2000年11月読了
★印は、おすすめ
11/21 ジャンプ 佐藤正午(光文社)
11/12 フォー・ユア・プレジャー 柴田よしき(講談社)
11/6 あふれた愛 天童荒太(集英社)
11/5 ばななブレイク 吉本ばなな(幻冬舎)
11/5 西の善き魔女 1.セラフィールドの少女 荻原規子(中央公論社C★NOVELS
11/4 かかし 今−、やつらがやってくる ロバート・ウェストール(福武書店)
11/3 ちいさな労働者 ラッセル・フリードマン(あすなろ書房)

 11月21日(火) 「ジャンプ」 佐藤正午(光文社)

amazon2000.9月発行・309P・1700円

  自分で自分の人生を選び取ったという実感はありますか?(帯より)

サラリーマンの三谷純之輔は、出張前夜、恋人の南雲みはると、食事を
して、彼女の行きつけの店で飲み慣れぬカクテルを飲んだ。
その後、毎朝リンゴをかじるのが日課の三谷のために、
 「リンゴを買って五分で戻ってくるわ」
そう言って、彼女はコンビニに出かけていった。
しかし、それっきり彼女は戻ってこなかった…。


残された三谷の視点から、8日目、14日目、1ヶ月目、半年、5年後…と、
彼がその後、どう思って、どう進んでいったかを描いていきます。

まずは、彼女はどうしていなくなってしまったのか??という謎が、最後
まで、ぐいぐいと読ませる原動力となっています。
同時に、彼女の足跡が少しずつ見えてくる展開に引き込まれ、取り残さ
れてしまった側のとまどい、なかなかたどりつかない苛立ち、もしもあの
時…と何度も自問する気持ちに寄り添うように読んでいきました。

途中、まどろっこしいものを感じたところもありましたが、最終章で明らか
にされた思いがけない真実に、全てチャラ!
伏線がはりめぐらされていたはずなのに、気がつかず、あっ!と驚かさ
れたその理由に、彼女の行動全てがストンと腑に落ちた感と、同時に
感じたざわざわ感…。

そして、本を閉じてから、しみじみと考えたこと…。
それは、自分を振り返ってみても、そう思うところがあるんですけど、
結局、偶然であれ、必然であれ、その都度、自分で選びとったことが、
その人にとって、意味のある選択−自分らしい道に結びついているの
かなぁ…なんて。そして、あの時の選択が人生の岐路だった…と思う
のは、ずっーと後からなんだよね。

「あなたは、自分自身の今をこれでよかったと思っていますか?」
良かったと思っている…と、常に言える自分でありたいな。
ずっと、これからも…。


 11月12日(日) 「フォー・ユア・プレジャー」 柴田よしき(講談社)

amazon2000.8月発行・419P・1800円

無認可保育園“にこにこ園”の園長にして、ヤバイ仕事も引き受ける
私立探偵…花咲慎一郎が活躍するシリーズ第二弾。

うん!やっぱり、このシリーズ好き〜♪
テンポ良く軽快に読み進むことができて、ハラハラ・ドキドキ度は、
よりアップ。最後まで目が離せないよ〜。
前作「フォー・ディア・ライフ」と合わせ技一本で(笑)おすすめマーク。

今回は、ひと月前にナンパされた男を見つけ出して欲しいという、
30歳の女性からの依頼。何か裏を感じながら調査を開始していくうちに
花咲自身が、絶対絶命の危機に巻き込まれていく…。

また、うまくつながりすぎじゃないの…という部分も、見えなくもないん
ですが、私はミステリーの力というより、大好きなキャラたちの魅力で、
ぐいぐいと読まされた。
なぜだか、“もうハナちゃんったら…”という気持ちにさせられる主人公
の花咲。どこか母性本能がくすぐられるキャラのせいか、花咲の周りに
は、やたらかっこいい女性たちがとりまくのね。
前作で気にいった女医の奈美先生しかり、元奥さんの麦子しかり、肝が
据わった保母の小夜子しかり…。
そして、花ちゃんとのやりとりに、ますます磨きがかかった探偵事務所
の城島の存在もいんだよね〜。
すみずみまで血の通った登場人物の魅力のせいか、残虐さ、冷たさは
全く感じられない。逆にじんわりとあったかい気持ちにさせられた。

ヤバイ裏家業と、子どもたちの笑顔あふれる保育園との落差。その
ギャップの大きさが、うまい具合に融合して、物語をひっぱっていく…。
保育園事情や男性の育児参加の話にも、妙に説得力あったな。

この二作目から読んでも何の支障もありませんが、前作から読んだ方
が一癖あるキャラのそれぞれが抱えている事情などが見えて、より
楽しめます。

また花咲さんに会える日を楽しみに…。
きっと出るはず?次作に好期待!


