秋太郎
(あきたろう)


 秋の味覚で海の幸と云えば、やはり秋刀魚が一番だろうと思う。あるいは秋鮭や戻り鰹、などという答えも返ってくるかもしれない。いずれも、「食欲の秋」を一直線に突き進む私のような輩でなくともその名を聴いただけで口内に唾が湧いてきて仕方がなくなってしまうような、旬の脂の良く乗った魚たちだ。

 ここ鹿児島に移り住んで以来魚介タンパクの方にも随分と興味関心が向いている私は、先日も夜酒の友にする旬の刺身を求めに近所のスーパーへ赴いた。その際、鮮魚コーナーに全く見知らぬ魚名のついた刺身パックが売り場の中央でふんぞり返っているのを発見した。そのラベルには「秋太郎」とプリントされていた。
 鹿児島に生家を持つ嫁に「これって何物?」と訪ねてみたが、元々郷土愛の欠如している彼女は「さぁ?」と漫画に出てくる外人のようなジェスチャーを返してくるばかりなので、早速これを購入し、詳しく吟味してみることにした。
モヒカンのような背鰭が特徴のバショウカジキ。それにしてもつぶらな瞳だな。
スーパーのトレイに乗ったままかよ!」という突っ込みはナシの方向で。  調査の結果、「秋太郎」とはバショウカジキの鹿児島地方での呼び名であることが分かった。
 バショウカジキは日本では東北以南から台湾にかけて黒潮の表面に分布する魚で、鹿児島では八月の下旬から十月初旬にかけて、まるで秋を連れてくるように市場に出回ることから風物詩的な「秋太郎」という呼称になったようだ。
 新参者には馴染みがなかったが、秋太郎は鹿児島県民には非常に広く支持層を持つようで、全漁連によると、県がサバやカンパチなどと並んで秋太郎を「県の魚」として秋の旬に指定している程メジャーな存在なのである。
食してみると、赤身の魚に特有の血のりの生臭さは比較的少なく、最高の食べ頃を迎えた脂の旨味がとろっと舌の上で小躍りするような風で、とても美味い。見た目はマグロの赤身とうっかり間違えそうな調子だが、味の方ではとても比べ物にならない豊かな味だ。きりりっと締まる口当たりの焼酎を合わせると、これはもう益々たまらないのだ。

「おぉ、これ、美味いぞ!」
と、口元を緩めたまま嫁に薦めると、一切れ口に入れた彼女も
「んー、美味いね、これ!」
と目を丸くして喜んでいた。
 秋刀魚の刺身も大好きなのだが、秋太郎の魅力を知ってしまった今となっては、「秋に食べたい海の幸は?」という質問には返答に窮してしまうだろう。流石は南国鹿児島、食の世界にも手応え十分の奥深さがあって楽しい。
グラスの中身は、植園酒造の焼酎「竹翁」。脂の乗った刺身に良く合います。


※本頁の画像の内、「akitaroh_01.gif」については
オーシャンフーズ様のHPに掲載された写真を
加工の上で使用させて頂いております。