| 2005年4月・5月読了 | |
| 5/26 | 野生馬の谷(上・下) ジーン・アウル(ホーム社) |
| 5/23 | 下山事件 森達也(新潮社)★ |
| 5/16 | 笑酔亭梅寿謎解噺 田中啓文(集英社) |
| 5/16 | 最後の願い 光原百合(光文社) |
| 4/30 | 卵の緒 瀬尾まいこ(マガジンハウス) |
| 4/28 | 図書館の神様 瀬尾まいこ(マガジンハウス)★ |
| 4/14 | れんげ野原のまんなかで 森谷明子(東京創元社) |
| 4/9 | 明日の記憶 荻原浩(光文社)★ |
| 5月26日(木)「野生馬の谷(上・下)」ジーン・アウル・作 佐々田雅子・訳(ホーム社) 上巻 下巻 「エイラー地上の旅人」シリーズ第二部。 →第一部「ケーブ・ベアの一族」の感想はこちら 一族から追放され、愛する息子との別れを経験するエイラ。彼女は、自分と同 じ種族を探し求めて、北を目指す。 そして、旅の途中で出会った馬のウィニーとライオンのベビーを育て心を通わ せながら、谷間の洞穴で、たった独りで生き延びてきた。 そのエイラの物語と交互に描かれるのが、三年前、弟とともに旅に出たジョン ダラーの物語。 やがて二人は、運命的な出会いを果たす…。 だんだんと、大河ロマンの様子を呈してきました。このシリーズの魅力は、ど んな苦難も乗り越えていくエイラのたくましさと、はるか太古の暮らしをいき いきと描くディテールにあります。 狩りの経験、薬師としての知識と、一族の中で暮らすうちに、生き延びるため の力を自ずと身につけていたとはいえ、エイラの強靭な精神力に圧倒される。 頼れるものは自分だけ。全て自分で考え、自分で創意工夫しながら事態を打開 する。けれど、それでもやっぱり、人は一人では生きてはいけないんだとも思 わせる。 第一部ほどの紆余曲折はありませんが、今回も面白いです。ただ、面白いけれ ど、これは中学生の娘には手渡しづらいかなぁ…と。 いや、だって、詳細な(?)性描写が延々と…。まさに、著者が大人向けに書 いたという所以でしょう。評論社が子ども向けとして出したときには、ばっさ り削除されたのではと思われます。 エイラを引き取り育ててくれた一族は、「平頭」と呼ばれ、蔑まされている。 故のない偏見を持たれていた存在だったと示される。 この差別が、これからのエイラの旅路に影を落としていきそうな気配…。 --------------------------------------------------- エイラを育てた一族−ネアンデルタール人。彼らの特長や暮らしぶりなどは、物語の中か から垣間見ることができますが、もっと科学的に知ることができるのが、 「ネアンデルタール人類のなぞ」奈良貴史(岩波ジュニア新書) ネアンデルタール人類とは/誕生のなぞに迫る/どのように生活していた のか/どのような心をもっていたのか/言葉を話したのか/生まれてから 死ぬまで/ なぜ消滅したのか/わたしたちの未来は? |
| 5月23日(月)「下山事件(シモヤマ・ケース)」森達也(新潮社) 1949年7月 初代国鉄総裁の下山定則氏が、轢死体で発見された。自殺か他殺か をめぐって、世論は大きく沸騰する。しかし、明らかに他殺ではないかという 疑いがありながら、自殺として捜査が打ち切られ、事件に幕が下ろされる。 半世紀前に起きた、複雑な全容をもつこの事件。幾度となく、その謎に惹かれ 追い続ける人々を生んできたという。 著者は、ある人物を紹介されたことをきっかけに、「下山事件」にはまりこん でいく。事件の真相を追う過程を描いたドキュメンタリー。 恥ずかしながら、私には事件についての知識はほとんどありませんでした。事 件の概要を知り、背景や真相が少しづつ明らかになっていくプロセスは、ミス テリー小説を読んでいるようで、ドキドキしながら引きこまれていきました。 