9x9=81 January 1999


西田スペシャルの概略

[January 3, 1999]

 西田スペシャルはだにいさん創案の対四間飛車戦法である。詳細は「だにいの将棋ホームページ」にある。……と、これだけではなんなので、主要な変化を書いておく。

初手から第1図までの指し手

▲7六歩▽3四歩▲2六歩▽4四歩▲4八銀▽4二飛▲5六歩▽7二銀▲6八玉▽3二銀▲7八玉▽9四歩▲5八金右▽9五歩▲6六角▽4三銀 ▲2五歩▽3三角▲8八銀▽5二金左▲8六歩▽6四歩▲7七桂▽5四銀▲5七角▽6二玉▲6八金寄▽7一玉▲8九玉▽8二玉▲5九銀▽7四歩▲7八金寄▽6三銀引▲6八銀▽7三桂▲6六歩▽4五歩▲7九金寄▽5四歩▲6七銀(第1図)

後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・v金 ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v玉v銀 ・v金v飛 ・ ・ ・|二
| ・v歩v桂v銀 ・ ・v角v歩v歩|三
| ・ ・v歩v歩v歩 ・v歩 ・ ・|四
|v歩 ・ ・ ・ ・v歩 ・ 歩 ・|五
| ・ 歩 歩 歩 歩 ・ ・ ・ ・|六
| 歩 ・ 桂 銀 角 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ 銀 金 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 玉 金 ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手の持駒:なし

  第1図(▲6七銀まで)

 このように玉を8九に潜って金銀で固める戦法である。藤井システムに代表される四間飛車からの速攻を避けながら堅い玉形を築き上げられるのが特長である。


西田スペシャル対策の基本構想

[January 3, 1999]

 四間飛車から見て西田スペシャルについて検討する場合は次の二点を考えることになる。

  1. 西田スペシャルに十分に組ませると不利になるか。
  2. 早い段階から西田スペシャルに反発する順はあるか。

 西田スペシャルは玉側の桂を跳ねるので穴熊に比べると見た目ほど玉は堅くない。したがってそもそも西田スペシャル組み上がりの局面が四間飛車不利なのかどうかをまず検討する必要がある。が、これはだにいさんのページで検討されているのでこのページでは後回しにする。
 早い段階から反発する順としては以下の三つが考えられそうである。

  1. 角交換を迫る。
  2. 角を狙いにいく。
  3. 桂頭を狙いにいく。

 このうち角交換を迫る手順が一番簡単に考えられそうなので、まずはこれについて検討する。こんな手順である。

初手から第1図までの指し手

▲7六歩▽3四歩▲2六歩▽4四歩▲4八銀▽4二飛▲5六歩▽7二銀▲6八玉▽9四歩▲7八玉▽3二銀▲5八金右▽3三角▲2五歩▽5二金左▲6六角▽6二玉▲8八銀▽7一玉▲8六歩▽8二玉▲7七桂▽9五歩▲6八金寄▽4五歩(第1図)

後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v玉v銀 ・v金v飛v銀 ・ ・|二
| ・v歩v歩v歩v歩 ・v角v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・|四
|v歩 ・ ・ ・ ・v歩 ・ 歩 ・|五
| ・ 歩 歩 角 歩 ・ ・ ・ ・|六
| 歩 ・ 桂 歩 ・ 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ 銀 玉 金 ・ 銀 ・ 飛 ・|八
| 香 ・ ・ 金 ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手の持駒:なし

  第1図(▽4五歩まで)

 ▽3二銀型で待機して▽4五歩と突くのである。第1図から角交換になれば▲6六角の一手が無駄になるし▲8八銀の悪形も残る。▲5七角と交換を避けた場合は▽5四歩から角頭を攻められそうだし先手は好形になるまでにかなり手数が掛かる。

 第1図以降については項を改めて考える。


中村修八段の西田スペシャル

(第47期王座戦二次予選 ▲藤井猛竜王 ○−× ▽中村修八段 平成10年(1998年)12月18日)

[January 25, 1999]

 昨年十二月十八日に行なわれた第47期王座戦の二次予選でなんと中村八段が西田スペシャルを採用した。しかも相手は藤井竜王である。中村八段が偶然西田スペシャルと同じ布陣を考えついたのかどこかで本家西田スペシャルを見掛けて採用したのかは不明だが、ともかくプロの八段が公式戦で試す気になったというのは西田スペシャルにとって大きな収穫だと思う。この将棋の観戦記が今年一月十一日から日経新聞夕刊の将棋欄に掲載されたのでこのページにもその手順を取り込んでおく。

初手から第1図までの指し手

▲7六歩▽3四歩▲6六歩▽5四歩▲7八銀▽8四歩▲6八飛▽4二玉▲1六歩▽3二玉▲6七銀▽6二銀▲3八銀▽5三銀▲1五歩▽8五歩▲7七角(第1図)

後手:中村修八段
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・v金v銀v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v玉v角 ・|二
|v歩 ・v歩v歩v銀v歩 ・v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・v歩 ・v歩 ・ ・|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩|五
| ・ ・ 歩 歩 ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 角 銀 歩 歩 歩 歩 ・|七
| ・ ・ ・ 飛 ・ ・ 銀 ・ ・|八
| 香 桂 ・ 金 玉 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:藤井猛竜王
先手の持駒:なし

  第1図(▲7七角まで)

 なんか後手の手順が妙だが第1図はよくある形。

第1図から第2図までの指し手

▽5一金右▲5八金左▽4四角▲4六歩▽4二銀引(第2図)

