食変光星観測マニュアル Var.3

1998年11月

日本変光星研究会 関野祐二

§1.はじめに

「一晩で星の変光が見られる」「彼方の連星の相互回転を、自分の目で確かめられる」「一回の観測で、星の変光の光度曲線を描ける」そんな数々の魅力を持つ食変光星観測。むずかしいことはさておいて、目の前でみるみる星が変光していく様子を自分の目で見てみようではありませんか。観測を続けていくなら、連星系の公転周期の変化がわかり、研究的な価値も出てきますよ! 変光星観測は初めて、という方でも楽しく食変光星を観測できるよう、このマニュアルを用意しました。どうぞ、味わい深い食変光星の世界へ...

§2.食変光星とは

食変光星は、食連星とも呼ばれ、連星(二つの星が共通重心の回りを公転している系)の内、公転軌道面が我々地球からの視線に近いために両星が隠し隠されて、それが変光として観測されるものです。ですから単独の脈動変光星や、近接連星の爆発現象による変光とはメカニズムが全く違います。そもそも「食」という現象は、身近なものでは日食や月食があります。それらをはじめとして恒星(連星)の食現象は変光の光度曲線やスペクトル観測により、非常に豊富な物理的データを我々に提供してくれます。そのひとつである食変光星の観測も、その光度曲線の分析により、星の半径や軌道傾斜角、表面の輝度分布、質量や明るさの比など、多くのことがわかるのです。 食変光星は、その光度曲線の形により、アルゴル型(EA)、こと座ベータ型(EB)、おおぐま座W型(EW)に3分類されます。光度曲線上に現れる反射効果、楕円効果、また近接連星系のコパールの三分類など理論面での詳しいことについては、北村正利著,「星の物理 第2版」,東京大学出版会UP選書135,1987年を参照下さい。以下、筆者による食変光星観測の光度曲線の実例をお見せしましょう。

食変光星の眼視観測は、その精度上、前述のような精密な物理量の測定には適しません。これはプロの観測や光電測光に任せるとして、眼視観測でも光度の極小時刻を求めることは可能ですから、多くの星についてその時刻の観測値と計算値の差(O−C)を求め、その変動を調べることは、我々アマチュア変光星観測者の重要な取り組み分野と言えるでしょう。ちなみにアメリカ変光星観測者協会(AAVSO)では、1975年より特に50個の食変光星を選んで観測を呼びかけ、それ以前の観測も集めて、1993年にO−C曲線集を刊行しています。観測者数は66名、総観測数は3517(1曲線を1回と数えて)と発表されています。

§3.食変光星観測の目的

眼視による食変光星観測は、最終的には極小時刻(連星系で、伴星が主星を最大隠した、光度が最も暗くなる時刻)を光度曲線から求め、ある期間をおいて同じ星を複数回観測することでその連星系の周期変動を調べるのが主な目的です。しかし、一回の観測でも、星の変光に実際に遭遇して感動したり、光度曲線がきれいに描けた喜びを味わったり、その形のおもしろさを楽しんだり、変光星観測というものの楽しさを気軽に体験できるので、奥が深い変光星観測の世界の入り口を提供するという、重要な目的があります。

§4.食変光星観測の魅力

@ たった1回、1〜3時間の観測でりっぱな光度曲線が描ける。皆既のある星あり、変光速度が変わる星あり、かまぼこ型曲線ありで、これを眺めるだけでも楽しめる。

A 星の変光という現象を、手っとり早く体験する最短コース。ただし、これは連星系の見かけ上の合成光度変化であり、星自体の変光でないことは言うまでもない。

B 極小時刻を求め、O−Cを算出し、そのデータを蓄積することで、アマチュアとしてなにがしかの貢献ができる。こういう結果が出ました、とO−Cを客観的な数字で示せるのは強み。

C 何日も前からある星の観測計画を立て、その日の極小時刻に向かって星図などの準備を整え、いざ本番を迎えてアイピースをとっかえひっかえ必死に目測し、ひとつのデータを得るプロセスは、なんとも言えぬスリルと緊張感、達成感を得られる。観測の現場は実際ドタバタ劇です。とにかく一度、やってごらんなさい!

