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だが、翌日の早朝、西崎は、三角公園にいた。
夜が明けて間もない公園内は、まだ人の姿もまばらだった。
豊かな日本を象徴するように都心には、高級マンションが並ぶ。
だが、対比するかのように公園内には、日陰に追いやられ行き場を失ったホームレスたちの
終の居場所となっている薄汚れて色あせた青いテントやダンボールの仮の宿が
並んでいるのも今のこの国の実情でもあった。
公園内にある水道で顔を洗っている男性に西崎は、声を掛けた。
「えっ・・・俺に聞きたい事って何です」
初老の男性が、不思議そうな顔で西崎を見上げた。
「ここに以前住んでいたシゲさんの事で聞きたいんだ」
「シゲさん・・・・さぁ俺は、そんな人知らないな」
「そんな筈はない。ここで酔っ払って寝込んでしまった俺の知り合いが
以前、シゲさんのテントに泊めて貰った事があるって言っているんですよ」
「そういや、三年前に酔っ払った刑事さんを泊めてやったって言ってたな。
あんた・・・・もしや刑事さん」
「ええ。広域の西崎と言います」
「そうですか。俺、てっきりあの男が、手を回したんじゃないかと」
「あの男って」
「よくシゲさんの所に来ていた男の人だよ。
半年ほど姿を見せなかったが、最近、また来ているようだったな。
来るたびに食べ物やら差し入れしてくれるんだよ。
シゲさんは、いい人だったからね。
俺たちにも差し入れがあった日には、惜しみなく分けてくれてね。
その男が、昨日、やって来て、シゲさんの居所を教えろって言うんだよ。
シゲさんは、俺たちにも何も言わずに二日前に突然どこかへいっちまって
朝起きたらテントごといなくなっていたんだ。それで心配していたら昨日、あの男が来て
シゲさんの居場所を教えろって・・・けど俺も知らないんだ」
「ここは整備されるんじゃないんですか」
「いいや・・・そんな噂は聞かないな」
「そうですか。ところで、その男ってシゲさんの知り合いですか」
「いいや。確か怪我をして困っていた所を助けてやったって言ってたな。
あまり自分の事を話したがらない人だったが、あの男の事を一度だけ息子みたいな人だって言ってたな」
「息子みたいな・・・・。
それでその男性の人相ですが、どんな人でしたか」
「うーん、年の頃ならあんたより少し上くらいかな。
シゲさんにはいい人なんだろうけど見た目は、少々おっかない顔していたな。
そうそう、ここんところに傷があったよ」
男は、自分の右頬をさして言った。
「朝早くから色々ありがとうございました」
「刑事さん、シゲさんの事頼みます。あの人はいい人なんですよ」
西崎は、その足で広域に駆け込んだ。
「課長!杉さん!」
「どうしたの。そんなに慌てて」
「実は・・・」
「右の頬に傷のある男・・・・もしかしたら元金流会の大迫じゃないのか」
西崎の話からそう言ったのは、秋本である。
「秋本。知っているのか」
「杉さん、去年の正月明けに俺が、所轄の応援で駆り出された事件があったでしょ」
「あぁ・・・そう言えば、あの時も正月早々の事件でマルボウ出身の秋本に白羽の矢が立ったんだったな」
「それが金流会なんですよ。
密告による覚せい剤の密売容疑で踏み込んだんですが、全員が逮捕された事で
元々小規模の暴力団だっただけにそのまま解散したんですよ。
その時、確か・・・・大迫という右頬に昔の喧嘩の古傷がある男がいました。
組の人数も少なかったので一人ひとりよく覚えています」
「正美ちゃん、顔写真が出るか」
「はい」
暫くして
「ありました。大迫弘樹・・元金流会構成員で覚せい剤取締法違反で逮捕されていますが
主犯格ではなかったため去年の11月にすでに出所しています」
「去年の11月に出所・・・杉さん、時期的にも合いますよね」
「それと妙な事に踏み込んだ時には、思ったよりも覚せい剤の量が少なくて・・・・な。
組員の住居は勿論、あらゆる場所を捜査したが、結局、それ以上の覚せい剤は、出て来なかったんだ」
秋本は、得意げに西崎に説明してくれた。
「課長!手入れが入る前に他に移したとは考えられませんか」
「それがシゲさんのテントだと西崎さんは、思っているのね」
「まだ確信はありませんが、大迫が、半年後に再びシゲさんを訪ねるようになった頃と
大迫の出所時期が、重なります」
「そして、シゲさんに預けておいた覚せい剤で出所後売人をしているって事だな」
「ええ」
「西崎!もう一度顔を確認して貰ってくれ。秋本も一緒に行ってくれ」
「わかりました。すぐ行って来ます」
西崎と秋本が、出て行った後、高見が、姿を現した。
「杉さん、慌てて西崎たちは、どこへ行ったのです」
「おっ高見か!ちょうどいいところへ来た」
「どうしたんですか」
「おまえが先日会ったホームレスの事だが・・・な」
「シゲさんが何か」
杉浦は、西崎が聞いて来た情報を高見に報告した。