後手:中村修八段
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・v金v金v銀v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・v銀v玉 ・ ・|二
|v歩 ・v歩v歩 ・v歩 ・v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・v歩v角v歩 ・ ・|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩|五
| ・ ・ 歩 歩 ・ 歩 ・ ・ ・|六
| 歩 歩 角 銀 歩 ・ 歩 歩 ・|七
| ・ ・ ・ 飛 金 ・ 銀 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ 玉 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:藤井猛竜王
先手の持駒:なし

  第2図(▽4二銀引まで)

 ▽5一金右が怪しい一手。しかし第2図まで進んでみるとこの手順は結構有力な気がしてきた。西田スペシャルの途中図としては比較的安定な形で、何よりも右銀をきっちり使えているところがよい。また、穴熊にする余地も残っている。……とはいってもやっぱりどこか不自然な形ではあるな。

第2図から第3図までの指し手

▲4八玉▽2二銀▲3九玉▽3三桂▲7五歩(第3図)

後手:中村修八段
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・v金v金 ・ ・v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・v銀v玉v銀 ・|二
|v歩 ・v歩v歩 ・v歩v桂v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・v歩v角v歩 ・ ・|四
| ・v歩 歩 ・ ・ ・ ・ ・ 歩|五
| ・ ・ ・ 歩 ・ 歩 ・ ・ ・|六
| 歩 歩 角 銀 歩 ・ 歩 歩 ・|七
| ・ ・ ・ 飛 金 ・ 銀 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 金 玉 桂 香|九
+---------------------------+
先手:藤井猛竜王
先手の持駒:なし

  第3図(▲7五歩まで)

 藤井竜王は第2図で▲4八玉としたがこれだと後手は穴熊に組めるのではないだろうか? ▲4八玉に▽2二玉▲3六歩▽1二香▲3七桂▽1一玉。▲4五歩▽5三角▲6五歩には▽3三銀と受けておく。

 中村八段は穴熊にはせず、▽2二銀▽3三桂と西田スペシャルの構えに入った。対して藤井竜王は▲7五歩。後手の角は盤面左側に引くことになりそうで、▲7五歩はその角の働きを制限しつつ8一の桂も封じた良い手なんだろうと思う。

第3図から第4図までの指し手

▽5三角▲7六銀▽9四歩▲7八飛▽2一玉▲5九角▽4四角▲6七銀▽8四飛▲7六飛▽5五歩▲2八玉▽3一金▲3六歩▽4一金右▲4七金▽3二金右▲7七桂(第4図)

後手:中村修八段
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・v金v玉v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・v銀v金v銀 ・|二
| ・ ・v歩v歩 ・v歩v桂v歩v歩|三
|v歩v飛 ・ ・ ・v角v歩 ・ ・|四
| ・v歩 歩 ・v歩 ・ ・ ・ 歩|五
| ・ ・ 飛 歩 ・ 歩 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 桂 銀 歩 金 ・ 歩 ・|七
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ 銀 玉 ・|八
| 香 ・ ・ ・ 角 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:藤井猛竜王
先手の持駒:なし

  第4図(▲7七桂まで)

 第4図は先手優勢らしい。後手の陣形の評価は「盤上、中村の指し方がおかしい。ひたすら駒をくりかえているが、これも藤井システムの影響である」「後手の玉形は、金銀四枚で固めているが、位置が2一で、1二香、1一玉の穴熊に比べて一路戦場に近い。そこに難点がある」(河口六段)、「手数をかけた割に固くなっていません。穴熊より劣ります。作戦が疑問ですね」(高橋九段)と芳しくない。しかしこの評価は西田スペシャルに対する評価としては的外れだと思う。

 西田スペシャルは、手数の割に堅くならないことや穴熊に比べて堅くないことを承知の上でこのように組む作戦である。第4図では先手の藤井システムに対し苦も無く玉を固めることに成功しており、この点を評価しなければならない。第4図自体は先手優勢とのことなのでここまでの後手の作戦はどこかに問題があったことになるが、西田スペシャルに根本的な問題があるのかその他の駒組みや手順に問題があったのかをよく考えてみる必要がある。

 以下はおまけ。

第4図から第5図までの指し手

▽6二角▲5六歩▽5四飛▲6五歩▽5六歩▲同銀▽5五歩▲6七銀▽4四歩▲6六銀*▽4三銀▲6四歩▽同歩▲7四歩▽5六歩▲7三歩成▽同角▲4八角▽3五歩▲5五歩▽5二飛▲3五歩▽4五歩▲同歩▽6五歩▲同桂**▽9五角▲7四飛(第5図)

*: 先に▲6四歩▽同歩として▲6六銀が優った。
**: ▲同銀は▽5五角。

後手:中村修八段
後手の持駒:歩二
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・v金v玉v香|一
| ・ ・ ・ ・v飛 ・v金v銀 ・|二
| ・ ・ ・ ・ ・v銀v桂v歩v歩|三
|v歩 ・ 飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
|v角v歩 ・ 桂 歩 歩 歩 ・ 歩|五
| ・ ・ ・ 銀v歩 ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・ ・ ・ 金 ・ 歩 ・|七
| ・ ・ ・ ・ ・ 角 銀 玉 ・|八
| 香 ・ ・ ・ ・ 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:藤井猛竜王
先手の持駒:歩四

  第5図(▲7四飛まで)

 第5図の▲7四飛は中村八段が投了したくなったほどの好手らしい。▲7四飛で▲7一飛成は▽6四歩、▲7四飛で▲6四歩は▽6八角成▲6三歩成▽4六歩でいずれも後手が良く、▲7四飛はその▽6四歩を防ぎながら▲4四歩の銀取りを見せている。この後はまだ難しいところもあったようだが藤井竜王が勝ち切った。西田スペシャルの将来やいかに。