D 微妙な目測を数多くこなすので、目測の鍛錬になる。また、集中力も養える。

E 通常の変光星観測(ミラ型(長周期変光星)、UG(激変星)など)を並行して行うことが可能。望遠鏡を複数用いれば、食の観測と他の星の観測を交互に行えるので、実に充実した時間が持てる(ただしちょっと疲れますが…)。

F 日本では従来観測が少なかった分野ですが、最近「変光星祭り」や「変光星を楽しむ会」、天文雑誌の「変光星欄」で食変光星が盛んに取り上げられるようになりました。 食変光星の観測では自分のデータがすぐに要素改良に役立ち、励みになります。

§5.食変光星観測の難しさ、つらさ

あんまり楽しいことばかり書くとうそっぽいので、難しい点についても正直に書きましょう。何事も、楽あれば苦ありですね。

@ 極小時刻を観測することが主な目的なので、天候の具合、不意な電話や来客、予報の大幅な誤差、星導入のもたつきなどで極小をのがすと、その日の観測は「下見観測」になってしまう。星によっては、個人的都合や周期などの関係でそのシーズン最後のチャンスだったりする。私は、変光のきわめて速いと言われてY Leoという星を、最高の条件で観測準備しながら、観測開始直前にかかってきた長電話でフイにし、涙をのんだ経験があります。3回目にして見事な光度曲線が得られた時のうれしかったこと…・。

A 極小時刻のみならず、変光範囲や皆既の有無、変光スピードなど、予想と大幅に違うことがままあり、観測に失敗する危険があちこちに潜んでいる。一発で観測を成功させようと気負わないほうがよいのかも知れません。

B 変光範囲1等以下の星は目測が相当微妙になり、慎重にやりすぎると目測に疲れて何だかわからなくなってしまい、めちゃくちゃな曲線になる可能性がある。うまくいかなかった時のダメージを減らすためにも、余裕があれば二つ以上の星を同時に、あるいは続けて観測することをお勧めします。

C目測誤差を極力減らすため、適切な倍率を選択したり、視野の回転誤差を減らしたり、いろいろ工夫が必要です。(とてもここには書ききれません!)

§6.どの星をいつ観測するか

広大な宇宙にある無数の星々のうち、どの星が食変光星なのか、これは星図さえ手に入れば解決します。 ただし、問題はその星がいつ「極小」を迎えるか、その日時です。食変光星はある周期(およそ1時間〜数日)で食現象を繰り返していますので、眼視観測においてはその極小時刻前後に観測して極小をとらえることで初めてその観測結果に意味が出てきます。それ以外の時間帯に観測しても、平常光度のただの星が見えるだけです。 食変光星観測の場合、星図と極小予報はセットであり、どちらが欠けても観測は難しいと考えてください。必要な方は日本変光星研究会事務局にお問い合わせください。

§7.用意するもの

<双眼鏡または望遠鏡>

ただしβ Per(アルゴル)だけは肉眼で観測できます。双眼鏡は、7倍40ミリかそれ以上、できれば15倍70ミリクラスをおすすめします。比較星を多く取るためには広視界型が使いやすいです。三脚は必需品です。RZ Casは4センチクラスの双眼鏡手持ちでも観測できますよ。また、手持ちの双眼鏡は対象星を望遠鏡に導入する時に、たいへん役に立つことも申し添えておきましょう。望遠鏡はどんなものでもOK。7〜10センチクラスの屈折、13〜15センチクラスのニュートン反射、20センチクラスのシュミットカセグレンがあれば文句なしです。ただし、天頂付近を通過する星を連続観測する場合(星座早見盤で確認できます)、屈折やシュミカセは接眼部の光路を直角に曲げないと姿勢が苦しく、さりとて天頂プリズムや天頂ミラーなどを使用すると視野が裏像になって、星図との対応が面倒になります。裏像を避けるためのペンタゴナルプリズムや正立ミラーも市販されています。

<架台>

同じ星を連続観測するため、星を自動追尾できるモータードライブ付きの赤道儀が理想です。また、望遠鏡のアイピース(接眼レンズ)は、食変光星の視野導入から始まって、その光度変化に伴い倍率を変えますので、30〜60倍の低倍率、60〜100倍の中倍率、100〜150倍の高倍率の3本はあったほうがいいでしょう。

<星図>

双眼鏡や反射望遠鏡、(屈折望遠鏡でも天頂付近以外の観測)では星図をそのまま使えますが、天頂プリズムやミラー使用の場合は、あらかじめ裏像にした星図を用意する必要があります。HST−GSC星図はパソコン操作で裏像星図がいとも簡単に作成できるすぐれものですので、必要な方は日本変光星研究会事務局にお問い合わせください。

<記録用紙と筆記用具>記録用紙の書き方については後述します。

<その他>

赤く減光したライト・時計・防寒具

§8.食変光星観測の実際

(1) 観測対象星の極小予報時刻を知る

何はともあれ、まず予報です。定期刊行物に掲載されていれば一番なのですが、筆者が個人的に食変光星の極小予報を算出し、発表していますので、どうぞ遠慮なくご連絡ください。必要な方は日本変光星研究会事務局にお問い合わせください。

