9x9=81 June 1999


昭和四十三年の居飛車穴熊

[June 27, 1999]

 平成十一年六月二十三日、妙な訴訟に判決が下った。平成八年十月に元赤旗名人の大木和博さんが田中寅彦九段を相手取って居飛車穴熊の「元祖」「創始者」「本家本元」等の呼称の使用差し止めと三百万円の損害賠償を求めて提訴していたもので、判決は「両者とも尊敬と畏敬の念をもって戦法の『元祖』及び『創始者』と呼ばれるにふさわしい」として請求の棄却となった(朝日新聞のネットニュースより)。

 訴訟自体は子供の喧嘩のような内容なのでどうでもいいとして、この機会に居飛車穴熊で有名な一局をここに載せておく。昭和四十三年に行なわれた大山−升田の名人戦である。ちなみに田中寅彦九段は当時十歳、奨励会入りは四年後の昭和四十七年で四段昇段はさらに四年後の昭和五十一年。大木和博さんと本局との関連は不明である。

初手から第1図までの指し手

▲7六歩▽3四歩▲2六歩▽4四歩▲4八銀▽3二銀▲6八玉▽4二飛▲7八玉▽6二玉▲5六歩▽7二銀▲7七角▽4三銀▲5七銀▽5二金左▲8八玉▽7一玉▲9八香▽5四銀▲6六歩▽6四歩▲9九玉▽9四歩▲8八銀(第1図:棋譜は週刊将棋編「不滅の名勝負100」(毎日コミュニケーションズ)より)

後手:大山康晴名人         後手:大山康晴名人
後手の持駒:なし          後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1     9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+   +---------------------------+
|v香v桂v玉v金 ・ ・ ・v桂v香|一  |v香 ・ ・v金 ・ ・ ・v桂v香|一
| ・ ・v銀 ・v金v飛 ・v角 ・|二  | ・v玉v銀 ・v金v飛 ・v角 ・|二
| ・v歩v歩 ・v歩 ・ ・v歩v歩|三  | ・v歩v桂 ・v歩 ・ ・v歩v歩|三
|v歩 ・ ・v歩v銀v歩v歩 ・ ・|四  | ・ ・v歩v歩v銀v歩v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五  |v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 歩 歩 ・ ・ 歩 ・|六  | ・ ・ 歩 歩 歩 ・ ・ 歩 ・|六
| 歩 歩 角 ・ 銀 歩 歩 ・ 歩|七  | 歩 歩 角 金 銀 歩 歩 ・ 歩|七
| 香 銀 ・ ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八  | 香 銀 金 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|八
| 玉 桂 ・ 金 ・ 金 ・ 桂 香|九  | 玉 桂 ・ ・ ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+   +---------------------------+
先手:升田幸三九段         先手:升田幸三九段
先手の持駒:なし          先手の持駒:なし

  第1図(▲8八銀まで)       第2図(▽9五歩まで)

  第27期名人戦第二局
 (昭和43年4月16,17日)

 升田九段は「なにか趣向を凝らしてみようと思った」のだそうで、はじめから戦略的に居飛車穴熊を採用している。昭和四十三年の将棋だというのに先手の陣形や手順は藤井システム出現前の居飛車穴熊そのもの、後手の陣形は藤井システムに通じるところがある。青野照市九段の「プロの新手28」(日本将棋連盟)には「最初から堂々と穴熊を目ざした将棋は、昭和43年の第27期名人戦第2局で、挑戦者の升田九段が指した将棋かもしれない」とあり「森下の四間飛車破り」(毎日コミュニケーションズ)にも「それがプロ間では初めてだろう」とある(第9局「初の居飛車穴熊」の解説)が、このような形が前例もなく突然出現したのだろうか。

 第1図以下は▽7四歩▲5八金右▽8二玉▲6七金▽7三桂▲7八金▽9五歩(第2図)とますます昭和四十三年の将棋とは思えない展開になった。この一局は終盤升田九段に一失があって大山名人が勝ち、七番勝負も四連勝で大山名人が制して名人戦十連覇(通算十五期)を達成した。

 しかし……ここまで到達しておきながら、居飛車穴熊の隆盛までに二十年、藤井システムの出現には二十五年を要するのであった。


もう誰も信じられない

[June 27, 1999]

