| 2004年5月・6月読了 | |||
| 5/25 | 火花 北条民雄の生涯 高山文彦(角川文庫)★ | ||
| 5/16 | 妖怪アパートの幽雅な日常@ 香月日輪(講談社)★ | ||
| 5/14 | レインレイン・ボウ 加納朋子(集英社) | ||
| 5/11 | バガージマヌパナス 池上永一(文春文庫)★ | ||
| 5月25日(火)「火花 北条民雄の生涯」高山文彦(角川文庫) 大宅壮一ノンフィクション賞と講談社ノンフィクション賞を、ダブルで受賞し た作品。 かつてハンセン病を病みながら、文学の道を志した、北条民雄(ペンネーム) という男がいた…。 北条民雄は、十九歳で発病。東京の全生病院に入院する中で、ひとすじの光を 求めて、川端康成に手紙を書き送り、二人の交流が始まる。 入院した最初の一日を題材にした「いのちの初夜」は、川端の推薦によって、 雑誌「文學界」に発表され、文學界賞を受賞、文壇の注目を集めたという。し かし、実家から籍を抜かれ、社会からも隔離されている彼の素性は、全て伏せ られたままだった。 民雄が川端康成に認められ、作家として生きたのは、昭和九年から十二年にか けての、わずか三年半。民雄は、二十三歳の若さでこの世を去る…。 作者は、民雄の故郷と思われる土地に足を伸ばし、彼が残した作品、日記、手 紙、知人の証言などを丹念に追いながら、北条民雄の短くも激烈な生涯を辿っ ていく。同時に、ハンセン病の歴史と隔離された療養所での暮らしぶり、そし て昭和の文壇の様子が描かれていく。 当時のハンセン病患者のおかれた立場と状況に強い憤りを感じながら、読み進 む。民雄が感じた発病の衝撃、死を考えれば考えるほど生に執着する気持ち、 病への恐怖と自分の未来に対する絶望、というものが、迫力を持って迫ってく る。 二・二六事件など、きな臭い事件が起こる激動の時代。しかし、民雄の前では そんな戦争の足音がはるかに遠く感じられるのは、いかに社会から切り離され た場所で生きていたのかということが証明されるようで、切なくなる。 実は正直に言うと、北条民雄より、川端康成の方に惹き付けられてしまった。 川端は「新人発掘の名人」と言われていたそうだが、民雄がいきなり送りつけ た手紙を受け取り、癩だと知りながら、作品を書いたら読みますからどうぞお 送り下さいと返事を書き、その言葉通り、北条が死ぬまで支援を惜しまなかっ た。民雄は金を無心したり、恨み言を書いたり、激しい性格のようだったらし いが、わがままを言われても少しも嫌がらず叶えてやろうとした。川端康成・ 三十八歳、「雪国」を執筆していた頃のことである。民雄の死に際しては、そ の日のうちに全生病院に弔問に駆けつけている。(当時は死しても、肉親でさ えでも姿をみせないことが多かったそうだ)。これを読んで川端康成という人 物のことを、もっと知りたくなった。 文庫解説は柳田邦男氏。 北条民雄の「いのちの初夜」は、角川文庫で読めます。 |
| 5月16日(日)「妖怪アパートの幽雅な日常@」香月日輪(講談社) 昨年創刊された講談社 YA!ENTERTAINMENTシリーズの中の一冊。ここを見ると 「YA! ENTERTAINMENT」は、子どもたちに絶大な人気を持つ「青い鳥文庫」の 中学生版(高学年くらいから読めるけど)として位置付けられているらしい。 先日「くらのかみ」を読んだとき、講談社の「ミステリーランド」を学校図書 館に…と書きましたが、「YA! ENTERTAINMENT」の方が、より子どもの方を向 いた本づくりがされているような気がして、プッシュしたいシリーズ。 俺−稲葉夕士は、交通事故で両親を亡くし、三年間、肩身の狭い思いで伯父さ んの家で暮らしてきた。しかし、寮のある高校に合格し、伯父さんの家をやっ と出られる、そう喜んでいた矢先に、寮が火事で全焼してしまう。 困り果て、導かれるようにして入った前田不動産のおじさんが紹介してくれた のは、家賃二万五千円、しかも光熱費、水道代、賄い費込みの寿荘。 「ひょっとして、いわくあり!?」と聞く俺に、おじさんは両手をダラリとた らして言った。「出るんだ。コレが」「えっ…オバケ!?」 新しい寮が完成するまでの半年間、俺はそのアパートで暮らすことになる…。 すっかりはまっちゃいました、寿荘−妖怪アパートに。あやしくて、可笑しく て、ひとくせもふたくせもあるアパートの住人たち。