| 田中淳夫著「だれが日本の森を殺すのか」の中に「なぜ私は地元の材を使わないか」という地場工務店の生々しいリポートが載っている。 それは、ある離島での「森について考える会」でのこと。著者もパネラーの一人として招かれていた。 その島は江戸時代から林業が盛んで人工林もかなりある。しかし、近年は木材が売れないから山が荒れてきている。 「もっと地元の木材を使っていただきたい」と森林所有者から当然の要望が出された。 これに対して客席にいた地場の工務店主がマイクを持つと「私はどんなに頼まれても地元の木材は使いません」と断言したという。 その理由は「いくら乾燥しろといってもしない。製材の寸法が狂っている。期日どおりに納品されたためしがない。これで使ってくれと言われても…」。 つまり、いまどき相手の立場も考えないで平気で自分の勝手で商売をしているのが山林所有者。 また、大阪で開かれた林業関係のシンポジウムで、会場の建築関係者から質問が出た。 「一般の商取引ではある程度まとめて計画発注すると仕入れ価格が下がるのが普通。ところが、国産材は大量に発注すると逆に単価が上がる。こんなまか不思議なことが平気で起こる。しかも注文どおりの量が納期に届かない。なぜなのですか!」 これに対して壇上の林業家が恥も反省もなく次のように答えていたという。 「木材は一本一本取引するので量が増えても手間が増えるだけでスケールメリットがない。ストックが少なく各地から取り寄せるとなるとコスト高になり期間もかかる。大量注文すると売り手市場になり値引き圧力がなくなる…。したがって、国産材はまとめて買おうとすると高くなります。これは絶対に直せません」と開き直っていたという。 ユーザーの要望に応じて、如何に自らが激しく変身してゆくかというのが、全ての産業界共通のテーマー。ところが国産材の林業家は顧客の要望に応じて自らを変革して行こうという考えがさらさらない。 そして、国産材が売れないのはもっぱら外材のせいだと責任を転嫁し、何とか国から補助金をかすめ取ろうと政治的で姑息な画策を弄する。その林業家の幇間として外材を罵る一部のジャーナリストや設計士達。 さて、ここで地場ビルダーの立場というものを考えていただきたい。 消費者の信頼が高く、卓越した技術力と経営力を持ち、自力のある優秀な注文住宅の地場ビルダーとは、一体どんなものであろうか…。 これは、どこまでも私の主観的な定義だが「それぞれの地場で、年間20棟から50棟の比較的高額物件の需要を、OB客の強力な口コミをもとにコンスタントに受注しているビルダー」ということになる。 それぞれがホームグランドとする地場の事情により、エリアの範囲が異なってくる。高速道路を使おうがどうしようが片道1時間で移動出来る範囲を地場ビルダーの「商圏」と考える。 その商圏内に人口が20万人しかいないところと100万人もいるところでは当然のことながら年間建築戸数が異なってくる。 人口過疎地では年間10棟足らずだが圧倒的なシェアを持つ地場ビルダーが現実に存在している。 しかし、一般的には最低で20棟。多いエリアでは50棟。そして高額の注文住宅では、一人の優れたビルダーで完全に現場と顧客の管理が出来る限界が経験的に50棟。 家業としてではなく、優れた地場産業としてこうしたビルダーが存在し続けてゆくには、絶えざる企業努力をつづけなければならない。 これに対して、地場の林業家や製材業者がこうしたビルダーの要望に応えられるだけの条件整備が本当に出来るか。また、どのようなアプローチがなされようとしているのか。 田中氏の著書の中では、東京の木で家を造る会、兵庫県加美町の立木販売システム、三重県海山町の速水林業などの取組が紹介されている。 東京の木で家を造る会は1996年に林業家、製材業、建築家、工務店などが横断的に集まり協同組合として発足したもの。 家をつくりたいという消費者に入会金2000円、年会費3000円を払って年6回開くセミナーに参加してもらい、顔の見える関係をつくってゆこうとしている。 毎年80人ほど入会し、そのうち建てるのが10人程度。この会で建てられる戸数は年間12〜15棟が限度と考えている。 兵庫県加美町の場合は、約150haにある地区有林3000本を5年間で販売しようというもの。2年間で9棟分の立木524本が売れたという。1棟当たり60本というところ。したがって、全部売れたにしても5年間で50棟分しかない。 つまり、現在行われている「地場の木を地場の大工さんの手で建てる」という運動の多くは、どこまでも零細工務店を前提にしたせいぜい年間10棟から15棟程度の限定地域需要を対象にした運動。その運動を決して否定はしない。頑張って欲しいと思う。しかし、大多数の都市消費者を相手にした産業には成長しない。零細な農家が、限られた消費者に有機野菜を届けようと言う運動に酷似している。 生活協同組合で取り上げたり、スーパーを巻き込んだり、あるいは大地の会、らでっしゅぼーやなどが育つという大きな動きではない。スローガンは美しく立派ではあるが、大多数の消費者のニーズに応える内容を持ってはいない。 日経新聞が日本を代表するこれからの林業家の代表として大きく取り上げた三重県海山町の速水林業。同社は日本で最初に国際森林管理協議会の認証を受け、環境に配慮した理想的な森林管理を行っている。そして、一般消費者の速水の山への見学希望が後を絶たない。 しかし、その速水林業ですら年間の出荷量は丸太で3000から3500立方メートル。 1棟の木材消費量を35立方メートルとするとやっと80棟から100棟程度の量にすぎない。すぐれた地場ビルダー2社で消費してしまう量。 スーパーでたとえるならば、全部の店に並べられる量ではなく、限られた地域の1〜2店舗のみの販売にやっと間に合う数量でしかない。 コンスタントな需要を確保している有力な地場ビルダー。 そのコンスタントな需要に、乾燥度・強度・精度が同一でムラのないランバーをコンスタントに届けることが出来るのか。地場の山林・製材業者がシステムとしてそうした機能を備えているのかどうかが問われている。 とくに問題になるのはジャスト・イン・タイムの納期。 「日本の木で家を建てよう」(春秋社)を書いたログウェル日本の菅野知之氏は国産材の流通を簡素化して小規模製材所をネット化しようとしたが壁にぶつかった。 「製材工場の生産性が低すぎる。欧米では秒単位でコンピューター制御された寸法、形状、強度のものが製材されている。ところが国の補助で導入された日本の製材機は分単位。しかも工場によって規格が違う。このためスケールメリットも安定供給も出せない。この互換性のなさと生産性の低さが国産材のコストを引き上げている」と嘆いている。 悲しいことだが、まさに正鵠。 |