 第1図は昭和五十六年(1981年)十二月に行なわれた第20期十段戦第六局の投了図である。……と言われると信じちゃうよな。まあ、えらく大差だな、とかは思うだろうけど。実は第1図は思い切り途中図で、以下▽4一玉▲4三と▽8六桂(第2図)でこの▽8六桂が詰めろになっていて難しい形勢なのである。私はこの一局を将棋雑誌かなにかで見て以来、自分の読みはぜんぜん信用できんと思うようになった。

後手:米長邦雄棋王         後手:米長邦雄棋王
後手の持駒:角 金 銀 桂 歩三  後手の持駒:角 金 銀 歩三
 9 8 7 6 5 4 3 2 1     9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+   +---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一  |v香 ・ ・ ・ ・v玉 ・ ・v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v玉 ・ ・|二  | ・v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
| ・ ・v桂 ・v銀 ・ と ・v歩|三  | ・ ・v桂 ・v銀 と ・ ・v歩|三
|v歩 ・v歩 ・v歩v歩 ・v歩 ・|四  |v歩 ・v歩 ・v歩v歩 ・v歩 ・|四
| ・v歩 ・v歩 ・ ・ ・ ・ 歩|五  | ・v歩 ・v歩 ・ ・ ・ ・ 歩|五
| 歩 ・ 歩 ・ 歩 ・ 飛 歩 ・|六  | 歩v桂 歩 ・ 歩 ・ 飛 歩 ・|六
| ・ 歩 銀 金 ・v馬 銀 ・ 香|七  | ・ 歩 銀 金 ・v馬 銀 ・ 香|七
| ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八  | ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九  | 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+   +---------------------------+
先手:加藤一二三十段        先手:加藤一二三十段
先手の持駒:金 桂         先手の持駒:金 桂

  第1図(▲3三歩成まで)      第2図(▽8六桂まで)

 そりゃー私みたいな普通のアマチュアでも、第1図はどうか?と聞かれれば、後手玉が一気には寄りそうもないことや▽8六桂や▽6九銀で結構難しいことには気づく。しかし何も言われなければ先手勝ちとして素通りしてしまいそうである。そしてこれが自分の実戦なら、第1図が難しいことを第1図になってから気づいたのでは遅いのだ。

 この将棋は当時盛んに指されていた矢倉の先手4六銀と後手四手角の対抗形(第3図)で、第3図から先手が▲3五歩と仕掛けて▽同歩▲2五桂▽3六歩▲同飛▽6五歩▲3四歩▽6六歩▲同銀▽6五歩▲7七銀▽4八角成▲3七銀▽4七馬▲2四角▽同歩▲3三銀▽同桂▲同歩成▽同金直▲同桂成▽同金▲3四歩▽3二金(第4図)と進んだ。桐谷広人六段の「新・これが矢倉だ 【4六銀】」(毎日コミュニケーションズ,p. 55)によれば「先手勝ちは目前のようで、控室でも(二日目の)お昼過ぎに終わるのではないかとみられていました」だったそうで、ここで加藤十段が二時間の大長考に入り「加藤十段が長考するのを見て、控室ではようやく『もしかしたらこの局面は難しいのではないか』と気付く有り様でした」となったらしい。第4図からは▲3三金▽3一玉▲3二金▽同玉▲3三歩成で第1図となる。控室ではプロが集団で検討していたはずなのに、プロの読みも案外信用ならんもんである。自分の読みも信用ならんし……もう誰も信じられねぇ。

後手:米長邦雄棋王         後手:米長邦雄棋王
後手の持駒:なし          後手の持駒:角 銀 桂 歩三
 9 8 7 6 5 4 3 2 1     9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+   +---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一  |v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・v香|一
| ・v飛 ・ ・ ・ ・v金v玉 ・|二  | ・v飛 ・ ・ ・ ・v金v玉 ・|二
| ・ ・v桂 ・v銀v金 ・v歩v歩|三  | ・ ・v桂 ・v銀 ・ ・ ・v歩|三
|v歩v角v歩v歩v歩v歩v歩v銀 ・|四  |v歩 ・v歩 ・v歩v歩 歩v歩 ・|四
| ・v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩|五  | ・v歩 ・v歩 ・ ・ ・ ・ 歩|五
| 歩 ・ 歩 歩 歩 銀 歩 歩 ・|六  | 歩 ・ 歩 ・ 歩 ・ 飛 歩 ・|六
| ・ 歩 銀 金 ・ 歩 桂 ・ 香|七  | ・ 歩 銀 金 ・v馬 銀 ・ 香|七
| ・ 玉 金 角 ・ ・ 飛 ・ ・|八  | ・ 玉 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九  | 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|九
+---------------------------+   +---------------------------+
先手:加藤一二三十段        先手:加藤一二三十段
先手の持駒:なし          先手の持駒:金 桂

