雪解けはいつの日か・・ 燕岳夕景・・
 補-2 燕 ・ 常 念 つばくろ・じょうねん (中部山岳国立公園) ・・・長野県

槍・穂高の展望台として・・、岩のオブジェを抱く魅力的な峰として人気の高いのが、この燕・常念山系である。 
温泉郷である中房の登山口から“北ア三大急登”といわれる合戦尾根を伝い、“大自然の美術館”・燕岳
 2763メートル の岩のオブジェに魅せられる山旅・・。 そして、常念岳 2857メートル を目指して、槍・穂高の素晴らしい眺めを望みながら歩く稜線遊歩の楽しい山旅・・。 この2つの贅沢な山旅が同時に味わえるのだ。 

このコースを紹介しないことには、北アルプスの魅力を余すことなく伝えることが叶わない。 
ひいては、『日本百景』の根幹である“その場所に訪れる楽しさを伝えたい・・”、“その場所の抱く魅力を伝えたい・・”という思いに反することになるだろう。 従って、補欠ながらこのルートを取り上げたのである。




駐車場・トイレ・山小屋情報               上 雪色眩しい燕岳稜線・・
              下 雪山の向こうに常念岳が・・
行 程 表 〔積雪期〕
《1日目》 JR穂高駅よりバス (1:00)→中房温泉 (3:00)→合戦小屋 (1:00)→燕山荘・燕岳へは所要上り40分・下り30分
《2日目》 燕山荘
 (2:00)→切通岩 (0:40)→大天井岳 (2:45)→常念乗越・常念岳へは所要上り1時間10分・下り55分
《3日目》 常念乗越より常念岳往復・所要上り1時間10分・下り55分
 (3:30)→ヒエ平登山口よりタクシー利用
           (0:40)→JR穂高駅


 《1日目》 合戦尾根を伝って燕岳へ

北アルプスの山々は、やはり人気がある。 シーズン中や5月の連休などは、早朝5時前にJR穂高駅に着く急行【アルプス】号(今や臨時運行となってしまったが・・)に連絡するバスが運行される。 これによって行程日数が1日短縮できるので、大変貴重なことである。 しかし、列車の中で眠れなかった時は、それなりの覚悟が必要だが・・。 
それでは、5月の連休中・・、すなわち〔積雪期〕に早朝5時発のバスを利用する形で、『合戦尾根』を使って燕・常念の縦走をしてみよう。
     左 鷲羽岳への落日・・
     右 昨日の夜雪が降ったか・・ 
            真っ白の衣をまとう槍の穂先・・
バスの終点である《中房温泉》で下車して、《温泉山荘》の売店横をすり抜けると『合戦尾根』コースの登山口だ。 
登山口に入ってすぐにジグザグの登りとなる。 これをひと登りで尾根上に出て、少し伝うと《第一ベンチ》と呼ばれる休憩所に着く。 ベンチの後ろを10m下ると冷たい清水が湧いていて、この湧水がこのコース唯一の水場となっている。 

ここからは、傾斜が増して長い急登となる。 長くキツい登りに汗が出て、体が火照ってくるだろう・・。 
そろそろ、厚着のジャンバーがうっとおしくなってくるはずだ。 この急登の途中にある《第二ベンチ》の休憩所で、厚い上着を一枚脱ごう。 だが、脱いだ上着は、ザックの上にいつでも取り出せるようにしておこう。 

これから進んでいく『合戦尾根』の上部はまだまだ白銀の世界で、少しでも休憩すると強く冷たい風に体温を奪われるからである。 なおも続く急登で《第三ベンチ》の休憩所を越えると、やがて樹林帯より抜け出して《合戦小屋》前の広い丘の上に出る。 そろそろ、この辺りから銀世界が広がってくるはずだ・・。 この広い丘の上に立つ《合戦小屋》は売店のみの休憩所で、荷揚げ専用のロープウェイでジュースやカップメンなどを取り寄せている。 

ここから上は潅木帯に変わり、雪が枝に模様を創造し始める。 もちろん、足元も踏みしめても抜けない程の積雪となってくる。 辺りは明るく展望は利くが、それは裏返すと常に風に吹きっさらされるということでもある。 
《合戦小屋》からのひと登りで、最初のピーク・《合戦沢ノ頭》に出る。 このピークからの展望はなかなかのものである。 真っすぐに続く『合戦尾根』の頂点に建つ《燕山荘》・・、そして白銀と岩のまだら模様の燕岳・・、その背後にうっすらと姿を魅せる餓鬼岳・・と、尾根上にに一直線に並んで見渡せる。 