島朗八段の藤井システム対策

[January 16, 1999]

「週刊現代」1999年1月16・23日号の島八段「ハイパー実戦塾」(p. 78)に「藤井猛竜王との対戦で発見した『藤井システム』の最新攻略手順」というのが載っていたので収録しておく。「藤井猛竜王との対戦」というのは第24期棋王戦本戦トーナメント準決勝の島八段−藤井竜王戦(平成10年(1998年)12月4日)のことで、この一局は「将棋世界」平成11年(1999年)2月号の佐藤名人と羽生四冠の対談「進化を続ける藤井システム」(pp. 52-61)でも取り上げられており棋譜はそちらに載っている。また同じ「将棋世界」2月号の「公式棋戦の動き」にも簡単な解説がある(p. 227)。ただし島八段の「最新攻略手順」は「ハイパー実戦塾」にしか載っていない。

初手から第1図までの指し手

▲7六歩▽3四歩▲2六歩▽4四歩▲4八銀▽4二飛▲5六歩▽9四歩▲9六歩▽7二銀▲6八玉▽3二銀▲7八玉▽4三銀▲5八金右▽6二玉▲5七銀▽6四歩▲2五歩▽3三角▲7七角▽7四歩▲6六歩▽7三桂▲6七金▽5四銀▲8八玉▽4五歩▲7八金▽5二金左(第1図)

後手:藤井猛竜王
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・v金 ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・v銀v玉v金v飛 ・ ・ ・|二
| ・v歩v桂 ・v歩 ・v角v歩v歩|三
|v歩 ・v歩v歩v銀 ・v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・v歩 ・ 歩 ・|五
| 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・ ・ ・|六
| ・ 歩 角 金 銀 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 銀 ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:島朗八段
先手の持駒:なし

  第1図(▽5二金左まで)

 先手居飛車に後手藤井システムで先手が端を受けると第1図となる。ここで先手が▲9八香と穴熊を見せると次のようになる。

第1図から第2図までの指し手

▲9八香▽8五桂▲8六角▽6五歩▲6八飛▽6六歩▲同金▽6五歩▲5五金▽同銀▲同歩▽同角(第2図)

後手:藤井猛竜王
後手の持駒:金 歩
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・v金 ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・v銀v玉v金v飛 ・ ・ ・|二
| ・v歩 ・ ・v歩 ・ ・v歩v歩|三
|v歩 ・v歩 ・ ・ ・v歩 ・ ・|四
| ・v桂 ・v歩v角v歩 ・ 歩 ・|五
| 歩 角 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| ・ 歩 ・ ・ 銀 歩 歩 ・ 歩|七
| 香 玉 金 飛 ・ ・ ・ ・ ・|八
| ・ 桂 銀 ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:島朗八段
先手の持駒:銀 歩

  第2図(▽5五同角まで)

 第2図で島八段は▲7七銀と打ったがその後の展開はあまり面白くなかったそうで、「最新攻略手順」では次のように指す。

第2図から第3図までの指し手

▲7七桂▽同桂成▲同金▽3三角▲5五歩▽5一玉▲6四桂▽5五角▲6五飛▽3三角▲5四歩(第3図)

後手:藤井猛竜王
後手の持駒:金 桂 歩二
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・v金v玉 ・ ・v桂v香|一
| ・ ・v銀 ・v金v飛 ・ ・ ・|二
| ・v歩 ・ ・v歩 ・v角v歩v歩|三
|v歩 ・v歩 桂 歩 ・v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ 飛 ・v歩 ・ 歩 ・|五
| 歩 角 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| ・ 歩 金 ・ 銀 歩 歩 ・ 歩|七
| 香 玉 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| ・ ・ 銀 ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:島朗八段
先手の持駒:銀

  第3図(▲5四歩まで)

 桂交換のあと後手は▽8五桂と打ちたいのだが▲6五飛が王手桂取りになるので打てない。第3図の▲5四歩に▽同歩なら▲5二桂成▽同金▲5三銀と攻めて先手よし。


第48期王将戦第一局

初手から第1図までの指し手

▲2六歩▽8四歩▲2五歩▽8五歩▲7八金▽3二金▲2四歩▽同歩▲同飛▽2三歩▲2六飛▽7二銀▲5八玉(第1図)

後手:森下卓八段
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金v玉 ・v銀v桂v香|一
| ・v飛v銀 ・ ・ ・v金v角 ・|二
|v歩 ・v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 飛 ・|六
| 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ 角 金 ・ 玉 ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 銀 ・ ・ 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王将
先手の持駒:歩

  第1図(▲5八玉まで)

 第一局は相掛かり模様の出だしとなった。第1図の一手前▽7二銀では▽6二銀もあるが、昭和61年の塚田スペシャルの出現以降は▽7二銀が圧倒的に多くなった。この戦型では先手の作戦として次の三つ

  1. 相掛かり
  2. ひねり飛車
  3. 棒銀(銀が飛車の下から出てくる)

があり、後手は全てに対処できるように駒組みを進めなければならない。第1図の▲5八玉のところでは他に▲1六歩や▲3八銀や▲9六歩も考えられ、このうち▲9六歩はやや損である……てなことが羽生善治「羽生の頭脳 8 最新のヒネリ飛車」(日本将棋連盟)に書いてある。

