久しぶりに人間工学という言葉に触れました。 「椅子と日本人のからだ」(矢田部英正著、晶文社)という本を読んだからです。 昔、家具関係の業界にも少し関わりがあったので、千葉工大の小原二郎先生から「人間工学」に基づく疲れない椅子について何回かお話を聞く機会がありました。 当時、建築業界でも、人間工学がもてはやされていました。人間工学こそが人間に快適を与えるキーポイントであるかのように語られていた時代。 あれだけ人間工学が叫ばれたのだから、現在市販されている家具は、当然そういった科学の裏付けによって作られていると考えてしまいます。 ところが、新築されたお客様の家へゆくと、薦められる椅子は必ずしも座り心地が良くありません。いろいろメモをする関係もあるので、主としてソファーよりもダイニングの椅子で話を聞くことにしています。 その方が疲れないからです。 しっかりしたインテリアコーデネィターがアレンジした場合は、座り心地まで考えて家具が選ばれています。しかし、お客さんが椅子を選ぶ場合は、圧倒的にデザインで選ばれている場合が多いのです。 二番目が価格。 三番目が座り心地。 4番目が色。 お客さんからどんな椅子を買ったらいいでしょうかと相談を受けることがあります。 その場合は、まず座り心地が最優先。 これはという椅子があったら、最低30分、世間話をしながら座ってみてください。 それを、2つか3つ試せば、自分にフィットする椅子がどれだか分かります。 その次に色とデザインを考えて下さい、と。 本当かどうか確かめたわけではありませんが、欧米では椅子を買う場合は最低一時間座って確かめてから買っているというふうに聞いています。座るということにそれほど神経を使っているということです。 ところが、日本ではついデザイン優先で、フカフカなものや体に合わない椅子をつい買ってしまうということになります。家具屋さんはそれほど人間工学のことを考えていてくれていません。 車の椅子は、昔に比べて非常に疲れなくなりました。 リクライニングをはじめとして、いろんな角度に変えられるので、同一の姿勢が強要されません。自由な姿勢を選べるというのが、疲れない椅子のポイント。 それとフランスのヴィラージュスタイルといって、丸く腰に沿って15cmほどクッション状に高くなっているものが著者は良いといっています。 人間の腰は丸い。 その丸さ追随してくれるものがいいというわけ。 また、日本人の「座る」の基本は、座禅にあるといいます。 耳と肩の位置をまっすぐに揃える。 鼻とヘソをまっすぐつなぐ。 そして、肩の力を抜く。 頭が背骨の上に乗っている。 呼吸が下腹まではいっている。 鳩尾が緩んで懐がゆったりしていること。 腰の回りが安定していること。 「上虚下実」というのだそうです。 この姿勢が一番疲れない姿勢とか。 つまり、本当に疲れない座り方を知らずして、椅子などを作ってはならないということ。 そして、日本の帯は、椅子の背もたれの機能を果たしてくれていたといいます。 きちんとした疲れない姿勢を整えるための「座具」であり、活動姿勢の「保持具」だったと言います。 日本人の80%が腰痛ないしは肩こりだといいます。 その原因のほとんどが、座っている時の姿勢の悪さに原因があるというのです。 骨盤の前傾が直立姿勢と同じ形に保つこと。 背筋を伸ばしているのに対して、後ろにもたれたり、猫背になると椎間盤の圧力が大きくなります。背骨への負担が大きくなるということです。 ギリシャの思想は、座っているのは奴隷。 主人は立っているものだったそうです。したがって、彫刻は全て立像です。 最近の子供は、すぐ座りたがる。 座っている時間が長いほど子供の健康によくないというイギリスの研究もあります。 また著者は、ドイツ人は一人残らず背中の筋肉が凝り固まって、こわばって凝血しているそうです。日本の腰痛や肩こり以上の国民病だと書いています。 私どもは家を売っています。快適な空調換気の空間作りに命をかけています。温度のバリアフリーをなくし、全館暖房で寒くて縮まって猫背にならないようにと考えています。 しかし、椅子のことまで考えておれないので、腰痛とか肩こりのことまで手がまわりません。 インテリアコーデネィター諸姉の頑張りに期待したいと思います。 |