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2004年3月・4月読了 
★印は、特におもしろかったもの・好きだったものです。
4/27 千年の黙 森谷明子(東京創元社)
4/25 夜中に犬に起こった奇妙な事件 マーク・ハッドン(早川書房)
4/20 モギ ちいさな焼きもの師 リンダ・スー・パーク(あすなろ書房)
4/14 ドローセルマイアーの人形劇場 斉藤洋(あかね書房)
4/13 雲のはて ペイトン(岩波書店)
4/9 アヒルと鴨のコインロッカー 伊坂幸太郎(東京創元社)
4/6 くらのかみ 小野不由美(講談社)
3/30 サンザシの木の下に マリータ=コンロン=マケーナ(講談社)
3/30 愛の旅だち ペイトン(岩波書店)
3/9 シービスケット ローラ・ヒレンブランド(ソニー・マガジンズ)

 4月27日(火)千年の黙 異本源氏物語森谷明子(東京創元社)

amazon2003.10月15日発行・317P・1800円

おもしろかったなぁー。「むかし あけぼの(上・下)」(角川文庫)とか、
「春の目覚めは紫の巻」(文春文庫)とか、田辺聖子さんの平安ものが大好き
だったので(源氏物語も、田辺さんの「新源氏物語(上・中・下)」(新潮文
庫)で読んだっけ…)、見事にハマリました。

中編二編と短編一編から成る連作三部作。
時は平安時代。物語の中で、謎を解き明かすのは、紫式部。紫式部自身は、ほ
とんど屋敷を離れることはありませんが、女童のあてきや夫の宣孝らが見聞き
した情報の中から、鮮やかに真相を見抜いていきます。

日常の謎を扱ったもの−と思っていたら、やがて、実際に“源氏物語の謎”と
言われている、“「かかやく日の宮」の巻が抜き去られた”という大きな謎に
迫っていくことになります…。

研究者の間では、「桐壺」と「若紫」の間には、「かかやく日の宮」という巻
が存在したのではないかという説があるそうですが、では、なぜなくなったの
か?誰がそれを闇に葬ったのか?そして紫式部は、なぜ源氏物語の欠落をその
ままにしておいたのだろうか?…という謎に、作者なりの答えが示されます。

一部から二部、二部から三部へは、それぞれ時間の経過があります。登場人物
も成長したり、あるは亡くなったりする中で、書き手である紫式部の思いと、
源氏物語が当時どのように読まれ、どのように人気を博していったのかという
ドラマが、史実を踏まえて書かれていきます。

印象に残ったのが、権力に翻弄される男性とは、対照的に描かれている女性た
ち。紫式部もあてきも、彰子様も、みんなキャラが立っているし。実に生き生
きとしていて、したたかでしなやかな生き方が、気持ちよかったなー。

謎解きとしては意表をつくものではないけれど、読み物としてもおもしろく、
最後まで飽きさせない。読みやすいしね。源氏物語と微妙にリンクしているこ
ともうれしかったりして。非常に楽しく読めました。ふだんミステリーを読ま
ない方にもおすすめ。

第13回鮎川哲也賞受賞作。


 4月25日(日)夜中に犬に起こった奇妙な事件マーク・ハッドン
                           小尾芙佐・訳(早川書房)


amazon2003.6月20日発行・373P・1700円

語り手となっているのは、「自閉症に含まれるアスペルガー症候群という、生
まれながらの障害を持っている−クリストファー、15歳。

彼は、数学と物理に関する優れた才能と、人並み外れた記憶力を持っている。
その一方で、他人の感情や表情を読み取ることができず、両親であっても体に
さわられるのが嫌いだし、新しい場所にいくと、一度にたくさんの情報が頭に
入り込んでくるため、パニックを起こしてしまう。

クリストファーは、二年前に母親が亡くなってから、父親と二人暮らしをして
いた。ある夜、彼は、近所に住むミセス・シアーズの犬が、園芸用のフォーク
にさされて死んでいるのを発見する。誤解から警察に連れていかれたクリスト
ファーは、父親に反対されながらも、この事件の犯人を自分で見つけようと決
心する。しかし、その過程の中で意外な事実が判明してしまうことになる…。