 11月6日(月) 「あふれた愛」 天童荒太(集英社)

amazon2000.11月発行・333P・1400円

天童荒太氏の新刊。

アトピーの子供と腎臓病を抱える夫のために、何事にも手を抜かず、
きっちりとこなす貞淑な妻。しかし彼女が発した“私、子どもを殺してしま
う、殺しそうになったの”という言葉にうろたえ、疑い、逆に追いつめてし
まう夫の姿を描く「とりあえず、愛」…をはじめとする、四つの中篇集。

文字通り、一気読み!
ううっ、そして何度も泣けてしまった…。

ミステリー色は、全くなし。
一作目の「とりあえず、愛」を読んだ時、重松清さんの作品にカラーが
似てるかなと感じたところもありました。
(天童荒太さんの方が、生真面目な印象だけどね)

読んでいて、やっぱり辛くて痛いものが多いけど、それを上回る優しさ
が作品全体に溢れている…。そして見渡せばどこかにいそうな登場人
物。それが「永遠の仔」に比べて、リアリティを感じさせてくれます。
不器用だけど、一生懸命真面目に生きてきた−頑張って頑張ってそれ
ゆえに心の許容範囲を越えて、病んでしまった人たちも、決して特別な
存在ではないんだよ…と、彼らに注がれる眼差しも温かいです。

この物語を読みながら、“他人の姿を通して、はじめて自分が見えてく
ることがあること”、“真実だけが、その人を救ったり幸せにするわけ
ではないこと”を痛感させられました。

永遠の仔」を読んだ時のような大きな衝撃や興奮はなかったけれど、
読んでよかった〜と、あったかい気持ちが広がる一冊となりました。


 11月5日(日) 「ばななブレイク」 吉本ばなな(幻冬舎)

amazon2000.10月発行・305P・1300円

CDサイズの大きさと装丁がおしゃれで手にとってみた、吉本ばなな初の
コラム集。

藤子・F・不二雄さん、さくらももこさん、小沢健二君、奈良美智さん…。
雑誌「CUT」に連載されていた、彼女が愛してやまない人たちについての
コラムを中心にまとめられたもの。

正直に言うと、取り上げられている人たちの中に、知らない方も多かった。
彼女の思い入れ・感性が前面に押し出されているコラムの中で、それが
どんな人なのか、どんなものなのか、見えてこないままに、凡人の私とは
別の次元でどんどん語られていくような疎外感を味わってしまい、言葉が
直接心に響いてこなかったところも…。我ながらトホホ状態。

ただ、人との関わりからもらったエネルギーを、これまでも、そしてこれか
らも、しっかりと自分のものにしていくという彼女のパワーは、ひしひしと
感じられました。

興味をそそられたのは、父親の吉本隆明氏が昔、作ってくれたという摩訶
不思議な料理の数々。ジャムを巻いたすし、ヨーグルトの入ったおでん、
そして毎朝食べたという、べったりとした「まず焼き卵」。
強烈で、非常に印象に残った部分でした!


 11月5日(日) 「西の善き魔女 1.セラフィールドの少女」 
                   荻原規子(中央公論社C★NOVELS


amazon1999.4月発行・236P・900円

北の高地、人里離れたセラフィールドに住むフィリエルは、初めて出かけ
る舞踏会に、心ときめかす15歳。しかし、天文学者の父親・ディー博士か
ら渡された、母の形見の首飾りをつけて出席した、その舞踏会の日から、
フィリエルの平凡な日々は終わりを告げた…。

全五巻完結+外伝ニ編、「西の善き魔女」シリーズの第一巻目。

少女マンガ風の表紙と挿絵、フィリエルという名前からして、乙女チックで
私には苦手かな…と思いつつ読み始めたのですが、なんのなんの、途中
から俄然おもしろくなるのだ!

予測のつかない展開と、活き活きとしたキャラクターが、このシリーズの魅
力かな。逆境にも気丈に立ち向かっていく元気さが、気持ちのいいフィリエ
ルはもちろんだけど、無愛想だけど、意志の固いルーンと、一見かよわそう
でおしとやかなのに、実は好奇心いっぱいで、おちゃめなアデイルにも注
目!