ここからは、強風に煽られるのを注意しながら小1時間歩いていくと《燕山荘》に着く。 
今回は〔積雪期〕ということで、無理をせず山荘泊山行の形式を取ろう。 荷物を山荘に預けて、“山の美術館”・岩のオブジェを魅せる燕岳を往復してこよう。 雪と風が長い年月をかけて花崗岩を彫刻した岩のオブジェは、1日かけてゆっくり周っても飽きることはない。 

“イルカ岩”や“ダイヤモンドピック”・“水晶の剣”など、色々と名前を連想してみるといい・・。 
ゆっくりと岩のオブジェを観賞しながらでも、小1時間もすれば燕岳
 2763メートル の頂上に着く。 
頂上からは、槍・穂高の山なみが残雪眩しくそびえ立っている。 帰りも、岩のオブジェを観賞しながらいこう。 

今日宿泊する《燕山荘》は、“高山のコテージ”と呼ばれる程おしゃれな造りで、山荘主のホルン演奏や西洋風の豪華な夕食などサービス満点だ。 ただ、”山の民”が求める素朴さは少なくなってきている。 
何もないランプ灯りの土間小屋が抱く素朴さと、このような贅沢さとは全く相反する。 
どちらを望むかは人それぞれだろう・・。
             “芸術”岩のオブジェ・・

 左上 御存知! “イルカ”岩・・

 右上 燕岳は岩のオブジェの大キャンパスだ・・

 中下 命名“ダイヤモンドピック”(宝石の針)はどうだろう・・

 右下 “水晶の剣山”と見まがうばかり・・
 《2日目》 稜線を伝って大天井岳・常念岳へ

朝、運が良ければ、槍・穂高連峰から昇る御来光が拝めるであろう。 また、朝日に染まる燕岳・岩のオブジェも堪能できるだろう。 これらを眺めたなら、出発しよう。 山荘を出発してからしばらくは、燕岳の続きのような風化花崗岩が散らばる稜線上をいく。 右手に槍・穂高連峰、左前方に大天井がそびえ、振り返ると燕岳が残雪と風化花崗岩のまだら模様で大きくそびえ立っている。 これらを見ながら歩いていくと、やがて巨大な露岩帯に差しかかる。 

この露岩帯は特徴ある岩が多く、いろいろな名前がつけられている。 中でも有名なのが、ガマガエルのような《蛙岩
 げいろいわ 》だ。 通常の縦走路は《蛙岩》の左側をすり抜けていくのだが、稜線に雪が載る〔積雪期〕はこのルートが雪で吹きだまるので、《蛙岩》の間を直接くぐり抜けてから岩の上に這い上がってこの上を伝う“冬道”を使うことになる。 
しかし、この“冬道”は《蛙岩》の空洞の中をくぐり抜けるなどかなり狭く、大きな荷物だとつかえて岩の上に這い上がれないかもしれない・・。 

これを越えていくと、《大下り》に差しかかる。 標高差100m位の下降だが《大下り》という程の厳しさはなく、いささか“看板倒れ”の感がある。 雪も風で飛ばされたのか余りなく、下地の花崗砂岩が見え隠れする。 
見た目には何ともなさそうに見えるが、やはり〔積雪期〕の“下り”ということで注意が必要だ。 
特にこのような吹きっさらしの所は、早朝時はアイスバーンとなる可能性が高い。 

《大下り》を最低部の“窓”まで下ると、稜線の左側を巻くように登り返す。 
上を見上げると、《為右衛門吊岩》と呼ばれる岩が向こう側の下降点の上に乗っかっている。 
これを登りきって岩の左側をすり抜けると、痩せ尾根で両側は切り立ってはいるが起伏のない平坦な歩きよい道をいくようになる。 やがて、眼前に大天井岳が大きく迫り寄ってくる。 

これより、この大天井岳に登っていくのだが、この山の取付の前に一度《切通岩》の鎖場を下降しなければならない。 
鎖場といっても高さ3m位の《切通岩》を下降するだけなのだが、下に残雪のある時は注意が必要だ。 
これを下って鞍部に出ると、いよいよ大きくそびえ立つ大天井岳への直登が始まる。 
夏ならば頂上を通らずに左側を巻いていくコースもあるが、〔積雪期〕はこれが雪に覆われて使えず、嫌でも頂上を越える直登コースを行くことになる。 

これから登っていく大天井岳の北面はガレにガレた砕石帯で、雪ならぬ砂利石で滑る嫌な登りだ。 
登っていくと途中に丸太の棒が一本立てかけており、ここが中間地点のようである。 
ここから大岩が積み重なりだして、これらを這い上がるようにつめていくと、小さな祠の立つ大天井岳
 2922メートル の頂上だ。
    上 節々に雪を載せる大天井岳・・
    下 大天井岳も『裏銀座』の絶好の展望台だ・・
この山系の最高峰であるこの頂からは、大きくそびえる槍の穂先が印象的だ。 
この大天井岳は典型的な非対称の山で、山荘の建つ南斜面は牛の背中のようにノッペリとしている。 そして、その稜線上には雪が満々と積もっている。 
ラッセルをしても追いつけない程である。 

