■長寿住宅とは大変にやっかいなものでもある!?


 欧州住宅視察団を組織し、30年前に初めてヨーロッパを訪れた時、団体行動以外にストックホルム、アムステルダム、ミュンヘン、チューリッヒ、ロンドン、ローマの各都市で寸暇があれば単独で戸建て住宅やアパートに飛び込みました。実際の住まい方やインテリアを知りたかったから。

 下手くそな英語だが若さと好奇心と糞度胸で、なんとか18世帯の内部写真を撮らせてもらいました。パリだけは英語で話しかけても知らぬ顔。高慢チキでキザな都。

 その時、ストックホルムの少年少女は可愛い壁紙の部屋で必ず兎などのペットを飼っており、ミュンヘンのアパートには屋根裏か地下に必ず物置スペースがあり、チューリッヒの湖畔の石造の古い豪邸の外観を変えることは市が絶対に許可しないことを知りました。
 また、ロンドン郊外で家賃を聞いた時、いくら「マンスリー」と言っても通用せず「ア・マンス」という言葉に辿り着くまでに10分もかかりました。
 そして、一番驚いたのはローマの古い安アパート。なんと床が大理石なのです。
 木のフロアよりも大理石が安い。そして、古いアパートはステンレスの水道管がむき出しに…。石の駆体は1世紀も2世紀も保持するけど、水道管などの設備は 保たず後で現し配管。外観からは想像も出来ない光景に戸惑いを覚えました。

 その後、何回かの訪欧と著書で、ヨーロッパの都市は外観の色や高さが制限されている市が多く、イギリスでもイタリアでもドイツでも、外観を変えるには、例えば小さなバルコニーを付けるとか窓を1つ増やすにも市の許可が必要。古い一戸建てとか街並みが揃っている場合はほとんど許可が降りないことを知りました。

 したがって、イギリスでは古い茅葺き屋根の家を維持するには大変な出費がかかります。このため、ハーフティンバーの古民家に住めるというのは大変なステータス。大金持ちが内装だけを改装し、外観を必死に保存しているのです。

 イタリアの石造でも城のような外観のメンテナンスには年に数百万円もかかる場合があるとのこと。日本のように遺産相続税が高くないので、金持ちは黙ってその費用を払いつづけ都市の景観を保持。これは金持の義務であり矜持でもあるのです。

 坂井洲二著「ドイツ人の家屋」(法政大学出版局1998年刊)を今年になって偶然仙台で見つけて借りてきました。
 この著書の中の日本とアメリカに関する記述は参考になりません。しかし、ドイツとヨーロッパ全体の住宅に関しては今まで知らなかった資料と情報が満載されていて必読の価値あり。

 中で、リチャード・ウィズ氏の建材の種類別によるヨーロッパの住宅の分布図を紹介している。これによると、ヨーロッパの住宅は大きく4つの建造物に分類出来ます。
(1)石 (2)木 (3)土 (4)木組に土壁

 石造は北アフリカからスペイン、フランス、イタリア、ユーゴスラビア、ギリシアに至る地中海沿岸地域。
 土造はスペインの中央部とウクライナから黒海周辺の旧ソ連邦諸国。
 木造はイギリスの北部、北欧3ヶ国からロシアにかけて。
 そして、木組に土壁はイギリス南部、ベネルックス3ヶ国からドイツ、チェコ、 ポーランドと広範囲に及んでいます。

 したがいまして「ヨーロッパの住宅は…」と一律に論じることは間違いであるこ とが分かります。
 ヨーロッパの石造と木造に関しては比較的詳しく日本へ紹介されていますが、一番多い木組に土壁造の紹介が非常に少ない。
 坂井氏の著作はこの「木組に土壁造」に焦点を当てています。

  まず驚くのは紀元前2200年前の木造住宅が湖底からそっくり発見され、展示されているという事実。日本よりもドイツの木造住宅の歴史が古いのです。(この詳細は独善的週評に)

 木組に土壁の住宅は、石造、土造とともに地震の心配が少ない地域で発展しました。
 ドイツでも初期の木造は通し柱方式が主流でしたが、次第に敷き桁構造に変わりました。つまり、各階毎に敷き桁で柱を切っても倒壊の心配がないからです。

 そして、木組の間に木舞を組んでそれに土と藁と砂、時には石灰をこねた土壁を 塗ります。塗るという表現だと日本人のほとんどが感違します。何しろ30センチ以上もの厚みがあるのですから、木組の間からはみ出して土をてんこ盛りに詰め込んだと表現すべきでしょう。

 この厚い土壁が、建築物の鉛直力を支えているのです。
 そして木組は柱と同寸の筋違いもあって風に対する水平力を支えています。
 いいですか。ドイツでは水平力というのは風に対する力で耐震力は考えていない…。このことをホルガー・ケーニック著「健康な住まいへの道」(建築資料研究所刊)の中で発見することが出来ます。しかも緯度が高く台風がない。このためとんがり屋根の5、6階建てが可能に。

 このケーニックの著書はバウビオロギー(建築生態学)の聖書としてもてはやされています。とくに建築材は、使用時のエコロジー性だけを考えるのではなく、材料加工という前段階、さらには使用後の解体処理までを含めたトータルなエコ収支で考えるべきだという指摘は輝いています。
 これは素晴らしい哲学。

 しかし、読んでいて理解に苦しむところが何カ所かあります。
 たとえば、室内空気よりも壁の温度が2〜4℃高い方が人間にとって快適。
 あるいは、一日中窓を開けなくて小鳥の声が聞こえず、一定の温度の中にいると感覚が麻痺して良くない。

 これは、古いドイツの木組に土壁造を前提にした発言。
 つまり、30cmから35cmと壁が厚く蓄熱性と遮音性の高い土壁が存在しているから、室内空気よりも壁の温度が高いという現象が起こり得ます。構造のことを知らなかったら、この言葉は永遠の謎。

 また、古い木組に土壁造の家は換気装置がありません。台所と浴室洗面室には換気扇がありますが、あくまでも部分換気。ドイツの主婦は料理らしい料理をしないから台所の換気は日本人ほど神経質ではありません。しかし、空気が汚れてく
るので毎朝全部の窓をあけ、空気を入れ換えねばなりません。遮音性のよい土壁の家でも、この時は小鳥のさえずりが聞こえ、室温が急降下して、否応なく皮膚感覚が覚醒させられます。

 しかし、省エネと健康のことを考えた時、古い土壁を前提にしたケーニックの考えを100%賛美すべきなのでしょうか…。

 以前フォーラム欄に書きましたが、ドイツの人口は8200万人。住宅のストックは2900万戸。新設住宅は今までの52万戸から半減して26万戸。

 この2900万戸のストックのうち、おそらく半分以上が築60年以上の長寿住宅で、セントラル換気装置のない住宅ではないかと推測(どこまでも推測)。新築が少ないから、換気と断熱とダニ、カビに対して問題のある膨大なストックが何時になったらリフォームを終えられるのか…。いくらエコ素材を使っているにしても大変に気がかり。

 ドイツで働いている日本人のお医者さんから「冬期のダニ、カビでアトピーが増大している」という話を8年前に聞きました。池田先生もヨーロッパでは室内の化学物質問題は解決し、ダニ、カビが大問題になってきていると指摘しています。

 駆体は限りなく長寿であるべき。しかし、空調換気をはじめとした温熱環境の変化に対応出来ない駆体では……!!

 貴方は、そこまで考えて100年住宅を造っていますか?