  第3図(▽7三桂まで)       第4図(▽3二金まで)

第57期名人戦第六局

初手から第1図までの指し手

▲7六歩▽3四歩▲2六歩▽4四歩▲2五歩▽3三角▲4八銀▽4二飛▲5六歩▽7二銀▲6八玉▽9四歩▲7八玉(第1図)

後手:谷川浩司九段
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金v玉v金v銀v桂v香|一
| ・ ・v銀 ・ ・v飛 ・ ・ ・|二
| ・v歩v歩v歩v歩 ・v角v歩v歩|三
|v歩 ・ ・ ・ ・v歩v歩 ・ ・|四
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| ・ ・ 歩 ・ 歩 ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 ・ 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ 角 玉 ・ ・ 銀 ・ 飛 ・|八
| 香 桂 銀 金 ・ 金 ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光名人
先手の持駒:なし

  第1図(▲7八玉まで)

 後手番の谷川九段は第四局に続き四間飛車を採用した。第四局では佐藤名人は▽9四歩に▲9六歩と受けたのだが、本局では端を受けず▲7八玉と寄った。第四局と違って居飛車穴熊になりそうな気配である。

第1図から第2図までの指し手

▽3二銀▲5八金右▽9五歩▲5七銀▽4三銀▲3六歩▽6二玉▲7七角(第2図)

後手:谷川浩司九段
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・v金 ・v桂v香|一
| ・ ・v銀v玉 ・v飛 ・ ・ ・|二
| ・v歩v歩v歩v歩v銀v角v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・v歩v歩 ・ ・|四
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| ・ ・ 歩 ・ 歩 ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 角 歩 銀 歩 ・ ・ 歩|七
| ・ ・ 玉 ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 銀 金 ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光名人
先手の持駒:なし

  第2図(▲7七角まで)

 ▽9五歩▲5七銀で完全に第四局とは違う将棋になった。▲3六歩と急戦の可能性を見せ▽6二玉と上がらせてから▲7七角と居飛車穴熊を目指すのは最近多く見られる指し方である。これに対し▽6四歩▽7四歩から桂を跳ねて居飛車穴熊を阻止しに行く藤井システム流の指し方はどうも少し無理な感があり、この後の後手の指し方が注目される。

第2図から第3図までの指し手

▽7一玉▲8八玉▽8二玉▲9八香▽3二飛(第3図)

後手:谷川浩司九段
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・v金 ・v桂v香|一
| ・v玉v銀 ・ ・ ・v飛 ・ ・|二
| ・v歩v歩v歩v歩v銀v角v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・v歩v歩 ・ ・|四
|v歩 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 歩 ・|五
| ・ ・ 歩 ・ 歩 ・ 歩 ・ ・|六
| 歩 歩 角 歩 銀 歩 ・ ・ 歩|七
| 香 玉 ・ ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八
| ・ 桂 銀 金 ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光名人
先手の持駒:なし

  第3図(▽3二飛まで)

 谷川九段は玉を8二に囲い飛車を三間に振り直した。これは第11期竜王戦第三局▲谷川竜王−▽藤井七段戦(平成10年(1998年)11月5, 6日)で藤井七段が見せた指し方と同じである。その竜王戦では先手は第3図と同一の局面から▲9九玉と潜り、以下▽3五歩▲同歩▽4五歩▲6六銀▽4四角(参考1図)と進んだ。

後手:藤井猛七段
後手の持駒:なし
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・v金 ・v桂v香|一
| ・v玉v銀 ・ ・ ・v飛 ・ ・|二
| ・v歩v歩v歩v歩v銀 ・v歩v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・v角 ・ ・ ・|四
|v歩 ・ ・ ・ ・v歩 歩 歩 ・|五
| ・ ・ 歩 銀 歩 ・ ・ ・ ・|六
| 歩 歩 角 歩 ・ 歩 ・ ・ 歩|七
| 香 ・ ・ ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八
| 玉 桂 銀 金 ・ ・ ・ 桂 香|九
+---------------------------+
先手:谷川浩司竜王
先手の持駒:歩

