photo:David Skoog
1990年、本作でマッツ・エデーン(現グルーパ)、トッテ・マットソン(現ヘドニンガルナ)、そしてレーナ・ヴィッレマルク(現フリーフォート)等が一度に会する事となった。
【members】
○Mats Edén - fdl, acorr (現グルーパ)
○Jonas Simonsson - flu, bs (現グルーパ、ベスク)
○Rickard Åström - key (現グルーパ)
○Bill McChesney -recorder, bass-cl (グルーパ⇒脱退)
○Hållbus Totte Mattsson - lute, 6&12-g
(現ヘドニンガルナ)
○Gustav Hylên - co, per, mandolin
(現プロデューサー[トリアケル、ホーヴェン・ドローヴェン他])
○Tina Johansson - per (現アルヴァ)
○Lena Willemark - vo (現フリーフォート)
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1990年、本作『月の笑い』の出現をはじめ、スウェディッシュ・フォーク・シーンは大きく急変した。1980年、同国フォーク・ミュージックに様々なアイデアを投入し、その実績が認められていたコンテンポラリー・フォーク・グループは、フィラルフォルケット、フォーク・オック・ラッカレ、ノッルロータル、そしてこのグルーパの4つだけだった。中でも革新的なアレンジという面においては、エスニック色を大胆に取り入れたアレ・メッレル率いるフィラルフォルケット、そして通常のフォーク・アンサンブルにバス・クラリネットやトランペット等の管楽器を取り入れたマッツ・エデーン率いるグルーパが意欲的だったといえる。この4つのグループの中で、今も尚活動を続けているのはこのグルーパだけである
(一時的な再結成を除く)。
2005年は、グルーパが結成25周年を迎えた年であった。それを記念するかのように本作『月の笑い』はリマスターによって、リイシューされたのだ。実はしばらくの間、廃盤のため入手困難だったアイテムである。更に本作は表記のとおり、かのレーナ・ヴィッレマルクとの共演作でもある。と同時に全8名もの奏者が一度に会したグルーパのビッグ・バンド仕様という見方も出来そうだ。更に驚くのはそのメンバーである。
−本作のメンバー−
マッツ・エデーン - fdl, accor (現グルーパ)
ヨーナス・シーモンソン - afl, bs (現グルーパ、ベスク)
リッカルド・オーストレム - syn, hammond-org, sampling-rhythm (現グルーパ)
ビル・マックチェスニー - block-fl, bcl (グルーパ⇒脱退)
ホルブス・トッテ・マットソン - lute, 6&12-g (現ヘドニンガルナ、BOOT)
グスタフ・ヘイレーン - cor, per, mandolin (現プロデューサー[トリアケル、ホーヴェン・ドローヴェン他])
ティナ・ヨハンソン(のちのティナ・クウォーテイ) - per (現アルヴァ)
レーナ・ヴィッレマルク - vo (現フリーフォート)
彼等が本作で繰り広げた冒険的サウンドは15年を過ぎた今聴いても全く鮮烈極まりない。グルーパは以前から管楽器を取り入れてきた。しかし本作ではそれを更にプログレッシヴなアレンジで発展させている。このアルバムはこの時点で彼等の集大成的作品であり、同国コンテンポラリー・フォーク・シーンに、永遠にその名を残す事を許された金字塔的作品であるといっても過言ではないだろう。なぜなら同年、スウェーデン・グラミー(フォーク部門)を獲得している事実がそれを赤裸々に証明しているのだから。
次にスウェディッシュ・コンテンポラリー・フォーク・シーンの夜明け前というべき時期を、下方のディスコグラフィと照らし合せながら振り返ってみたい。