 第1図の先手の構えは「新塚田スペシャル」と呼ばれている。この局面を「ザ・プロ将棋 '98 振り飛車と相居飛車編」「ザ・プロ将棋 第四巻 相居飛車の闘い編」(富士通)で一括検索すると十八局出てきて、うち十二局が先手塚田八段であった。「'98年版 将棋年鑑CD-ROM」(日本将棋連盟)で検索すると五局あって羽生王将はそのうち三局に絡んでいる。一局は羽生王将が先手で後手が森内八段(平成9年1月31日の第31回早指し選手権戦)、他の二局は第38期王位戦の第一局と第三局でどちらも先手が佐藤康光八段、後手が羽生王位である。三局とも羽生王将が勝っている。

第1図から第2図までの指し手

▽1四歩▲7六歩▽6四歩▲3六歩▽3四歩(第2図)

後手:森下卓八段
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金v玉 ・v銀v桂v香|一
| ・v飛v銀 ・ ・ ・v金v角 ・|二
|v歩 ・v歩 ・v歩v歩 ・v歩 ・|三
| ・ ・ ・v歩 ・ ・v歩 ・v歩|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ 歩 飛 ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・ 歩|七
| ・ 角 金 ・ 玉 ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 銀 ・ ・ 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王将
先手の持駒:歩

  第2図(▽3四歩まで)

 第1図で▽6四歩とすると▲2四歩▽同歩▲同飛とその歩を狙われる。▽1四歩はそのとき▽6三銀を可能にした手である。これに対し先手は▲1六歩と端を受ける手もあるが、▲7六歩は場合によっては端を絡めずに攻めようという指し方である。▲7六歩までは平成9年(1997年)7月8, 9日の第38期王位戦第一局▲佐藤康光八段−▽羽生善治王位戦(羽生王位の勝ち)と全く同じである。このとき羽生王位は▲7六歩に▽8六歩と飛先交換に出ている。第38期王位戦第一局の解説は「将棋世界」・「近代将棋」とも平成9年(1997年)9月号。

 ▲7六歩に▽3四歩とすると▲2四歩から横歩を取りに来られる。▽6四歩は隙を見せない指し方だがこれに対しては▲7七角と飛先交換を阻止してしまう手もある(▲塚田八段−▽米長九段戦:第10期竜王戦ランキング戦1組,平成9年1月14日)。

 ▲3六歩とされては後手も▽3四歩とせざるをえない。▲3五歩を許して▽1三角▽8五飛の筋で逆襲する指し方もあるがこの場合▲5八玉が5七を守っていることもありうまくいかない。第2図から先手は▲3八銀としていわゆる相掛かり▲3七銀戦法を目指すのが現在の普通の指し方である。このとき新塚田スペシャルでは▲1六歩を省略してあるため従来の▲3七銀戦法より駒繰りが一手早くなる。後手が飛先交換を保留しているのはこれに対抗している意味もあると思われる。しかし羽生王将が考えていたのは▲3七銀戦法ではなかった。

第2図から第3図までの指し手

▲2四歩▽同歩▲同飛▽6三銀▲3四飛(第3図)

後手:森下卓八段
後手の持駒:歩
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金v玉 ・v銀v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金v角 ・|二
|v歩 ・v歩v銀v歩v歩 ・ ・ ・|三
| ・ ・ ・v歩 ・ ・ 飛 ・v歩|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・ 歩|七
| ・ 角 金 ・ 玉 ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 銀 ・ ・ 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王将
先手の持駒:歩二

  第3図(▲3四飛まで)

 羽生王将は横歩を取ってきた。第2図の局面から横歩を取りに行く指し方は「近代将棋」3月号の「データで見る定跡最前線」によれば前例が二局(▲佐藤名人−▽南九段戦と▲塚田八段−▽中川六段戦)あるらしいのだが「'98年版 将棋年鑑CD-ROM」にも「ザ・プロ将棋 '98 振り飛車と相居飛車編」にも収録されていない。この二局の手順については後程触れる。

 横歩取りはちょっとした形の違いがえらい違いになるので難しい。第2図と似た局面に参考1図と参考2図がある。

後手の持駒:なし          後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1     9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+   +---------------------------+
|v香v桂 ・v金v玉 ・v銀v桂v香|一  |v香v桂 ・v金v玉 ・v銀v桂v香|一
| ・v飛v銀 ・ ・ ・v金v角 ・|二  | ・v飛v銀 ・ ・ ・v金v角 ・|二
|v歩 ・v歩 ・v歩v歩 ・v歩 ・|三  |v歩 ・v歩 ・v歩v歩 ・v歩 ・|三
| ・ ・ ・v歩 ・ ・v歩 ・v歩|四  | ・ ・ ・v歩 ・ ・v歩 ・v歩|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五  | ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| 歩 ・ 歩 ・ ・ ・ ・ 飛 歩|六  | ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ 飛 歩|六
| ・ 歩 ・ 歩 歩 歩 歩 ・ ・|七  | 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 歩 ・ ・|七
| ・ 角 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八  | ・ 角 金 ・ ・ ・ 銀 ・ ・|八
| 香 桂 銀 ・ 玉 金 銀 桂 香|九  | 香 桂 銀 ・ 玉 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+   +---------------------------+
先手の持駒:歩           先手の持駒:歩

  参考1図(▽3四歩まで)      参考2図(▽3四歩まで)

 参考1図では▲2四歩は成立しない。▲2四歩に▽8八角成▲同銀▽3五角▲5六飛▽2四歩で一歩損になってしまう。以下▲7七角▽3三桂▲3六歩としても▽2六角が王手となり、▲4八銀の受けに▽4二銀でダメ。

