2000年5月読了
★印は、おすすめ
5/31 照柿 高村薫(講談社)
5/24 カカシの夏休み 重松清(文藝春秋)
5/22 第八森の子どもたち エルス・ペルフロム(福音館書店)
5/15 嘘をもうひとつだけ 東野圭吾(講談社)
5/12 闇の守り人 上橋菜穂子(偕成社)
5/11 月の裏側 恩田陸(幻冬舎)
5/7 偉大なワンドゥードルさいごの一ぴき ジュリー・アンドリュース(TBSブリタニカ)
5/7 マンディ ジュリー・アンドリュース(TBSブリタニカ)
5/1 時計を忘れて森へいこう 光原百合(東京創元社)

 5月31日(水) 「照柿」 高村薫(講談社)

amazon1994.7月発行・498P・2000円

灼熱の暑さの中、電車飛び込み事件の現場に居合わせた合田刑事は、そこで出
会った佐野美保子に強烈に惹かれていく。ホームから落ちた女性は美保子の夫の
愛人。その後、美保子は以前の恋人・野田達夫と逢引きを重ねるが、彼は合田の
18年ぶりに再会した幼ななじみだった。達夫への嫉妬に苦悩する合田。
一方、熱処理工場で激務に追われる達夫は、その精神を少しずつ崩壊させてい
く…。


「マークスの山」「レディ・ジョーカー」で合田刑事が好きだった私。
しかし、この「照柿」では、合田刑事って、こんな感じの人だったっけ??と
ちょっと印象が違った。どうしちゃったのよぉ!合田さん…と思わざるを得な
かった。

飛び込み事件も、七係が追う強盗殺人事件も、大きく核となる事件ではないので
前半は焦点が散漫な印象。この作品は事件が…というより、達夫、美保子、合田
雄一郎、3人の心理がテーマなんだろうな。でも、3人の気持ちにすんなり寄り添
えないまま、終わってしまったのよね…。ただ、熱処理工場で働く達夫の怒り。
見てくればかりを気にする上司。現場の声が反映されず奔走するその憤りは、な
んとなくわかるような気がしました。

作品全体に漂う空気は、ねっとりとした重い熱気で、ちょっと暑苦しい…。
ラスト近くになって、ようやく走り出したような気がしました。


 5月24日(水) 「カカシの夏休み」 重松清(文藝春秋)

amazon2000.5月発行・361P・1619円

私は、重松清さんの作品を読んでいる時間が、とっても好きなのだ。
チクリチクリと心に刺さっても、なぜだか温かいものに包まれているような気持
ちになる。たとえそれが、重い内容だとしても…。

表題作「カカシの夏休み」を含め、三篇の中篇集。

私は「カカシの夏休み」より、他ニ作「ライオン先生」「未来」の方が好きだっ
たので、そちらのことだけね。

「ライオン先生」
雄介は高校の国語教師。教え子と大恋愛の末、結婚。しかし彼女が若くしてガン
で亡くなり、現在は20歳の娘と二人暮らしだ。彼は44歳にしてカツラ歴十年。耳
の上を残してきれいに禿げ上がっている。時代遅れ、ふた昔も前の長髪たて髪カ
ツラなのだ〜。

「ライオン先生…」。20代の頃、生徒にそう呼ばれて親しまれていた。長い髪を
なびかせ、“ライオン流”を貫く熱血教師だった。近頃、カツラの頭が猛烈に痒
くなる時がある。ヘアー・クリックのカウンセラーは、カツラをつけた理想の自
分を重荷に感じて、痒みが出てきてるのではないかと言うのだが…。

もう若くない。毎年入れ替わる生徒たちとは、遠ざかる一方だ。ライオン流が空
回りする。年度があらたまるたびに、生徒たちとの距離も変わった。

つい最近のような気がしているのに、よく考えたら十年も前のことだったりと、
私自身も最近加速がつくように、時の流れが速く感じるこの頃。なんだか、身に
つまされる…。

カツラがずれた!と、上半身を揺らさず小走りに、教職員トイレに飛び込む。
狭いトイレで、カツラをはずして頭を叩く。(掻きむしると傷が残るからだ)
生徒用の和式便器の中に、カツラが滑り落ちて、海藻のようにゆらめく。
洗面所で洗っていると、廊下の足音が近づいてくる。あわててびょ濡れの
カツラをかぶる雄介…。想像すると可笑しくて笑いながら、ちょっと哀しい。

