さつまあげ
(さつま揚げ/つけ揚げ)


 嫁がまだ鹿児島に住んでいて、彼女が私の中で「南国の爆弾娘」と呼ばれていた頃のことだったと思う。何かの拍子に彼女が物見遊山で東京にやってきた際、奴がその漢気溢れる笑みを浮かべながら、
「これを食べたことのない酒呑みなんて、モグリよ」
と云いつつ私や当時の連れ合いの前に広げたお土産が、さつま揚げだった。
「真空パックのだと、どうしてもダメなのよねー」
 鹿児島を発つ直前に空港で揚げたてを仕入れてきたという、油のてかり具合が何とも美味そうなさつま揚げ。我々の手に届いた頃にはもう大分冷めてしまってはいたけれど、「揚げたその日のうちに食べるのが最高」という彼女の言葉通り、生もののしっとりした食感と程好く染み回った油加減が、よく冷えたビールと絶妙の相性を楽しませてくれたのを、今でも舌の根の隅のほうがぼんやりと覚えている。
さつまあげ作り実演中。眉毛がチャームポイントのおっちゃんは、カメラを向けても黙々と練り物を弄り続けていた。
こんがり揚がるまでを追ってみました。  さつま揚げとは、魚のすり身に地酒や調味料を加え、さらにお好みのタネを練り混ぜて、それを菜種油で揚げたものである。ネタにはごぼうやレンコン、ニラ、さつま芋やチーズだとか、玉葱・ニンジン等をミックスした「野菜」など様々なバリエーションがあり、それぞれのネタ毎に表情の異なる色とりどりの美味しさを味わうことができる。また、季節毎に菜の花や椎茸なども用いられ、手軽に旬の味覚を楽しめるのも嬉しい。
 ネタを入れないプレーンのさつま揚げは「棒天」と言い、その他は、中に入っているネタによって「ごぼう天」「芋天」「いわし天」などと呼ばれている。呼び方からも推察できるように、鹿児島では時折「天ぷら」という言葉をさつま揚げを指す名詞として用いることがあるから、県外の人間は気をつけなくてはならない。
 「さつま」の文字を名に冠し、正に鹿児島を代表する特産品であるかのようなこの料理であるが、実は彼の生い立ちは今ひとつ判然としていない。琉球方面の料理「チキアーギ」(魚の揚げ物の一種らしい)が、1846(公化3)年に薩摩地方に伝わったのが始まり、という説もあれば、薩摩の28代目の殿様・島津斉彬公が、紀州のかまぼこなどをヒントに自ら開発した料理だ、という意見もあり、未だに結論が出ないでいるのだ。
(著者注:基本的に、鹿児島の人々は物事の由来を何でも島津の殿様と結び付けようとするきらいがあるから、後者の説は話半分に聞いておいく程度に理解すべきかもしれない。)
 その発祥はともかくとして、海の幸の豊富に採れる鹿児島の地の郷土料理となった「つけ揚げ」が、やがて鹿児島の名物「さつま揚げ」の名で全国に知れ渡ることとなった、という経緯だけは確かなようである。
迷った末、ビールと焼酎の双方の肴として食することに。
フラッシュが強すぎました。手前はチーズ入り。むちむちした食感としつこくないこってりさ加減が絶妙です。  鹿児島の空の玄関・鹿児島空港の中や、県内各地に点在するさつま揚げ屋では、出来たての奴を一枚単位から買い求めることができる。値段も一枚100円前後とリーズナブルだから、小腹が空いたときのおやつ代わりにもちょうど良いかもしれない。
 このもちもちしっとりとしたすり身の食感と甘さ、あっさりと適度な油加減のジューシーさと香ばしさ、そしてネタによって彩りを変える豊な旨味が、三位一体となって味覚を魅了する。菜種油で揚げることで生まれるこんがりとした色艶照りが、見た目にも否応なしに空腹中枢を刺激するではないか。
 お子様のおやつに、夕食の「もう一皿」に、もちろん酒の肴にも、さつま揚げはとても美味しい。まだ口にされたことのない方などは、モグリと呼ばれてしまう前に是非一度、本場の揚げたてをご賞味いただきたい。

ロケ地:鹿児島空港Bdg.2F揚立屋