Nordic Notes
WHAT IS SWEDISH JAZZ?

  スウェディッシュ・ジャズの歴史って、いったいどんなだろう? そんな疑問を持たれているリス
ナーには、とっておきの原稿をここに紹介致します。

 まず、いきなりではあるが、2005年にリリースされたヴィクトリア・トルストイの通算6作目『マイ・スウェディッシュ・ハート』はスウェディッシュ・ジャズのルーツを語るアルバムとして、同シーンに永遠にその名を残す事が認められた傑作だ!と言い切ってしまおう。

MY SWEDISH HEART

マイ・スウェディッシュ・ハート
/ヴィクトリア・トルストイ

Nordic Notes/Jazz Side NNJ-2020
¥2,500(税抜)¥2,625(税込)
ヴィクトリア・トルストイの紹介ページはこちらへ>>>

 下記原稿はヴィクトリアのプロデュースにあたったニルス・ラングレンによるスウェディッシュ・
ジャズのヒストリーと、ヴィクトリアのアルバム『マイ・スウェディッシュ・ハート』の解説とが巧
みにリンクされたもので、更にはノルディック・ノーツが以前より、関心を持ってきた“スウェディ
ッシュ・フォーク/トラッド”との親密な繋がりについてもひじょうに詳しく触れられている。

(『マイ・スウェディッシュ・ハート』のスリーヴノーツより)
 スウェーデンが有名になっている様々な要素のひとつがジャズ・シンガー達で、ヴィクトリア・トルストイは中でも際立った存在である事は疑いない。私はACTからの彼女のデビュー・アルバム「シャイニング・オン・ユー」を制作する名誉を得た。今回は、現在“スウェディッシュ・ジャズ”として知られているものを創り出したすべての有能な人々への賛辞を捧げるという特別なプロジェクトを持って我々はスタジオに臨んだ。

 スウェーデンが多くのアメリカ人ジャズ・ヒーロー達から訪問を受けるようになり、かつ彼等の多くが後にスウェーデンに住居を構えるようになったのは1950年代に始まる。例えばスタン・ゲッツ、アート・ファーマー、デクスター・ゴードン、ベン・ウェブスター、ベニー・ベイリー、サヒブ・シハブ、アイドリース・シュリーマン他多数といった奏者が。この事はアメリカとスウェーデンのジャズ・アーティスト達が共に携わった素晴らしいレコーディングという結果をもたらした。疑いなくアルネ・ドムネウス、ルネ・グスタフソン、ベンクト・ハルベリ、オーケ・ペーション、ラーシュ・グリンといったすべてのスウェーデンのジャズ・ミュージシャン達がアメリカ人のジャズ仲間達に同等とみなされた。とは言うものの、その時期に創られた音楽が必ずしもアメリカン・ジャズと違っていたわけではない。

 クインシー・ジョーンズはストックホルムに数年住んでいた事がり、その時ベント-アルネ・ヴァリンとヴァリンのスウェディッシュ・ラジオバンドの仲間であるトランペット奏者とアパートを共有していた。クインシーはヴァリンに、ジャズという表現形式の中で自分自身のスタイルや鑑識を見つけるためには、自分の音楽を創りながら、自国の音楽伝統を学ぶよう助言した。ベント-アルネ(ヴァリン)は、他のミュージシャンに交じって、音楽における新しい道を見つけるため、探求し始めた。

 60年代初期のほぼ同じ頃、ピアニストのヤン・ヨハンソンは彼の最初のレコーディング、すなわちスウェディッシュ・フォーク・ミュージックの即興曲を創った。彼のレコーディングは伝説上のものとなり、今日スウェーデンで、彼のアルバムを持っていない家はほとんど無いぐらいだ。1962年にベント-アルネ・ヴァリンは、古いフォークロアの持つ概念を大きなバンド用に直した『オールド・フォークロア・イン・スウェディッシュ・モダン』という独創的なアルバムをレコーディングしたのだった。悲しい事にヤン・ヨハンソンは1968年、コンサートに行く途中、車の事故で他界してしまった。が、彼の音楽は永遠に残るであろう。そしてこのアルバムの中の“イェルナからの歌”は、彼への思い出に捧げられている。アレ・メッレルとラーシュ・ダニエルソンによるアレンジは、事実ヨハンソンの影響を多大に受けているのだ!