 同じようでも参考2図なら▲2四歩は成立する。▲2四歩に▽8八角成▲同銀▽3五角▲5六飛▽2四歩は▲7七角▽3三桂▲3六歩▽2六角に今度は▲3七銀と先手で受けることができ、以下▽4四角▲同角▽同歩▲5三飛成で先手が良い。このため参考2図で▲2四歩とすると▽同歩▲同飛▽6三銀▲3四飛(参考3図)と進む。

後手の持駒:歩
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金v玉 ・v銀v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金v角 ・|二
|v歩 ・v歩v銀v歩v歩 ・ ・ ・|三
| ・ ・ ・v歩 ・ ・ 飛 ・v歩|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・ 歩|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 歩 ・ ・|七
| ・ 角 金 ・ ・ ・ 銀 ・ ・|八
| 香 桂 銀 ・ 玉 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手の持駒:歩二

  参考3図(▲3四飛まで)

 参考3図で後手が先手の横歩取りを直接とがめるなら先手の飛車が無事2筋に戻る前に何かしなければならない。しかし

といった具合でこの横歩取りは簡単には咎めることができない。このあたりの手順は昭和六十年代に盛んに指されたもので、現在では参考2図の▽3四歩では▽8六歩とするのが普通となっている。「'98年版 将棋年鑑CD-ROM」で検索すると参考2図一手前の局面は二十六局あってそのうち二十五局で▽8六歩としている(残り一局は▽6三銀)。

 こういった観点で第2図・第3図を見ると、▲3六歩と突いてあるため▽3五角の筋はなく、▲3八銀と上がっていないため▽2八角の筋もない。しかし▲1六歩を突いていないため▽1五角という手があり、前記▲佐藤名人−▽南九段戦と▲塚田八段−▽中川六段戦では第2図から▲2四歩▽8八角成▲同銀▽1五角▲2八飛▽2四角(参考4図)と進んでいる。参考4図は後手の一歩得と先手の持ち角の対決ということになる。森下八段は参考4図は角の活用が難しいと考えて回避したようである。

後手の持駒:歩
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金v玉 ・v銀v桂v香|一
| ・v飛v銀 ・ ・ ・v金 ・ ・|二
|v歩 ・v歩 ・v歩v歩 ・v歩 ・|三
| ・ ・ ・v歩 ・ ・v歩v角v歩|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・ 歩|七
| ・ 銀 金 ・ 玉 ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手の持駒:角

  参考4図(▽2四角まで)

第3図から第4図までの指し手

▽3三角▲3五飛▽5四銀▲2五飛▽2二銀▲3八銀▽6五歩(第4図)

後手:森下卓八段
後手の持駒:歩
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金v玉 ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・v歩 ・v歩v歩v角 ・ ・|三
| ・ ・ ・ ・v銀 ・ ・ ・v歩|四
| ・v歩 ・v歩 ・ ・ ・ 飛 ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・ 歩|七
| ・ 角 金 ・ 玉 ・ 銀 ・ ・|八
| 香 桂 銀 ・ ・ 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王将
先手の持駒:歩二

  第4図(▽6五歩まで)

 ▽3三角は先手の飛車を一手では2筋に戻らせない手である。▲3五飛に対して▽8八角成▲同銀▽3三桂(参考5図)としてあくまでも飛車の2筋復帰を阻止する指し方も考えられ、以下▲7七桂▽4四角▲8五飛▽同飛▲同桂▽8九飛(参考6図)となって後手有望だったらしい。

後手の持駒:角 歩         後手の持駒:歩
 9 8 7 6 5 4 3 2 1     9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+   +---------------------------+
|v香v桂 ・v金v玉 ・v銀 ・v香|一  |v香v桂 ・v金v玉 ・v銀 ・v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金 ・ ・|二  | ・ ・ ・ ・ ・ ・v金 ・ ・|二
|v歩 ・v歩v銀v歩v歩v桂 ・ ・|三  |v歩 ・v歩v銀v歩v歩v桂 ・ ・|三
| ・ ・ ・v歩 ・ ・ ・ ・v歩|四  | ・ ・ ・v歩 ・v角 ・ ・v歩|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ 飛 ・ ・|五  | ・ 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ 歩 ・ ・|六  | ・ ・ 歩 ・ ・ ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・ 歩|七  | 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 ・ ・ 歩|七
| ・ 銀 金 ・ 玉 ・ ・ ・ ・|八  | ・ 銀 金 ・ 玉 ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 金 銀 桂 香|九  | 香v飛 ・ ・ ・ 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+   +---------------------------+
先手の持駒:角 歩二        先手の持駒:飛 角 歩三

  参考5図(▽3三桂まで)      参考6図(▽8九飛まで)

 後手は上記手順を見送り、先手は飛車を無事2筋に戻すことができた。▽2二銀は歩を使わずに2筋を受ける手で、対横歩取りでよく見られる指し方。▽5四銀から▽6五歩が森下八段の作戦である。ところが羽生王将はこの▽6五歩の狙いに気づいていなかった。

第4図から第5図までの指し手

▲3七桂▽8八角成▲同銀▽6六歩▲同歩▽3四角(第5図)

後手:森下卓八段
後手の持駒:歩
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金v玉 ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・v歩 ・v歩v歩 ・ ・ ・|三
| ・ ・ ・ ・v銀 ・v角 ・v歩|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 ・|五
| ・ ・ 歩 歩 ・ ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 ・ ・ 歩 歩 桂 ・ 歩|七
| ・ 銀 金 ・ 玉 ・ 銀 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 金 ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王将
先手の持駒:角 歩三

  第5図(▽3四角まで)