舞台はファールンにあるシンスカッテベリという民族音楽専門学校。それは1985年から1986年の間の事で、アレ・メッレル、グルーパ、フィラルフォルケットのメンバー等は様々な楽器を組み合わせるセッションを日々繰り広げていた。それはほとんど遊びのような状況だったらしいのだが、アレはこのセッションをひどく気に入り、学校側にこういったアンサンブルの教室を設けるよう申し出たのだという。そののちアレ・メッレルは、グルーパやフィラルフォルケットの面々をゲストに迎え、同国フォーク・アンサンブルの中のブズーキのあり方を追求したソロ・アルバム@をレコーディング。それぞれのグループもその1年後にA,Bをリリースした。
またグルーパの正式メンバーとして加わったホルブス・トッテ・マットソンも同学校で意気投合したアンデルス・スタケ、ビョルン・トリーンと共にトリオによるヘドニンガルナを結成。同国伝統楽器と古楽器を巧みに組み合わせた意欲作Cをリリースしている。のちにこのグループは大胆にもエレクトリック処理を導入していくのだが、それとは対照的に強固なアコースティック・アンサンブルを追求したトリオ、BOOTをも結成。専属ダンサーを擁した華麗なライヴ・パフォーマンスを繰り広げてきた。しかし彼等がアルバムDをリリースしたのは約10年近く過ぎた頃の事である。
更にレーナ・ヴィッレマルクはソロ・アルバムのEをリリース。レコーディング・メンバーはアレ・メッレル、ペール・グッドムンドソンが参加していた事により、のちのフリーフォートの原型がここに完成している。
−『月の笑い』リリース前−
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そして1990年、通算4作目の本『月の笑い』のレコーディングを迎える。オリジナル・メンバーだったレイフ・スティンネルボム(viola
d'more)が脱退。しかしフィラルフォルケットからティナ・ヨハンソン(per)が、今日もグルーパのメンバーであるリッカルド・オーストレム(syn,
hammond-org)が加わり、更にはレーナ・ヴィッレマルクが共演するといった形での編成となった。グルーパはアルバムをリリースする度にメンバーが入れ替わり、そのサウンドを進化させてきたのだが、本作においては特にゴージャス極まりない面々が揃っている。今振り返ってみるとそれを強く感じる。
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本作『月の笑い』の成功で、新たな可能性を覚えたメンバー等は相次いでグループを脱退する。それは同シーンが一気に急変した時期でもある。
グルーパの共演者としてクレジットされていたレーナ・ヴィッレマルクは、エネルギッシュかつ濃密なアンサンブルをアレ・メッレル、ペール・グッドムンドソンとのトリオ求め、実質上フリーフォートの1st作にあたるFを91年にリリース。
本アルバムで得た手法(下方楽曲解説ご参照)を自らのバンドに求めたトッテ・マットソンはGを92年にリリース。イギリスのフォーク・ルーツ誌のライターをやっていたアンドリュー・クロンショウは、ヘドニンガルナのような急進的かつ過激なサウンドを、ラディカル・トラッドと名付けて分類するようになったのもこの時期である。
またフリーフォートのライヴ・パフォーマンスをシリアン湖のほとりの教会で観たECMの代表兼プロデューサーのマンフレート・アイヒャーは、彼等のプロデュースをかってでる。その編成は、フリーフォートの3人に、グルーパのマッツとティナ、ECMの奏者他全8名。中世のバラッドを中心に即興を取り入れた93年リリースのHはひじょうに芸術的な傑作となった。
更にヨーナス・シーモンソンは、フィラルフォルケットのエリカ・フリセル等とラディカル・トラッド・バンドのデン・フューレを結成。93年にはIをリリース。
そして肝心のグルーパはというと、次作のリリースに5年間を要している。それは数多くのメンバーの脱退劇と、その後のグルーパの方向性を模索していただけではないようだ。現にメンバーは前途で触れたとおり、H,Iのグループに関わっているし、マッツとティナもフィドルとパーカッションによるインストゥルメンタル・デュオを始めている(アルバムKはその10年後にリリース)。このような流れの後リリースされたグルーパの95年5th作Jは、4人からなるバンド史上最少人数のメンバーによって創られた。サウンドはシンプルになるかと思えばそうでもなく、その込み入ったアレンジはやはり健在。マッツ&ティナはグルーパと同時並行的にデュオ活動を始めているのだが、アルバムKを聴くと、この2人が当時のグルーパのサウンドを形成しているようだ。なぜならJのサウンドを解体してみると、その核には2人のしっかりとしたデュオ・アンサンブルが息づいているから。