“異端”って、なんのことだろう??
ちらりちらりと、このシリーズの大きな世界観を見せつつ、多くは謎に包ま
れたまま。物語はまだまだ始まったばかりなり…。まずは一巻目、次作への
期待を大いにもたせて終わっています。


 11月4日(土) 「かかし 今−、やつらがやってくる
             ロバート・ウェストール作 金原瑞人・訳(福武書店)

amazon1987.5月1日発行・310P・1300円(現在在庫切れ) 

主人公のサイモンは13歳。ふだんは、学校の寄宿舎暮らし。軍人だった、亡
きパパのことを今でも慕っています。ある日、ママが見知らぬ男と一緒に学
校へやってくる。でぶの絵描きのジョーは、パパとは全く正反対のタイプ。
ジョーを忌み嫌うサイモン。なのに、ママはジョーと再婚します…。

夏休みはジョーの田舎の家で過ごすことに。ジョーになつく妹のジェーン。
サイモンの居場所はどこにもなくなり、孤独感が募っていくばかり。それが
ママやジョーへの嫌がらせという形で噴出していきます。

母親やジョーとの関係はどんどん悪化していき、パパのお墓のある方向に助
けを求めた時、その願いはたまたま同じ方向にあった古い水車小屋に届いて
しまうことに。その日以来、小屋のそばには三体のかかしの姿が。かかした
ちは、毎夜少しずつ少しずつ畑を横切り、ジョーの家に近づいてきているの
です…。


読み終えて、ずどーんと重い余韻が残りました。

得体のしれないものがヒタヒタと迫ってくる怖さが、昔、水車小屋で起きた
惨劇と絡まって、次第に緊張感を高めていきます…。サイモンの憎悪が、か
かしという形を借りて近づいてくるようなそんな印象を受けました。

サイモンの揺れ動く心、孤立していく様子が、リアリティを持って迫ってき
ます。サイモンに対するママの言動は、読んでいるこちら側でさえ、心にグ
ザリと刺さってくる。同性として理解できないところがあったなぁ。西洋で
は、母親の部分より女性である部分の方が強いのかなぁ。

本当はママのことが好きなのに…。本当はジョーを少しずつ好きになってい
るのに。子どもがとる行動の裏には、表面で見えること以上のなにかで動い
ていることもあるんじゃないかと考えさせられました。

筋とは全然関係がないのですが、サイモンは寄宿舎のベットや、ジョーの家
の屋根裏で、「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」を読んでいます。
何年も積読してあるこの本、やっぱり読んでみよう!と誓いました。

1981年カーネギー賞受賞作品です。


 11月3日(金) 「ちいさな労働者 ラッセル・フリードマン・著
                       千葉茂樹・訳(あすなろ書房)

amazon1996.10月1日発行・117P・1300円

副題は、「写真家ルイス・ハインの目がとらえた子どもたち」。

20世紀初頭のアメリカに、200万人もいたという“ちいさな労働者”。
炭坑や紡績工場など、劣悪な環境で、危険な労働を強いられていた子ども
たちの年齢は、わずか4・5歳から。そして子どもたちの家では、彼らが稼ぐ
わずかな賃金も貴重なほど、貧しかったという。

そのような過酷な現状にある子どもたちを、旧式の箱型カメラで撮り続けた
ルイス・ハイン。彼の写真が、人々に子どもたちの人権について考えさせる
きっかけを作り、社会をも動かしたという。そんな写真家ルイス・ハインの
生涯を綴ったノンフィクション。

歴史の教科書だったら、ほんの数行の記述で終わってしまうような事実が、
ここにある。安い単価、幼すぎて文句をいうこともないという理由で使われ
教育の機会をも奪われる。ひどいところでは、12歳まで生き延びることも容
易なことではなかったという事実に、言葉をなくす。

ハインの撮った写真には、子ども時代を、子どもとして過ごすことができな
かった苦痛や悲惨さが静かに写し出される。年齢よりずっと大人びた、まっ
すぐなまなざしが、時代を超えて強く訴えかけてくる。

“子どもは社会を写す鏡”という言葉を思い出します。
そして、それは今なお、このような“ちいさな労働者”たちが、世界中には
たくさんいるんだよという、事実の重みをつきつけられたよう…。

とにかく“写真が語る力”というものを、まざまざと感じさせられた1冊
です。



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