田んぼ博士の講演「不起耕農業の素晴らしさ」の要約

 昔の米づくりの最大の問題点は、(1)いかにして労働時間を短縮するか (2)いかに収量を多くするか、にありました。
  稲作には1日12時間労働を120日間、計1440時間労働を要しました。現在は300時間。これを不耕起で30時間にしようというのだから、怠け者のお話です。

 また、戦後、一貫して叫ばれてきたのは収量増。化学肥料を使おうが、農薬をじゃんじゃん使おうが、収量を挙げた者が勝ちでした。今でこそ減農薬、有機肥料が叫ばれていますが、15年前までは誰一人そんなことを言っていなかった。
  反当たり6俵が8俵、8俵が10俵、10俵が12俵。
  私の言うことを聞くと、反収が増加しました。だから、多くの農家が私についてきてくれました。

 不耕起農業のそもそもの始めは、冷害対策の研究でした。
  東北一帯が冷害被害を受けていた時、手植えの田んぼに穂が実っていた。何故か? から始まりました。

 昔から直播きはありました。
  耕さない田んぼの土は青い。耕して酸化分解されて赤い色になる。
耕さない田んぼは窒素過多で稲の茎が固く、味が悪い。しかも7から8キロしかとれない。だから、誰も直播きはやらなかった。

 日本は南北に長い。4000キロの範囲に作られている稲は同じジャポニカという種類。
  この稲は、天候のことを良く知っている。対処方法を知っています。1993年の冷害の時、不耕起の稲は、日本海側では予定より早く穂を出していた。太平洋側はじっと我慢をしていて、日の出た2時間に花を開き受粉しました。
  稲は実に利巧な作物。これを甘やかし、グウダラ者にしたのが戦後の機械化、化学肥料、農薬漬けの過保護農業。

 不耕起農業の稲づくりの80%が丈夫な苗づくりにあります。
  稲には最低5枚の葉が必要。
  このうちの2.5葉が土の上の葉の部分を育てる。残りの2.5葉が根を育てる。これは日本で1300年続いてきた原理原則。苗代の苗は5葉だった。それが機械農業で3葉になった。

 私どもは、苗は寒い時からつくり、いじめてストレスを溜めさせ、極力野生化させています。
  稲は刺激、つまりストレスを与えれば与えるほど丈夫になる。ストレスが高いとエチレンが出る。このエチレンが苗を活性化させるのです。
  したがって、苗をあえて麦踏みします。
  稲の根を折る。これが最大のストレスでエチレンを出す。
  稲の苗は葉っぱです。幹ではない。したがって折れても心配はありません。

 この丈夫な苗を不耕起の田んぼに5センチ立方の穴を空けた中に機械で植えてゆきます。
  耕してないから固い土です。苗の根は、この固い土を突破しないと根が張れない。成長出来ません。細い根では固い土が突破出来ない。そこで太い根に変わるのです。
  そして、固い土を破る。
  この時、稲の体質が転換するのです。丈夫な体質、冷害や害虫に耐える体質に変わるのです。

 人間もそうです。
  試練を与えない人間は育ちません。試練こそが体質転換のカギなのです。

 不耕起農業の場合、秋の収穫の時、ワラは刻んで田んぼの上にまき散らします。そして、冬、水を張っておきます。
  このため、植物プランクトンが多数発生します。除草剤などを一切使いませんから、植物プランクトンを食べる動物プランクトンがこれまたわんさと発生します。
  イトミミズやアカムシが無数に増えるので、メダカやヤゴが生きられます。このメダカを狙ってどじょうやカエルが育ち、田んぼは生き物だらけとなります。

 今までの稲作は、必ず秋に田を耕す秋起しを行いました。
  この秋起しでワラは地中分解を余儀なくされるし、稲の根は11月か12月には根腐れしました。
  ところが、秋起しをせず、田んぼに水をたたえると、根は翌年の3月までは生きています。

 連隊を組んで飛んでいた雁が、不耕起の田んぼを見つけると急降下します。いわゆる落雁。
  雁はベジタリアンだったのですね。落ち穂や生きている稲の根を食べるために降りてきたのです。
  こうして、冬、水を張った不耕起の田んぼには、雁、白鳥をはじめいろんな鳥がやってきます。多いところでは70haに4万羽の鳥が集まり、それこそトリコレラが心配になってきているほど。不起耕田を増やして、鳥の密集を避ける工夫が急がれています。

「雁のきた田んぼは草が生えない」と言われていますが、雁が草の種や根までも食べているのでしょう。

 不起耕のワラは、水中分解されます。そして、苗が育ってくると一面にサヤミドロという藻が発生します。この藻が光合性で酸素を吐き出すとともに、タニシの餌となり、無数の蛋白質が田んぼで育ちます。
  また、このサヤミドロは、畑の肥料ともなります。
  畑を1センチでも耕すと、サヤミドロは発生しません。サヤミドロは不耕起が送ってくれた宝物です。

 春、一旦田んぼの水を切り、米ぬかを入れて水を張ると、土にトロトロの層が出来ます。
  これはイトミミズの活躍によるものです。
  そして、強い稲の根が、底の硬盤を掘り下げてゆきます。根とイトミミズが機械と人に変わって田んぼを耕しているのです。
  そして、こうして耕された田んぼの米は3年目から味が飛躍的に良くなります。
 
  国土の7%が田んぼ。その田んぼに平方メートル当たりドラム缶9本分の水が蓄えられ、緩速濾過で水を濾し、生物資源型の農業を展開することこそ、国土環境を守ることではないでしょうか。

 なお、不耕起農業は野菜づくりにも応用出来ます。
  大豆、トマト、キュウリ、イチゴ、ホーレン草などで美味しい野菜が得られています。落葉の山が富んでいるように、草を畑から出さないこと。ミミズがわんさ。問題はモグラをどうするかです。