正直言って、裏表紙に書かれている“「アルジャーノンに花束を」をしのぐ感
動作”という言葉はピンとこなかったなぁ。感動を売り物にする作品でもない
し、ミステリー仕立てになっているけど、謎解きのおもしろさで読ませるもの
でもない。ただ、だだずっと、彼の視点に立ってものを見、淡々と描かれる彼
の内面に寄り添いながら、その世界に触れることで、「クリストファーには、
こんな風に世界がみえるんだ、こういう感じ方をするんだ」と、彼の持つ障害
というのがどういうものなのかということが理解できた気がした。

この間、「光とともに…」という自閉症を題材にしたドラマを、ちらっと見た
けど、周囲を含めて、まずはその障害について知ること、そこが第一歩なんだ
ろうなぁと思った。

2003年度ガーディアン賞受賞作品。


 4月20日(火)モギ ちいさな焼きもの師リンダ・スー・パーク
                  片岡しのぶ・訳(あすなろ書房)


amazon2003.11月30日発行・199P・1300円

雲のはて」のウィリアムは飛行機に、「ドローセルマイアーの人形劇場」の
エルンストは人形劇にのめり込んでいましたが、
この作品の主人公・モギは、
高麗青磁の焼きものに魅せられます。

舞台は、12世紀後半の韓国、青磁の村として栄えるチュルポ村。モギは、幼い
頃に両親を亡くし、トゥルミじいさんと橋の下で暮らしていた。トゥルミじい
さんは片足が悪く、日々の食料さえ困ることも多かったが、二人は貧しくとも
人としての誇りを忘れない生活を送っていた。

そんなモギの楽しみは、近くに住む焼きもの師・ミンの作業を密かに観察する
こと。ミンに惹かれ、ミンの手から生まれる青磁に魅せられていったモギは、
ひょんなことから、彼のもとで働けるようになる…。

自分にとって、これだッと思った道を見つけた一人の少年の成長物語なんだけ
ど、素直で心根のいいモギが、かわいくてかわいくて、母のような気持ちで読
んでしまいました。

物質的な貧しさと心の貧しさは、決してイコールではないということ。(トゥ
ルミじいさんの教えは、一つ一つ心に響きます)。そして、来る日も来る日も
力仕事ばかりさせられるモギが、くさることなく工夫し、自分の目と耳でしっ
かり見聞きして学んでいく、ひたむきな姿に教えられることが多かった。

2002年ニューベリー賞受賞作。近年、韓国を題材にした絵本が、どんどん出て
きているが、韓国を舞台にした児童文学も、これから増えてくるのではないだ
ろうか。


 4月14日(水)ドローセルマイアーの人形劇場斉藤洋(あかね書房)

amazon1997.3月15日発行・147P・1236円

舞台は、ドイツ。主人公は、高校の数学教師をしているエルンスト。

彼は、ある朝、偶然見かけた老人の、荷物を運ぶ手助けをする。その老人・ド
ローセルマイアーは、旅をしながら人形芝居をしている人形つかいだった。
ルンストは、
荷物を幼稚園まで運んだついでに、彼の人形劇を見る。そして、
巧みに人形をあやつり、いくつもの声色を使い分けるドローセルマイアーの人
形劇に、すっかり魅せられてしまった。

町を離れるドローセルマイアーを見送りに行ったエルンストは、職を捨て、彼
についていく決心をし、列車に飛び乗った…。


「できる力を持っている者でも、やる気になってくれなければどうしようもない」(本文より)

<やる気はあったが、事情が許さなかった>は、たいていの場合、言いわけにすぎないと、私は
思う。(あとがきより)


薄い本だし、読み口がいいので、さらりと読めてしまうが、自分にとってこれ
だッと思うものに出会った時の、説明できないほどとりつかれてしまった心情
と、いさぎよい決断が心に残る。

偶然がもたらした運命的な出会いと、そのわずかなチャンスを自分の意思でつ
かみとった一人の男性の物語を、ファンタジー仕立てで描いていく。先が読め
てしまうところがあるけれど、不思議なリアリティがあって、好きだったな。

イラストは、森田みちよさん。


 4月13日(火)雲のはてペイトン・作 掛川恭子・訳(岩波書店)

amazon1973.7月10日発行・272P・900円

「フランバーズ屋敷の人びと」第二部。

物語は、前作「愛の旅立ち」のラストでクリスチナとウィリアムがフランバー
ズ屋敷を飛び出して
、新しい世界へ向かった、すぐ後から始まります。

ウィリアムは、苦労しながらも自分の好きな飛行機の世界に、まっしぐらに突
き進み、パイロットとして、設計家として認められていく。その一方で、クリ
スチナは、飛行機のことしか頭にない彼に不安を抱き、死と隣り合わせの飛行
機を恐れていた…。


うーん、じれったいと何度思ったことか…。クリスチナって、こんな感じの女
の子だったっけ??恋をすると変わるのか??

