| 2003年3月読了 | ||
| 3/30 | メイン・ディッシュ 北森鴻(集英社)★ | |
| 3/26 | 蛍の行方 お鳥見女房 諸田玲子(新潮社) | |
| 3/22 | 蛇の石 秘密の谷 バーリー・ドハティ(新潮文庫) | |
| 3/16 | 狐罠 北森鴻(講談社)★ | |
| 3/6 | かくしてバンドは鳴りやまず 井田真木子(リトル・モア)★ | |
| 3/2 | ローワンとゼバックの黒い影 エミリー・ロッダ(あすなろ書房) | |
| 3月30日(日)「メイン・ディッシュ」北森鴻(集英社) 物語の語り手は、劇団「紅神楽」の看板女優・紅林ユリエ、こと通称“ねこさ ん”。彼女は、ある雪の日に出会った三津池修(こちらは“ミケさん”)と、 一緒に暮らしている。長身で風変わりなミケさんには、二つの特技があった。 ひとつは、とびきりおいしい料理を作ること。もうひとつは、彼らの周辺に起 こる事件について、真実を言い当て、解決する能力があること…。 普通の連作短篇集かと思いきや、巧みな構成に驚かされる。 毛色の全く違う短篇が、ねこさんが語る短篇と交互になるように、挿入されて いく。一見なんの関係もなさそうなそのストーリーが、次第次第に、大元のス トーリーと絡んでいく。やがて二つの物語がつながった時、ミケさんは姿を消 した。彼は、一体何者だったのか…。 軽〜いタッチで読ませる感じ。不思議な温かさに満ちていて、読み終わった後 やさしい気持ちになるんだなぁ。先日読んだ「狐罠」と雰囲気は違うけれど、 こちらはこちらで楽しかった。ミケさんの作る料理は本当においしいそうだっ たし…。 時々とんでもない方向に推理が進む座付き作家の小杉隆一。彼とねこさんの、 ポンポン飛び交う漫才のような会話が、物語全体を明るくする。そして、ミケ さんのことを想う、ねこさんの恋心。なんだが、うらやましくなるくらいピュ アだったなー。 ミステリアスで、ほろ苦く、あたったかくて、コミカルで。いろんな味が楽し める、何重にもおいしい連作短篇です。 私は、図書館で借りた単行本で読みましたが、文庫化(集英社文庫)された時 に、特別にもう一篇付け加えられたようです。むむむ、読まねば! |
| 3月26日(水)「蛍の行方 お鳥見女房」諸田玲子(新潮社) 八話から成る連作短篇集。「お鳥見女房」の続編です。話は前作から続いてい るので、未読の方は、まずはそちらから。 珠世は、鳥見役を務める矢島伴之助の妻。夫・伴之助が、お上の命により沼津 藩へ遠征。その後、消息を絶った。父の行方を捜すと言い置いて、次男の久之 助も家を出ていった。さらに、居候の源太夫までが、二人の後を追って、沼津 に向かった…。 ここまでが前作のお話。今回は、三人は無事なのか…というストーリーが軸に なって、物語を引っ張っていく。 矢島家は、長男の久太郎と玉世の父の久右衛門、娘の君江、居候の多津、それ に源太夫が預けていった五人の子どもたちが、留守を守っている。 夫の身を案じ、不安が胸をかすめる時もある。けれど、自分が案じ顔をみせれ ば、皆が不安になる。そう思って笑顔を絶やさない珠世。留守宅は、珠世の人 柄そのままに、温かく愛情に満ちている…。 この作品の一番の魅力は、やはり珠世のキャラクターでしょう。日本人が、本 来大事にしてきたもの、今の時代に忘れているものを、珠世を通して、体現さ せてもらったような気がする。ラストはわかっていても、グッときたねー。 もしかして、これでおわりなのっ!!と思いましたが、こちらで(小説新潮) 現在連載中なようでホッとする。まだまだ、このにぎやかな家族には会いたい もんなぁ。 |