「未来」
姉と恋人との長い電話中に、キャッチホンでかかってきた一本の電話。それは、
特に接点のなかったクラスメートの男の子からだった。彼…長谷川くんは笑い
ながら言った、「死ぬよ、おれ」。いたずらだと思った。姉に早く早くとせか
されて言った、「じゃあ死ねば」。おとなしくて、真面目な女の子をからかっ
ちゃおうぜという話を盛り上げた友達が絶対そばで聞いている、そう思った。
しかし長谷川くんはその電話の後、自殺する…。

「ひとごろし」と呼ばれ、「自分のために泣くなよな」と言われ、みゆきは感情
を失い、表情もなくす。学校を中退し、病院を転々として三年。今は月代わりで
ボランティアを転々としている。

ある日、弟のクラスメートがいじめを苦に自殺した。弟の名前が入った遺書を鞄
に入れて。マスコミにも追われて苦悩する家族…。

今はもう現実に起こる事件の方が、遥かに、陰湿で残虐なものになっちゃったけ
ど。みゆきの納得のつけ方がなんとなく納得できて、ホロッと泣けました。

「未来」の方は書きようによっては、めっちゃ暗くなっちゃいそうなテーマです
が、読んだ後どちらも、清々しい気持ちになりました。

「カカシの夏休み」を含め、現代のいろんな形の家族の姿が浮き彫り彫りにされ
ています。時には、すれ違いながらも、切り離すことのできない絆。
“今”を書かせたら、家族を書かせたら、天下一品だと思っている重松清さんの
新刊です。


 5月22日(月) 「第八森の子どもたち」 エルス・ペルフロム作 
        
ペーター・ファン・ストラーテン絵 野坂悦子訳(福音館書店)

amazon2000.4月発行・420P・1700円

1944年冬、オランダ。
ドイツ軍によって、国境近くにある町から立ち退きを命じられたノーチェと父親
は、森の中にある農家にたどり着きます。この家の人たちの計らいで、二人は
この農家クラップヘクで暮らすことになります…。

物語は、11歳の女の子ノーチェの目から見た日常を、細やかに描いていくことに
主点を置いています。当たり前のことなんですが、戦争時でも日々の暮らしがあ
る。ノーチェもいろんなお手伝いをしつつ、一つ年上のエバートともに、森での
暮らしを楽しみます。それでも戦争の影は否応なく彼女たちの生活に影を落とし
ていきます…。

作者のエルス・ペルフロムは、実際戦争時代に疎開先の農家で過ごした思い出
をもとに、この「第八森の子どもたち」を書き上げたそうです。
戦争の現実は重いですが、読後、重苦しい思いは残りません。
それはきっと、人のぬくもり、自然と密着した生活−とクラップヘクでの体験が
彼女にとって忘れられないものであったから…こそでしょう。
自然豊かな森の中での大家族の暮らし。それは、“普通”の子ども時代と同じよ
うにきらめいています。でも、だからこそ、戦争の恐ろしさが伝わってくるとこ
ろもあるのです…。

表紙のペーター・ファン・ストラーテンの絵が森の世界へと誘います。

オランダで毎年最高の児童文学に贈られる「金の石筆賞」受賞作品です。


 5月15日(月) 「嘘をもうひとつだけ」 東野圭吾(講談社)

amazon2000.4月発行・250P・1600円

表題作他4編を収録した短編集。
登場するのは決して特別な人たちではありません。
誰もが、どこにでもいそうで、どこにでもありそうなところが舞台。
ただ様々な理由で落ちてしまった落とし穴。思わぬ過ちを隠すため、さらに秘密
を抱え込み、自分のついた嘘に絡みとられてしまう…。

唯一、全てのストーリーに絡んでくるのは、練馬警察署の加賀刑事。
しかし、彼の側からの心理描写は一切ありません。
全て、それぞれの主人公側からの視点のみで語られ、その中から鋭い目で犯人を
追い詰めていく加賀刑事のキャラクターも浮かび上がってきます…。

読んでいる方も翻弄されるような印象の心理描写で、最初はおもしろく読めるの
ですが、だんだんと同じようなパターンに、どこが嘘なのだろうかという楽しみ
しかなくなってしまったところに、物足りなさを残しました。


 5月12日(金) 「闇の守り人」 上橋菜穂子(偕成社)

amazon1999.2月発行・357P・1500円

精霊の守り人」の続編とも言えるこの作品。
前作も良かったけど、この「闇の守り人」は、それを越える読み応え!
いいよ〜。ぜひ「精霊の守り人」とセットで読んでみてねー。