「どういう意味ですか。まさか・・・西崎は、シゲさんを疑っているのか」
「疑っているのじゃない。ただ大迫は、過去に逮捕歴がある。
それに大迫と接触があった時期も今回の事件と重なっている。
西崎が一番に疑問に思ったのは、シゲさんのついた嘘だ」
「嘘って・・・・シゲさんが、どんな嘘をついたんです」
「西崎の話しでは、三角公園は、今のところ整備される予定に入ってないそうだ」
「でも杉さん・・・・それは、きっとシゲさんが何か勘違いして・・・・」
「大迫がシゲさんを捜している事から二人の間に何らかの関係があって
シゲさんは、大迫から逃げたと考える方が正しいのじゃないのか」
「それだけでシゲさんを疑うなんておかしいですよ。それにその男が大迫だと限らない」
そこへ西崎から電話が入った。
「そうか・・・・わかった。一度戻って来てくれ」
「杉さん!」
「高見!やはり大迫だった」
「しかし・・・・大迫だって俺と同様、シゲさんに助けて貰っただけじゃないですか。
シゲさんは・・・困った奴を黙って見ていられない人間なんだ。それを・・・西崎の奴」
「高見!よさないか。
シゲさんがこの事件に関わっているかは今のところ不明だが、大迫が関係しているのは事実だ」
「そんな・・・・シゲさんが・・・」
高見は、廊下に飛び出して行った。
「高見さん!どこへ行くの!」
玲子の声が追って来る。
「俺は・・・・この目で確かめないと信じない。シゲさんに会って来る!」
「高見さん!勝手な行動は、許さないわよ」
またしても玲子の制止の声を振り切って高見は、シゲの元へ向かった。
暫くして秋本一人が戻って来た。
「課長!若杉さんの友人にも大迫の写真を見て貰いましたら
一度ライブの後で会っているのを見た事があると思い出してくれました」
「これで大迫が関係していた事が証明されたわね。西崎さんは」
「西崎は、シゲさんに会いに行きました」
「それじゃ高見さんとぶつかるんじゃ・・・・まずいですよ」
工藤が、怒り心頭の高見を思い出して心配した。
「そうね・・・・みんなもすぐにシゲさんのところへ行ってちょうだい!」
「わかりました。工藤!案内しろ」
その頃、広域を飛び出した高見は、シゲと会う事ができずにいた。
すでにテントにシゲの姿はなく、辺りにもシゲの姿は、見当たらなかった。
「どこへ行ったんだ・・・・シゲさん」
そのシゲを西崎は、今、尾行していた。
高見より一足先に西崎が、公園に着いた時、シゲは、どこかへ出かけるところだった。
大迫と会うのでは・・・・咄嗟に西崎の頭をそんな思いが掠めた。
シゲが、やって来たのは、公園の裏手にある小さな廃工場だった。
そして待っていたのは、西崎の想像通り大迫だった。
「捜したぜ・・・じいさんよ」
「大迫!頼むから自首してくれ」
「何を言ってるんだ」
「あの亡くなった二人は、この前、あんたに頼まれて預かっていた品物を公園に取りに来た人たちだった。
あの中に覚せい剤が入っていたんだな。それで全部わかったんだ。
去年、あんたが、逮捕される前に俺に預かって欲しいと持って来た荷物も覚せい剤だった事が」
「だから俺から逃げたって言うのか。けど俺が捕まればじいさんも同罪だぜ」
「大迫・・・あんたが自首するなら勿論、俺も一緒に逮捕される」
「何言ってんだ。このじじい!俺は、逮捕なんて真っ平だ!
俺が、あんたをここに呼んだのは、邪魔なあんたに死んで貰うためだ。あんたは、知りすぎたんだよ」
「大迫・・・」
「死ね!」
懐から銃を取り出すとシゲに向けた。
「危ない!」
西崎は、その瞬間、銃口の前に飛び出して行ったが、大迫のあまりにも素早い動作に
丸腰の西崎は、シゲを庇うのがやっとだった。
銃声と同時に息が止まるほどの衝撃が、身体中を走り抜け、胸をえぐられるような激痛が襲った。
大迫の撃った銃弾は、非情にも西崎の胸を貫いていたのだ。
「くっ・・・」
短いうめき声と共に崩れ落ちた西崎にシゲは、驚きの声を上げた。
「け・・・刑事さん!どうしてここへ」
「刑事だと!」
大迫の顔から一瞬、血の気が引いた。
「大迫・・・・だな。もう・・・逃げられない・・・・」
西崎は、銃弾が貫いた鮮血に染まる胸を手で押さえて必死に立ち上がりかけたが
重心が揺らめき、目が霞んで再び床に沈んだ。
倒れた西崎に再び銃口を向ける大迫にシゲが叫んだ。
「今に警察が来る。刑事なんか捨てて置いて、逃げるんだ!早く!」
「止めを刺してやるんだ」
「どうせこの傷だ。すぐに死ぬだろう。それより捕まりたいのか」
「捕まりたくねえよ。だが、逃げると言ってもどこに逃げるんだ」
「銚子にある小さな漁村に俺の住んでいた家がまだ残っている。
そこへ行こう。そこへ行ってから・・・・後の事は・・・・考えればいい」
「じいさん!あんたも同罪になるぜ」
「そんな事気にしないさ。早く!すぐにこの刑事さんを追って仲間が来るはずだ」
撃たれた瀕死の西崎を残しシゲは、大迫と廃工場を後にした。
刑事魂3