その中で感じられた、この時代が持っていた底知れぬ闇の深さは、心底怖いで す。 やがて、発表の場を模索しながらことごとくうまくいかない…という取材の過 程そのものに重点が置かれいきます。一緒に取材を進めていた大手週刊誌の編 集者の裏切り、自分を信頼してくれていた取材対象者を結果的に裏切ることに なってしまったことへの葛藤などが、抑えた筆で語られます。だんだんと焦点 がずれていきますが、それはそれで、マスメディアの裏側を垣間見る思いで、 興味深く読めました。 昭和史最大のミステリーと呼ばれる事件の真相が、そう簡単には明らかにされ ることはないと思いますが、その全体像は朧気ながら見えてきます。 アメリカの占領下にあった時代に、国鉄を舞台に下山、三鷹、松川と立て続き に起きた三つの事件。著者は、これらの事件がきっかけとなって、日本の針路 が大きく変わった。初代国鉄総裁の死を背景に、この国の繁栄があり、今の自 分たちがいる。自分たちに繋がっているんだと繰り返し語る言葉に衝撃を受け ました。 終戦後の昭和史について、あまりにも知らなすぎる自分を猛反省中です…。作 中で取り上げられていた松本清張さんの「日本の黒い霧(上・下)」が、新装 版として、昨年文春文庫から出ているようなので、ぜひ読んでみたい。 |
| 5月16日(月)「笑酔亭梅寿謎解噺」田中啓文(集英社) 黄色く染めた鶏冠頭が、トレードマーク。何度も警察沙汰を起こしたあげく、 高校を退学になった竜二は、落語家・笑酔亭梅寿のもとに無理やり弟子入りさ せられる…。 竜二の噺家内弟子修行と、彼の周囲で起こる事件(殺人も起きますが、大きな 括りとしては、日常の謎といっていいでしょう)を絡めた七編から成る連作短 編集。 現在放送中の「タイガー&ドラゴン」と設定が似てますね。(今、非常にハマっ ていて毎週楽しみにしているドラマ)。両親を早くに亡くし天涯孤独な竜二の 身の上は、長瀬君演じる虎児と重なるし、毎回古典落語の演目をモチーフに、 ストーリーと連動させながら進行していくところも同じ。 タイトルにもなっている「たちきり線香」「らくだ」「時うどん」「平林」「住吉駕籠」 「子は鎹」「千両みかん」というそれぞれの古典落語の演目については、各編の冒 頭に月亭八天さんの解説がついているので、落語の知識がなくても心配無用! だんだんと落語のおもしろさに目覚めていく竜二は、探偵役としても見事な活 躍を見せるのですが、正直なんでそんなにどんな謎もすらすらと解けるのか、 それが一番謎でした〜。(だって、まるで名探偵コナンみたいなんだもの)。 謎解きを絡めなくてもおもしろいのに…と思ってしまうほど。 なんてったって、めちゃくちゃなようだけど、高座に上がれば見事な芸を披露 し、やる時はやる、押さえるところはきっちり押さえている師匠の笑酔亭梅寿 のキャラクターの力は、大きいです。 ミステリというより、青春小説として読みましたが、十分楽しめました。 |
| 5月16日(月)「最後の願い」光原百合(光文社) 劇団を立ち上げるための仲間探しの中で、出遭った謎。演出家の度会恭平と、 後に度会とのベストコンビ(?)ぶりを見せる役者の風見爽馬の二人が、その 謎を解き明かしていきます。(こちらも七編から成る連作短編集。日常の謎と いう括りに含まれるでしょう) それぞれのストーリーは、各編の主人公となる人物(つまり度会が目をつけた 人材ということになります)が抱えていた「謎」をメインに据えているので、劇 団を立ち上げることとか、そのための仲間探しという物語の主軸が、いまいち 見えにくく、最初とまどってしまいました。 読み進むにつれて、役者、制作スタッフ、脚本家、舞台美術と…メンバーが増 えていくのがわかるので、だんだんと気持ちもノッてきて…。やがて物語は、 最終章の旗揚げ公演へと集結していくのです。おお!こんな構成になっていた とは!最後には、大きな一つのまとまりになっています。 謎解きとしては、どこかで読んだことがあるような気がしてならなかったけど 読後感は悪くありません。 今までとは違った語り口のものがあったり、これまでの光原さんの作品とは、 また違った色が感じられました。 |