 羽生王将は▽3四角を見落としていたらしい。▽6六歩の段階で気がついて四十七分の長考に入ったがどうにもならなかったようだ。▽6六歩を放置すると次に▽6七歩成とされ、

で崩壊しそうである。▲3七桂では▲3五歩としていれば何事もなかった。また▽8八角成を▲同金と取れば残っていたらしいのだが▽3四角に気づいてなかったのだからしかたがない。

第5図から第6図までの指し手

▲6七角▽2五角▲同桂▽2八飛▲2七歩▽3七歩▲3九金▽3八飛成▲同金▽同歩成(第6図)

後手:森下卓八段
後手の持駒:金 銀
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金v玉 ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・v歩 ・v歩v歩 ・ ・ ・|三
| ・ ・ ・ ・v銀 ・ ・ ・v歩|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 ・|五
| ・ ・ 歩 歩 ・ ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 角 歩 歩 ・ 歩 歩|七
| ・ 銀 金 ・ 玉 ・vと ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王将
先手の持駒:飛 角 歩二

  第6図(▽3八同歩成まで)

 森下八段は▽2八飛に七十分考え、これで勝ちをほぼ読み切ったようである。▽2八飛では▽2四歩として以下▲3五角▽5二玉▲2四角▽8六歩▲同歩▽同飛(参考7図)でも後手十分だったらしい。

後手の持駒:飛 歩
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・v玉 ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・v歩 ・v歩v歩 ・ ・ ・|三
| ・ ・ ・ ・v銀 ・ ・ 角v歩|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 桂 ・|五
| ・v飛 歩 歩 ・ ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 ・ ・ 角 歩 歩 ・ ・ 歩|七
| ・ 銀 金 ・ 玉 ・ 銀 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ 金 ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手の持駒:歩五

  参考7図(▽8六同飛まで)

 羽生王将は▽3四角の見落としで戦意を喪失したのかこのあと二十手ほど指してあっさり投了した。六十二手での終局は王将戦では昭和50年(1975年)第24期王将戦第六局の▲中原誠王将−▽米長邦雄八段戦と昭和62年(1987年)第36期王将戦第二局の▲中村修王将−▽中原誠名人戦の七十四手を抜いて史上最短記録。全タイトル戦でも平成6年(1994年)第63期棋聖戦▲谷川浩司王将−▽羽生善治棋聖戦の四十九手等に次ぐ史上六番目の短手数記録となった。


第48期王将戦第二局

初手から第1図までの指し手

▲7六歩▽8四歩▲6八銀▽3四歩▲6六歩(第1図)

後手:羽生善治王将
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金v玉v金v銀v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・ ・v角 ・|二
|v歩 ・v歩v歩v歩v歩 ・v歩v歩|三
| ・v歩 ・ ・ ・ ・v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 歩 ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・ ・ 歩 歩 歩 歩 歩|七
| ・ 角 ・ 銀 ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ 金 玉 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:森下卓八段
先手の持駒:なし

  第1図(▲6六歩まで)

 第二局は矢倉の出だしとなった。第一局を見落としで失った羽生王将が森下八段得意の矢倉を後手番で受けて立つのか、それともここから陽動振り飛車に変化するのか。羽生王将は前回の王将戦第二局(平成10年(1998年)1月19, 20日)で先手の佐藤康光八段に対して陽動振り飛車を指している(佐藤八段が先攻したが無理攻めだったようで羽生王将の勝ち)。

 ▲6六歩では▲7七銀とする指し方もあるが現在は▲6六歩が主流である。▲7七銀には後手中飛車が有力とされ、その場合先手は▲6八銀と手損して銀を引くことになる。といっても▲7七銀がまったく指されていないわけではなく、「'98年版 将棋年鑑CD-ROM」(日本将棋連盟)で検索すると▲6六歩が百二十八局、▲7七銀が三十局出てくる。ちなみに三十局のうち八局は先手が郷田棋聖である。

第1図から第2図までの指し手

▽6二銀▲5六歩▽5四歩▲4八銀▽4二銀▲5八金右▽3二金(第2図)

後手:羽生善治王将
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金v玉 ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・v銀 ・v銀v金v角 ・|二
|v歩 ・v歩v歩 ・v歩 ・v歩v歩|三
| ・v歩 ・ ・v歩 ・v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 歩 歩 ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・ ・ ・ 歩 歩 歩 歩|七
| ・ 角 ・ 銀 金 銀 ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ 金 玉 ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:森下卓八段
先手の持駒:なし

  第2図(▽3二金まで)

 この▽3二金で後手の陽動振り飛車はなくなった。次は後手が急戦矢倉にするか普通の相矢倉にするかである。

第2図から第3図までの指し手

▲7八金▽4一玉▲6九玉▽5二金▲7七銀▽3三銀▲7九角▽3一角(第3図)

後手:羽生善治王将
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・v玉v角v桂v香|一
| ・v飛 ・v銀v金 ・v金 ・ ・|二
|v歩 ・v歩v歩 ・v歩v銀v歩v歩|三
| ・v歩 ・ ・v歩 ・v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 歩 歩 ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 銀 ・ ・ 歩 歩 歩 歩|七
| ・ ・ 金 ・ 金 銀 ・ 飛 ・|八
| 香 桂 角 玉 ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:森下卓八段
先手の持駒:なし

  第3図(▽3一角まで)

