予定をオーバーして三ヶ月に亘って新潟中越地震に触れてきました。このため面白い本に出会いましたが紹介するチャンスがありませんでした。 いの一番に紹介したいのが「水素の時代」(最首公司著、エネルギーフォーラム)です。 燃料電池とか自然エネルギーに関しての著作は無数といっていいほど出版されています。これらの本を読むとその意義とかシステムなど基本的な概要は分かります。 しかし、どれほど実用性があるのか、価格的にいつ頃から使えるようになるのか、開発現場ではどんなことが問題になっているのか、といった総合的な情報が得られません。 つまり、科学者や技術者が書いたものは理論的は分かっても、具体的な現場取材が伴っておらず、このため活きた情報不足で単なる入門書が多い。したがって面白くない。脈拍とか呼吸が感じられません。 これに対して著者の最首氏は東京新聞の記者出身。現在はいくつかのエネルギーNPO法人などに理事として関与していて、記者時代のフットワークの良さを生かして多面的な取材を行って書き上げています。このため内容が具体的で分かり易く、その実態がヒシヒシと迫ってきます。 著書は最初にいくつかの「特区」の現状と計画を取り上げています。 ・ 環境・エネルギー産業創造特区(03年5月)の八戸市。太陽、風力、バイオマス、廃棄エネ発電など。 ・ 洋上風力発電で先鞭を切り、有機酪農・有機農業特区(04年3月)の北海道瀬棚町。 ・木材のバイオマス発電や太陽光、風力発電(04年)の上越市 ・ 燃料電池特区(04年)の三重県 いずれも特区として緒についたばかりであり、その意気込みは伺えますが、評価を下す段階ではありません。 著者はエネルギーの制約が人口の増加を抑制してきたと書いています。 紀元〇年の世界の人口は2.5億人。 これが5億人に倍増するのに1600年もかかっています。 この時のエネルギーはもっぱら木炭。都市が周囲の森を伐採し、砂漠化させて亡滅。この時代は、木炭が入手が困難になると都市人口が自動的に抑制されました。 そして、この5億人が10億人になったのは1830年。たった230年しかかかっていない。石炭が使われだし、木炭と併用されるようになったため人口が増えました。 10億人が20億人になるのには100年しかかからなかった。石炭を燃料に蒸気機関が開発され、膨大なエネルギーの可能性を開いたので1930年には倍増。 そして石油の発掘で、わずか50年後の1980年には人口が40億人に倍増しました。 2000年までは石油、天然ガス、原子力の時代。豊富なエネルギーを背景に20年間で人口が20億人も増えて60億人に。 今、人口の爆発と経済の急成長で注目されている中国、インド、ロシア、ブラジル。これらの人口大国が成長するには化石燃料では賄いきれません。そこで21世紀は水素、原子力、自然エネルギーの時代と言われているのです。 木炭の時代は燃料を個人が手当しました。 石炭の時代は企業でないと手当ができませんでした。 石油の時代はグローバル企業でないと開発できません。 そして、水素、原子力となるとこれは企業の手に負えません。国家事業になっています。ただ自然エネルギーだけは、地場の企業やグループにエントリーのチャンスが残されています。 NEDO(産業技術総合開発機構) という独立行政法人があります。2003年に衣替えをしましたが、電気料金の中に技術開発のための特別料金が税金のように含まれており、それを原資にライフサイエンス、ナノテクノロジーなどの研究開発、あるいは省エネ技術の普及に励んでいる組織。 住宅業界では太陽光発電とかエコキュートなどの補助金でお馴染み。このほか風力発電、バイオ発電などの普及のために補助金を提供しています。 その事業規模は約2500億円。 これとは別に水素、燃料電池開発関係では日本はアメリカやヨーロッパに負けないだけの国家予算を組んでいます。日本は太陽光発電と燃料電池では世界の最先進国。 燃料電池は、カナダのバラード社が開発したPEFC(固体高分子型)が自動車用としてうまくゆくだろうということで一躍脚光を浴びました。 しかし、(1) 震動に弱い (2) 寒冷地での作動が思わしくないということが分かってきて、トヨタのハイブリッド車などが先行しています。 また、PEFCは触媒に金より4倍も高価な貴金属のプラチナを使う必要があり、価格的に大問題。プラチナに変わるセラミックなどの開発が東ガスなどで進められています。 いずれにしてもPEFCは燃料電池車(FC車)と家庭用燃料電池(FC)の本命。しかし原料として都市ガス、LPG、ナフサ、高圧水素、液体水素、メタノール、灯油、脱硫ガソリンなどが上げられており、いまのところ決定打は見あたらないとのこと。 そして、自動車の場合も燃料電池と水素エンジンの開発が同時に進められています。 ・ FCのハイブリッド車 → 完全FC車 ・ FCプラス水素 → 水素エンジン車 BMWとマツダは水素エンジンを狙っているとのこと。ただ、燃焼時に高熱を排出するのが欠点。 政府はFC車を2010年には5万台、2020年には50万台の導入を図ろうとしています。そして水素の価格は東ガスの目標だと初期は100円/m3、実用化70円、2020年45円を目指しているとか。一日300キロ走っても1600円程度の計算で、ガソリンに比べて安くなるはずとのこと。 一方、経済産業省は定置用の燃料電池の需要を次のように見込んでいます。 ・ 導入期(2005〜2010年) 1KWの家庭用、数KWの業務用FCで総発電量210KW(大型原発2基分) ・ 普及期(2010〜2020年) 総発電量1000万KW ・ 実用期(2020〜2030年) 高温型FCが現出。コンバインドサイクルが実用化。総発電量1250万KW(大型原発10基分) 家庭用燃料電池のマーケットへは松下、三洋、荏原バラード、東芝、菱重、菱マテリアル、京セラ、関西ガ・東ガスなどのガス業者、電力業者、新日本石油などの石油会社など多数がエントリーしています。 ネットフォーラムでT.Iさんは今年の二月から始まる東ガスの燃料電池のリース代は100万円一括先払いで、3年間のガス代の上限は月9600円だと書き込んでいます。しかし、機械の実費は1000万円とか。 アメリカでは目標価格は3000ドル(33万円)/KWとか。 しかし著者は、燃料電池開発は補助金とか委託研究費でなんとかやっと回っているのが現状。先行するであろう携帯電話用やノート型パソコン需要などを除くと水素時代が「すぐそこにきているとは言えない」と断言しています。 そして、第4世代原子炉(高温ガス炉)で、一定のエリアごとに直接水素を造るシステムを構成してゆかないと、本当の普及はあり得ないのではないかと推測しています。 エネルギーはこれから「地産地消」の時代になるというのです。それには、1時間働けば1単位の対価が得らえる「地域通貨」が流通する時代にならねばならない。この地域通貨が最も普及しているのがスウェーデンとのこと。 紙面が限られているのでエネルギーの「地産地消」と「地域通貨」を詳細に伝えられませんが、考えさせられる提案です。 |