僕は真実を知りたい
例えば誕生日。何が欲しい?と親は僕に聞く。
僕はそれに真実が欲しいと心の中で囁き、口では妥当にお金と言っておく。
生きていくためにお金は必要で、お金にはこれだけあればいいという上限はない。あればあるほどいい。
世界的に見れば僕の家庭は裕福だ。だがその裕福な家庭の子供が貰うお小遣い程度で世界の何が変えられるのか。
食べたい物を買う、欲しいゲームを買う、着たい服を買う、賭け事に使う、風俗に通う、彼女に貢ぐ…その場その場の下らない欲求を満たせるだけだ。
それにお金の汎用性なんてたかが知れている。貨幣制度もない原始人や地球外生物にとってのそれはただの金属と紙切れだ。
僕が欲しいのはもっと大きなモノ。世界の法則、世界の原理、世界の根本…つまり世界の真実だ。
例えば、どうしてこの宇宙が誕生したのか。仮説ではない完全な真実が知りたい。この宇宙の存在意義が知りたい。
そんな事どうせ分からない、だから考えるだけ無駄だ。みんなそう言うし、僕もそう思う。
そんな事は誰も知らない。だから誰も与えてはくれない。誰も持ちえるはずがない。
それでもそれは放棄して良い問いなのか。
明日の朝ご飯は何だとか、今週末は誰と何処に行こうか、なんて考えるより大切な問いではないのか。
誰も船底に穴が開いた豪華客船に乗りたくないし、線路が途切れた電車に乗りたくない。安全だと分かっているからこそ(あくまで
絶対ではないが)みんな安心して利用出来るのだ。
なら僕等が生きるこの世界についても同じではないのだろうか。世界の真実を知らずに生きていくという事は不安ではないのだろうか。
安全を求めるという事は人間として、生命として当然の事ではないだろうか。
僕は世界の真実を知らない。だから不安で仕方がない。
お金も欲しい、友情も欲しい、愛情も欲しい、でもそれ以上に真実が欲しい。その全てを犠牲にしてもいいから真実が欲しい。
何故そこまで?と聞かれたら僕はこう答える。
僕はこの世界に生れ落ちたから…
僕は真実を知りたい
僕は真実を知りたい
朝の喧騒に目が覚める。妹の「いってきます」が僕の目覚まし時計だ。窓の外から今日も元気な声が聞こえて、僕は夢の世界から帰ってくる。
毎日毎日目覚ましの代わりにされているとは本人も思うまいなどと思いながら、布団を出て洗面所へと向かう。
顔を洗い、歯を磨きながら僕は先程まで見ていたであろう夢の事を思い出す。大抵の場合思い出せないが、時々鮮明に思い出せる事がある。
それでも思い出す夢は本当に摩訶不思議な物で、○○だとか、がだなんていう狂った世界ばかりだ。
時にはそんな夢ならずっと見ていたかったと思えるような夢がある。それが何かも覚えていないのにそう思えるのだから、それは不思議な事だと思う。
母親とニュースを見ながら朝御飯であるお弁当の残りを食べる。母も仕事がある日は忙しく、僕より早く家を出る。僕は洗濯物を干したり、食器を洗ったり、
少しだけ家事を手伝ってから学校へ向かう。
通学は自転車で、電車やバスという選択肢はない。最寄の駅まで10分、そこから電車で30分、さらにそこから徒歩30分。そんな遠回りをするより直線距離を
自転車で颯爽と駆け抜ければ30分以内で学校へ辿り着けるという危篤な場所に僕の家、正式にはマンションの一室がある。
その周囲にある建物を危篤で、警察学校と総合病院と霊園という品揃えだ。その癖コンビニや娯楽施設はないという奇妙な場所だ。
急な長い下り坂や歩道のない小さなトンネル、無駄に長い上り坂と何とも忙しい通学路を越えると数年間通い続けている我が母校がある。
いわゆるエスカレーター式の学校で、僕は中学受験を一回したきりでこの学校に居座っている。何とも美味しい立場だと思う。
それでも愛校心などは一切なく、むしろ嫌っている程だ。中学受験だって親の強制で、自ら望んだ訳でもない。
ただ楽だから居座り続けている、それだけの学校だ。
授業が始まる。成績に煩い親を持つ僕は授業を真面目に聞かなければいけない。妥当にノートを書き、妥当に話を聞いて、時には
授業と関係のない事を考えながら授業をこなす。
休み時間は特にやる事がなく、課題の処理や予習復習に時間が費やされる。別に勉強がしたい訳ではない。家まで煩わしい課題を
持って帰るのが嫌なだけだ。それに一緒にいたい友人がいる訳でもない。ならそんな時間は有効利用すべきだった。
昼からの授業も難なくこなし、帰りも誰と一緒という事もなく自転車で1人下校する。時々夕飯を済ましてきたり、月刊誌を買ったり、頼まれた買い物をしてきたりはするが、
真っ直ぐに家へ帰るのが基本だ。
当然行きにあった長い急な下り坂は上り坂に変わり、その逆もまたそうなる。
あまりの角度と道のりの長さに途中で引き返したくもなるが、いつかそうして後悔した事があるので同じ事を二度繰り返す気はない。
帰宅してすぐにシャワーを浴びる。冬なら汗もかかないが真夏となるとどうにもならない。そうして夏の平日は2度お風呂に入るという習慣が
いつの間にか出来ていた。
部屋に戻るとまずコンピューターの電源を入れてからほぼ年中敷いてある布団に直行する。ダラダラと着替えながらゴロゴロと寝転がり、晩御飯を待つ。
この自由な時間を何に使いたいか、僕にそんな意思はない。携帯代わりのコンピューターで友達と連絡を取ったり、意味のない事を喋ったり、そうして晩御飯までの
時間を潰し、お風呂に入り、眠くなるまでまたそれを繰り返すだけだ。この頃は見たい番組もするゲームもないので本当にそれだけだった。
そうして今日も何事もなく、僕はまた死に一歩近づく。
続く
第2話へ
戻る