だけど、これが二十歳前の、まっすぐなクリスチナの愛の形なのかもしれない
し、ウィリアムを通して、好きなことに夢中で、自分のことで手いっぱいな、
若者の姿というものをみることができる(こういう時期を経ることも大事な気
がするんだけど)。でもさー、自分が好きなものは相手も好きだと信じて疑わ
ないのは、
ラッセル家の血だよねぇ。

恋愛小説も、恋愛映画も、恋愛ドラマも苦手な私は、このシリーズのいい読み
手ではないのかも…と、ふと思った。


このドラマと同時に描かれている、草創期の飛行機事情など、時代史の方に
惹か
れる。


 4月9日(金)アヒルと鴨のコインロッカー伊坂幸太郎(東京創元社)

amazon2003.11月25日発行・331P・1500円

物語は、大学生活を送るため、仙台でアパート暮らしを始めた椎名が語る「現
在」と、ペットショップで働く琴美を語り手にした「二年前」を、交互に描き
ながら、進んでいきます。

引越してきた日、椎名は隣に住む河崎から、いきなり「本屋を襲わないか」と
いう誘いを受ける。その二日後、彼は
震えながらボブ・ディランの「風に吹か
れて」
口ずさみモデルガンを持って
店の裏口に立っていた…。


ブータン人のドルジと同棲している琴美は、その頃街で頻繁に起きていたペッ
ト殺しの犯人と偶然遭遇し、巻き込まれる…


二年前、一体何があったのか?この二つの物語は、どのように結びついていく
のか?


現在
と「二年前」の物語が少しずつ絡み合い、次第に全体像が見え始めて
くる。そして、二つが重なった時、思いもよらなかった、不意打ちを食わされ
ることになる…。


バラバラだった物語が、最後ひとつに収束していくという手法は、珍しいもの
ではないけれど、
少しずつ全体を見せていく中で、アッと言わせ、最後に不可
解なタイトルの意味が明らかになる。
考えられ練られて、きっちりと
構成され
ているなと思わせる作品。あちこちに伏線張られてたよー。うまいよぉー、鮮
やかだよー。
そして、それだけではなく、たっぷりと余韻を残すのだ。


伊坂作品を読むのは、これが二作目。昨年の秋に読んだ「重力ピエロ」は、非
常に忙しい中で読んだのが悪かった(毎晩すぐに眠たくなってしまい、全然進
まず、結局読み終わるのに二週間もかかってしまった。先が気になるミステリ
を二週間もかけて読んだんじゃ、おもしろいものも、おもしろくなくなるわけ
だけど)こちらは気に入りました。


 4月7日(水)くらのかみ小野不由美(講談社)

amazon2003.7月31日発行・330P・2100円

後継者を決めるため、親戚一同が山奥にある本家に集められた。一緒にきた子
どもたちは、蔵座敷に忍び込んで、三郎にいさんから聞いた「四人ゲーム」を
試してみる。ゲームが終わると、四人だったはずの子どもが五人いる。いつの
まにか一人増えていた。なのに知らない子がいない。子どもたちの中に紛れ込
んだ座敷童子は、誰なのか?

そしてその頃、大人たちの間では、夕食にドクゼリが入れられる事件が発生す
る。しかも毒にあたったのは、後継者の資格をもつ者ばかり。それから怪奇な
事件が次々と起こる。子どもたちは、その犯人を捜すべく、自ら調査し、推理
することになる…。

読みながら、ああー、子どもにとって、こういうのはたまらないのではないだ
ろうか…と思った。山奥にある古くて大きな屋敷って、それだけでもちょっと
怖いところがあるのに、行者のたたりという言い伝え、気味の悪い沼、お地蔵
さん、人魂、古井戸と、子どもたちがゾクゾクしそうなものがたんさん出てく
る。怖いけど見たい、怖いけど知りたいという好奇心と、自分たちで相談し作
戦を練って犯人を探し当てていくという探求心がくすぐられる感じ。

