■ 良い土を造るという年中放牧の新しい酪農



 北海道の話が続いたついでに、最近読んで面白かった放牧酪農を取り上げます。

 今年の春、講談社から「牛乳の未来」(野原由香利著)というおかしげな題名の本が出版されました。

 雪印騒動が持ち上がった時、牛乳の安全管理のいいかげんさ、あるいは骨太などというカルシウム入りのほとんどが加工牛乳であるということが分かり、一時は大問題になりました。

 しかし、今では誰も牛乳について語りません。
 狂牛病の問題が起こり、アメリカ牛肉の輸入が禁止され、牛丼や焼き肉が問題にされてきていますが、牛乳については一件落着。問題が解消されたのでしょう?!

  そんな時「牛乳の未来」というのですから、一体何を言わんとしているのか、不思議に思って本を手にしました。
  そしたら、いきなり旭川の斉藤牧場のことが出てきました。

 旭川の斉藤牧場というのは、化学物質過敏症の関係者には数年前から知られています。

  斉藤牧場は農薬を使わず、山に牛を放牧しており、化学物質を使っておらず、その牧場内に旭川市、冬総研、旭川医大、北里大、などの協力を得て化学物質過敏症患者の一時転地住宅が2001年より稼働しているからです。

 化学物質過敏症の方や電磁波過敏症の方から相談があった時、必ず紹介する先だったからです。
  ちなみに記しておきますと、現在6室ありますが、3人までしか受け付けておりません。

  食事は自分で作ることが条件。
  したがって男性の単身入居は認めていません。
  光熱評価含めた家賃が4000円/日。
  先払い。
  詳細は、下記へ。
  http://www.cssc.jp/index2.html

 この斉藤さん。戦後の1947年に入植した開拓団の一人。
 それこそ山菜を売ってやっと命をつなぐ生活が続きました。
 ある日、馬が通りところは土だが、時々通るところは草地だということに気づいた。馬が全然通らないところはイタドリやヨモギが2メートルにも。
「山に馬を放せば、自然に草地になる!」

 1955年頃牛の子を飼った。
 山羊の乳や豆を摺ったのを与えていたが、山へ放すと、腹がへると雑草を食べている。
 そこで、馬喰や水田農家から牛を借りてきて山へ放した。
「放牧して大きくして返すから」と。

 ササを刈り、焼いて牧草の種を撒いた。
 その種を牛の蹄が踏んで土着して草地になる。

 そして、木はところどころ残した。回りのササも。
 そしたら、暑い時山へゆくのを嫌がっていた牛が、木陰で休んでいる。
  湧き水も豊富になってきて草が乾燥で枯れるということがなくなってきた。

  春に仔牛を買ってきて放牧。秋に売る。
  冬は放牧出来ずエサ代がかさむ。
  20年かけて山地酪農蹄耕法を確立した。

 この斉藤さんをはじめ足寄の吉川さん、中標津の三友さん、上士幌の新村さんなど放牧酪農をやっている面々が師として学んだのがニュージランド方式。

 ご案内の通りニュージランドは日本よりやや面積は少ないが人口は400万人。放牧に人手をかけるわけにはゆかない。
  放牧に必要なのは(1)水回り (2)柵 (3)牧道の三つ。
  これさえ整っておれば、あとは搾乳場さえあればいい。

 搾乳時間になると牛が勝手に集まってきて搾乳場へ入り、出てゆく。

 搾乳に必要な時間は朝と晩、それぞれ1時間から1時間半。一人で200頭前後の牛を管理出来るという。
 そして、放牧だったら70才でも80才になっても十分に可能だとのこと。  牛の躾さえきちんと出来れば、放牧ほどいいものはない。
  配合飼料はいらない。
  カネがかからないし、何が混ざっているか分からないものを牛に与えなくていい。
  自分で新鮮な草を食べてくれる。
  わざわざガソリンを使って草を刈り、運び、与える手間と費用が省ける。
  手間暇かけて質の落ちた高くて悪い草を食わせているのが今までの酪農。

 それに何よりも牛舎の設備が不要。それに糞尿処理費用がかからない。
 牛の糞尿はカネの垂れ流し。
 放牧だと、糞という肥料を山野にまき散らし、土が増進する。牧草は食べられ、踏まれるほど健康に成長する。

 十勝のしんむら牧場では、オーストラリアのコンサルタントと契約しているという。
  毎年土壌のサンプルを送る。
  それを分析してくれる。
  たとえば、カルシウム不足だから石灰を何/ha入れろとか窒素を何キロ/haという指示がくる。
  化学肥料はやりすぎてはいけないが、やらない場合は害が多いという。

 こうした結果、ミミズが増え、蒔いていないのにクローバーが増えたりして、糞の分解が早くなる。自然の食物連鎖が起こってきている。

 いわゆる土に力がついてくる。
 そうすると、草が良くなる。
 牛は喜んで草を食べるようになる。

 人間が食べられない草しか出来ないところは、土を育て、草を育てて放牧で牛を飼い、新鮮で安全な牛乳を提供すべきだというのが各氏の意見。
  拝聴に値する。

 そして、こうした良い草地で育った牛は、搾乳の時にきれいな雑巾で乳を拭く必要はないという。
  牛舎に囲われ、自分の糞の中で生活させているから、バケツのお湯で乳房を拭いてやる必要がある。これは大変な手間。
  このため、ニュージランドのように、200頭の牛の搾乳を1時間とか1時間半で終えることが出来ない。二倍以上の手間がかかっている。重労働で酪農家は音をあげている。

 有機農業と一緒で、放牧も土を育てる。健康な土、ミミズがいっぱいいる土を育てること。これこそが健康な命を育てる基本だということを教えている。

 健康な有機農業、健康な山野放牧、そして健康な林業。

 健康をテーマーに、日本は国土を見直す必要が痛感させられる著書である。