 ▽3一角で後手の急戦もなくなった。居角で▽4四歩を突いていない間は急戦の可能性がある。

 後手の急戦が消えたら次は先手の作戦である。現在最もよく指されているのは▲3七銀戦法だが▲3七銀と上がる前に▲3五歩と仕掛ける指し方も時々見られる。近いところでは平成10年(1998年)8月6, 7日の第39期王位戦第三局、▲佐藤名人−▽羽生王位戦が▲3五歩早仕掛けだった(佐藤名人の勝ち)。森下八段も指したことがあって「将棋世界」平成10年11月号の「タカミチの実戦コーナー」に棋譜が載っている。

第3図から第4図までの指し手

▲3六歩▽4四歩▲6七金右▽7四歩▲3七銀(第4図)

後手:羽生善治王将
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・v玉v角v桂v香|一
| ・v飛 ・v銀v金 ・v金 ・ ・|二
|v歩 ・ ・v歩 ・ ・v銀v歩v歩|三
| ・v歩v歩 ・v歩v歩v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 歩 歩 ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 銀 金 ・ 歩 銀 歩 歩|七
| ・ ・ 金 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 角 玉 ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:森下卓八段
先手の持駒:なし

  第4図(▲3七銀まで)

 森下八段は▲3七銀戦法を採用した。次は後手の対応が問題である。第4図で▽4三金右は▲3五歩で先手が少し良いような、ということが羽生善治「羽生の頭脳 5 最強矢倉・後手急戦と▲3七銀戦法」(日本将棋連盟)に書いてある。「'98年版 将棋年鑑CD-ROM」で検索すると第4図の局面は四十七局あり、▽6四角が三十八局,▽8五歩が八局,▽4三金右が一局であった。

第4図から第5図までの指し手

▽6四角▲6八角▽4三金右▲7九玉▽3一玉▲8八玉(第5図)

後手:羽生善治王将
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・v玉v桂v香|一
| ・v飛 ・v銀 ・ ・v金 ・ ・|二
|v歩 ・ ・v歩 ・v金v銀v歩v歩|三
| ・v歩v歩v角v歩v歩v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 歩 歩 ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 銀 金 ・ 歩 銀 歩 歩|七
| ・ 玉 金 角 ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:森下卓八段
先手の持駒:なし

  第5図(▲8八玉まで)

 第5図は現在の相矢倉では最もよく見られる形で、解説書としては佐藤康光「康光流現代矢倉 I 先手3七銀戦法」(日本将棋連盟)がある。ここまでは平成10年(1998年)9月3, 4日の第39期王位戦第六局▲羽生王位−▽佐藤名人戦(羽生王位が勝って防衛し六連覇)と手順も含め同一である。

 平成5年(1993年)頃まで第5図では▽8五歩が多かった。これは先手の次の手を▲1六歩や▲2六歩に限定するためである。当時、第5図から▽8五歩に▲4六銀は以下▽4五歩▲3七銀▽5三銀▲4八飛▽4四銀右▲4六歩▽同歩▲同角▽同角▲同銀▽4七歩▲1八飛▽4九角▲4五歩▽5三銀▲2八飛▽4八歩成▲同飛▽2七角成(参考1図)と進んで後手が良いとされていた。参考1図で後手が▽8四歩・▽2二玉型だと逆に後手が攻め負けるため、第5図で後手が▽2二玉とすることは少なかった。平成5年1月に出版された「羽生の頭脳 5」にも第5図では▽2二玉は甘く▽8五歩が主流と書いてある。

 ところが平成5年9月28日の▲堀口弘治六段−植山悦行五段戦(棋戦は?)で堀口弘治六段が参考1図で▲5七金と指してこれは先手が良くなることが判り、事情が変わった。それまでは参考1図では▲5八角や▲4七角しか考えられていなかった。▲5七金以下の変化は「康光流現代矢倉 I」第3章に解説がある。参考1図が後手悪いとなると第5図で▽8五歩でも▽2二玉でも▲4六銀に▽4五歩とは反発できないことになる。後手は▲4六銀・▲3七桂型を許して駒組みを進めることになり、そうなると▽8五歩は保留したほうが▽8五桂等の余地があって作戦の幅が広いということになる。「'98年版 将棋年鑑CD-ROM」で第5図を検索すると三十九局あり、▽2二玉が二十二局,▽8五歩が九局と▽2二玉が半数以上を占めている。

後手の持駒:歩
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・v玉v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金 ・ ・|二
|v歩 ・ ・v歩v銀v金v銀v歩v歩|三
| ・ ・v歩 ・v歩 ・v歩 ・ ・|四
| ・v歩 ・ ・ ・ 歩 ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 歩 歩 銀 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 銀 金 ・ ・ ・v馬 歩|七
| ・ 玉 金 ・ ・ 飛 ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手の持駒:角 歩

  参考1図(▽2七角成まで)

第5図から第6図までの指し手

▽9四歩▲2六歩▽2二玉▲1六歩▽5三銀▲1五歩▽9五歩(第6図)

後手:羽生善治王将
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金v玉 ・|二
| ・ ・ ・v歩v銀v金v銀v歩v歩|三
| ・v歩v歩v角v歩v歩v歩 ・ ・|四
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩|五
| ・ ・ 歩 歩 歩 ・ 歩 歩 ・|六
| 歩 歩 銀 金 ・ 歩 銀 ・ ・|七
| ・ 玉 金 角 ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:森下卓八段
先手の持駒:なし

  第6図(▽9五歩まで)

 ▽9四歩は平成10年になって注目されるようになった手で、一言で言えば先手の矢倉穴熊を牽制した指し方である。タイトル戦では上に挙げた第39期王位戦第六局▲羽生王位−▽佐藤名人戦やその三ヶ月前の第56期名人戦第七局▲谷川名人−▽佐藤八段戦(平成10年6月17, 18日)がこの▽9四歩である。森下八段も第56期A級順位戦で先手と後手で一局ずつ経験している(平成10年1月9日の▲島八段戦と同3月2日の▽佐藤八段戦、両方とも森下八段の負け)。

森内新手?