(2) 観測星図、導入用星図を準備する

RZ Casの星図は、これ一枚で星の導入から光度目測まですべてできるようになっている親切なものですが、導入星図が入っていない食変光星図も多いので、いろいろな星をやってみたい方は別途ご用意するほうがよいでしょう。星図としては、ウラノメトリア2000.0と、AAVSO変光星アトラスをお勧めします。いずれも、月刊天文・ガイドなどに広告を掲載している国内代理店で入手できます。これ以外に、さらに広い範囲をカバーしている全天恒星図(誠文堂新光社)とか、新標準星図(地人書館)などがあれば万全です。

(3) RZ Casを望遠鏡視野に導入する

慣れないと、これで結構手間取るのでしっかり学んでください。導入のポイントは

● 肉眼で見える明るい星から順にたどること

● いきなり望遠鏡で導入しようとせず、まず双眼鏡でだいたいの見当をつける

● 星図と、実際の望遠鏡視野の方位(N−S、W−E)を一致させること

● 望遠鏡の視野が、星図上のどの範囲をカバーしているか、対応をとること

● 星図上のどの星が、視野内でどのくらいの明るさに見えるか、見当をつける

のこの5点です。

@ 星図の方位合わせ

導入星図はN(北)が上になっています。星図を北極星の方向にNを合わせ、上ってきているカシオペヤ座の形に星図を合わせます。これで対応がとれたことになります。 観測星図は、RZ Casの場合は双眼鏡の場合はそのまま双眼鏡の視野と対応しますが、望遠鏡の場合は倒立像に対応して上がS(南)になっていますから注意しましょう。中にはN(北)が上に統一してある場合もあります。よく星図の方位を確かめてからファインダーや接眼レンズの視野とあわせましょう。東西南北はこうなっています。

北極星の方向がN(北)、星が動いていく日周運動の方向がW(西,これは望遠鏡の倒立像でも、天頂プリズムを使った裏像でも共通)という原則を忘れないように!

A 視野範囲の対応

 あなたがお使いの望遠鏡の実視界は何度でしょうか。 実視界は、(アイピースの見かけ視界)÷(倍率)で求められます。たとえば、アイピースの焦点距離が20ミリ、見かけ視界(アイピース本体に刻印されているか、使用説明書やカタログに記載されています)が50度で、望遠鏡の焦点距離が1000ミリの場合、倍率は、(望遠鏡の焦点距離)÷(アイピースの焦点距離)で求められますから、このシステムの倍率は 1000÷20=50[倍] 。よって実視界は50÷50=1[度]となり、星図上にその範囲を○で描けば、それがあなたの望遠鏡で見える範囲です。星図には必ず座標や目盛りが記入してありますから、それで対応をとってください。

B 星図と実際の明るさ対応

星図は、星の明るさをドットの大きさで表現しているわけですから、実際の星空とはやはりだいぶ雰囲気が異なります。星図上のどのくらいの大きさの●が、双眼鏡や望遠鏡での視野でどのくらいの明るさに見えるか、見当をつけましょう。15センチ反射望遠鏡では、12〜13等星まで見えます。さあ、ここまで来たら、早速RZ Casを導入してみましょう。 導入星図、観測用星図は、この冊子の最後にあります。まず、星図と対応をとりながら、カシオペヤ座を見つけ、双眼鏡かファインダーを使ってε(イプシロン)星からτ(タウ)星へと導いてください。τ星が視野に入ればRZ Casも射程内です。観測用星図の方位に注意しながら星の配列を確かめ、RZ Casを見つけてください。

(4)観測開始

● 変光星の光度目測には、おもに比例法、光階法がありますが、ここでは比例法について説明しましょう。比例法とは、目的の変光星より少し明るい星と少し暗い星を比較星として用い、光度比較で変光星の光度を目測する方法です。

● 比較星とは等級(光度)がはっきりわかっている星のことで、星図上ではたとえば6.8等の比較星は(68)と表されています。

● さて、RZ Cas本体をまず見て、視野内をぐるりと見回し、星図に光度が記入されている比較星のなかで、RZ Casと同じ明るさの星がないか捜します。もし、よく見て同じに見えればその比較した星と同じ光度であると言えますね。しかし、なかなか同じ明るさのときはないのが普通で、その時はRZ Casより少し明るい星と少し暗い星を選びます。比較星は、横に並んだほうが目測精度上望ましいのですが、そうならない時は縦並びでもOKです。

