| 今月は、多くの面白い本に巡り会うことが出来ました。 面白いということは、自分が知らない世界を教えてくれたり、自分の趣向や波長にぴったりだったり、意表をつく視点で新しい発見をさせてくれたり、好奇心を満足させてくれたり……。そうした全てが面白い。 しかし、面白いことが即、役に立つとは限りません。 また、役に立つということは自分の商売、つまり住宅や建築の実務や技術に関する本から得られるというものでもありません。 例えば、地震の被害状況を詳しく書いた金谷年展著「凶器になる家 ならない家」(日経BP刊) は丁寧に資料が整理されているのには感心しました。 しかし実践的に役立つ新しい視点が乏しく、また木構造の固有周期にメスを入れた理論展開もない。このため面白さが足りず、読後に何も残りません。 これに対して「農」にからむ2冊の本は面白いだけでなく元気を与えてくれました。 つまり、単に知識を与えてくれるだけのものはつまらない。 頭だけでなく、全身に力を与えてその気にさせてくれるものこそが、本当に役に立つ本です。 ・渡邉美樹著「新たなる挑戦」(ソフトバンクビジネス) ・青山浩子著「農が変える食ビジネス」(日本経済新聞) 渡邉美樹氏は、ご存知のとおり高杉良の小説「青年社長」の実存モデル。 小学生の時に父の倒産を目撃して「将来大きな会社の社長になる」と決意。大学を出て地獄よりも過酷といわれた佐川急便のセールスドライバーとして四時間の睡眠時間で頑張って事業資金を貯め、つぼ八などの居酒屋チェーンで実績を積み、「居食屋 和民」チェーンを起業、ワタミフードサービスを上場させたサクセスストーリーの主人公。 若きベンチャーとして注目を集めているのがお馴染みのソフトバンクの孫正義、楽天の三木谷浩史、ライブドアの堀江貴文、サイバーエージェントの藤田晋など。いずれもITという新分野での起業。 ITは最新の激烈な技術革新の最先端産業。 したがって、若きベンチャーはそれぞれに革命的なイノベーターだというふうに考えられています。たしかにそうした側面はありますが、過大評価のきらいも…。 というのは、彼等の快進撃をささえているのは創業して間もなく株式を公開し、幸運にもM&Aのための資金を調達出来、そのことにより成熟しようとする起業のM&Aを続け、さらなる資金調達力を蓄えてゆく…。 つまり、基本的にはマネーゲーム。 ビル・ゲイツの物真似。 イノベーションの炎に自らを焼くというのではなく、資金力でイノベーターを買い叩く。 目敏いマネーゲーマーにすぎないという側面が強くあります。 孫氏の立志伝物語はたしかに面白かった。今までにない視点で新規に事業を計画し実行するという点が…。 しかし、三木谷氏やホリエモンの本を読んでもさっぱり感動がありません。目的が事業ではなくてカネになっているからです。実業ではなく虚業ではないかと…。 もっともこれは、時代に取り残されがちな年寄りの「ひがめ」かもしれませんが…。 これに対して、渡邉美樹氏の行動とポリシーには心から惹かれます。その斬新で、革新的な言動には思わず拍手をしたくなります。 月の半分は朝4時起き。 好きな仕事をやっているのだから全然苦にならない。 そして「お店はお客様のためだけにある」というポリシーを全社員に徹底させています。 さらに、サービス業においては「人」が差別化の最大の要因になるとして、徹底した教育を行っています。 と同時に、安全な食を提供するために千葉の山武町・白浜町、北海道の瀬棚町・当麻町、群馬の倉淵村に畑70ha、水田70ha、ハウス2.5haの農場を持って有機野菜や有機牧畜に乗り出してきています。 和民チェーンでは34%が有機野菜になってきており、スーパーなどにも出荷。 単なる居酒屋チェーンではなく、有機野菜を作る農家のチェーン化を図ってきています。今までにみられない画期的な動きであり、これが日本の農革命に果たしている役割は非常に大きなものが…。 と同時に高価な生ゴミ粉砕乾燥機を設置し、生ゴミを100%回収して有機肥料として土に還元している。このメンテナンス清掃請負事業だけでも2020年には1000億円を見込んでいます。 このほか「学校は生徒のためだけにある」として郁文館学園の理事長として実績を上げているほか、「お年寄りのことだけを考える」高齢者賃貸マンションの建設を本格化してきています。入居一時金は350万円必要だが、毎月の食費と家賃は17万円と年金の範囲内でおさまる画期的なシステム。 高額所得層を対象にしている大手不動産業者には考えつかないメディカルサービスのチェーン発想であり、地域のビルダーにとっても非常に参考になります。 文章力はつたないところが目立ちますが、この若きベンチャーにはITのマネーゲーマー達が持っていないハートとロマンがあり、学べる点があまりにも多い。是非ともご一読をお奨め致します。 青山浩子さんは、農業における「生販協業」という新しい取組に焦点をあて、日本の農業の力強い動きを多面的にリポートしていて心強く、大きな勇気を与えてくれます。 全国の農家を取材して回っていると8割の人が「価格は下がる一方でもうダメだ」とか「価格競争に巻き込まれ全く利益が出ない」と嘆いているという。 しかし、その反面利益を出して元気に頑張っている人々が2割はいる。 地場のビルダーの状況と非常によく似ている。思わず「そうだ」と叫んでしまいました。 しからば、元気な人々はどこが違うか。 一番大きな点は消費者のニーズが変わってきていることをはっきりと把握している点。 量の時代は完全に終わり、消費者は安全で新鮮な「食」を求めてきている。単なる素材としての「農」を考えるのではなく、 「食」という切り口から「農」を見直してきている人々が元気なのだというのです。 そして、企業も農家も、取引する相手と対等な立場で直接交渉して、お互いに長期にわたって利益が出る方法を考え出してきていると書いています。 つまり、もっとも消費者に近いところで発想し、産直というパートナーシップをしっかり構成し、お互いに顔の見える産業に仕立て上げてきているということ。 その具体例が次々に紹介され息をつくひまもないほど。文字通り圧倒されます。 この2冊の本は農を語っていますが、地場ビルダーのことを語っているのではないかと錯覚されるほどの類似性が…。それでうれしくなったという次第。 |