| 2004年2月読了 | |||
| 2/27 | 人形の旅立ち 長谷川摂子(福音館書店)★ | ||
| 2/24 | 書店風雲録 田口久美子(本の雑誌社) | ||
| 2/23 | 桜宵 北森鴻(講談社) | ||
| 2/20 | 誰か 宮部みゆき(実業之日本社) | ||
| 2/12 | この道のむこうに フランシスコ・ヒメネス(小峰書店) | ||
| 2/5 | 駆けぬけて、テッサ! K.M.ペイトン(徳間書店)★ | ||
| 2月27日(金)「人形の旅立ち」長谷川摂子 金井田英津子・画(福音館書店) 長谷川摂子さんは、「めっきらもっきらどおんどん」「おっきょちゃんとかっ ぱ」「きょだいなきょだいな」などを書いた絵本作家として有名だが、こちら は読み物。 表題作を含む五つの連作短編集。それぞれ独立した話だが、舞台は、作者が生 まれ育った島根県平田市、語り手となっている少女は、作者自身と思われる。 出雲弁が耳に優しい。特に、最後の「観音の宴」が好きだった。 どの物語も、少女がふと垣間見てしまった、日常と隣り合わせに存在するこの 世ではない世界…が描かれている。突き放されるように終わっていても、不思 議な余韻がずっと残る。ジャンルでいうとファンタジーになるんだろうけど、 日本人に根ざしたというか、誰もがすんなりと受け入れられる土壌があるので はないだろうか。そして少女の日常生活の風景は、自分がその場にいたわけで はないのに、どこか懐かしい気持ちにさせられる。 とても丁寧に本作りがなされているという印象だった。金井田英津子さんの挿 絵もすばらしく、物語の雰囲気を一層盛り上げる。 子どもより、むしろ大人の方−特に1944年生まれの長谷川さんと同じ頃、子ど も時代を過ごした方たちに、おすすめしたい。 平成15年度坪田譲二文学賞受賞作品。 |
| 2月24日(火)「書店風雲録」田口久美子(本の雑誌社) いまだに、「あのリブロ」と一部に語られるリブロは、なぜ「リブロ」であっ たか、どのように「リブロ」になったか、を整理しようと思う。(本文より) 1975年、西武百貨店池袋店内にオープンした、リブロブックセンター。当時新 規参入の書店であったリブロは、「個性的」であることを売りにし、堤清二氏 の文化路線を後ろ楯にし、ある一時代をつくった。そのリブロとはどんな書店 だったのか?また、リブロを作り上げたのは、どんな人たちだったのか? リブロ入社後、船橋、渋谷各店を経て、池袋店店長であった著者(現在はジュ ンク堂池袋本店副店長の職にある)の記憶と、関わってきた方々の証言によっ て、“あのリブロ”の歩みが語られる…。 一番興味深く読んだのは、そこで働いていた個性的な面々の仕事ぶり。 「本」に思い入れの多かった故・小川社長、“今泉棚”という業界では伝説の棚 作りをした今泉店長、売り場づくりのコンセプトを担当した本部スタッフの中 村文孝氏の三人を軸としながら、洋美術書販売の店長をしていた文芸評論家の 永江朗氏、西武百貨店の社員だったという、著者が稀代の変人と書く直木賞受 賞の車谷長吉氏と、芥川賞作家・保坂和志氏も登場する。 当時まだ珍しかったイベントやブックフェア戦略を仕掛け、社会状況を見据え ながら、何を作り上げる−特に既存のものとは違うものを作っていくことは、 大変なこともあっただろうけど、すっごくおもしろかっだろうなと思う。特に 今泉氏の仕事へののめりこみようはすごい。編集者たちを訪ね歩いては情報を 集め、売り場にきた作家を捕まえては『今の状況』を聞きまくり、関連の本を 読み漁り、それを書棚で表現し発信していく。(ただ、彼が専門とする思想書 や精神世界の話、たくさんあげられている本のタイトルは、私には全然わから なかったケド…) その後、リブロの経営母体の変更で堤清二氏の文化路線は終焉を迎え、1995年 の社長交代でリブロは新体制となり、“あのリブロ”は幕を閉じる。駆け抜け た20年は記憶となったのである。 当時の百貨店の中での書籍売場の立場や、新規参入の書店にはなかなか本がま わってこなかった話、書店ってこんな不条理なクレームがくるのか…なんて、 裏側も楽しめた。 WEB本の雑誌 に連載されたものをまとめたものなので、一部、ネット上でも読 むことができます。 |