 バリトンサックス奏者のラーシュ・グリンは、こういった違う表現形式を自分自身のユニークな演奏・作曲スタイルのひとつに合わせる先駆者だった。彼のスタイルはこのCD中の2曲を聴くとよく分かる。その2曲とは、リーナ・ニーベリの詩による“ダニーは夢を見ている”と、チャン・パーカー(チャーリーの妻)の歌詞による“今があなたにとって春だといいんだけど”である。なんと素晴らしいほとばしりが彼女の歌詞の中にある事か―――まるで森の中にある泉の水のようだ!この新しいスタイルはすぐにストックホルムの本物になったのだった。ツアー中のアメリカ人ジャズ・スターを含む多くのミュージシャンは、この新しい動きに専念し、ストックホルムという街を、音楽を、そして女性を愛した。何年もスウェーデンに留まった者もいれば、一晩だけしか留まらなかった者もいるが、彼等全員はこの新しい音楽の一部を、終わる事の無い世界への旅へと連れて行ったのだった。

 スタン・ゲッツとマイルス・デイヴィスは古いスウェディッシュ・フォーク・ソング“おぉ、なんと美しいヴェルムランド”に対する作曲権利を要求さえした。そして今日までジャズ界の人々の多くは彼等が本当に“ディア・オールド・ストックホルム”を書いたと今だに信じている。

 前にも述べたように、ベント-アルネ・ヴァリンはジャズとフォーク・ミュージックを融合させるための道具としてビックバンドを始めたスウェーデンで最初の人物である。そして彼のやり方は他に比べるものがない程である。“デン・フェルスタ・ゴング・ヤグ・イ・ディナ・エーゴン・ソーグ”という歌は(“私が初めてあなたの瞳を覗き込んだ時”の意)、彼の最初のアルバムに収録されている。この曲がヴィクトリアによって新しくレコーディングされる以前にベント-アルネが手を加えてあったのだが、彼のアレンジは今日まで際立っている。彼は現在70代半ばであるが、今だに以前同様たいへん精力的である。彼に尊敬の念を!

 別のひじょうに有能な若者はサキソフォン奏者のベリエ・フレドリクソンである。彼はミュージシャンとしてのキャリアを自分自身で切り開き、1968年にわずか31才で悲観的な死を遂げるまで、己の道を歩んだのだった。彼の作曲した“クヴァルテレット・ウーロン”は、ペール・ホルクネットの歌詞が付いており、“気にする?”と呼ばれている美しい曲である。彼の音楽は、それを専門に演奏しているグループ“シスター・マイス・ブラウス”を通じて生き続けている。今日新しい世代のミュージシャン達が活躍しているわけだが、彼等の心の中には、ベント-アルネ・ヴァリン、ヤン・ヨハンソン、ラーシュ・グリン、ベリエ・フレドリクソン、ここでは紹介されなかった他のすべての素晴らしいミュージシャン達のメッセージを持っている。とても良く成功している例がエスビョルン・スヴェンソンであろう。彼のトリオ、E.S.T.は彼の作曲やピアノ演奏は言うまでもなく、他と比較出来ないくらい素晴らしい。エスビョルンはスウェーデンのフォーク・ソングを新しいレヴェルへと引き上げるのに大きな影響力をずっと持っている。私はACTレーベルでの2つのアルバムを彼と一緒にレコーディングする喜びを得た。

 “あなたの朝”と“対話”の2曲はペール・ホルクネットとの連携において作曲家としての技能を遺憾無く発揮している。ペールはこのアーティスト、すなわちヴィクトリア・トルストイの愛すべき夫である。

 ラーシュ・ダニエルソンはたいへん豊かな作曲家兼アレンジャーであると同時に素晴らしいベースとチェロの演奏者である。彼はひとつひとつの調べを、歌詞を使わずにそれを自身に語らせるのである。ラーシュは前に述べたすべてのミュージシャン同様、同じ伝統音楽の中で仕事をしており、作曲やアレンジ、演奏をする際、常に音楽への愛と先駆者達への尊敬の念を中心に持っている。ペール・ホルクネットの詩による彼の歌“天から”は、彼が自分自身のルーツを探求しながら、新しい道を探している真のミュージシャンである事を証明している。

 アンデルス・ヨルミンもまた、素晴らしい作曲家に成長したもうひとりの偉大なミュージシャンである。ベース奏者として、彼は既に今日のジャズ界における巨人のひとりである。リーナ・ニーベリの美しい詩による歌“メーデー”がその事を雄弁に語っている。