| 3月22日(土)「蛇の石 秘密の谷」バーリー・ドハティ 中川千尋・訳(新潮文庫) 主人公のジェームズは15歳。飛び込みの有望選手だ。彼は養子だったが、両親 はそのことを隠し立てすることもなく、幸せに育っていた。ところが、ある日 ふと感じた父親や友人とのズレ…。それをきっかけに、ジェームスは、自分 を産んだ人のことを、猛烈に知りたくなる。 手がかりは、“サミーをおねがい”と書かれた紙切れとアンモナイト。彼は、 両親に内緒で、自分を産んだ母親を探す旅に出る…。 ジェームズの語りの中に、一人の少女の回想が断片的に挿入されていく。そし て二人の物語は、ほんの一瞬、交錯する…。 ドハーティの作品は、どれを読んでもハズレがないッ!「ホワイト・ピーク・ ファーム」もそうだったけれど、薄い本の中に、ぎゅっと凝縮された思いがあ る。 思春期。いらつき、ふと感じた孤独が、彼を内面へと向かわせる。 “ぼくは、望まれて生まれてきたんだろうか”。 “ぼくが生まれた時、その人は喜んでくれたのだろうか”。 “ぼくの母親は、どんな人だったのだろう”。 養子先でどんなに幸せに暮らしていても、それを知りたいという欲求は、必ず あるだろうなと理解できる。欠落感は、自分のアイディンティに関わってくる ものだから。どうしても、今、自分自身でそうしなければ前に進めないという の切実な思いが伝わってくる。 旅の最後に、ジェームズが養父母に書いた手紙。それは彼が、自分の身を通し て、体験したこと、感じとったこと…。短い文章の中に詰まったいろんな思い が、胸に迫ってきて、泣けてしまった。 つながってきた命、自分の中に受け継がれてきたものを、自分の中で、しっか りと受けとめられた時、また新しい一歩が踏み出せる。ドハーティの作品から は、いつもそんな声が聞こえてくるような気がする。 なお、この文庫の題名は、単行本では「アンモナイトの谷」だったものが、改 題されている。 |
| 3月16日(日)「狐罠」北森鴻(講談社) 骨董業界を舞台にした長編ミステリー。 主人公の宇佐見陶子は、「旗師」と呼ばれる店舗を持たない骨董商。ある日、 銀座・橘薫堂の主人・橘から贋作を掴まされた陶子は、彼に対して、逆に目利 き殺しを仕掛けることを決意する。しかし、同じ頃、橘薫堂の女性社員が殺さ れる事件が発生。陶子も巻き込まれることになる…。 おもしろかったー。まずは、なんとも興味深かったのが、初めて垣間見る骨董 業界の内幕。だまし、だまされぇ〜と、いやはや、なんともおそろしい恐ろし い世界でありました。一般の常識や感覚では計れない、特殊な(?)世界だよ ね。やられたからって、やり返すのかい??と、驚いた部分もあったけれど、 登場人物それぞれが持つ執念みたいなものに、引っ張られるようにして、一気 読み。(だからと言って、ドロドロジメジメしたものにはなっていないのよ) そんな胡散臭い世界から、現実の感覚に引き戻してくれる役割を果していたの が、ベテラン刑事・根岸と部下の四阿のコンビ。さえない風体で、なかなかの 手腕を見せるところも、非常によろしい〜。 ところで、作中に登場する、三軒茶屋のビア・バーの主人って、「花の下にて 春死なん」のマスターだよね〜と、知ったキャラクターの登場に妙にうれしく なったりして。 最後の最後、意外な展開に驚かされ、読者の私さえ騙された気分で 400ページ 余り、充分に楽しませてもらいました。 以後「狐闇」(講談社)、「緋友禅」(文藝春秋)と、シリーズものになって いるようです。 |