| 2月23日(月)「桜宵」北森鴻(講談社) 「花の下にて春死なむ」の続編。三軒茶屋近くのビアバー「香菜里屋」を舞台 とする、シリーズ第二弾。表題作を含む五編の連作短編集。 もう、このシリーズは、料理がおいしそうでたまらん!!につきるのですが、 ミステリーとしては、ちょっと弱いかな。納得したようなしないようなで、い まいちのれず。今回の目玉(?)は、いつもカウンターの中にいるマスターの 工藤が動いた!(花巻に行くのだ)ということと、なにやら工藤の過去を知る バー香月の香月圭吾が登場!ということで、今後の展開が楽しみだ。五編の中 では、毒のある苦いものではあるけれど、最終話の「約束」が良かった。 |
| 2月20日(金)「誰か」宮部みゆき(実業之日本社) 図書館でもなかなか借りられないし、文庫になるまで読めないかも…と思って いたら、思いがけず知人から貸していただいた。感謝! 宮部みゆきさんの二年ぶりの現代ミステリー。書き下ろし。 語り手は、妻子持ちの35歳のサラリーマン・杉田三郎。彼は、義父が会長を務 める今多コンツェルンの広報室で、記者兼編集者として働いている。 夏休みの真っ最中だった八月十五日、義父の個人運転手だった梶田信夫が、自 転車に轢き逃げされ死亡した。それから半月。杉田は、父親の生涯を本にした いという梶田の二人の娘に協力してやってほしいと、義父から依頼され、姉妹 と会うことになる。 しかし、父の人生を本に書き、マスコミでとりあげてもらえれば、犯人を見つ けるきっかけになるかもしれないと、意気込むのは妹の梨子ばかりで、姉の聡 美は反対。しかも、妹のいない場所でしか話せない何かをもっている様子。実 は聡美は、4歳のときに “誘拐”されたという怖い記憶を持っており、それが 今度の事故と結びついているのではないかと不安を抱いていることを、杉田に 打ち明けた。杉田は意見の違いをみせる姉妹にはさまれながら、梶田氏の過去 を調べてみることになる…。 帯を読んで、轢かれたのは自動車ではなく、自転車なの!?と驚いたが、自転 車による歩行者の死傷事故が、ここ数年じわじわと増加しているんだとか。 はじめ、出てくる人みんなが“いい人”なのが、引っ掛かっていたが、その轢 き逃げ事故がきっかけとなり、隠していたそれぞれの秘密が露見していく…。 ごく普通の人たちのドラマだが、人間の複雑な心情を丁寧に描いていて、宮部 さんの初期の頃の作品を思い出させた。 読みやすいし、読ませるものである。ただ正直言って、宮部さんの作品には期 待も大きくなってしまい、宮部作品としてはフツーだったかなぁと。帯に書か れている“新たな代表作”と呼ぶのは、ちょっと異論があった。 探偵役となる杉田三郎は、強烈な個性があるわけではない。財界の大物・今多 嘉親の娘と結婚した、俗に言う「逆玉の輿」だが、自分の立場に冷静で、飄々 とした感がある。彼が望むものは、ただひとつ、愛する妻と娘を大切に守り支 えていくこと。そして、それを貫くための彼の思いには、孤独感さえ透けてみ える。この杉田三郎を通して、個人ではなく、立場ばかりを見がちな自分に気 付かされた。広報室のアルバイト社員シーナちゃんも、いいキャラだったな。 装画は杉田比呂美氏。 |
