By 松本直樹
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ウェブページ掲載: 2011年9月18日
2011年秋、ついに米国特許法の先発明主義の法改正が成立しました。ここに成立した法文のコピー(pdf)。一部では、先願主義と呼ばれても居ます。正しいでしょうか?
改正法の先発明主義改正の点は、先発明主義ないし発明時基準主義からは変わってはいるものの、これは決して、素直に先願主義あるいは出願時基準主義と言えるものではありません。従来の発明時基準主義との折り合いを付けることをかなり重視した結果と見られます。
公表時が重要になっています。ただし、出願まで秘密を守るのを前提とするなら(外国への出願を考えるとこれが必要となります)、先願主義とも言えます。
出だしは出願時基準になっていますが、そこからの乖離として、まずグレースピリオドがあります。自分で公表してからでも、1年以内に出願すれば OKであり、まずこの限りにおいて、出願時点の新規性を不要としていますね。これが第一の先発明主義との調整になっています。これはまあ当然の調整で、よく知らている点だと思います。
102の(b) EXCEPTIONS.の(1)です:
(b) EXCEPTIONS.-
(1) DISCLOSURES MADE 1 YEAR OR LESS BEFORE THE EFFECTIVE FILING DATE OF THE CLAIMED INVENTION.
A disclosure made 1 year or less before the effective filing date of a claimed invention shall not be prior art to the claimed invention under subsection (a)(1) if-
((A)では自分由来の場合を規定)
(B) the subject matter disclosed had, before such disclosure, been publicly disclosed by the inventor or a joint inventor or another who obtained the subject matter disclosed directly or indirectly from the inventor or a joint inventor.
面白いと思ったのは、上記のように、単に自分での公表だけではないことです。自分が公表している場合、それよりも後に(でも自分の出願よりは先に)他社か並行発明によって先願していても、大丈夫なのですね。発明だけでは、優先的な立場は確保できないものの、公表していれば、これが重要な日付になるわけです。
もともと、米国の先発主義の先願主義に対しての大きな相違は(先願主義でもグレースピリオドがいろいろとあると大分変わってきますけれど基本的には)、米国では先に発売してから、それが好評だということで、おもむろに出願する、というプラクティスが取れることです。それがほとんどそのまま今後も可能なのですね。微妙に日程が変わってきますけれども、本質的なところは残っています。他国での権利取得を考えない場合には、出願を急ぐ必要はないのです。
また、出願が競合した場合にも、同様のところがあります。先に公表している場合には、先願が優先ではないんですね。102の(b) EXCEPTIONS.の中の(2)の(B)が次の様になっています:
(B) the subject matter disclosed had, be fore such subject matter was effectively filed under subsection (a)(2), been publicly disclosed by the inventor or a joint inventor or another who obtained the subject matter disclosed directly or indirectly from the inventor or a joint inventor; or
結局のところ、公表が早い者が勝つことになります。インターフェアランスはないので、直接に対決して勝負をつけるわけではなく、それぞれの審査(場合によっては後日の訴訟)の中で、そういう特許性判定がされます。それで矛盾の生じない要件になっていると思います(思いますが、確信はないですけど)。
すなわち。自分が出願の前に公表している場合には、出願まで秘密を保っている他社(の出願)との関係では次の様になります。たとえ他社が先願であっても、自分の公表よりも後であれば、自分の方の特許性は否定されません。勝ちです。この場合、その他社の出願の方では、その出願の時点での新規性が無いので(こちらの公表に基づいて)、特許性なしとされます。
両者が出願の前に公表している場合には、結局は公表の先後によって決まります。
この改正を先願主義というのには、先願主義からの乖離が大きすぎるように思います。Foley & Lardner の解説文書が「先願主義への歩み寄り」と書いていますが(ここにpdf、そのコピー、またここにhtml)、「歩み寄り」との控え目な表現がもっともです。秘密を保っていれば、出願日が重要ですが、米国のことだけを考えればその必要はなく、それで先に公表した場合には公表日こそが決定的です。
むしろ、発明時基準主義から、「公表時基準主義」になった、と言えそうです。勿論、他国でも権利を得ようという場合には、出願まで秘密に保つことを基本とすることになりますから、この場合には、新規性等の特許性の基準時も、出願時ということになります。
従来の状況は、外国でも権利を取ろうとする国際企業は、米国の先発明主義を積極的には利用できず、つまり、出願まで秘密を保つ必要がありました(これは今後も基本的に同じです)。このため、先願主義への移行を望んでいたわけです。これに対して、それ以外の人たち(先発明主義の利用の出来た人たち、乃至その代弁者と称する人たち)からは抵抗があるという状況だったわけです。出願を急がなくて済むのはメリットですから。
そこから今回の改正でどう変わったのかと考えると、出願を急ぐ必要がないのは、米国だけを考えた場合には、相変わらずです。つまりここは折り合いを完全につけてますね。
妙なことになっているのは、次の点です。国際企業にとっては、先発明主義を積極的に利用はできなかったものの、結果的に自分の出願に先立つ先行技術があった場合でも、ラボノートを維持していてその技術よりもさらに前の発明を立証できた場合には、米国の特許は維持できたわけですね。ところが今回の改正で発明時基準ではなくて公表時基準になったので、国際企業は出願前に公表はしないため、こういうメリットを後から享受することもなくなってしまいます。
結局この改正は、先発明主義を維持しようとしてた人たちに非常に大きく配慮したもの、と思います。以前の改正案(成立しなかった改正案)はどうだったんですかね? ここまで配慮していたんでしょうかね?
逆に言って、改正したと言う割りには、先願主義への移行を支持していた方を犠牲にしているというか不利にしている感じですよね。また、公表時がこれほど重要になっているというのが、それ自体なかなか面白い仕組みだと思います。
それでも、これまでの法制度で単に発明が古かったと言われる場合に比べると、権利を主張される方にしても、公表があったのなら、まだ納得できるだろうとは思われます。公表を知っていた場合ならもちろん、そうでなくても、公表まで先にしていたなら、それにもとづいての特許権が主張されても仕方がない、というわけです。実際的に言って、発明が前に成立していたとの主張には、怪しげなラボノートだなあと納得できない場合も少なくないように思われますし。
先願主義と言える面もあります。というか、観点によっては、あるいは出願人のやり方によっては、先願主義の面が現れるわけです。
国際企業は出願まで秘密を保とうとするはずですが、そうした出願人だけを想定するなら、今回の法改正は先願主義への移行と言えます。従来は、その場合でも場合により発明時が問題となり得たのですが、今後は、出願前に公表していない限り、出願の時期こそが重要です。
でも、それだけではないところが、なんとも面白いです。米国特許だけを考えた場合には、従来との相違はごく僅かであり、先に公表してから出願して特許が得られます。だからこそ法改正が成立したのかも知れません。
また、先願主義から見ての批判に対しては、十分に応えていると思われます。つまり、先願主義のインセンティブ論では、公開を重要視するわけですから、それと噛み合っているとの説明が出来そうです。
(9月18日記: まだ書くことがあるのですが(手続の関係や日本との比較など)、とりあえずアップしておきます。)