登場人物は多いし、ん?と立ち止まって考えなければわからない部分もあるの
だが、ごちゃごちゃしてきたぁー、このへんで人物相関図が欲しい…と思った
ら家系図が登場し、家の見取り図やそれまでにわかった情報を図で整理してく
れたりする配慮が、とても嬉しい。

大人には…というと、特に、私のような世代だと、村上勉さんの挿絵を見ただ
けで、
ノスタルジーな気分にさせられるんだけど、夏休み遠くに住んでいるい
とこたちが一同に集まって、一日いっぱい遊びころげたこと、子どもばかりで
枕を並べた夜…と、ふだんとは違った時間を過ごした懐かしい記憶が蘇ってく
る。

「かつて子どもだったあなたと少年少女のための−」と銘打っ“ミステリー
ランド”
第一回配本作品。執筆している(執筆が予定されている)のは、現在
第一線で活躍中の作家陣だし、
目を引く装丁に、
総ルビで字も大きめ。子ども
たちが本に親しむ入り口になったらいいなと思ったシリーズ。ぜひ学校図書館
で揃えて欲しい!
高学年くらいから読めるかな。



 3月30日(火)サンザシの木の下にマリータ=コンロン=マケーナ・作
                  こだまともこ・訳 中村悦子・絵(講談社)


amazon1994.3月23日発行・222P・1500円

先々月に参加した「ノリー・ライアンの歌」の読書会で、同じアイルランド飢
饉を題材にした本として、「アンジェラの灰」とともに名前があがった作品。

中村悦子さんの絵を見ると、どうしても「のっぽのサラ」を思い出してしまう
んだけど、サンザシの木の下でのんびりと語らっているような表紙の絵からは
想像もつかないような過酷な物語。

19世紀半ば、大飢饉に襲われたアイルランドでは飢えと病気が蔓延する。父さ
んは道路工事の出稼ぎに行ったきり帰らず、まだ赤ん坊だった一番下の妹は亡
くなり、父さんを探しに行った母さんの消息までわからなくなってしまった。

残されたのは、十二歳のアイリーを頭とする三人の子どもたち。母親が帰って
こないなら救貧院に行くようにと告げられたアイリーたちは、自分たちだけで
もなんとか生き延びようと、母さんがいつも話してくれたお話に出てくるナノ
おばさんとリーナおばさんのうちに行こうと決め、救貧院へ行く列の途中で逃
げ出した。それから、三人はキャッスルタガートまでの長い道のりを歩き始め
る…。


けがや病気に見舞われ、食べ物を探しながらの困難な旅が続く。そんな中で、
子どもたちが生きていくために身に付けていた知恵や工夫は、親や年長者のふ
だんからの教えや彼らのしてることをみて覚えていたもんなんだよなと、しみ
じみ感じた。弟や妹を励まし、面倒をみるアイリーが、けなげでいじらしい。
中村悦子さんのやわらかい線の挿絵が、過酷な物語を和らげる。大飢饉下の救
貧院での悲惨な状況というものを初めて知った。

とても気になったことがひとつあって、両親の消息がわからずじまいで終わっ
ているんだけど、裏表紙に十字架の絵が描かれているので、亡くなってしまっ
たのでは…と受け取ったのですが、その読みはあたっているのでしょうか??

「ノリーライアンの歌」に比べると、こちらの方が読める対象年齢は低め(お
よそ四年生くらいから)。こだまともこさんの訳文は読みやすく、好きな翻訳
者の一人です。


 3月30日(火)愛の旅だちペイトン・作 掛川恭子・訳(岩波書店)

amazon1973.4月18日発行・316P・900円

「フランバーズ屋敷の人びと」三部作の第一部にあたる。現在は絶版で、私が
通ってる図書館でも所蔵していなかったことに、ちょっと驚いた。(この三部
作の続編「愛ふたたび」が86年に刊行されている)。

第一部は、1908年〜1912年、叔父のラッセルに引き取られ、フランバーズ屋敷
で暮らすことになったクリスチナの12歳〜16歳までが描かれる。

馬と狩猟以外のことに興味がない暴君・ラッセルの血を、そのまま受け継いで
いる長男のマーク(ちなみにマークはハンサムだ)。マークとは対照的に狩猟
を嫌い、父に反発し、飛行機で空を飛ぶことを夢見て、自分の道を進んでいこ
うとする次男のウィリアム。そして、階級差がまだ歴然として横たわる社会の
中で、クリスチナに惹かれていく使用人のディック。