るり子さんの作るおいし いご飯に、地下にある洞窟風呂。読み終わった後には、きっと妖怪アパートに 住んでみたいっと思うはず!! 妖怪アパートでいろんな出来事に遭遇し、いろんな人たち(人間じゃないもの にも)に出会い、両親を失ってから孤独でずっと感情を押し込めていた夕士の 心が開放され、肩の力が抜けていく。 メッセージが、ものすごく真っ直ぐに投げかけられてくるが、説教臭さは感じ られない。(さすがに、ずっと夕士の存在を無視していたという恵理子の心変 わりには、やりすぎだよと思ったけど)。夕士の親友の長谷に惚れました〜。 二巻目も出ています。(早く読みたい) |
| 5月14日(金)「レインレイン・ボウ」加納朋子(集英社) 久々に加納朋子さんの本を読んだ。七編から成る連作短編集。 チームメイトだった知寿子の葬儀で、かつてのソフトボール部の仲間が、再会 する。高校卒業から七年。社会に出て少しずつ経験を積み始めた七人の女性た ちは、さまざまな道を歩んでいた。 美久(専業主婦)、陽子(編集者)、佳寿美(保母)、緑(看護婦)、りえ( 無職)、由美子(栄養士)、陶子(OL)。一人一人を語り手にして、彼女たち の今−それぞれの物語が語られる…。 加納朋子ワールドを堪能できる一冊。彼女たちに注がれる、優しくあったかい 眼差しが、いかにも加納朋子さんらしい物語を紡ぎ出している。 短編のそれぞれには、小さな謎が織り込まれ、葬儀に現れなかった里穂と知寿 子の関係が、大きな謎として作品全体を貫き、物語が収束する。ミステリーの 味付けがされているけれど、謎の部分よりも、七人それぞれのドラマがおもし ろくて、読みはじめたらやめられなくなった。特に、「雨上がりの藍の色」の 由美子のキャラクターが、とってもよかったなー。欲を言えば、里穂の物語も 読んでみたかったなぁと。苦くて、ちょっと毒のあるようなやつを。 25歳。いろいろぶつかりながらも前を向いて歩いている彼女たちの物語が、眩 しく映りました。(ああ、私も年だわね)。 読み終わった後で、ソフトボール部のキャプテンだった片桐陶子は「月曜日の 水玉模様」の主人公だったと知る。(「月曜日の水玉模様」は、印象に残るも のではなかったので、内容はすっかり忘れてしまったけど。「レインレイン・ ボウ」には、萩くんもちらりと登場します) |
| 5月11日(火)「バガージマヌパナス わが島のはなし」池上永一(文春文庫) 気になりながらも未読だった池上永一氏の作品。これはデビュー作にあたる。 主人公は、石垣島に住む仲宗根綾乃、19歳。綾乃は、美しい顔立ちからは想像 できない雑な行動と乱暴な言葉使いをし、高校卒業後は仕事にもつかず、気ま まに脳天気に暮らしていた。 「働きたい者は忙しい日本で死ぬまで働き続ければいい、この島は怠け者を愛 してくれるから自分はここで死ぬまで楽をするつもりだ」。 そんな綾乃の相棒は86歳のオージャーガンマー。二人はガジュマルの樹の下で おしゃべりしたり、遊んだりする毎日を送っていた。しかし、ある日、幼い頃 から霊能力を持っていた綾乃は、神様からユタになるように告げられる。その お告げを無視し抵抗する綾乃だったが、神罰が下り、彼女はユタになることを しぶしぶ認めることになる…。 だらだらと暮らしてきた綾乃が、“ユタが拝む理由”を知り、ユタとして生き ていく覚悟を持つまでを描いた成長物語(?)。 あ〜〜、おもしろかった!頭の中はすっかり南国気分!綾乃とオージャーガン マーの絶妙なコンビネーションがいいね〜。二人のハチャメチャぶりに笑い、 守銭奴なユタのカニメガとオージャーガンマーのとんちんかんな会話が可笑し くて可笑しくて…。綾乃もオージャーガンマーもカニメガも神様さえも、強烈 な個性を持ち、なんともパワフルで勢いのある作品となっている。 そして、ハチャメチャな中にも、オージャーガンマーの人には見せない淋しさ や、綾乃のホンマー(オージャーガンマーのお姉さんで痴呆老人)に対する気 持ちや眼差しが、たまらなくよかったなぁ。屈託のない明るさで笑わせながら 最後にはじんわりと心に響く作品に仕上がっている。 物語の中に沖縄の方言がふんだんに使われていて最初とまどったが、だんだん とその言葉の響きとリズムが耳に心地よくなってくる。作者の島への愛情が伝 わってきた。 第6回日本ファンタジーノベル大賞受賞作。 |