大天井岳の肩に建つ《大天荘》を見送って、緩やかな稜線を下り気味に歩いていく。 稜線上にコブのように突き出る中天井岳・東添乗岳・横通岳は、全て頂上は通らずに山腹の信州側を巻いていくので、ほぼ起伏のない平坦な道となっている。 

あまりにも起伏がないので、常念岳が一層そそり立ったピラミット型に見えてしまう。 ハイマツと積雪の稜線を山頂を避けながら進んでいくと、東天井岳の山腹で大きく進路を右に変えて下のガラガラの沢へ下っていく。 

ここから先は、山肌に隠されて雪は消えている。 しかし、信州側が大きく切れ込んだ崖っぷちの下りなので、高度感はかなりある。 
これを越えると再び穂高側に移って、ハイマツと積雪に埋もれた道を歩いていく。 やがて下方に《常念乗越》てと《常念山荘》が見え出し、それと共に《常念乗越》に向かっての急下降となる。 さすがに、この下降はアイゼンが必要だ。 

これを下っていくと、豪勢な造りの《常念山荘》が建っている《常念乗越》に着く。 
山荘で宿泊手続を済ましたなら、荷物を置いての身軽ななりで常念岳へ登ってみよう。 道はガレキの緩やかな登りの後、急激に傾斜を増してイッキに登ってしまう感じだ。 この間は岩に根雪がこびり着いて滑りやすいので、アイゼンは必要だろう。 

これを登りつめると、方角指示盤の裏側から常念岳
 2857メートル の頂上に出る。 
さすがは“槍・穂高の展望台”との呼称通り、素晴らしい展望が広がる。 中でも《大キレット》の切れ込み゜は、“そそる”眺めである。 そして、蝶ヶ岳への稜線は、深く切れ込んだ山なみに残雪を筋模様に残して美しい。 
頂上の方向表示盤で山名を確認しながら、山頂での楽しいひとときを過ごそう。 
槍・穂高の展望台の眺めを十分味わったなら、往路を山荘まで戻る。 
下りは根雪の着いたガラ場の下りとなるので、アイゼンを引っ掛けたりせぬように注意しよう。
こちらから登ると結構辛い・・ 蝶ヶ岳に続く山なみ・・ 常念岳山頂は槍ヶ岳の絶好の展望台・・ 常念岳にて・・
 《3日目》 一ノ沢谷に沿って下山

山荘泊なので“夜明け前”とはいかないが、朝天気が良ければ常念岳に再び登って槍・穂高の朝の風景を楽しんでくるといい。 常念山系の素晴らしい景色を胸に下山しよう。 山荘で下山口でのタクシーの迎車予約ができるので、下山者2〜3人を見つけて一緒に相乗りの予約をしておくといいだろう。 下山コースは、最短ルートの《一の沢谷》コースだ。 
最短コースゆえに、下降点からの傾斜はかなり急である。 

まず、樹林帯の中の急下降から始まる。 ここまではたとえ滑っても樹林をつかむことができるので、雪があってもそんなに心配することはないが、この樹林帯を抜け出した所からが問題となる。 通称・“胸突き八丁”の急下降だ・・。 
上部稜線付近の樹林帯の縁から、“胸突き八丁”を埋め尽くす大きな雪渓の中央へトラバースしていく。 
これは、アイゼンがなければまず通過できないであろう。 それも四本爪の簡易アイゼンでは心許ない。 
前爪のあるキックステップに対応できるアイゼンを用意したいものである。 

このトラバースを過ぎると、最大傾斜40°近くでイッキに300m下っていく。 
夏ならばジグザグに切って登っていくのだろうが、今は雪が道を全て埋め尽くして直下降しかトレースがない。 
従って、これを“滑り落ちず”に慎重に下っていくしかないのだ。 もちろん、下っている間は腰を下ろしての休憩は御法度だ。 そんなことをすれば、見る見るうちに滑り落ちてしまうだろう。 

この“胸突き八丁”さえ越えてしまえば、後は常念岳を振り返りながら雪道を下っていくだけだ。 
やがて、雪が消えて沢地形に出ると河原を伝って進み、《王滝》という沢滝付近から左の土手に上がっていく。  
後は林道並みに整備された道を行くと、林道終点に出る。 林道終点の転車場では、たぶん山荘で予約したタクシーが待っていることだろう。 タクシーの同乗者の同意が得られたなら、途中の《穂高温泉郷》でひと風呂浴びていきたい所だ・・。
常念よさらば・・ 一の沢を振り返る・・        上 大キレットに吹きだまる豪雪・・
       下 “また来るぞ・・” 槍の穂先ともしばしお別れ・・

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