  参考1図(▽4四角まで)

第70期棋聖戦第一局

初手から第1図までの指し手

棋譜未入手ながら……▽3三銀▲4五歩(第1図)

後手:郷田真隆棋聖
後手の持駒:角
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・v玉v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・v金 ・v金 ・ ・|二
| ・ ・v桂 ・v歩 ・v銀v歩 ・|三
|v歩 ・v歩v歩v銀v歩v歩 ・v歩|四
| ・v歩 ・ ・ ・ 歩 ・ 歩 ・|五
| 歩 ・ 歩 歩 銀 ・ 歩 ・ 歩|六
| ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ 桂 ・ ・|七
| ・ ・ 金 ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 玉 ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+
先手:谷川浩司九段
先手の持駒:角

  第1図(▲4五歩まで)

 第一局は挑戦者谷川九段の先手となった。谷川九段はほんの四日前に名人戦第六局で最後に詰みを逃して名人を獲り損なったばかりである。名人戦最終局は十六日からで本局はその合間の一局。合間ったって大事なタイトル戦だけど。

 第1図のように▲7九玉▽3一玉型の同形角換わり腰掛け銀から▲4五歩と攻めるのは昭和二十三年に升田幸三八段が開発したとされる指し方で升田定跡と呼ばれる。この定跡は先手有利と言われながらも未解決な部分を残したまま三十年以上放置されていたが平成に入って再び研究されるようになり、「近代将棋」平成十年(1998年)一月号の「データで見る定跡最前線」によれば平成九年(1997年)七月の▲中川大輔六段−▽飯塚祐紀五段戦をもって確かに先手有利との結論が出たらしい。角換わり腰掛け銀のオタク本「新版 角換わり腰掛け銀研究」(島朗著,毎日コミュニケーションズ)にもそんなようなことが書いてある(「かなり怪しい部分もあるように思われる」とも書いてあるが)。手持ちのデータベースソフトで調べてみると「'98年版 将棋年鑑CD-ROM」(日本将棋連盟)では第1図の局面は一局も検出されず、「ザ・プロ将棋 '98 振り飛車と相居飛車編」「ザ・プロ将棋 第四巻 相居飛車の闘い編」(富士通)の一括検索では平成八年(1996年)十月一日の▲村山聖八段−▽飯塚祐紀五段戦(棋聖戦)と同年七月二十六日の▲鈴木輝彦七段−▽田中魁秀八段戦(B級2組順位戦)の二局が検出されたのみであった。

 ここで同形角換わり腰掛け銀について概観しておく。まずは木村定跡から。

木村定跡

 ▲8八玉▽2二玉型から▲4五歩(参考1図)と攻めるのが木村定跡である。参考1図から▽4五同歩に▲3五歩▽4四銀▲7五歩▽同歩▲2四歩▽同歩▲同飛▽2三歩▲2九飛▽6三角▲1五歩▽同歩▲1三歩▽同香▲2五桂▽1四桂▲3四歩▽2四歩▲3三桂成▽同桂▲2四飛▽2三金▲1一角▽3二玉▲3三歩成▽同銀▲4四桂▽同銀▲2三飛成▽同玉▲4四角成▽4三金▲4五銀▽4四金▲同銀(参考2図)のように攻めて先手必勝。もちろん他にも変化はあるがこの定跡は詰みまで完璧に研究されており(らしいのだが……本当か?)、「定跡中の定跡」と呼ばれている。「近代将棋」平成十一年(1999年)五月号・六月号の「21世紀の初段をめざせ」(泉正樹七段)に易しい解説がある。