女用心棒のバルサ、31歳。(この年齢設定も好きな一因なんだよね)
幼い日、カルバン王のログサムに父を殺され、父の親友ジグロと共に逃げ続けた
バルサが、25年ぶりに故郷に舞い戻った。

戻った理由は、前作でチャグムの用心棒をしたことで逆の立場となり、ジグロが
どんな思いでいたのか、わかりかけたこと。
今でもジグロの行方を気にかけている親族や友人がいるなら、何があったのか、
真実を伝えたいという願い。そして何より自分の中の古傷を見つめ直そうと戻っ
てきた。
しかし、陰謀はバルサが知っているものより、ずっと巧妙で根が深いものであっ
たのです…。


バルサの故郷、カルバン王国は貧しい山国。
二十年に一度<山の王>から贈られる<ルイシャ>と呼ばれる高価な宝石のおか
げで、国が成り立っていた。山の洞窟に住むといわれるヒョウル<闇の守り人>
とは何か?<山の王>の秘密とは?そして、ルイシャが贈られる時の<槍舞>の
儀式が持つ意味とは?…最後まで目が離せません。

<槍舞い>での魂のぶつかり合いの場面では、心が震えました。
そしてそこには、もうひとつの物語。努力すれば上達するような武力の技とは違
い、生まれ−血筋だけはどうすることもできない…そういう思いにとらわれてい
たカッサという少年が、ひとつの結論を胸に秘めるまでの成長物語も同時に織り
込まれていきます。

バルサが、これから進んでいくために、どうしても立ち寄らなければならなかっ
た地。ジグロの思いを知り、そしてジグロの影をきることによって、バルサは自
分がとらえられていた過去の負い目から解放されていくのです。

今回もバルサの強さ、格好良さは相変わらず。上橋さんの作り上げた、細部まで
息がかかった世界にどっぷりと酔いしれました。薬草師のタンダファンの私とし
ては、今回実際には登場しなかったのが残念〜。

二木真希子さんの挿絵も、ぴったりとはまっていますよ。


 5月11日(木) 「月の裏側」 恩田陸(幻冬舎)

amazon2000.3月発行・377P・1800円

九州の水郷都市、箭納倉。古くから毛細血管のように伸びている堀が、生活に密
着しているこの町で、老女失踪事件が相次いだ。彼女たちは失踪中の記憶をなく
したまま、じきにひっこり戻ってきた。共通していたのは、堀に面している家に
住んでいた…ということだけ。いったい、どこへ消えていたのか?

事件に興味を持つ元大学教授・協一郎と、その娘・藍子。協一郎の教え子・多聞
は、新聞記者の高安と共に、その失踪事件の謎を解き明かそうとします…。

SFホラーとでもいうのでしょうか…。(そんなジャンルないかぁ!?)
最後の最後まで、のめり込むようにして一気に読みました。

家族も寝静まり、夜中シーンとした部屋の中で読みふけっていると、余計にゾク
ゾクぞわぞわしちゃったわ。想像しては鳥肌もの。ひたひたと何かが忍び寄って
くるようで、ふとあたりを見まわしてしまう。少しずつ明らかになるエピソード
や、この町に次々と起こる出来事も怖かったけど、私はとにかくラストが怖かっ
た。(うーん、どこまで書いていんだか難しくて、抽象的な表現ですいません)

ただ怖いだけじゃなくて、最後まで目が離せない緊迫感の中に、飄々とした持ち
味の多聞さんが登場してくることで和むの。事件を追う4人の人となりも丁寧に
書かれているので、それぞれに気持ちを入れ込んで読むことができました。
何をもって私は私とするのか考えこんじゃったりして。
やっぱり恩田さんいいよ〜♪とあらためて思わせてくれましたよ。

北海道には梅雨がないけれど、梅雨時に読むと、もっと感じが出そうです〜。


 5月7日(日)

「偉大なワンドゥードルさいごの一ぴき」
       
ジュリー・アンドリュース 岩谷時子訳 (TBSブリタニカ)

「マンディ」 
ジュリー・アンドリュース 岩谷時子訳 (TBSブリタニカ)


著者はどちらも「サウンド・オブ・ミュージック」「メリー・ポピンズ」主演
女優のジュリー・アンドリュース。せっかく彼女の作品を読む機会があったの
だからと、同じ時期に、この2つの映画も見たのですが、“道はきっと開ける”
というマリア、“見方を変えてごらん”というメリー・ポピンズのイメージが
そのまま見え隠れするような作品にもなっています。

