| 昔の大工さんは「匠」といわれた。 ものつくりの名人だった。 つまり、モノをつくる人であり、気むずかしい職人気質の塊であった。 ともかく、良いモノをつくるのが仕事であり、お客のご機嫌をとってヘイコラする必要は一切なかった。 腕がすべてであった。 棟梁というのは、現場の総監督。 材料を選び、積算し、必要な職人を集めてきて、工程を組んで建築物を完成させていった。 昔は、熟練した大工さんでないと家が建てられなかった。 差し金を使って曲がりくねった胴梁や棟木を架構するという仕事は、叩き大工には出来なかった。 第一、カンナとかノミという道具が使いこなせ、手入れが出来ないと職人としての資格がなかった。 そして、普通の住宅の場合はことさら特殊なプランはなかった。屋根勾配にしろ、部位の納まりにしろ、ほぼ決まっており、体得するまでには時間がかかるが、体得すれば全て応用でことが足りた。創意工夫は必要なかった。 少なくとも30年前までは、そうした熟練した大工さんに家づくりを任せてきた。 畳と敷居、鴨居、長押の家は、技能者が支配する「工」の世界であった。 ところが、プレハブが盛んになってから、住宅はセールスマンが売る商品であり、いつの間にか住宅は「商」の世界のものになってきた。 企画住宅という考えは、まさに「商」そのもの。 そして、商品を売る条件として提携ローンが最重視され、セールストーク、セールスツール、セールスマニュアルが重要視されるようになってきた。 このことを否定しようとしているのではない。 カスタムハウスといわれる特別注文住宅の分野においては、こうした「商」としてのやり方が行き詰まってきた。顧客は出来合いの企画品の中からチョイスし、プラスオプションで処理するシステムそのものに不満を覚えてきた。 そして、今注文住宅業は「サービス産業」になりつつあるのだと思う。 先月、北海道へ行ったのは、銘木を仕入れるマイスターハウスの山口社長に同行したため。 昔からの仲間の高倉氏。その学生時代からの親友が「どうりん」の社長になり、倉庫に山積みされている銘木の在庫を処理したいという話を伝えてきた。 どうりんの吉田社長の案内で、札幌と旭川の倉庫と工場三ヵ所を案内してもらった。 ところがこの吉田社長。単なる材木屋の社長ではなかった。 名門の札幌グランドホテルと札幌パークホテルの総支配人を兼ねていて、超多忙の身であった。 おかげで丸々二日間、ホテル業の実態を教えて頂いた。 そして、ホテル業と注文住宅業があまりにも酷似していることに驚かせられた。 札幌グランドホテルの支配人だった吉田氏は、パークホテルともどもISO9001を取得して、あとは三井観光の後輩に託して定年退職した。 ところが、ホテルマンでなかった後輩は、本社からの指示をよく咀嚼せず、そのままダイレクトに下に伝えた。 どこでも言われていること。 原価率を下げろ。人員をなるべく少なくしろ。売上げを出来るだけ上げろ。 こうした指示を、伝達するだけで経営がうまくゆくものだったら苦労はない。この厳しい経済環境で、そういった目的を達成するには、全社員の英知とやる気と創意が結集しなければならない。その具体的な手法を指示し、一緒に泥まみれにならないと目的の達成は不可。 料理の原価のコストダウン一つとってみても大変難しい。仕入れ価格を安くするために悪い素材を使えば、たちまち顧客が逃げてしまう。 比較的安い素材で、創意工夫をこらして「あっ」という驚きの味覚を実現させないと、真のコストダウンにはならない。 ホテル業というのは、なるほどサービス業だと実感されたのは、従業員の多さ。 宿泊の部屋が562室。7つの宴会場やバーがあるので、従業員はなんと830人も。 バブルの最盛期は1200人もいたという。 この830人の全てが、直接顧客に接している訳ではない。 しかし、全ての従業員が顧客の視線に立って仕事をしないと、あっという間にサービスの質が落ちる。 吉田支配人が辞めて一年もしないうちに業績が悪化した。そこで、再起のために呼び戻されたというわけ。 ホテルを蘇らすには特別なマジックがあるわけではない。 ドアボーイ、カウンター係、客室係、コック、ウェーター・ウェートレス。あるいは駐車場係や保安係。 そういった全てが、最良のサービスを提供しているかどうかにかかっている。 つまり、支配人というトップから末端まで、徹底した顧客志向になっているかどうか。 笑顔と心からのサービスがリピート客を呼ぶ。 たしかに、最新の施設や環境が顧客にアピールする。 しかし、どんなすぐれた施設や環境であっても、サービスが悪かったら二度と顧客はきてくれない。 リフォーム投資は常に続けなければならない。 しかし、いたずらに著名な建築家とかに頼むと優れた良さを一掃した案とか、顧客にも従業員にも使いづらい案を往々に提出してくるという。 このほか、書き出せばきりがないほど面白い話が続いた。 住宅の場合も、建築家の思いつきでモデルハウスを選んではならない。 そして、顧客に接する全ての人々のサービスで、顧客の満足度が変わってくる。 「商」の時代は、セールスマンの優劣が大きく物を言った。 現在の顧客は、セールスマンだけではなく設計士、コーデネィター、会社のトップのポリシーと実際の 行動を見極めて会社を選ぶ。そして、契約時に100%の満足度に達する。 ところが、工事が始まると満足度が落ちてゆく。 現場監督をはじめ職人の態度に不満を覚えるからだ。サービス業だという考えが浸透しておらず、自分の仕事ぶりを顧客の視線で見ていないからだ。 全下職の意識改革が出来た時、契約時100%だった顧客の満足度が、完成時200%にもなる。 そして、必然的にリピーター、紹介客を生んでくる。 注文住宅業はホテルと全く変わらないサービス産業であるということを、改めて教えていただきました。 |