千切れたホールダン、折れた柱脚金物  新潟中越地震(5)


  豪雪地の中越では、2メートルを超える雪対策として布基礎を高くする高床式か屋根面にパイプを配し温水または地下水を循環させる融雪方式のいずれかが採用されています。
 そして、ランニングコストを考えて、高床式の方がまだまだ多いようです。

 この高床は、20cm程度の厚みを持っていて、今度の震度6以上の地域でも、決定的な被害を受けているものをほとんど見かけません。
 ただし、一階が地下車庫として使われているために、広い開口部の上端部分や隅部に若干の亀裂が見られるものがありました。しかし、総体的にみて高床が抱かせていた危険度に対して非常に安全であったと言えます。

 それと、ベタ基礎の普及で、最近建てられた建築物では基礎が問題を起こしている例は、これまた僅少だったように感じられました。ベタ基礎は最低条件になってきています。

 こうした中で、川口町の渡部建築の基礎工事には驚かされました。単なる高床ではなく、二階の床をコンクリートの床スラブとしています。つまり、完全な地下室造りと変わりません。
  そして、基礎の下にマツ杭を打ち込んでいます。坪当たり2本弱という程度に。

 このため、案内していただいた5棟のSWの高床住宅は、震度7という激震地にありながら毛細ほどの亀裂さえ発見することが出来ませんでした。あまりにも綺麗なので思わず驚きの声が出てきました。
「ここまできちんとやっている地場ビルダーがいる!!」
 なんと嬉しい発見でしょう。
 地盤の弱さをあらかじめ予見して、信じられない工事を施主のために行っていたのです。

 極め付けは関邸というセイガイ造り。
 古くなった120坪のセイガイを建て替え、63坪のセイガイとしました。切り土の上に135Φのマツ杭を60本打ち込み、暗渠工事まで行っています。
 セイガイ造りというのは、雪国でありながら軒の出とケラバの出が大きい、この地方独特の民家建築です。軒の出がなんと5尺7寸、ケラバの出が4尺5寸もあります。これだと落ちた雪は直接建物に当たりません。

 これだけ軒とケラバを出すために大きな持送りの梁を何本も使います。そして5寸の柱を使い、大きな貫を何本も入れます。 そして、耐震性を持たせるためにSWの断熱耐震パネルを柱間に入れています。しかも壁倍率5倍の強力なパネルを四隅に採用しています。内部の壁には6cmX12cmの筋違いがタスキに入れられています。ここまでやるのかというほどの重装備。

  このため、家の中の家具などの倒れが驚くほど少ない。
 一階のコンクリートの貯蔵棚で倒れたのは小さな棚が一つだけ。いろんな農具、道具、肥料や作物は棚から落下していません。烈震地から少し離れているので震度7ではなく震度6強であったと仮定します。しかし、一階の道具や物の崩れは震度5弱でしかありません。なんと三段階から四段階も差があります。
 また、二階の家具や物の倒れは、これまた震度5強でしかありません。これまた二段階から三段階も低い揺れしか受けていません。信じられないけど、事実なのです。

 奥さんは「私の家の被害はこれだけです」とスーパーの買い物カゴ2つ分の大きさの箱を見せてくれました。その中には若干の割れた食器類、植木鉢類と落ちたサッシ一枚が入っているだけでした。  信じられますか?!?!

 先週、武道窪で古いセイガイの倒壊現場を初めて見たと書きました。あまりにも本格的だったのでつい古いと錯覚しましたが、実は築数年の尾久杉を使った高額の新築物件だと教えていただきました。数千万円以上の物件が、耐震補強が不十分なために1/10ラジアンの倒壊となったのです。
 あまりにも対照的なセイガイ建築。
 施主の嘆きは……。そしてビルダーの社会的な生命は……。

 この渡部建築が建てた田麦山という烈震地帯の集落の桜井邸の現場で、想像出来ないことが起こっていました。
 二階の床スラブを持った一階の高床は、何一つ問題がありません。あまりの綺麗さに、ここでもど肝を抜かされました。
「私は、ここまでやってきただろうか?」

 それなのに、二階で事件が起こっていました。
 コンクリートの床スラブを3尺だけオーバーハングさせ、バルコニーとしています。そして、バルコニーに雪が積もらないようにと下屋をかけ、二本の柱で支えました。柱の脚もとには木材技術センターの定める太い柱脚金物を使用しています。

 その二本の柱脚金物が、最初の直下型の震度7の時か、あるいはその後の震度6の時かはわからないけど、折れてしまいました。その下屋の不自然な動きにつられて、外階段室の外側の壁を留めていたホールダン金物が千切れてしまったのです。

 いや、最初にホールダン金物が千切れて、その影響で柱脚金物が損傷したのかもしれません。

 阪神大震災の時は、シートベルトをしていなかった細い柱の木造が揺れで片側の土台から柱が浮き上がり、落ちた瞬間に通し柱が折れて5000人という人が瞬時にして潰されるという悲劇が起きました。

 このため、土台と柱が浮き上がらないようにと、ホールダン金物の使用が一般化してきました。ホールダンというシートベルトさえやっておけば、倒壊することはありえない。
 そんな神話を、私だけでなくほとんどの人が信じて疑わないはずです。

 その木材技術センター認定のホールダン金物が、ネジが外れたのでも引き寄せ金物が剥がれたのではなく、太いアンカーが千切れてしまったのです。
 そして、下屋を支えるだけの荷重の少ない柱脚金物が折れてしまったのです。

 これは、認定金物そのものに問題があったのか、あるいは直下型の震度7という烈震は、想像以上の力を建築物に与えるということなのか。
 その真偽は私には分かりませんが、ひどいショックを受けたことは間違いありません。

 それだけではありません。
 この住宅の一階のコンクリートの中では、給湯用の大型タンクがひっくりかえっていました。
 タンクを支える4本の金物は、コンクリートの中にしっかり固定しています。しかし、その金物と給湯器をつなぐ座金が捻れて抜け、大きな給湯器はだらしなく倒れ、多くの配管を押し潰していました。

 これも金具の破損です。
 給湯器メーカーは、震度7という直下型を想定していなかったのでしょうか。
 まさか、そんなことはないと思います。
 とすれば、直下型の震度7という烈震は、想像以上の力を持っているということなのでしょうか。
 あるいは、この烈震地は震度7以上のものだったということなのでしょうか。

 ともかく、建築屋の手に負えない事実が次々に出てきます。