「偉大なワンドゥードルさいごの一ぴき」
は、ファンタジー。

人がまだ神話や魔力や妖精を信じていた頃、人間界にも不思議な動物たち
がたくさん住んでいました。
しかし、新しい知識を身につけ、心の中から空想
上の生き物
を追い出してしまった時、その動物たちもいなくなり、人間の手の

届かない王国に逃げ込んでしまいました。


ワンドゥードルは、既に界に一ぴきしかなく、その不思議な動物たちがたくさ
ん住むワンドゥードルランドの
王様。そこへ行く道は、たったひとつ…想像力に
頼っていくのみ。ポター家
子どもたちベン・トム・リンディの三人は、この
変わった生き物の研究に一生をかけていたサバント教授と共に、ワンドゥードル
探す冒険に旅立って行くことになります…。

食べ物の匂いがする花々など色鮮やかな景色、自分の望み通りの甘いデザートを
作ってくれるという、よだれが出て来そうな機械
、そして、ワンドゥードルの変
わった姿…。不思議なワンドゥードルランドの世界にどっぷり浸ってワクワクド
キドキと楽しめる魅力が揃っています。

「マンディ」
は、ウェブスターの「足ながおじさん」に雰囲気似ているでしょ
うか…。

孤児院に住む10歳の女の子マンディが、孤児院の裏に探検に出かけ、偶然見つ
けた小さな古い家。たくさんの貝殻で飾られた部屋を持つその家を、「私の家」
にしようと決めたマンディは、雑草を抜き花を植えて…と庭の手入れから始まっ
て家の中をきれいに掃除し、自分だけの秘密の場所を作り上げていったのです。
ところがある日やって来てみると、魔法でもかけられたように綺麗になった庭。
驚くマンディに、「ここへくるかわいいおじょうさんへ 愛する人より」という
メモが戸口に残されていたのでした!


どちらも今現在の私が…というより、小学校の頃の自分に戻って楽しんだと思え
るほど、あの頃よく読んだ本の懐かしい匂いがしましたね。 

それでいて、
「偉大なワンドゥードルさいごの一ぴき」では(初版1979年)
すでにクローン技術・遺伝学に踏み込んでいますし、「マンディ」は自分だけに
向けられる愛情を知らなかった女の子が、自分の居場所、自分の人生を強く求
めていった物語。どちらも現代に通じるものがありますよ。

現在どちらも絶版なんだそうです。こちら2冊もござる図書館の白鳥こざるさん
にお借りしました♪


 5月1日(月) 「時計を忘れて森へいこう」 光原百合(東京創元社)

amazon1998.4月発行・270P・1900円

印を2つつけたいほど、大好き!
森を吹き抜ける風、葉洩れ日、さえずる鳥の声…そんなさまざなものが、行間か
ら感じられて、大きな森に抱かれたような心地よさと安心感にハラハラと涙が流
れてきました。終わってしまうのが惜しいほど、読んでる時間が好きでした。

ミステリーというより、いわゆる「日常の謎」というものでしょうか…。
主人公は、父の仕事の都合で清海に引っ越してきた女子高生、若杉翠。校外学習
で訪れた八ヶ岳南麓の森で、なくした時計を探していた翠は、レンジャー(自然
解説指導員)の深森護と知り合います…。

太陽や風、草木と穏やかな交流を繰り返す護さん。そう、この護さんこそが、事
実を織り上げて物語にし、人の心に届く真実を見つけることができる探偵役なの
です。いわゆる言うところの謎解きという感じではなく、どうしてそうなってし
まったのか?という心の深いところを見抜いてしまう目をもっているんですね。
人間っていいな〜と、読んでる私まで、護さんの紡いでいく物語に次第に心が浄
化されていくようでした。

とにかく自分が一緒に森の中に身を置いて、静けさの中で、爽やかな風を感じて
いる…そんな気分にゆったりと浸れます。自然の持つ大きな力を堪能したせいか
なんだか優しい気持ちになりました。

翠ちゃん(と言いたくなる)の恋する女子高生の気持ちも、ちょこちょこ垣間見
られてかわいいの!大阪出身後輩レンジャーのこずえさんのキャラクターもいい
よ!

軽やかなんだけど、一言一言がしっかり心に残った大事な1冊になりました。


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