● 二つの比較星の明るさの差を10等分(5等分でもよい)し、変光星の明るさがそのどのあたりに位置するかを比率で表します。 たとえば、(68)と(74)の明るさの間にRZ Casの明るさがあり、(74)に近い明るさでその比率が8:2ならば(68)8v2(7

4)または5等分の場合、(68)4v1(74)と記入します。より明るさの近い比較星の側の数字が小さい値で表記されます。 比較星は、比較星の明るい方を左側に書く習慣があります。

● なお、目測はあまり考えすぎるとかえってわけがわからなくなりますから、エイヤッと決めます。最初の第一印象が一番大切です。

● 比較星との光度差が接近して分かりづらいときは望遠鏡のピントをほんの少しぼかすと、点像よりも光度差が目測しやすくなりますから、やってみてください。ただし、ピントは外側(接眼部を繰り出す側)にはずしてください(内側にはずすと眼球の水晶体が追っかけてピントをあわせようとしてしまうため)。

● 1回の目測は出来れば1分以内に終了してください。その間にも星はぐんぐん変光していますから、5分もかかってしまうと誤差の原因になります。

● 目測した時刻を分まで記録します。24時を過ぎたら1時、2時としないで、前日の日付を継続したまま午前1時は25時、午前2時は26時、・・・と30時間制で表記します。

● 次の目測までの目測間隔ですが、これは食変光星の変光スピードによって異なります。速い星では1分間隔、遅いものでは30分間隔などです。0.2等変光すればだれにでもわかるので、全変光時間からわり算して間隔を設定します。 RZ Cas場合、全変光時間が約4時間。6等前半から8等近くまで変光します。ですから、約10分から15分間隔で目測を続ければいいことがわかります。ただし、極小付近は目測間隔を3〜5分に1回に縮めたほうがよいです。その際は、観測時刻は秒まで記録しましょう。これは、筆者の記録ノートの記入例です。X Triの例

| 年月日  | 星名 |  時刻   |  目   測    | 等級 |機材 | 備考      |
|-------------------------------------------------------------------------------
|'94.12.2 |X Tri | 241924  |(104)6 v 4(110),4(110)|10.8  |16L  | 143倍      |
            ↓      ↓     ↓      ↓ 
    24時19分24秒のこと      比例法  光階法    光度 16センチニュートン

備考欄には、その時の空の状態、比較星についての情報、変光について気づいたことなど、なんでも書いておきましょう

§9.観測結果の整理

(1) 光度算出上の例で結果を求めましょう。 (104)6v4(110)から光度を算出するには

                         6
{(110−104)× −− }+104 =107.6 →108
                        10 

小数点第2位以下は四捨五入してください。これで、この時の目測結果は10.8等と求められました。この計算を各目測についてやっていけばいいわけですね。

(2) 光度曲線作成

食変光星の連続観測が成功して、増減光がとらえられたら、ぜひデータから光度曲線を描いてみましょう。グラフ化して初めて、宇宙の神秘を客観的に目で味わえるというものです。やり方は簡単、横軸に時刻、縦軸に等級を取り、グラフ用紙にプロットすればよいのです。PC98系パソコンで光度曲線を描かせる支援ソフトDBVSを使いたい方は、別途お尋ねください。また、エクセルやロータスなどの表計算ソフトでも表示できます。

(3) 極小時刻の決定

変光星祭や食変光星観測キャンペーンでは、星の変光をこの目で味わうことを主眼としていますが条件さえよければ極小時刻を求めることまでできます。実のところ食変光星観測の本当のおもしろさと価値というのは、その増減光を観測して、光度曲線から極小時刻を求め、極小予報時刻と実際観測から得られた極小計算値との差(これをO−C、オーマイナスシーと言います)を求めて、過去のO−Cと比較し、その星の周期変動の有無を調べるところにあるのです。

§10.おわりに

銀河系の一角で今起こっている、近接連星の相互回転を、自分の目で光度変化として味わう、そのおもしろさを体験していただけたでしょうか。宇宙の運動と変化にじかに触れる、この食変光星観測を、ぜひこれを機会に継続してみてください。今、日本国内では食変光星を継続観測している眼視観測者は数えるほどしかいません。そう、あなたの観測が即、日本を代表する食変光星観測になるのです。心よりお勧めいたします。

このマニュアルは1998年に開催された第4回変光星祭り用に作成され、キャンペーンの為に一部修正したものです(2001年10月 永井 和男)


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