| 2月12日(木)「この道のむこうに」フランシスコ・ヒメネス・作 千葉茂樹・訳(小峰書店) 豊かさを夢みて、国境のフェンスを越えて、カリフォルニアにやってきた、あ る家族の物語。作者の自伝的な作品となっている。(連作短編) イチゴ、綿花、ブドウといった農作物の収穫期に合わせて、転々と移動を繰り 返す季節労働者−ミグラン・サーキットの暮らし。物語は、次男のパンチート の目線で、静かに淡々と語られていく…。 パンチートの見たもの、感じたことだけが書かれているので、彼の気持ちは丁 寧に語られるが、その時代背景などは、あまり明らかにされない。だからなの か、唐突に始まって、唐突に終わったという印象が残る。まぁ、メキシコから の不法入国なんだなとか、少しずつ探り探り読むのもまたいいものだけどね。 厳しい労働、貧しい生活。次々に赤ん坊が生まれ、パンチートも家族の中では 大事な働き手の一人となる。学校へ行くこともままならず、慣れたと思ったら また次の土地に移動しなければならない。そんな苦境のさなかにも、子どもら しいささやかな楽しみや喜びを見出していく姿と、家族の絆が印象的だった。 そして、ラスト。この物語を読んでいて、一番感情が高ぶった場面で、突然、 物語の幕が下りる。ええっーー!!そんな…。訳者の千葉さんのあとがきで、 パンチートのその後と、続編(そーだよね〜、これでこの物語が終わりなら、 怒るぜ)があることがわかるからいいものの。 Y.A.Books シリーズの中の一冊のようだが、今の中高校生にはどうだろう…。 いい本だと思うけど、波乱万丈なスーリーではないし、う〜ん、ちょっとすす める相手を選ぶ本かもなぁ。 |
| 2月5日(木)「駆けぬけて、テッサ!」K.M.ペイトン・作 山内智恵子・訳(徳間書店) これ、よかったぁ〜〜〜。 主人公となる少女・テッサは、両親の離婚で、幼い頃からかわいがっていた馬 のアカリと無理やり引き離される。さらに、母親が再婚したモーリスは、金持 ちだが、冷酷で強欲な男。テッサは、そんな義理の父親を嫌い、モーリスにお びえ、それでも別れない母親に苛立ち、ことごとく反抗する日々を送る。 テッサは、三つ目の学校も退学処分になり、モーリスの命令で、次の学校が決 まるまで、近くのスズメ農場に働きに出されることになる。モーリスに送り込 まれたからには、絶対首になってやる…とふてくされ、やる気のない態度をさ んざん見せつけてきたテッサだったが、ある日、農場で調教用に預かることに なったくず馬のピエロがアカリの子だと知ってから、テッサは変わっていく。 ピエロに深い愛情をそそぐようになり、騎手になること、そしてピエロに騎乗 して、イギリス最大の障害レース「グランド・ナショナル」に出ること。これ がテッサの夢となる…。 しかし、テッサのその夢がかなうまでには、とにかく次から次へと、いろん〜 なことが起こるのだ。そのドラマに、ぐぐぐぃっと引き込まれて、一気読み。 そして、そんないろんなことがあるからこそ、ラストの感動が大きいのかもし れない。 いとおしむ相手ができたこと、心からやりたいことに出会ったこと、夢ができ たことが、テッサをどんどん変えていく。人が立ち直っていくために、必要な ものはなんなのか。見守ってくれたり、支えてくれる人たちがいるということ が、その子が成長していく上で、どんなに大切なことかが、よ〜くわかる。 読んでいて、暗い気持ちにはならないのは、テッサのまわりにあったかい人た ちがたくさんいるせいか。特に、スズメ農場のセーラがいいねー。あと、登場 は少ないけれど、アルストン校長先生と『鬼ばばあ』。 ピエロの姿に自分を重ねていたテッサ。周りからどんな駄馬だと言われても、 ピエロを信じ続けたことは、自分を信じることでもあったのかなと思った。そ して、無理だと思っていたことを実現していくテッサの姿に、読者は励まされ るのだ。 最終章ではたぶんこんな風になるんだろうなと予想はできるが、それでもやっ ぱり、手に汗にぎる。レースのシーンは迫力があって、ぞくぞくしたねー。祈 るような気持ちで読みました。競馬を知らなくても、おもしろい。おすすめ。 |