■商売人の住宅、もの造りの住宅……カイゼンと外注(5)

 もの造りというと、当然のこととして誰しもが「工場」を連想する。
  そして「モノつくり」となると、「カンバン」に集約されるトヨタの生産方式を抜きにしては語れない。

 大野耐一氏が著した「トヨタ生産方式」がダイヤモンド社から出版されたのが今から27年前の1978年。
 会社の最高機密であるコストダウンと品質管理のノウハウを堂々と公開するということは、通常では考えられない。それをあえて公開したのは、ノウハウをオープンにしても他社は簡単に追従してくることが出来ず、他社が追いついた時にはさらに先に行っておれるという絶対的な自信があってのこと。

 そして、こともあろうに1992年に当時社長であった豊田章一郎現名誉会長は、トヨタの生産システムの公開とその普及を目的に、アメリカ・オハイオ州シンシナティ空港の近くにTSSC社(大庭元GM、所員22人)を設立してしまった。
 これが「三河の田舎者に過ぎなかったトヨタ自動車を世界のトヨタに飛躍させ、注目と尊敬を集める契機になった」と言われている。いわゆるジャパン・バッシングが、このノウハウの公開を機に収斂した。

  「ジャスト・イン・タイム」という余分な在庫を持たない、作らせないというコンセプトをそもそも最初に唱え出したのは創業者である豊田喜一郎氏。今から69年も前に刈谷の工場にこのスローガンを貼り出していたという。
 しかし、このコンセプトを完全に軌道に乗せたのは伝説の人大野耐一氏。

  フォード社に代表されるアメリカの少品種大量生産方式は日本のニーズにマッチしない。日本ではどうしても多品種少量生産方式を確立しなければ生きてゆけない。
 アメリカの真似ばかりしていてはダメ。
 自分たちで考え、独創的な方式を開発するしかない。現場を見て考えに考え抜いた。それがいわゆるカンバン方式。これがトヨタの工場を一変させた。

  在庫は罪悪であるとしたジャスト・イン・タイムによる在庫ゼロ運動。不良品をつくることはそれこそ最大の罪悪であるとして大胆に生産ライン全体をストップすることを奨励する。「なぜ」を五回自問自答することによって物事の因果関係とその裏にひそむ本当の原因を暴き出し、徹底的なカイゼンを図ってゆく、等々。
 生産の現場から発想し、現場の全ての叡智を継続的に結集してゆくという世界に冠たる生産システム。

 トステムやダイキンをはじめとして、日本の住宅建材、設備メーカーの名だたるほとんどの企業は直接、間接に大野耐一氏とお弟子さんからトヨタ生産方式を学んできている。

  ところが、住宅メーカーや建築会社、ましてビルダーはトヨタから学ぼうという発想がなかった。

 今から30年前に、トヨタが住宅にエントリーした時に、多分全建総連あたりが提唱したのだと思う。
 「トヨタは我々の敵だ。だから住宅関係者はトヨタの車に乗ってはならない!!」
  そんな不文律が業界を支配していた。
  したがって私もこの30年来、レンタカーを除いてトヨタ車に乗る機会がなかった。会社で用意する車はほとんどが日産かホンダに限られていた。
  そして、トヨタの生産方式を徹底的に勉強するということは誰もやってこなかった。

 昨年の春、たまたまトヨタホームの春日井工場を視察し、生産ラインの責任者や担当者から直接話を聞く、願ってもない機会が得られた。

 ご存じのようにトヨタ自動車の住宅事業部を独立させた資本金30億円のトヨタホームが、昨年一月から本格的に活動を開始している。
 しかし、トヨタホームへ移行したのは営業部門、都市開発部門、施工部門の3部門と新設されたマーケティング部門だけ。
住宅会社の中心的な機能である住宅企画部、商品開発部、生産部門は今までどおりトヨタ自動車に残されたまま。

  これでは、独立したというのは見かけだけであって、乳離れしていないと言われても仕方があるまい。
  けれども、生産ラインの話を聞いて、一気に全部を新会社へ移行出来なかった理由が納得出来た。

 トヨタの工場の実態は聞きにし勝るものがあった。
 毎年、10%のコスト削減が至上命令として課される。
 それを当然のこととし、鼻歌まじりでこなしている。そして、トヨタの工場に勤めている限り、このコスト削減運動はエンドレスに続く。どこまでも…。どこどこまでも…。
  建築現場で、5%のコスト削減にさえ命がけの思いをしてきた者にとっては信じられない別世界。

 建築現場のコスト削減は、一口に言って発注単価の一方的な切り下げ。つまり下請け泣かせ。理詰めのコスト削減計画など皆無。したがって、コスト削減はそのまま品質の低下に繋がるおそれが高い。
 「やっちゃおれない」と逃げ出す業者を、なだめたりすかしたり、取っ替えひっ替えして使っているだけ。能率の向上を図るという発想そのものがない。
  いわゆる厚顔商人が考えるコストダウン。

 これに対して、トヨタの工場で見たものは「能率向上運動」
 
  トヨタ自動車には大野耐一イズムを伝承する生産調査部がある。ここがTPS(Toyota Production System)の総元締め。全社員の教育、指導だけでなく仕入れ先まで目を光らせている。仕入れ先で「生調が来る」と分かると縮み上がるとか。

 ここで上級、中級、初級の研修コースが実施されている。 
  5, 6人でチームを組み、与えられるテーマーは「実際に動いている工場の一工程を分析して一人の人間を省け」というもの。シミュレーションやバーチャルリアリティではない。実際の現場で、ストップウオッチで作業の動線、情報と部品の流れを測定、分析し、議論に議論を重ねて仮説のカイゼン計画を立てる。そして、職制を呼んできて作業者と一緒に設備を動かし、新しいやり方で実際に作業をやってもらう。
  実践の中で走りながら考える。失敗は怖れない。変えないことが一番悪いことということを実体験で学ぶ。机上の空論は絶対に許さない。

  トヨタの工場にはこうしたTPSの実地研修終了者がゴロゴロしている。そして、彼等が中心になって自主研究会を組織している。テーマーを決め、3ヶ月と時間を区切ってプロジェクトを組織してカイゼン策を考える。結果は直ぐ出る。同時期に2工程でプロジェクトが進む。これが3回転させると年に6工程で成果が上がり、10%のコスト削減が達成されてゆく。
 「人間の知恵には限界がない」ことがよく分かる。

 しかし、住宅の場合は受注の波が大きすぎる。そこで、暇な時には自動車工場で働き、忙しい時は自動車のラインから応援を頼む。トヨタホームに限らず、住宅会社の生産性の最大のネックは需要の不均一さにある。
  受注のデコボコを直すことさえ出来れば、簡単に生産性が上げられる。だが、どの住宅メーカーもビルダーも、アウトソーシングという美名のもとに下請けに一切のしわ寄せを行なって、それでことが済んだと考えている。

 トヨタホームが生産部門まで新会社へ移行出来なかったのは、まだまだ本当の受注力がついていないからである。