9月中旬に北海道のカラマツ集成材の“道材の家”を見て「その設計にがっかりした」と書きました。 そしたら「ビルダーの断熱・気密工事のどこかが悪かったのですか?」との質問を受けました。 私はビルダーの仕事ぶりについて触れたのではありません。ただ、羽子板ボルトとスジカイを中心としたいわゆる「在来軸組」と呼ばれる道材の軸組にがっかりしただけ。 旧態依然としたものでも建築基準法さえ守っておれば、もし大地震がきて破壊するようなことがあっても、建築士としての責任と瑕疵を問われることはありません。したがって施主の立場に立っての工夫が少なく、必要最低限のやわな金物が設計図書に指定されています。 そんな住宅が、震度7の中越・川口町でどんな被害を受けていたかを見ているだけにがっかりさせられたという次第。 単にカラマツの集成材が使われているだけで、これをもって「道材の家」と喧伝するのは、消費者である道民にとって本当に良いことなのだろうか。言葉が過ぎるかもしれないけど一種の欺瞞ではなかろうか、と感じたわけ。 そして、これは何も北海道に限った話ではありません。各地の地産地消住宅に共通するネック。 東京で、住友林業、三井ハウス、あるいは一条工務店などの建築現場を見る度に痛感させられることでもあります。 また、在来木軸の分譲住宅の現場や各フランチャイズチェーン店の注文住宅の現場でも、いつも次のように考えさせられています。 「羽子板ボルトとスジカイを前提とした古いプレカット工法はいさぎよく捨て去るべきだ!!」と。 いつも同じことを書きますが、日本の伝統的な木構造は「大貫工法」です。 築100年以上の大貫工法の民家が、いまでも全国各地に存在しています。太い柱と梁で構成されていますが、地震や台風などの水平力に対しては大きな「貫」で対応。斜材のスジカイは使われていません。 大貫工法による民家の耐震性について、珍しくきちんとした記録が残っています。75年前の北伊豆地震(M7.0、震度6強)がそれで、4337戸の民家のうち31%に当たる1339戸が全壊したと故杉山英男先生は書いています。 そして、田の字型の農家がどこから破損したかというと小黒柱が折れたのが原因。四方から差し込まれた差鴨居のほぞ穴で柱の断面が細くて折れ、これが倒壊を招いた。柱が太ければ大貫工法は想像以上の耐震性があると考えて良いようです。 しかし、江戸末期から都市で建てられていた庶民の住宅は大貫工法ではありません。細い柱と形だけの貫。もちろんスジカイは採用されていません。 このため、関東大震災で壊滅的な被害を受けました。大貫を持たない住宅は、せめて斜め材のスジカイを入れ、小幅板のきずりを取り付けるべきだということを東京工業大学の田辺平学先生らが唱え出したのです。 そして戦後、荒廃した山林などの資源状態を勘案して、なんとか最低の耐震強度を木造住宅に持たそうと苦心し、3寸角の柱を中心に、羽子板ボルト、かすがい、スジカイ、きずりという最低の材料を前提にして基準法が出来たのです。 つまり、日本が一番貧乏で最低の資源しかなかった時に制定されたのが残存している在来木造の基準。これを水戸黄門の印籠のようにふりかざし、「日本の木造住宅には1000年の歴史がある」などとほざいている人もいます。 今の羽子板ボルトとスジカイを中心にした「捻れる木造」は日本の1000年の伝統とは何ら関係がありません。構造力学的に見て世界的に恥ずかしいものにすぎません。 それと、神社仏閣の木構造や古民家の大貫工法をごっちゃにして論じています。 クギや構造用金物が高価で入手出来ない時に開発された継ぎ手、仕口などの捻れないアイデアと技能は優れたものです。鎌ほぞ継ぎ、追掛大栓継ぎなどは世界に誇って良い素晴らしい技能です。これを宮大工の技能として継承してゆくことには賛意を表します。 しかし、庶民の住宅でこれを継承して行かなければならない理由は一つもありません。所詮は資源が乏しい時代のアイデアであり、そのホゾ・ミゾが耐震性を弱めています。 そして、現実的に下小屋で大工さんがカナヅチとノミでホゾ・ミゾをとるという姿は大都市ではほとんど見かけなくなりました。 大都市の建築現場ではプレカット機械が、大工さんの刻みを代行しています。 しかし、そのプレカットは、あくまでも大工さんの刻みを代行するという発想でしかありません。 このため、プレカットされた在来木造は阪神淡路大震災でその欠点を暴露してしまいました。 シートベルトをしていなかった壁が土台から離れ、揺り戻しの時に通し柱が折れ、瞬時にして1階が潰れ、多くのお年寄りを圧殺してしまったのです。 在来木造は決定的な社会的ダメージを受けました。 そこで開発されてきたのが錆びない厚い金物で、剛に継ぎ手や仕口を固定させるという手法。日本の鉄鋼は世界一の精度と強度を持っています。 これを木の中に埋設すれば防火の面でも心配不要。 そればかりではなく、剛金物は今まで不可能だとされていたラーメン木構造を可能にしてくれています。 それに、集成材に代表されるエンジニアウッドという概念が確立してきています。集成材は収縮や捻れ、反りの心配がなく、精度と強度が高いので気密性などの確保に万全です。 これらのエンジニアウッドと剛金物が合体すれば、巨大な木構造建築が可能になっています。 そして、もう一つ忘れてはならないのが構造用面材の開発です。これを床、壁、屋根に用いれば、火打ちとかスジカイといったものは一切必要ありません。 つまり、羽子板ボルトと火打ちやスジカイで、なんとか離れずくっついていたやわな木構造が、剛金物、集成材、構造用面材で剛構造に変身してきています。 消費者から「どの木造を選べば良いか」と聞かれれば、即座に「優れたツーバィフォー工法か木軸剛工法にしなさい」と断言出来るようになってきました。 ところが、悲しいかな建築現場では羽子板ボルトとスジカイによる捻れる在来木造が未だに主流を占めています。 とくにその感を強く持たされるのが一条工務店の免震高断熱住宅の現場。最新の技術を駆使しながら、構造駆体だけは非効率的な羽子板ボルトとスジカイに拘泥している。思わず「頭を冷やしたら…」と言いたくなります。 しかし、よく考えてみたら古いプレカットの工場群を配下に持っているから、これらの工場を切り捨てて剛金物に乗り換えることが難しい。既得権を多く持つ在来木造住宅メーカーほど変身が困難という事実。 だから、大手木造住宅メーカーがもたついている今こそ中小ビルダーにとってはチャンス。 そのことを、北海道のカラマツ集成材の現場を見て強調したかっただけのこと。 |