 ヤコブ・カールソンはこのアルバムの作曲家の中で一番若いのだが、彼もまたヴィクトリア・トルストイのバンドになくてはならない存在となっている。彼がこのアルバムで貢献した少し変わった拍子の曲“ユー・ゲイヴ・ミー・ザ・フロウ”はとても自然なスウェーデンの味わいを持っていて、彼独特のピアノ演奏を聴く良い機会となるであろう。流れについて話そう。ヤコブはまたこのCDのレコーディングにおけるアレンジも行っている。彼はこのアルバムの制作の際、ひじょうにクリエイティヴだった。

 スウェーデンの伝統曲“美しい薔薇を知っている”は、ウルフ・ワケーニウスによってアレンジされた。この曲はモニカ・ゼタールンドに捧げられている。彼女はこの曲を、彼女自身の世界的に有名なアルバム『ワルツ・フォー・デビー』の中で、ビル・エヴァンスと共に1964年にレコーディングしている。シンプルというのがこの曲のカギなのだが、正に彼(ウルフ)はその方法でこの曲を演奏している。ウルフは真の意味でのギターのマスターで、常に音楽に奉仕しようという姿勢を持っている。


写真はすべてスウェディッシュ・ジャズを生んだストックホルムの街並。

 アレ・メッレルは生身の人間によって創られた永遠の芸術であるスウェディッシュ・フォーク・ミュージックの権化である。彼は境界を知らず、だがすべての音楽の方言を話し、未知の世界へ飛び立つ恐れをまったく知らない。真の天才である。

 ヴィクトリア・トルストイはこのアルバムで、彼女が温かい人間で純粋なスウェーデン人の心を持っている事、また彼女の話(歌)を聴く事に興味を持っている人には誰にでも進んで自分の心を開こうとしている、という事を示している。
(2004.12.15 スキリンジにて/ニルス・ラングレン)

−■翻訳:金沢由美−

スウェディッシュ・フォーク/トラッドとの接点を探る重要作品

−スウェディッシュ・ジャズ・サイドから同国フォークをテーマに−



スウェディッシュ・フォーク・モダン
/ニルス・ラングレン&エスビョルン・スヴェンソン

Nordic Notes/Jazz Side NNJ-2013
品切れ中
同国モダン・ジャズ・シーンにおいて最も多忙な2人による、トロンボーンとピアノのデュオ。同国各地のトラディショナル・メロディをジャズの視野から演奏。手法は前途の原稿に登場するヤン・ヨハンソンのそれに似る。


−スウェディッシュ・フォーク・サイドからジャズをテーマに−



ヘヴンズ・ハット/サラ・テランデル
Nordic Notes/Jazz Side NNJ-2027
品切れ中
トラッドとジャズの両ジャンルで活躍する若手シンガー。トラッド・ソングをジャズのアンサンブルにのせて。完全なるジャズの解釈である事から、レーナ・ヴィッレマルクがとった方法論(トラッドとジャズの融合)とは異なる。


−スウェディッシュ・フォークに即興の要素を盛り込む−



Agram
/ Lena Willemark, Ale Möller(Nordan Project)

ECM ECM1610
品切れ中
アイヒャー・プロデュース第2段。前作と同傾向の傑作。ヨーナス・クヌットソンのサックスがひじょうに効果的。更に深みを増した96年作。レーナのコクのある歌唱も見事。




Nordan
/ Lena Willemark, Ale Möller(Nordan Project)

ECM ECM1536
\2,300(税抜)・\2,415(税込)
ECMのプロデューサー、マンフレート・アイヒャーのアプローチにより結成。同国フォークとジャズ奏者からなるプロジェクト。中世のバラッドが朗々と歌われる中、インスト・パートでは即興が見え隠れする。93年作。




ウインドグール/レーナ・ヴィッレマルク
Nordic Notes/Jazz Side
NNJ-2003 \2,600(税抜)・\2,730(税込)
ノルダン・プロジェクトで得た手法を更に開花させたレーナ入魂のソロ。1曲を除く全曲をフォークと即興の視野から作詞作曲。ボボ・ステンソン、パレ・ダニエルソンといったECM陣も強力サポート。2000年の大傑作!!


−スウェディッシュ・フォーク・サイドから同国ジャズ奏者の曲をトリビュート−

Silhuett / Gunnel J Mauritzson
Sandkvie Records SRCD04
ニルスの原稿に登場するラーシュ・グリンのレパートリーを同国フォークの視野から歌う。96年作。「この作品はジャズなのか、それともフォークなのか? 分からないから素晴らしい音楽というジャンルに入れよう。」
―ステン・サンダール(リクスコンサルテル[スウェーデン・コンサート企画組合])

 

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