ハンス・エーク氏は1948年スウェーデン生まれ。67年イエテボリ大物理学部、74年チャルマッシュ大建築設計学部卒で設計事務所を開設。今年愛知万博「愛・地球賞」を受賞。 今から30年前、最初に取り組んだ省エネ住宅は屋根に集熱版を搭載し、それを地下の蓄熱層へパイプで送り、地下から各室へ熱をパイプで運ぶというシステム。日本でもOMソーラーをはじめ多くのメーカーがこれに類した技術開発を行った。 しかし、エーク氏はこの試みは完全な失敗作だったという。集熱版で集めた熱を地下蓄熱層へ送り、さらに各室へ送風するコンピューター制御が有効に機能せず、制御のためのエネルギー費がかかって必ずしも省エネにはならない。 だが、施主は文句を言わず、逆になぐさめてくれたという。 「がっかりすることはないわよ。だってこれと同じ失敗は二度としなくていいのだから…」と。 この言葉に励まされ、エーク氏が次に取り組んだのが78年のパッシブソーラーハウス。アメリカ・アリゾナ州の研究者は南の窓の内側に水の入ったタンクを置き、コンピューター制御で太陽の光と熱を上手に室内暖房に利用していた。 しかし、緯度の高いスウェーデンでは、いくら頑張ってトライを続けてもアリゾナのようにパッシブソーラーが機能してくれない。 そこでエーク氏は、寒冷地では少ない太陽の光と熱エネルギーの効率とか採取のことを考える前に、まずエネルギーのロスを少なくすることが肝心だということに気付いた。 この哲学が今まで欠けていた。 「太陽エネルギーを活用することだけを考え、得られるエネルギーよりも失っているエネルギーの大きさを深く考えてこなかった」という反省。 そして、住宅の場合、どこからどんな形でエネルギーが損失しているかを計算した。 主なロスは3つ。 1つは建築資材からの熱伝導ロス。 一番大きく熱を損なっている窓をはじめとして、屋根、壁、床からの熱損失。これを大幅に改善することを抜きにした省エネはあり得ない。 2つは換気。 温かい空気をそのまま外部へ排出していることの無駄。このロスに照準を当てねばならない。もちろん低気密の隙間は問題外。 3つはお湯の排水。 シャワーや皿洗いの温水をそのまま下水に流すロス。 そこで、今から25年前にエコロジカルな生活がしたいという16軒の市民のために屋根断熱厚35cm、壁断熱厚24cm、床断熱厚29cmと各部位とも高い熱貫流率の家を建てた。 南側の窓を大きくし、庇を長くした。 そして、南側の大きな窓の外に温室を設け、この暖められた温室の空気を換気に使った。 こうした結果、これらの住宅の必要年間暖房費は250リッターで済んだ。120m2の住宅に換算すると2リッター/m2ということになる。 25年前にこれだけの性能の家が建てられていたのである。 次のトライは84年。 この時の屋根断熱厚50cm、壁断熱厚35cm、床断熱厚20cmで、窓はU値1.6のトリプルガラス。(U値とK値の換算式が分かっている人があったら教えて下さい。お願いします) そして、各戸の屋根に温水パネルを設置した。 この時の年間暖房費は120m2の住宅で210リッター。 なんと1.75リッター/m2となる。 そして今から20年前の85年からスウェーデンとドイツの省エネに関する共同研究が始まる。 ドイツの熱交換機とかサッシとスウェーデンの省エネ技術を交流してゆこうというもの。 インゴルシュダッド市とドレスデン市と続けて行われた。 ドレスデンの住宅の性能はスウェーデンよりも低くて年間暖房費は2.5リッター/m2であった。 質問時間がなかったのでエーク氏に訊ねることはできなかったが、この成功がその後ドイツで3リッター住宅運動を呼び起こしてきたのではないかと私はひそかに考えている。 この時の窓のU値は1.0。これは当時のトリプルガラスの2倍、ペアガラスの3倍の性能値だという。 こうした経験を積んで99年からの無暖房プロジェクト「イエテボリ2050」が始まったのである。 この住戸形式は計40戸のタウンハウス。 何棟だったかは見落とした。 今までの経験を集約し、南側の窓を大きく取り、二階の庇を長くし、一階の窓の上にはバルコニーが付いている。 そして、各戸の南側の屋根には5m2のソーラー温水コレクターと天窓がつけられた。 北側には樫の木が植えられ、玄関の前には風よけと物置を兼ねた空間が設けられた。北海道で多く見られるダブル玄関と同じ考え。 このタウンハウスの屋根断熱厚は50cm、壁の断熱厚は42cm、床の断熱厚が25cm、そして窓のU値が0.085という。 当然顕熱の熱交換機が付いている。北側の囲った温かい空間から取り入れられた新鮮空気は、台所・トイレ・浴室から排気される暖かい熱を交換回収する。これも質問出来なかったがおそらく90%近い熱回収率のはず。 イエテボリの緯度は樺太の最北部と同じ。外気温度は冬期 マイナス21.5℃。 そこで年間暖房費が0リッター/m2。 温水の排水熱の回収については、最後まで話が出てこなかった。この点についても質問のチャンスを逃した。 このタウンハウスの売価は日本円にして3400万円という。 平均的なスウェーデンの住宅に比べて換気で1〜1.5万クローネ、断熱で1〜1.5万クローネ、窓で1.5〜2万クローネ、計4〜5万クローネ (16円/クローネ) 余分に費用がかかっているという。 つまり60万円から80万円高で無暖房の家が入手出来る。 しかし、暖房装置が不要なことと、暖房用のランニングコストがかからないために、あっという間にこの差額は償却出来、あとは暖房費がかからないだけお買い得ということになる。 このあと、無暖房の家の実態や入居者の調査結果が発表され、さらにこの技術が既存の建築物の改修工事に活用でき、光熱費を半減出来た事例発表もあった。大変に面白いテーマーだが省略させてもらう。 さて、われわれはこの研究発表をどう考えてゆくべきか。 寒冷地だから無暖房というテーマーが生きる。冷房を考えなければならない東京などでは参考にならないと却下していいものだろうか。 東京で無暖房の家は簡単に造れる。 ただ、その投資が十数年以内に償却出来るのかどうか。 そして、スウェーデンと異なりヒートポンプも太陽も十分に活用出来る。 どこへ、どれだけ投資した方がより効率的か。 エーク氏は「スウェーデンでは全エネルギーの40%が家庭で使われている」と言った。だからこそ京都議定書の実行が求められる。「日本の住宅関係者はもっと真剣に省エネを考える必要がありますよ」というエーク氏の言外のメッセージを重く受け止めたい。 |