■長周期地震波が巨大構造物(超高層ビル)を襲う!!


長周期地震波が巨大構造物(超高層ビル)を襲う!! 貴方は「長周期地震波」という言葉を聞いたことがありますか?
長年、建築業界で生きてきたのに、私は4日前まではこの言葉を知りませんでした。

 「大地震が起きた時、あなたは大丈夫か・地震波が巨大構造物を襲う」(NHK地震波プロジェクト編、近代映画社刊)には、頭をハンマーで殴られるほどのショックを覚えました。そして、今までの不明を恥じました。

 地震にはP波とS波があるということは知っていました。
 最初に、地震の進行方向からやってくるカタカタという小さい波をP波(Primary wave)といいます。
  そして、次にユサユサという垂直方向の揺れを伴う大きな揺れをS波(Secondary wave)と言います。

 地震には、この2つの揺れしかないと考えていました。
 ところが、S波の後に人体には感じないほどのゆったりとした第3の揺れがあるというのです。
  これを長周期地震波と言います。

 この長周期地震動が問題になったのは、一年前の十勝沖地震。震度は6弱で、それほど民家には被害はなかったのですが、苫小牧で出光石油の原油タンクが炎上し、消火活動が不発で、タンク内の全ての原油が炎上してやっと鎮火しました。

 当時、震度6程度の地震でタンクが炎上するというのは、出光石油の管理がずさんだったからというのがもっぱらの風評。ほとんどの人はそれで分かったつもりでいました。

 ところが、出光石油だけではなく、近隣の多くの石油タンクに被害が出ていたのです。震度6のS波による被害でなく、その後の人体に感じないゆったりした長周期地震波の揺れに、石油タンクの中の油が共振して、スロッシングと呼ばれる激しい揺れが起こり、蓋を持ち上げ、折れたり沈んだりしました。たまたま出光のタンクは落ちたはずみに金属のぶつかりで火花が出て、炎上したのだといいます。

 この長周期地震波はどうして起こるかということです。関東平野だと3000mも深くに固い地盤がある。その地盤に揺れが反射して遠くまで伝わる。つまり地下構造により、長周期地震波の周期が違うのだそうです。

 ちなみに、東京では周期はなんと7から8秒という長さ。
 大阪では5秒。
 名古屋では4秒。

 1985年、メキシコシティから400kmも離れたところで地震が起きました。この時の周期は2秒強だったそうですが、メキシコシティの十数階建てのビルが軒並み壊滅状態になったのだそうです。

 信じられますか。大阪で地震が起き、その影響で東京の十数階建てのビルが軒並み壊滅するということを。当然、メキシコシティを視察した調査団は、メキシコの建築基準がいい加減だから起こった現象。日本には関係ないという報告書をまとめ、長周期地震波には触れていないそうです。

 それでは、日本では長周期地震波による被害が今までになかったのでしょうか。

 1987年の日本海中部地震の時、東京では地上は一つも揺れを感じなかったのに、高層ビルのエレベーターの管制ケーブルが切断するという事故がありました。これは、長周期地震波の影響だと知っていた関係者もいたそうです。

 昨年6月に起きた宮城県北部連続地震の時、東京の超高層ビルで船酔いを感じた人が多くいたそうです。つまり、実際には長周期地震波の影響を受けていたのですが、その存在そのものを知らなかったので、地震の影響だと認知していなかったというのが実態です。

 最近建築中の超高層ビルは、こうした長周期地震波を十分に考慮して建てられているそうですが、霞が関ビルをはじめ新宿副都心などの初期の超高層ビルはデーターがなく、ほとんどが十分な対策をとられていないのが実態とか。

 NHKでは超高層ビルの長周期地震波を取り上げることは「パンドラの箱」を開けることになり、実態をなかなか把握出来なかったと言っています。
  危険だと煽っては、それこそパニックになります。
  といって、十勝沖地震で問題が明らかになった以上、臭いものに蓋は出来ない。そこでプロジェクトを発足。

 そして東京理大の北村春幸先生に依頼して、南海地震がきた時、大阪の50階建てのビルがどの程度揺れるかというシミュレーションをやってもらっています。
  北村先生は民間の設計事務所で超高層建築の設計実績があり、しかもシミュレーションのためのシステムも持っています。したがって最適任者だとのこと。

 そして、入れるCG(想定南海地震長周期波)数値として、入倉孝次郎氏の「経験的グリーン関数法」を用いたそうです。
  この入倉氏のことと経験的グリーン関数法について書き出せば長くなるので省略します。ともかくこの方面では天才と言われており、世に警鐘を鳴らし続けている人です。

 入力の条件は決まりました。
 こんどは建築の条件設定。
 どの程度の耐震強度を持った超高層ビルを想定するか。
  もちろん、建築基準法によるのは一方法ですが、建築基準法は最低の性能を示すものであり、これだと被害が大きくなります。それこそパニックになりかねません。そこで北村先生が納得出来るほどの強度を持ったビルでシミュレーション。

 150km離れた震源で南海地震が起こった。
  大阪は地下構造から長周期地震波の周期は5秒。
  ということは50階建てのビルと一番共振するのだそうです。

 因みにビルの固有周期は1秒で10階。2秒だと20階、名古屋のように4秒だと40階建てのビルが一番共振するということになります。

 シミュレーションの結果は阪神大震災の時の揺れの最大は120cm。しかし南海地震では最大の揺れが200cm。
  そして、揺れはなんと8分間も続き、そのうち3分間は阪神大震災の120cmを上回る揺れが続くであろうというものです。

 揺れが8分も続くというのは、山手線の駅3つを通過するくらいの長い時間です。
  書棚や机、机の上のコンピューター、椅子などは大きく移動し続けます。
  人々は避難口や階段へ殺到します。
  1分間でも長く感じるのに、8分間も続いたのでは神経が参ってしまうはずです。建築物は安全であっても、パニックになることが十分に想定されます。

 そして、万が一の手抜きがあった場合は、ニューヨークの国際センタービルのように崩壊するだろうとのこと。
  地震は建物を10cmくらいの高さから叩き付けるほどのエネルギー。もし、途中の一階が潰れたとなると地震の40倍のエネルギーが発生します。想定しただけで恐ろしい数値。

 ともかく、この本は長周期地震波というものの存在を教えてくれました。低層住宅しかやっていない私達にも、非常に考えさせられる内容を持っています。