後手の持駒:角           後手の持駒:飛 角 桂二 歩五
 9 8 7 6 5 4 3 2 1     9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+   +---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・v桂v香|一  |v香 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|一
| ・v飛 ・ ・v金 ・v金v玉 ・|二  | ・v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|二
| ・ ・v桂 ・v歩 ・v銀v歩 ・|三  | ・ ・v桂v角v歩 ・ ・v玉 ・|三
|v歩 ・v歩v歩v銀v歩v歩 ・v歩|四  |v歩 ・ ・v歩v銀 銀 ・ ・v香|四
| ・v歩 ・ ・ ・ 歩 ・ 歩 ・|五  | ・v歩v歩 ・ ・ ・ ・ ・v歩|五
| 歩 ・ 歩 歩 銀 ・ 歩 ・ 歩|六  | 歩 ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ ・|六
| ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ 桂 ・ ・|七  | ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ ・ ・ ・|七
| ・ 玉 金 ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八  | ・ 玉 金 ・ 金 ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九  | 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+   +---------------------------+
先手の持駒:角           先手の持駒:金二 銀 歩三

  参考1図(▲4五歩まで)      参考2図(▲4四同銀まで)

後手先攻型

 木村定跡が先手必勝となると次に考えられるのは後手が▽2二玉を省略して▽6五歩と先攻する策(参考3図)である。しかし参考1図から参考2図までと同様に攻めると参考2図で玉が7九にいる形となり▽4九飛の王手が攻防となって攻め切れない。そこで参考3図から▲6五同歩に▽7五歩▲6六銀▽3五歩▲同歩▽8六歩▲同歩▽同飛▲8七歩▽8一飛▲4七角▽9五歩▲同歩▽9七歩▲同香▽8五桂▲9六香▽7六歩▲8六歩▽7七桂成▲同桂▽8六飛▲8七金▽9九角▲7八玉▽7七歩成▲同銀▽6六桂▲同銀とここまでは木村定跡と同様に進め、そこで▽6六同飛(参考4図)と変化して飛車を捨てずに攻める。以下▲6七金▽8六歩▲7七金左▽8七銀▲6八玉▽7七角成▲同玉▽7六金▲6八玉▽7八銀成▲同玉▽8七歩成と攻めが続く。

後手の持駒:角           後手の持駒:銀 歩二
 9 8 7 6 5 4 3 2 1     9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+   +---------------------------+
|v香 ・ ・ ・ ・ ・v玉v桂v香|一  |v香 ・ ・ ・ ・ ・v玉v桂v香|一
| ・v飛 ・ ・v金 ・v金 ・ ・|二  | ・ ・ ・ ・v金 ・v金 ・ ・|二
| ・ ・v桂 ・v歩 ・v銀v歩 ・|三  | ・ ・ ・ ・v歩 ・v銀v歩 ・|三
|v歩 ・v歩 ・v銀v歩v歩 ・v歩|四  | ・ ・ ・ ・v銀v歩 ・ ・v歩|四
| ・v歩 ・v歩 ・ ・ ・ 歩 ・|五  | 歩 ・ ・ 歩 ・ ・ 歩 歩 ・|五
| 歩 ・ 歩 歩 銀 歩 歩 ・ 歩|六  | 香 ・ ・v飛 銀 歩 ・ ・ 歩|六
| ・ 歩 銀 ・ 歩 ・ 桂 ・ ・|七  | ・ 金 ・ ・ 歩 角 桂 ・ ・|七
| ・ 玉 金 ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八  | ・ ・ 玉 ・ 金 ・ ・ 飛 ・|八
| 香 桂 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九  |v角 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 香|九
+---------------------------+   +---------------------------+
先手の持駒:角           先手の持駒:桂二 歩五

  参考3図(▽6五歩まで)      参考4図(▽6六同飛まで)

第57期名人戦第七局

初手から第1図までの指し手

▲7六歩▽3四歩▲2六歩▽8四歩▲2五歩▽8五歩▲7八金▽3二金▲2四歩▽同歩▲同飛▽8六歩▲同歩▽同飛▲3四飛▽3三角▲3六飛▽2二銀▲8七歩▽8五飛(第1図)

後手:谷川浩司九段
後手の持駒:歩二
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金v玉 ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・v歩v歩v歩v歩v角 ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ 飛 ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ 角 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 銀 ・ 玉 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光名人
先手の持駒:歩二

  第1図(▽8五飛まで)

 最終局は佐藤名人の先手で横歩取り▽8五飛となった。ここまでは第二局と全く同じである。

第1図から第2図までの指し手

▲3八金▽4一玉▲5八玉▽6二銀(第2図)

