大きな書店の企業紹介コーナーの棚に飾られている多くの書籍。しかし、取り上げられている企業は限られている。 トヨタ、ホンダ、日産、キャノン、ソニー、ナショナル、セブンイレブン、ダイエー、西武、ソフトバンク、楽天、ライブドア…。 これ以外では単発的にヤマト、ユニクロ、伊勢丹、武田などが顔を出す。いずれも消費者にジカに結びついている企業。 住宅関連でシャープ、ダイキン、トステム、ハイムなどのことを詳しく知りたいのだが、そんな本はない。 なかでも圧倒的に多いのがトヨタ。すでに20冊以上は読んだが、次から次へと力作が出版されてくる。まるで、日本には経営モデルとなる企業がトヨタしかないかの如くに…。これは、あまりにも安易な勝ち組便乗商法。 私はトヨタホームを通してしかトヨタに接する機会がなかった。限られた視界の中のトヨタは、必ずしも垂涎の的というほど素晴らしい職場ではない。是非とも働いてみたいという魅力に満ちあふれているというわけでもない。 個々の社員はゼネラリストとしての訓練を受け、能力は高い。だが官僚的な大企業病の兆しも感じられるし、責任感の欠如の匂いもする。 たしかに、日常的な工場や現場での改善に関しては瞠目させられ学ぶべき点が多い。しかし、基本的なイノベーションに対するチャレンジ精神が全体的に希薄。つまり、熱気とか覇気が伝わってこない。 もちろんこれはトヨタホームに限ってのことであって、トヨタ自動車は異なるのであろうが…。 そうしたなかで、偶然立石義雄著「未来から選ばれた企業」(PHP研究所刊) を発見した。ほかにめぼしい本がなかったのでたいした期待もせずに買った。 皆さんはオムロンという会社をご存じ? 昔、立石電機と言っていた…。そう、血圧計や体温計でお馴染みのあの会社…。 恥かしながら、私はこの本を読むまではオムロンのことをほとんど知らなかった。創業者が立石一真氏だということと電機関連会社であろうという程度の知識。 ところが売上げは6000億円を突破しているし、社員数は世界で2万6000人にも及んでいる。株価は京セラやキャノンには遠くおよばないが、千円以下で低迷している大手家電を凌ぎ、堀場製作所、ウシオ電機とともに3000円台に迫っている。 それなのに一般に知られていない。 その謎は事業内容を調べたら分かった。同社は99年にカンパニー制度を導入し、5つのカンパニーがある。 ・IAB 生産工場向けの自動制御部品 ・ECB 家電や携帯電話に内蔵される部品 ・AEC 自動車の車載電装部品 ・SSB 駅の自動改札や交通管理システム ・HCB 健康機器を扱うヘルスケア部門 つまり同社は企業や役所を相手に商売をしている会社。消費者を対象にしているのは健康機器しかない。したがって、血圧計と体温計でしか接点がなく、このため一般的な知名度が低い。 著者は創業者の二代目で、87年から03年までの18年間社長職にあった。内容は、会長になったのを機会にオムロンの創業以来のDNAとポリシーを格調高くまとめあげたもの。 トップの著作だからオムロンのPRはぬかりがない。そして、高邁な理念の押しつけや自画自賛の筆致にいささか抵抗を覚えるところも散見される。 ところが、読んでいるうちに数ヶ所ではっとさせられ、思わず「そうだ!!」と叫んでしまった。 それは、まず自らをベンチャー企業であると断定している点。 そして、ベンチャーであり続けるために先駆的な意識改革の断行と創造的な組織改造を行っている。 地場ビルダーにとってはトヨタやホンダの本をいくら読んでも実質的には役立たない。しかし、オムロンのベンチャー経営には学ぶべき点がわんさとありますぞォ…。 まず、年商6000億円と言っても、製品別にみれば120のニッチ事業の集合体にすぎないと喝破。 平均で50億円のスモールなベンチャー企業群が120集合しているのがオムロンの実態だと捉えている。決して大企業ではない。大企業意識を持ってはいけないと戒めている。 ベンチャー企業である以上は、マーケットの動向に敏感に反応し、迅速に対応しなければならない。一時期、オムロンはピラミッド型の組織だったがため大企業病に感染し、マーケット対応が遅れたことがあった。 そこで、組織図を180度ひっくり返した。 消費者を最上段に持ってきて、消費者に一番近いところに位置している最前線の課長に大幅に権限を移譲した。 つまり、部長とか本部長、あるいは役員はあくまでも課長を支えるのが仕事。そのように意識と組織の大改革を行った。 マーケットに一番近い課長が消費者のニーズ、潜在的なニーズを先取りし、需要を創造してゆかないかぎりベンチャーは生きてゆけない。とはいうものの、意識改革は簡単には出来ない。そこで、全課長に3ヶ月間のリフレッシュ休暇を与えた。 ベンチャー企業はスモールかもしれない。しかし意識と行動はグローバルでなければならない。常に世界的な視野でチャレンジを続ける。このチャレンジ精神を最前線の課長以下に持ってもらうための大胆な試み。 著者は、チャレンジ精神とは「今日と違う明日を求めて対応する行動」と規定している。そのチャレンジ精神の源泉となる3大要因を挙げている。 (1) 社会に役立とうという高い志 単に自分とか会社のためという視点では挑もうという意欲が欠けてくる。社会のために誰にも負けない高い志が不可欠。 (2) 先がける精神 他人の後追いで真似事ばかりしていたのでは、前向きのエネルギーは絶対に出てこない。 (3) 健全なる危機意識 ベンチャーは常に挑戦し、創業者利益を得つづけないと生き残れない。 そして、このチャレンジ精神を具体化するための7:3の基準を設けている。3のリスクがあっても7のチャンスがあればゴー!! この点だけはいささか疑問。これでは石橋を叩くことになりかねない。中小ビルダーの場合は3のチャンスがあればゴー!!という気構えが必要。渾身の努力を傾注した上でダメだったら引き返せばいい。それが、小回りが効くということ。 さらに、事業打ち切りの1/2の基準もある。 社員公募制度やニューライフチャレンジ制度もある。 会長の書いた本だから話半分としても非常に面白い。他の企業には見られないベンチャーのためのさまざまな仕掛けが周到に用意されている。 そして著者は断言する。 「景気が回復しないから売れないというのはとんでもない間違い。企業中心社会から生活者中心の社会に変わっている。そのニーズや生活者の価値観に対応しきれていないから売れないだけのこと」と。 久々に読み応えのある骨太の経営本。 |