第一部は、成長物語と言うよりは、ロマンス小説の色合いが濃い。

自動車や飛行機が登場し、新しい時代が幕を開けようとしているイギリス社会
を背景とし、時代も価値観も大きく変わろうとしている中で、一人の女性がど
う生きていくかを描いていく。

マークか、ウィリアムか、それともディックか?クリスチナが三人の間で揺れ
ながら、誰を選ぶのか?どんな価値観の中に身を置き、どんな生き方を選ぶの
か??(客観的にみると、無意識だけど誰にでも思わせぶりな態度とるのはど
うかと思ったりもして)。読み手が、三人の男性の誰に肩入れして読むかで、
おもしろさも違ってくるかも。


 3月9日(火)シービスケット あるアメリカ競走馬の伝説
       ローラ・ヒレンブランド 奥田祐士・訳(ソニー・マガジンズ)


amazon2003.7月20日発行・521P・1800円

トビー・マクワイア主演の映画「シービスケット」を見終わった後、二時間半
という時間では描ききれなかった部分を、もっと知りたいと思って、本屋に直
行。

丹念に取材し書き上げられた本書によって、映画での人物像にさらに肉付けが
され、1930年代のアメリカ及びアメリカ競馬界が見えてくる。そして実話とは
思えないほど、波乱万丈でドラマチックな展開。ノンフィクションだからだろ
うか、話の流れがわかった上で読んでも、充分おもしろかった。

大恐慌に陥っていたアメリカをもっとも沸かせたのは、一頭の競走馬だった。
馬の名は、シービスケット。脚の曲がった小柄な馬で、アメリカきっての名調
教師と言われたフィッツシモンズの手にかかっても芽が出ず、買い手もつかな
い三流の競走馬だった。

しかし、この馬の運命は、三人の男たちの出会いによって一転する。

馬主は、自転車修理から身を起こし、西部最大のカーディラーとなったチャー
ルズ・ハワード。自動車はハワードに莫大な富をもたらしたが、その自動車に
よる事故で息子を亡くし、大きな哀しみを背負った彼は、馬への愛情を再燃さ
せる。

調教師のトム・スミスは、確かな腕前が目に留まり、ハワードに紹介される。
大草原で野生馬馴らしをしていた経験をもつスミスは、まだ無名だったがシー
ビスケットの才能を見出し、「買ってくれ。ホンモノだ。もっとよくできる。
自信がある。」無口な彼は、この短い四つのセンテンスで、意向を伝えた。

そして、そのシービスケットに選ばれ(?)騎乗するのが、赤毛の騎手、レッ
ド・ポラード。彼は実家の生活苦のため、少年時代から見習い騎手として地方
競馬に出ていたが、成績は低迷、家も金もなく、馬に乗らない時は懸賞金稼ぎ
のボクサーとして暮らしていた。


この三人の男たちが巡り会うことによってシービスケットの才能が開花する。
そして、波乱万丈なドラマが幕を開けた…。


やはり山場は、東部の名馬ウォーアドミラルとのマッチレース(当時、格式の
高い東部の競馬界は、西部を軽視していた)と、騎手も馬もケガに見舞われた
後のカンバック戦−悲願のサンタアニタ・ハンデ戦でしょう。二つのレースの
結果がどうなるのかわかっていても、読む者をドキドキさせる。

決してエリートとはいえないシービスケットの快進撃が、大恐慌という時代背
景も手伝って、人々を熱狂させていったことがよくわかる。特に、再起不能と
言われた大ケガに見舞われたポラードと脚を故障したシービスケットが、ふた
たび勝利をつかむ姿に、明日への希望を見たのではないだろうか。

馬のコンディションを隠すため、調教を人目に触れさせないように、シービス
ケットにそっくりな馬の替え玉を出したり、あの手この手でマスコミの裏をか
いては、追いまわす連中を混乱させた、寡黙なスミスVSマスコミの攻防戦がお
もしろかったなぁ。当時の騎手の保障もなにもない過酷な現実や過激な減量な
どのエピソードも興味深く読んだ。

そして、シービスケット引退後のエピローグは、ひっそりともの寂しい…。
520ページたっぷりと楽しめた。

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