「えっ?」
その懐かしい名前で自分を呼ぶ声に振り返ると、そこには1人のおばあさんがいた。
「久しぶりだね」
「え、あっちゃん……なの?」
突然の事に信じられないでいるおばあさん。だが自分をそう呼ぶのは1人しかいない。
そんな様子を見て、声をかけたおばあさんは昔と同じように、手を差し出してあの言葉を言った―――。
「一緒に遊ぼ!」
それは初めての言葉。それは懐かしい言葉。
かつての2人とは違う、かつての2人と同じように。
新たに始まる新たな物語―――
再び始まる続きの物語―――
「……うんっ!」
L:リリカルソード = {
t:名称 = リリカルソード(マジックアイテム)
t:要点 = 体の中から出て来る剣,装飾過多,剣から流れ落ちる花びら
t:周辺環境 = 清らかな水
t:評価 = なし
t:特殊 = {
*リリカルソードのアイテムカテゴリ = 消費型アイテム,マジックアイテムとして扱う。
*リリカルソードの効果 = この武器によって倒された敵は改心する。
*リリカルソードの使用回数 = リリカルソードは一回使用することができる。使用回数を使いきった場合、このアイテムは消滅する。
}
t:→次のアイドレス = 合体リリカルソード?(マジックアイテム),大跳躍?(絶技),剣の誓い?(イベント),リリカル大サーカス?(イベント)
}
<staff roll >
story・・・
花井柾之
lyric・・・
佐倉透
illustration・・・
赤星 緑
たまき
関朝戸
finally, to thank you all
Fin