■ハリケーン「カトリーナ」の耐風被害こそ

 
  先月の29日、アメリカ南部のミシシッピ州とルイジアナ州を襲ったハリケーン「カトリーナ」による住宅の水害は想像を絶しています。

  とくに、都市の80%が水没したというニューオーリンズは、完全に排水を終えて人々が生活出来るようになるまでには数十日を要すると言われています。
  信じられない被害。

 さて、今度のハリケーンでは「これはわれわれにとっては津波である」と叫ぶ人々の言葉から、その水害のすさまじさのみが強調されています。
  たしかに、メキシコ湾岸沿いに多くの家が高波にやられています。なにしろ最大8メートルの波が襲ったと学者が言っています。そして人口48万5000人のニューオーリンズの80%が一週間たっても未だに水没中ということですから、大水災害であることは間違いありません。

 私ども建築屋に「水害に強い家造りを考えろ」と言われると、直ぐに浮かんでくる手法が一階をコンクリートの高床にすること。
  豪雪地域の中越地方のような高床住宅にすれば、ほとんどの水害から身と財産を守る住宅が可能です。

  しかし、大都市では北側斜線制限や道路斜線制限があります。基礎の高さを今より2メートル高くすると、二階が大きく削られ、それこそ生活空間が大幅に削減されてしまいます。
 都市計画の変更で建蔽率や容積率の変更がない限りまともな間取りが出来ません。
  技術的には、水害に強い家は簡単に出来ます。
 しかし、経済的に、実際的に考えると、消費者の支持を得ることは容易ではありません。

  とは言え、地球の温暖化が叫ばれ、海水温の上昇から台風が頻発し、集中豪雨が重なってゆくということになると、コンクリートの高床住宅というのは、近い将来は必需品になるのかもしれません。

  200年間で気温が3〜4℃も上昇したという経験は、地球の45億年の歴史の中にありません。
 何があってもおかしくないという危険地域に人類は地球を突入させています。
 したがいまして、50年とか100年の長寿住宅を考えるなら、コンクリートの高床住宅こそが大本命ということなのかもしれません。

  水害に強い家造りの話はそれぐらいにして、台風に強い家造りを考えてみましょう。

  こんどのカトリーナは、上陸直前の勢力は、風速33メートル以上の暴風圏が半径170キロ。瞬間最大風速72メートル。そして中心気圧はなんと910ヘクトパスカル。
 日本に上陸した台風のヘクトパスカルは最低でも940程度。
 ともかく桁外れ。

  こうした強風だと、ハリケーンというよりはトルネードと言ってもいいくらい。台風にびくともしない丈夫なツーバィフォー住宅などの場合でも、竜巻には無傷というわけにはゆきません。
 アメリカで、トルネードで無惨に晒されたツーバィフォー住宅の姿を、報道写真で何度も見ています。

  そこで、私ども建築屋にとってもっとも関心のあるのは、今度のハリケーンで、風で全壊および半壊した住宅はどれくらいあり、人的な被害はどれだけあったかということ。
 はたして、耐風設計が、今のままでいいのかどうかということです。

  実は昨年秋、私はなんとしてでもアメリカ南部のハリケーン地域の木造住宅の建築現場を見学してきたいと計画をたてました。
 仲間の皆さんは忙しく、ヨーロッパのエコロジー住宅の研修なら参加する人はあっても、物騒なアメリカ南部の建築現場を旅して、ハリケーン対策を考えようという暇人はいません。

  そこで、カーナビ変わりに女房殿を連れて、アトランタからフロリダ、ニューオーリンズをレンタカーでぐるりと一周しようと考えました。アメリカの高速道路を走るには助手席にマップを見てくれるカーナビ係が居ないと不安。
 しかし、不案内の南部。あまり治安が良くなく、美味しいものも少ない中を、2人だけでドライブし、予約もなくモーターインに宿泊する価値というか魅力を女房殿に説明することが出来ません。
 このため、計画は頓挫。

  私がどうしても見たかったのは、アメリカ南部にも多くある吹き抜けのある大空間。
 ハリケーン地域で、どのようにして吹き抜け大空間を造っているのか。西部や北部のように、ツーバィシックスのバルーン構法でいいのか。
 バルーンを主体としたら、木材のセイはどれくらいが理想で、特殊金物をどう使用しているか。

  ご案内のように、アメリカは州によってビルデング・コードが異なります。耐風ということであれば、フロリダなどの南部が一番厳しいはず。それをつぶさに勉強してくれば、日本のパネルによるあやしげな吹き抜け構造の非をただすことが出来ます。

 分譲が主体のアメリカでは、どの都市へ行っても工事中の現場をすぐに発見出来ます。そして、いきなり「ハロー」と現場へ入っていっても誰もとがめません。
 そこには、最新の工夫を凝らした技術がオンパレード。
 一見は百聞にしかずと言いますが、アメリカの建築現場を30ヵ所ほど回ると、最新の技術情報を簡単に入手出来ます。

  単に大吹き抜け空間造りだけでなく、南部は高温多湿でシロアリ地域です。どのような防蟻対策をとっているか。ハワイと同じようにスチールハウスが多用されるようになっているかどうか。

  考えただけでもワクワクする話。でも、門外漢の女房殿にとっては魅力のかけらもありません。かくして説得力不在。

  この一週間、私は読売、日経、朝日、産経、毎日の各紙を読み漁りました。
 しかし、各紙ともとおり一遍の記事ばかり。
 つまり、記者が現地に入り、足で稼いだ記事が皆無に近いということです。
 まして、建築のことが分かる者が一人もおりません。
 このため、耐風の被害に関する貴重な情報がさっぱり入手出来ません。米軍のヘリに同乗して取材したNHKのニュースでは、風で破損した多くの住宅が写しだされていました。

  サンフランシスコ地震とかロス地震の時は、建設省の役人とか学会の先生方も調査に行っています。ところが、910ヘクトパスカルという中心気圧に対して、日本の建築家は強い反応を見せていません。

  どなたか、万難を排してカトリーナの強風の被害の実態調査に出かけようという人はいないのでしょうか。これは、大変な勉強になるはず。

  そして、誘われれば私は喜んで参加します。