 第39期王位戦第六局の観戦記は「将棋世界」平成10年11月号にあり、「序盤のポイントを挙げておくと、▽9四歩が最近流行の手。森内八段の新手で、矢倉史に残る新手と言っていいほどの手、と森下八段が本誌の自戦記で解説している」と書いてある。しかしこれは森下八段の自戦記を曲解してしまっている。森内八段は第5図の局面で▽9四歩と指してはいないのである。

後手:森内俊之八段
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金v玉 ・|二
|v歩 ・v角v歩v銀v金 ・v歩 ・|三
| ・v歩v歩 ・v歩v歩v歩v銀v歩|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 歩 歩 銀 歩 歩 歩|六
| 歩 歩 銀 金 ・ 歩 桂 ・ ・|七
| ・ 玉 金 角 ・ ・ 飛 ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:森下卓八段
先手の持駒:なし

  参考2図(▲3八飛まで)

第56期A級順位戦(平成9年9月17日)

 森下八段の自戦記というのは「将棋世界」平成10年4月号の▲島八段戦(上述のA級順位戦)でその中に▽森内八段戦(平成9年9月17日のA級順位戦、森下八段の勝ち)の話がある。この自戦記を素直に読むと森内八段が第5図の局面で▽9四歩と指したように思えてしまうが、実際に森下−森内戦を並べてみると森内八段は第5図の局面では▽2二玉としており、▽9四歩と指したのは参考2図の局面だったことがわかる。
 森下八段が自戦記で「対森内戦でこの矢倉穴熊を指そうと思っていたのだが、森内さんに▽8五歩ではなく▽9四歩と指されて驚いた。穴熊にしにくいのである」「▽9四歩は昨年もっとも印象の深い手であり、森内さんの深い研究に感服させられた」と書いているのは参考2図の話で、「その森内流の▽9四歩を、本局では拝借させていただいた」というのが島八段戦での第5図の局面の話である。

 また、参考2図で▽9四歩とするのは森内八段の新手ではない。「ザ・プロ将棋 '98 矢倉の闘い編」(富士通)で調べると平成9年(1997年)5月30日の第31回早指し将棋選手権予選の▲神谷広志六段−▽堀口一史座四段戦で堀口一史座四段が▽9四歩と指しており、以下▲9八香▽9五歩となったところで「後に谷川−佐藤康の名人戦第7局でも用いられた新手法の1号局。▽9三桂〜▽8五桂で穴熊をけん制する意味もある」と解説が入っている。この将棋は▽9五歩に対し先手が穴熊に囲って後手の作戦勝ちとなり、後手が勝っている。

「ザ・プロ将棋 '98 矢倉の闘い編」の記述が正しいとすると、参考2図から▽9四歩とするのは新手かどうかはわからないが堀口一史座四段の新手法で、現在注目されている第5図から▽9四歩とする指し方はこれを第5図の局面に還元したものということになる。

 本譜に戻り、▽9四歩▽9五歩の後すぐ▽7三桂として端を睨むのが以前の指し方で、第6図のように指して桂は機を見て▽9三桂▽8五桂と跳ねるのが上述の新手法である。これに対し先手は▲4六銀から▲3七桂と組む指し方と端狙いで指す指し方がある。第56期名人戦第七局も第39期王位戦第六局も▲4六銀▲3七桂だったが、森下八段は端狙いを選択した。


第48期王将戦第三局

初手から第1図までの指し手

▲7六歩▽8四歩▲7八金(第1図)

後手:森下卓八段
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金v玉v金v銀v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・ ・v角 ・|二
|v歩 ・v歩v歩v歩v歩v歩v歩v歩|三
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 歩 歩 歩|七
| ・ 角 金 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 銀 ・ 玉 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:羽生善治王将
先手の持駒:なし

  第1図(▲7八金まで)

 第1図のように三手目▲7八金とする指し方は時々見られ、タイトル戦では昨年(平成10年)9月21日の第46期王座戦第二局▲谷川浩司竜王−▽羽生善治王座戦(谷川竜王の勝ち)がこれだった。「'98年版 将棋年鑑CD-ROM」(日本将棋連盟,五百十一局収録)には十八局、「ザ・プロ将棋 第四巻 相居飛車の闘い編」(富士通,平成7年12月〜平成8年11月のプロの相居飛車戦から三百五十局収録)には二十局が収録されている。「平成9年版 将棋年鑑」の「序盤4手チャート」(p. 547)によると平成8年度のプロの公式戦全二千百十八局のうちこの出だしは六十七局だった。三手目▲7八金には以下の特徴がある。

 第1図では後手に戦型を決める権利があり、▽8五歩なら▲7七角で角換わり模様、▽3四歩なら▲2六歩で相掛かり模様、その他なら今度は先手に権利が移る。▽8五歩に▲2六歩とすれば相掛かり模様になるが、▽8五歩▲2六歩▽8六歩▲同歩▽同飛▲2五歩(▲8七歩は▽7六飛)▽3二金(▽8四飛は▲2四歩から▲2三歩)▲2四歩▽同歩▲同飛▽2三歩(▽3四歩なら普通の横歩取り模様)▲2六飛の展開は、先手が悪いわけではないけれどもこれなら初めから▲2六歩として相掛かりを目指したほうが手が広く作戦としても一貫している。


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