| 4月28日(木)「図書館の神様」瀬尾まいこ(マガジンハウス) よかった〜。感想を残しておこうと思って、もう一度読み直したら、やっぱり すっごくよくって、買っちゃいました〜。 物語の語り手となるのは、早川清(きよ)。18歳までの清は名前の通り、清く 正しい人間だった。何事にも全力で臨み、目的意識をもって真剣に取り組んで きた。しかし、エースでキャプテンをしていた高三の夏、ある出来事がきっか けで、なにより大切にしていたバレーボールをやめざるを得なくなる。それ以 来、清はどんどんいい加減に投げやりになり、適当な毎日を過ごしていた。 国語講師としてある高校に赴任した清(きよ)は、文芸部の顧問になる。部員 は三年生の垣内君一人きり。海が見える図書室で垣内君と過ごした一年間…。 清の傷ついた心がゆっくりと回復していく再生の物語。 二人の年下の男の子に惚れました! 一人は、文芸部部員の垣内君。文学に全く興味がなくがっくりしている清と、 テキパキものごとをすすめる垣内くん。図書室が暑いだの退屈だのごねる清に も、ちっとも動じない。どっちが先生だか生徒だかわからない、二人のやりと りが可笑しくて可笑しくて。 “清く正しく”といえば聞こえはいいけれど、それまで一つの価値観しか持て なかった清(きよ)が、垣内君とのやりとりを通して一種のカルチャーショッ ク(?)を受け、視野が広がり、人としての幅も広がっていくって感じかな。 もう一人は、頻繁に姉のところに遊びに来る大学生の弟の拓実。絶妙なタイミ ングで絶妙な言葉をかけてくれる、寛大で優しい彼は、清の支えとなる。もし “こんな弟が欲しいランキング”があれば、間違いなく私の中では上位に入る ね! そこへいくと不倫相手の浅見さんは、高校時代の清とだぶる。キャプテンだっ た頃の私もこんな感じだったにちがいないと、清(きよ)は、少しずつ過去の 自分を客観的に見られるようになる…。 人との関わりあいの中で清が少しずつ変わっていく様子は、自然で好感が持て た。 卒業式の一週間前、垣内君の文芸部の発表の場面からラストまで、ずっ〜〜と 胸がぎゅっとなりっぱなしだった。垣内君の発表にこめられたメッセージは、 読書の醍醐味を、しっかりと伝えてくれる。 そして、またここからはじまりであるというラストが清々しい。 本作は、デビュー二作目にあたるとか。追いかけて読んでいきたいと思う作家 が、また一人増えました! (追記 2005.4.30) …ってことで、瀬尾まいこさんの作品を続けて読む。 「卵の緒」瀬尾まいこ(マガジンハウス) こちらが、デビュー作にあたります。表題作と「7’s blood」の中編二作を収 録。(私は第七回坊ちゃん文学賞大賞を受賞した表題作より、「7’s blood」 の方が好きでした。グッときたね…。) 「卵の緒」は血のつながらない親子、「7’s blood」では異母兄弟。いろんな 関係、いろんな事情をも乗り越える深い愛情と絆が、しっかりと描かれます。 瀬尾まいこさんの作品は、軽〜くさらっと読ませるけれど、その中に大事なも のが、ぎゅっと詰まっている感じ。瀬尾さんが登場人物に注ぐ眼差しは、いつ もまっすぐで優しい。現実はもっと深刻でそんなに甘くないよ〜と思う人もい るかもしれないが、これもありだなぁとすんなりと受け入れられた。すっかり ファンになりました。 |