| 3月6日(木)「かくしてバンドは鳴りやまず」井田真木子(リトル・モア) 恥ずかしながら、私が、ノンフィクション作家・井田真木子さんの存在を知っ たのは、昨年のこと。「週刊ブックレビュー」の番組の中で、この本が紹介さ れた時が、初めてだったので、亡くなられた後…ということになりますね。 (井田さんは、2001年の3月、44歳の若さで亡くなられています)。 さて、絶筆となったこの本は、とても変わった(?)構成になっています。 冒頭に“本書の成立まで”と経過が説明されていますが、まず掲載されている のが、井田さんから FAXで送られてきたという連載企画書。(古今東西の傑作 と言われるノンフィクション作品を取りあげて、作家論を展開して欲しいとい う、「リトルモア」の要請に答えたもの)。 そして、十回の予定が、彼女の死によって三回になってしまった連載を収録。 第一章 トールマン・カポーティとランディ・シルツ 第ニ章 「さもなくば喪服を」と「きけわだつみのこえ」 第三章 カール・バーンスタイン&ボブ・ウッドワード「大統領の陰謀」 それにプラスして、「十四歳」(講談社)刊行後、1999年に行なわれたと思わ れる井田真木子インタビュー。 井田さんの死後に行なわれた、「プロレス少女伝説」(文春文庫)の取材対象 だった神取忍さんへのインタビュー。 巻末には、彼女の著作、署名記事、インタビューの一覧が載せられています。 七枚にわたって送られてきたという連載企画書を読んだだけでも、彼女の力量 のすごさがわかる。これだけでも、もう払った本代の元手はとったわと思った くらい。どのような立場でもって対象を選んでいくのか。どのような距離や視 点で対象を見ていくのか。プロの作家って、こういう仕事の仕方をしていくん だなと感嘆しました。 ただ、情けないことに、井田さんのインタビューを読んでいて、彼女の言わん としていることを、ちゃんと理解してのみこめたとは言いがたく〜。とほほほ ほ。 三回分の連載については、その迫力と、独特なスタイルに驚かされました。 対象とした人物に問いかけるように、彼らと対話をするような形で、“真実” にぐいぐいと迫っていく。そして、全体的に死の匂いが漂っているような感じ がしたのは気のせいでしょうか…。 彼女が残した作品をいくつか手にとってみたいと思っています。 |
| 3月2日(日)「ローワンとゼバックの黒い影」エミリー・ロッダ さくまゆみこ・訳 佐竹美保・絵(あすなろ書房) ローワンシリーズ第四作目。 リンの村では、ローワンの母・ジラーとストロング・ジョンの結婚式が、にぎ やかに行なわれていた。その時、突然、巨大な翼を持つ動物が現われ、妹のア ナドをさらい、飛び去っていく。 不吉な予感を感じながら、それを口にしなかったローワンは、自分のせいだと 自らを責める。後を追うことを決心したローワンは、仲間とともに海を越え、 ゼバックに向かっていった…。 謎めいた詞をひも解きながら…というパターンは、これまでと同じ。今回は、 “詞”に頼る比重が大きかった気もするし、詞の意味がずいぶん簡単にわかっ ちゃうのねと思うところもあったかな。 パン屋のアラン、<旅の人>のジール、マリスの民のパーレン…と前作までに 登場してきたオールスター(?)が勢ぞろい。文中では、“半端者”という言 葉が使われているが、“周囲と違う”という思いを持っている者たちが、自分 の持ち味を生かし、それぞれの役目を果たしながら、険しい道を進んでいく。 ローワンには、これまで幾多の苦難を乗り越え、リンの村を救ってきたじゃな いかぁ〜、もっと自分に自信をおもちよ〜と言ってあげたくなるところもある が、そこがローワン“らしさ”なんだろうなぁ。最後に彼が果たす役割は、い かにも彼らしいものになっているもんなぁ。 この四作目での新たな出会いが、今後、ローワンの暮らしに明るいものをもた らしそう〜。そんな嬉しい予感を残して、次作にも期待だ。 ※前作までの感想はこちらから →1.「ローワンと魔法の地図」2.「ローワンと黄金の谷の謎」 3.「ローワンと伝説の水晶」 |