■化学物質過敏症の死の淵から帰還できた家

  久しぶりに面白い本に巡り会えました。
 外丸裕著「健康な家に住みたいな!」(PHP研究所刊)がそれ。

 群馬県に住んでいる著者は、ツーバィフォーの大手メーカーに支払った50万円の契約金を潔く捨て、FPの家の施工店槻岡建設と契約、1998年秋に高気密高断熱住宅に入居。延べ6年間の体験を書き下ろしたもの。
 よくある素人の「住まい造り体験記」

 FPの家に関しては、かなりの本が出版されています。
同じように素人の住まい造り体験記から出発し、高気密住宅の評論家に転身して多くの出版を重ねている足立博氏。
 それと、地場ビルダーの輝かしい成功者としてすでに数冊の出版を重ねている近代ホームの松本祐氏。
 つまりFPの家に関しては、この両氏によって全てが語り尽くされています。新しいイノベーションが見当たらず松本祐氏の本も、次第に鼻についてきているのが現実。

 したがって、この本が最初からFPの家の体験記だと分かっていたら、多分私は読まなかったでしょう。「平凡な題名だが、騙されたと思って読んでみるか」と何気なく読み始めたら、途中からグイグイ引き込まれました。

  著者一家は奥さんの実家の築50年という古いスカスカの木造住宅に住んでいました。
10年前頃から奥さんが体調不調を訴えるようになってきたのです。肩が凝る。腰が痛い。

 そして、極度の冷え性で、寝る時でさえ靴下を三枚も重ねて穿いている。ついには、歩くこともままならず、家の中を這って動いていた。
 それどころか、口をあけることも困難になり、よく喋れず、食べられるものは柔らかいお粥か豆腐程度。

 接骨院や整体に通い、鍼治療も受けたが効果はなく、総合病院から「自律神経失調症」という病名が付けられ、神経内科で精神安定剤や睡眠剤の処方を受けていた。「不摂生するから自律神経失調症になるのだ」という、突き放した冷たい目で筆者も妻の両親も奥さんを見ていた。

  わざわざ50万円を捨てて高気密住宅を選んだのは、奥さんの病状を考えてのことではなかった。
 古い家ではダニとカビ、それとハウスダストの影響から二人の子供がアトピー性皮膚炎になるし、筆者も背中から尻、太股にかけて肌がかぶれてきた。そうしたダニ、カビの被害から逃れるためというのが動機のよう。

  奥さんの病名は自律神経失調症に過ぎないから、新築に際して特別仕様の材料を選んでいません。星3つくらいの合板フロアーで、予算の関係もあって無垢材は使っていません。また、壁は塗り壁でなく壁紙仕上げ。壁紙はドイツのRAL規格に準じてもらったが、化学物質に特別配慮したわけではない。

 それでも、新居に移って3ヶ月もたったら子供達のアトピーは治るし、筆者のかぶれも完治してきた。ただ、奥さんの病状だけは一向に改善されなかった。
 そうこうするうち、5年ほど前に腎機能に明らかな障害が出てきた。タンパク尿や血尿が出るようになり「慢性腎炎」と診断された。
 大病院の医師から「あと数年で人工透析。そうなれば余命も長くないでしょう」と宣言された。

  こと、ここにいたって筆者もことの重大さに気付き、なんとか助けたいと必死。そして、頭をよぎったのが奥さんの職場の環境。
 「もしかしてシックハウス症候群ではないだろうか」
 そこで、専門医の前橋市の青山美子先生をなんとか探し出し、診てもらったら「可哀想に。今まで辛かったでしょう…。化学物質過敏症です」との診断。

  化学物質過敏症と診断されて、初めて住宅の中だけでなく、公園やコンビニ、日曜大工店には危険な化学物質が溢れているということに筆者は奥さんの苦痛を通じて気がつきます。

 まず青山先生から注意されたのは、殺虫剤の使用を中止すること。
 蚊取り線香はだめ。とくにマット式やリキッド型は最悪。
さらに、衣類の防虫剤を全て捨てること。最近ではクロゼットを作るのが一般的だが衣装タンスはたいてい寝室に。ここに大量の防虫剤が使用されたり保管されたり。毒ガス室と変わらず、洩れてきて低いところに淀む。したがって畳に敷き布団を敷くのは最悪。
 次に、トイレなどに置いてある芳香剤や消臭剤は百害あって一利なし。だからすべてを棄却。

  また、アロマは気持ちをリラックスする効果があるというので筆者は凝っていた。奥さんの気分が悪くなるというので安物ではなく値段のはる100%植物抽出油の天然物を使っていた。しかし、これはシンナーを吸っているのと同じラリっている状態だと分かり捨てた。

  そして、外丸家では買う物の全てを奥さんがチェックするようにした。奥さんが臭いをかいでダメというものは絶対に買わないというルールが出来た。
 一時は新聞や本もダメだったという。とくに化学紙とインクがだめ。
 最近注意しているのが洗剤、石鹸、シャンプー類。
 洗剤や石鹸の中に含まれる界面活性剤がいけないらしい。といって「せっけん」であればよいかというとそうではない。無添加、無着色、無香料のものを何種類も買ってきて試し、だめなら捨てるを繰り返して絞り込んだ。

  面白いのは化学物質過敏症なのに猫を2匹も飼っていること。猫の毛はダニの餌になりアレルゲンの元と言われているが、家猫として毎日シャンプーしてやっていると全然問題がないという。その代わり猫も人間と同じ安全なシャンプーで洗う。そしたら猫の毛並みの艶がよくなってきた。
 そこで分かったことは、多くのシャンプーは髪の毛を傷めているだけのもの。とくにペット用のノミ取りシャンプーには殺虫剤が含まれている。使いすぎると可愛いペットを殺すことになりかねない代物。

  化学物質過敏症で新建材のことをとやかく言われているが、新建材は時間と共に揮発して少なくなってゆく。
 ところが、衣服は毎日新しい洗剤で洗われ、防虫剤の中に仕舞われる。そして、化粧品や整髪料を塗りたくり、消臭剤、蚊取り線香を焚き続ける。減るどころか増え続ける。どちらがより加害者か。とくにエアゾール殺虫剤は恐ろしい限り。

 そして、高気密高断熱住宅であるがために、家の中に小さな虫一匹入ってこない。一家全員が花粉症だが、家にいる限りは花粉症がやわらぐ。24時間機械換気は舞い上がったハウスダストと汚れた空気と臭いを排出してくれる。
 また、全館の温度と湿度の管理も出来る。このためダニも湧かない。
 これは何もFPに限った話ではない。高気密住宅そのものに共通するメリット。そのメリットを化学物質過敏症という難病を通じて実感出来るところが画期的。

  いろんな面白い挿話があるのだが紙数が尽きました。紹介したい内容の1/4も出来ません。しかし、ともかく奥さんは人工透析を免れ、徐々に健康を回復してきています。
 私だったら本の題名を「化学物質過敏症から帰還できた家」としました。そして、どこまでも奥さんを主人公に書いたら、感動は今より数倍も高くなり、ベストセラーになったでしょう。残念!!

  足立氏や松本氏を意識したために著者はリキんでいます。たしかに外断熱や次世代基準に対する意見は面白い。だが、そんな指摘は誰にでも出来ること。省略した方がピントがぼけずに済んだはず……
 リキんだ説教調がやや気になるが、どの高気密物語にもない価値ある斬新さを是非味わって下さい。感動保証付!!