■研究対象を失った温熱・空気質学者?(上)

 建築技術の1月特集号「在来木造の断熱・気密を整理整頓」には、正直いってがっかりさせられました。
 坂本先生の話しの中に2、3面白いものはありましたが、あとはほとんど印象に残っていません。

 次世代省エネ基準は出来たし、機械換気が義務化されたしで、温熱・空気質の研究者の方々は次の目標がなくなり、とまどっておられるように感じられます。

 南雄三氏は、在来木造の相当隙間面積が5.0平方センチ、ツーバィフォーが2.0平方センチになったので「この際、最低基準をつくるべきだ」との提案。たしかに面白い提案だが目的と意義が不透明。
 澤地先生の「相当隙間面積5.0平方センチにふさわしい換気のあり方」は残念ながらパンチ不足。
 鈴木先生は「土壁造の断熱手法」
 各研究は意義があります。しかし、消費者と一緒になって頑張っているビルダーにとっては、波長が合いません。

 吉野東北大、長谷川秋田県大の両先生は、地道なフィールドワーク調査を行っておられます。
 その結果、次世代省エネ基準で建てた東北の住宅の燃費(暖房費と給湯費)が、今まで我慢してきた家に比べて50%アップしていると報告しています。
 そして、今までと同じ燃費で上がっているのがR2000住宅で、消費者のための省エネという観点から考えるなら「次世代基準では不十分で、限りなくR2000に近付ける必要がある」と提案されています。

 吉野、長谷川先生は、観念的に問題を提起されているのではありません。300戸以上の実態調査に基づいて、具体的に提案なさっています。思いつきの提案ではありません。

 この点については、坂本先生も建築技術の対談の中で率直に認めています。
「次世代省エネ基準は、温暖化防止という京都議定書の目的達成のために策定したとマニアルには書いてあるが、これは後で付け足した文言。本当に温暖化防止を考えるなら、東京でもQ値は2.0Wを切る性能でなければならない。すなわち、全室冷暖房で年間冷暖房費が4万円で上がる住宅でなければならない。そういったことを抜きにして作った次世代省エネ基準だから、Q値が2.7Wという中途半端な数字となってしまった…」

 地球の温暖化そのものについて「やぶにらみ科学論」(池田清彦著、筑摩新書)が面白い問題を提起しています。
 池田先生によると、1960年代から1980年にかけて「地球は氷河期に向かっている」と学者やマスコミは騒ぎたてていた。事実、この期間は寒かった。
 それが1990年代になると、いきなり地球が温暖化するという。
 地球の温度は数十年、数百年単位でみると常に変化している。たとえ年に0.02度温度上昇があったからといって、1000年で20度上昇するわけがない。

 気温と二酸化炭素の関係を細かくみると気温の上昇が先行している。気温が上昇すれば海洋中に溶けていた二酸化炭素が空中に放出され濃度が上がる。気温が下がれば二酸化炭素が海洋に溶込んで濃度が下がる。もし、本当に二酸化炭素の人為的放出が温暖化の原因であるならば、1970年代の寒冷化はどう説明するのか?

 また、温暖化が進むと海面の水位が大幅に上昇するというのも怪しい。北極は海なので氷が溶けても水位は微動だにしないはず。南極は陸だから氷が溶けて水位が上昇するように思われるが、気温が上昇すると蒸発する海洋面からの水蒸気の量が増え、より雪が降るので南極の氷河はむしろ厚くなると考えられ、海洋の水位はむしろ低下すると考える方が合理的。
 
 門外漢の私には、この問題の正否が判りません。
 ただ、京都議定書が絶対的で、これを守る義務が国民全部にある。したがって、より高気密化・高断熱化を図らねばならないと、上からの命令で高気密化を進めるという発想は感心したものではないことは分かりました。消費者の利益から発想しなければなりません。

 だとしたら「高気密・高断熱化論議は、ここらあたりで民間にお任せして適当にやってもらい、学者はもっと面白いテーマーを必死になって探し出してゆくしかない」という方向に温熱・空気質学会は変わってゆく前兆と考えることも出来ます。
 本当に、研究のテーマーはなくなったのでしょうか?

 私は、木構造に関する杉山英男、坂本功、有馬孝禮先生などの新しい著作を再三再四読み返えさせてもらっています。提起されているテーマーが陳腐化しておらず、未だに今日的な大きな意義をもっているからです。

 理論的には、直下型のマグネチュード8、震度7の地震がきても、十分に耐えられる木構造は完成しています。
 しかし、現在建てられている建築物は本当に直下型の地震がきた時、耐えられるでしょうか。毎日、散歩がてら新築の工事現場を見て歩いていますが、絶対に大丈夫だと思えるものは半分くらいしかありません。だから諸先生の言う「検証の必要性」を実感します。

 阪神淡路大震災は、不幸中の幸だったのは、早朝に起こり、火災による被害が地震の規模に対して最低に抑えられたことです。
 このため、死者の数は6000人で済みました。
 ツィーンタワー崩壊よりやや多い程度でした。

 しかし、10年以内に必ず発生すると言われている東京直下型地震。
 それが、もし昼食時、あるいは夕食準備時に発生したとしたら、死者の数は何十万人にも及ぶという試算があります。ツィーンタワーの何十倍かの被災です。

 その時になって、多くの業者や学者、国土交通省のお役人などは「想像をはるかに超えるものでした」と言うでしょう。不可抗力だったという具合に…。しかし、これは完全に逃げ口実。

 私は、これから建てる住宅は「何はさておいても震度7の直下型地震に耐えるものでなくてはならず、しかも自分の家から火が出ても、酸欠によってボヤで済むものでなければならない。そして、そのまま80年の寿命を持つものでなければならない。これが、これから建築される住宅の絶対条件だ」と確信しています。

 その80年の長寿木構造の安全の上に立脚した断熱であり、気密、結露、あるいは換気でなくてはなりません。
 その立体的な議論が、未だになされていないのです。