商売人の住宅、もの造りの住宅……感動する顧客を選ぶ(8)


  東京・小金井市のアパートに住むIさん。
 住宅関連の会社に勤めていて、建築現場を見て回る機会が多かった。
 北海道支店勤務が長く、各社の高気密高断熱住宅をつぶさに見て、そのレベルと実態をかなり正確に把握していた。

  東京への転勤が決まったのが3年半前。小平市の親の敷地に隣接して新居を建てる計画がまとまり、若さにまかせて毎週夫妻で高気密高断熱住宅を片っ端から見てまわった。
 単にモデルハウスや完成住宅の精度、入居者の体験談を聞くだけでなく、建築現場を細かく見て回った。北海道時代の経験で、現場にこそ真実が潜んでいると確信していたから…。

 その結果、ダントツに優れていて、ぞっこん惚れこんだのがマイスターハウス。
 「いきなりお邪魔したのに、現場を回るついでがあるからと社長が気軽に案内してくれたのです。そして、説明が適切で、言葉のはしはしに強いポリシーが感じられました」と若主人。
 「何の予告もなく訪れた現場が、どれもこれも整然としていてびっくりしました。現場の隅々にまで血が通っているという感じ。参ったと思いました」と若奥さん。  

 一方、案内した山口社長には遠方からの訪問者を顧客にしようという気は毛ほどもなかった。
 「折角熱心に群馬まで足を運んできたのだから、高気密住宅の正しい理解者になってくれるように、案内だけはきちんとしてあげよう」という程度の軽いノリ。  

 その若夫婦が、それから完成現場見学会がある毎に群馬までやってくる。
 最初は「もの好きもいる者だ」と見ていたが、一年以上も続けて都度群馬までこられると、社長は本音で困ってきた。
 わざわざ高速道路料金を払って、片道2時間半もかけて東京にまで仕事に出かけるメリットはない。社員や職人に無理を強いるわけにはゆかない。そうでなくても、近くのお客さんに待ってもらっている。  

 高速道路が混む土曜日に、わざわざ群馬まで訪ねてきているのに「見込みがないから帰ってくれ」というわけにもゆかない。といって甘い顔をして期待されても困る。文字通り目のやり場に困るという状態。  

 Iさんから私に相談があった。
 希望や条件を聞いてみた。
 希望のプランや仕様、予算などから考えて、正直に言って遠距離のマイスターハウスに依頼するのは無理だと思った。とりあえず二人の考えをプランにまとめ、それを実現するにはどれほどの予算が必要かを試算した。
 そうした作業を通じて、いさぎよく諦めて次善の策をとるように提案した。しかし、若い二人は諦めなかった。

 「これからずーっとローンを払ってゆくのです。そのローンを払う度に、あの時頑張っておればという苦い思いをしたくない。出来るだけのことはやってみます」と。  

 それからも若い二人の群馬詣でが続いた。
 二年近くになって、さすがに山口社長が折れた。心意気に打たれたということ。若い二人のねばり勝ち。
 「ご存知のとおり、うちはそれなりの職人を揃えています。また遠隔地なので安売りは出来ません。お互いに納得のゆくものが可能かどうか、ともかく詰めてみましょう」

 かくて紆余曲折はあったが、昨年末から工事が始まった。

 最初に両親が「なぜ群馬なのか」と強い疑問を投げかけた。
 そして、近隣も聞いたこともない群馬の業者のカンバンに呆れた。そして、嫌が応でも注目が集まった。  

 解体工事はそれほど注目を集めなかった。
 サッシや石膏ボードなど、きちんとした分別回収を見抜けるほどの目は持っていない。  

 しかし、基礎工事に入ったら、近隣で行われていたどの建替え現場よりも優れている。だが、生コンは近くの業者に頼んだようで、生コン車はタイヤについた敷地の中の泥を、道路のアスファルトにつけて走り去った。  

 困ったことだと見ていると、基礎屋の親方が竹箒でその泥を掃きはじめた。黙って生コン屋の尻ぬぐいをしている。それが話題になった。
 「ちょっと今までの業者とは違うね」  

 配管工事が始まると、そのきちんとした仕事ぶりと精度に、まず父親が驚いた。排水管は下水、雨水を問わずきちんと水平と垂直がとられている。仕事ぶりが実に丁寧。ここまで念入りにやっているのは見たことがない。
  若奥さんがおめでたでしょっちゅう現場へくることが出来ない。そのため息子に頼まれて写真を撮っているのだが、思わず見とれて嬉しくなってくる。
 「あの子がこだわった理由がなんとなくわかってきますね。それにしてもあの一徹さは、誰に似たのでしょうね」と側で奥さんがささやいた。
  近隣の人も足を止めて見ている。  

 いよいよ建て方工事。
 土台は9cmX14cmのヒバの集成材。
 大引きを受ける鋼製束。コンクリートが堅いので、きちんと接着剤を用い、懸命にコンクリートクギを打ち込んでいるが、なかなかささらない。コンクリートの丈夫さが身体に伝わってくる。
 「コンクリートとは、ここまで堅いものだったのか」
 父親は思わずつぶやいた。  

 クレーン車が入ってフレーミングの開始。
 近隣で、建て方の途中でパネルが倒れたことがあるので、ほとんどが心配顔。しかし、てきぱきした仕事振りと段取りに30分もたたないうちに安堵の表情が蘇ってきた。
  なにしろ14cmという壁の厚さが迫力もの。

 「壁に使っている材木は一番堅いダグラスファーというんだそうだ。根太や梁がめりこんだりしないように、特別に堅い木を使っているのだ」と息子から聞いた話を父親は母親に受け売りしている。
 「それにしても、びっちりとクギを打っていますね。やたら頑丈そうですね。地震で万が一の時は、この家に逃げ込めば間違いないですね」と母親。  

 そして、銅のメッシュでシロアリが壁に上がらないようにガードしている工事を見て、近所の人が声を上げた。
 「今時は、こんなことまでやるのかね!」  

 若主人は、会社勤めで現場へ来るのはいつも夜中。懐中電灯で照らして見る現場は、想像以上のもので感動させられる。そしてその感動は、ボードの下地工事、ボード工事、造作工事、タイルやクロスなどの仕上げ工事を通じて段々に高まってきている。階段が出来てから若奥さんも一緒に二階にまで上がって感動を共有している。
  この感動の輪は親戚、友人、近隣を通じて拡がり続けている。  

 もの造りのビルダーの謙虚さとひたむきな好奇心は顧客の感動を呼ぶ。
  別の言葉で言えば、ビルダーの謙虚さと好奇心に気が付き、感動しない人は顧客にはなれないしならない。
  もの造りのビルダーは感動を共有出来ない人を顧客に選んではならない。  

 感動を共有出来る顧客を求めて、ビルダーのトップは本音の情報を発信し続けなければならない。
(とりあえず完)