| 4月14日(木)「れんげ野原のまんなかで」森谷明子(東京創元社) 図書館を舞台にした、連作短編ミステリー。いわゆる“日常の謎”を扱ったも のですね。北村薫さん、加納朋子さん、光原百合さんの作品がお好きな方に、 おすすめ。 秋庭市のはずれ、ススキ野原の真ん中に立つ秋庭市立秋葉図書館。秋から春へ と季節が移り変わっていく中、そこに勤務する新人司書・文子が出会った、さ さやかな謎…。 探偵役として鮮やかな推理をみせるのは、先輩司書の能勢さん。そして、事件 の謎を解く手がかりは、「本」にあるのです。 鮎川哲也賞を受賞した前作(になるのかな?)の「千年の黙」がとてもおもし ろかったので、それと比べたら若干物足りなかったことは否めない。だけど、 物語の持つ雰囲気がすごく好きだったし、図書館に来館する深雪さんや敷地を 市に寄贈した秋葉氏をはじめ、それぞれいい持ち味を出している登場人物に愛 着が生まれてきて、読み終わると彼らにまた会いたい!という気持ちになる。 シリーズ化するといいなぁ。 “本好き、図書館好きに捧げる”というだけあって、タイトルが明かされず、 あらすじなどからそれがなんという本か、探り当てるような仕掛けが施されて いるのも楽しい。また読みながら、司書の仕事ぶりや図書館の持つ役割やしく みがわかるようになっている。図書館は貸し出し業務だけじゃないんだよね。 本はもちろん、人とも出会える場所なんだということも教えてくれます。 そして、なにより嬉しかったのが、裏表紙の著者紹介に、“「千年の黙」の続 編を構想中”と書かれていたこと。楽しみ! |
| 4月9日(土)「明日の記憶」荻原浩(光文社) 2005年本屋大賞が、恩田陸さんの『夜のピクニック』に決定!(やったぁ!) その本屋大賞で、投票数第二位となったのが、この作品。 〔→本屋大賞メッタ斬り!〕 語り手となるのは、広告代理店の営業部長をしている佐伯、50歳。趣味は、再 び始めた陶芸。ひとり娘の結婚式を控え、まもなく孫も生まれる。 不眠、めまい、倦怠感、物忘れ。そんな症状に悩まされていた佐伯は、大学病 院の精神科の診察を受ける。検査の結果、告げられた病名は、若年性アルツハ イマーだった…。 今の医学では治癒不能。記憶が損なわれていくだけではなく、人格も失われて いく。読者は読み進めていくうちに、アルツハイマーがどんな病気なのかを、 知ることになる。 自分自身の記憶を守ろうと、必死にメモを作り、大量のメモでポケットが膨ら んでいく様子は、「博士の愛した数式」を思い出す。そして、ノートにつけて いる備忘録の文章に、次第に誤字が増え、ひらがなが多くなっていく様は、「 アルジャーノンに花束を」と重なる。 私自身も、顔は浮かぶが名前が出てこないことが増えてきたり、お店の名前も 本の題名も、だんだん“あれ”だの、“あそこ”だの、代名詞が多くなること にヤバイ、ヤバイと危機感を感じている、この頃。導入の部分から、“えっ? ワタシにも、そんなことがあるな”と思いながら読んでいったので、まるで自 分の身の上に起きているような、そんなリアルさがあって、とても怖かった。 日に日に曖昧になっていく記憶。自分が自分でなくなっていくかもしれないと いう不安。絶望。焦燥感。愛する家族の顔さえ忘れてしまうのかという恐怖。 それでも生き続けなければならない辛さ。一緒になって、その感情を味わった ような感じ。自分だったら…、家族の身の上に起きたら…と、決してひとごと とは思えなくなるのだ。佐伯の病状が進んでいく過程を通して、彼がどう向き 合い受け入れていくのか、読み手として、いろんなことを考えさせられる。 とかく介護側の苦労や大変さばかりに目がいきがちだが(実際ものすごく大変 だろう)、患者本人もどれほどの混乱と恐れの中にいるのか、少しわかったよ うな気がした。 ラストは哀しく美しい。けれど、現実はそこでは終わらないことも忘れてはい けないと思う。 荻原浩さんのユーモア小説も好きだけど、これまで読んできた彼の作品の中で イチ押しです! |