後手:谷川浩司九段
後手の持駒:歩二
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・v金 ・v玉 ・v桂v香|一
| ・ ・ ・v銀 ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・v歩v歩v歩v歩v角 ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ 飛 ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ 角 金 ・ 玉 ・ 金 ・ ・|八
| 香 桂 銀 ・ ・ ・ 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光名人
先手の持駒:歩二

  第2図(▽6二銀まで)

 第二局では第1図で▲2六飛だったがここで佐藤名人が▲3八金と手を変えた。しかし▲3八金▲5八玉の構えは第二局(参考1図)と同じで第2図から▲2六飛▽5一金となれば第二局に戻る。

 第1図からの指し手で▲5八玉のところ▲3三角成▽同桂▲9六角(参考2図)と踏み込むのは以下▽6五飛▲6六歩▽6四飛▲6五歩▽同飛▲7七桂▽6四飛▲6五歩▽2四飛▲6三角成▽5二金▲2五歩▽同飛▲2六歩▽6三金▲2五歩▽7二角(参考3図)となって先手の攻めはやや無理ということになるらしい。この手順は横歩取り▽8五飛戦法の公式戦初登場局である▲松本佳介四段−▽中座真四段戦(C級2組順位戦,平成九年(1997年)八月二十六日)に現れたもので「将棋世界」平成十一年六月号の中座四段の講座「横歩取り▽8五飛戦法」に解説がある。

後手:谷川浩司九段
後手の持駒:歩二
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂 ・ ・v金v玉 ・v桂v香|一
| ・ ・ ・v銀 ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・v歩v歩v歩v歩v角 ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ ・ 飛 ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ 角 金 ・ 玉 ・ 金 ・ ・|八
| 香 桂 銀 ・ ・ ・ 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:佐藤康光名人
先手の持駒:歩二

  参考1図(▽5一金まで)
後手の持駒:角 歩二        後手の持駒:角 歩四
 9 8 7 6 5 4 3 2 1     9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+   +---------------------------+
|v香v桂v銀v金 ・v玉 ・ ・v香|一  |v香v桂v銀 ・ ・v玉 ・ ・v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v金v銀 ・|二  | ・ ・v角 ・ ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・v歩v歩v歩v歩v桂 ・v歩|三  |v歩 ・v歩v金v歩v歩v桂 ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四  | ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五  | ・ ・ ・ 歩 ・ ・ ・ 歩 ・|五
| 角 ・ 歩 ・ ・ ・ 飛 ・ ・|六  | ・ ・ 歩 ・ ・ ・ 飛 ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七  | 歩 歩 桂 ・ 歩 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ ・ 金 ・ ・ ・ 金 ・ ・|八  | ・ ・ 金 ・ ・ ・ 金 ・ ・|八
| 香 桂 銀 ・ 玉 ・ 銀 桂 香|九  | 香 ・ 銀 ・ 玉 ・ 銀 桂 香|九
+---------------------------+   +---------------------------+
先手の持駒:歩二          先手の持駒:飛

  参考2図(▲9六角まで)      参考3図(▽7二角まで)

第70期棋聖戦第二局

初手から第1図までの指し手

▲7六歩▽3四歩▲2六歩▽8四歩▲2五歩▽8五歩▲7八金▽3二金▲2四歩▽同歩▲同飛▽8六歩▲同歩▽同飛▲3四飛▽3三角▲3六飛▽2二銀▲8七歩▽8五飛(第1図)

後手:谷川浩司九段
後手の持駒:歩二
 9 8 7 6 5 4 3 2 1
+---------------------------+
|v香v桂v銀v金v玉 ・ ・v桂v香|一
| ・ ・ ・ ・ ・ ・v金v銀 ・|二
|v歩 ・v歩v歩v歩v歩v角 ・v歩|三
| ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|四
| ・v飛 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・|五
| ・ ・ 歩 ・ ・ ・ 飛 ・ ・|六
| 歩 歩 ・ 歩 歩 歩 歩 ・ 歩|七
| ・ 角 金 ・ ・ ・ ・ ・ ・|八
| 香 桂 銀 ・ 玉 金 銀 桂 香|九
+---------------------------+
先手:郷田真隆棋聖
先手の持駒:歩二

  第1図(▽8五飛まで)

 第二局は最近大流行の横歩取り▽8五飛となった。谷川九段はこのところ後手番でこの作戦を多用しており、ここまでは先の名人戦第二局・第七局と全く同じである。


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