−『月の笑い』リリース後−
このように90年を境に、様々なコンテンポラリー・フォーク・グループが誕生していった。これらグルーパのファミリー・ツリーに交わりはなかったものの、ヴェーセンもウーロフ・ヨハンソン(nyckelharpa)を中心に、その原型を確立させている。実質上彼等の1stアルバムとなったウーロフのソロ名義アルバム「Väsen」(Drone
DROCD001)もやはりこの時期のリリースである事を付け加えておこう。
【tracks】= 全曲解説
1. Krafthalling 〜 力のハッリング
グルーパが得意とするノルウェーの3/4拍子の踊りのスタイル曲“ハッリング”のアレンジ。1年前にソロ・アルバムEをリリースしたのばかりレーナからは想像もつかないぐらいにコンテンポラリーな歌唱を披露している。
この手の込み入ったアレンジはのちの6作目『ラヴァレーク』(Nordic Notes DHN-1046)収録の“ルッドゴ−ヨハン”、7作目『フヤァラル』(同
DHN-1043)収録の“3人の神聖な女性”あたりを彷彿とさせる。
2. Klappvalsen 〜 手拍子ヴァルセン
ワルツの変形。コルネットによるメロディと、バス・クラリネットによる反復がひじょうに特徴的。更に中半からフィドルが交わってくる。こうした楽器構成の面白さはグルーパ最大の魅力。
3. Gobelängdrömmar 〜 タペストリーの夢
バス・クラリネットによる反復とフィドルのメロディに様々な楽器が交差する。
前曲やこの曲に用いられた反復的手法は、トッテ・マットソンがのちにヘドニンガルナで取り入れる(ハーディー・ガーディーとサンプラーで)。1〜3曲目まではフィドル奏者マッツ・エデーンのオリジナル曲。
4. Sion Klagar / Edh Ir Kusulit / Stormens
Tallar
〜 シーオンの嘆き/ここは寒い /強風の中の松の木
3つの組曲。オープニングで歌われる叙情的なトラッド“シーオンの嘆き”は後にソフィア・カールソンがソロ・アルバム『フォーク・ソングス』(同
DHN-1023)で取り上げる。続くメドレーでは、リュート、バス・クラリネット、フルートがレーナの歌唱を支える。2つ目の曲の原題はレーナの故郷エルヴダーレンの方言で書かれている。この曲と3つ目の曲は彼女による作詞作曲。
5. Jojkpolska 〜 ヨイクポルスカ
これもひじょうに興味深い。スウェーデンを代表する3/4拍子の踊りのスタイル曲“ポルスカ”の変形なのだが、サーメ人の歌唱法であるヨイクをそれにのせて歌っている。マッツ・エデーンのフィドル・ソロを核にあて、メンバーがヨイク風の合唱を、更にはレーナまでもがクゥーラ(牛飼唱法)で交わってくる。このような合唱は7作目『フヤァラル』の“シンナー”まで行われていない。
6. Vallevan 〜 船乗りのヴァッレヴァン
レーナの深みな歌唱より幕が開くドラマティックなトラッド・アレンジ曲。その後のアンサンブルは実に見事なもので、タイトル通り大海原を波にもまれながら突き進む大船を連想させる。4曲目と並び聴き所の多い長編曲である。
のちにヤァラルホーンのイェニーもアルバム『グリム城』(同
DHN-1031)で取り上げる。
7. Krokodiltårar 〜 ワニの涙
この曲でマッツはアコーディオンを弾いている。それと管楽器類の共演が素晴らしいマッツのオリジナル・チューン。後半のコルネットのソロが素晴らしい。
8. Modus Mats 〜 モドゥス・マッツ
フルートとフィドルの共演に、バス・クラリネットによるリズムが徐々に存在感を強めてくる、これまたグルーパらしいマッツのオリジナル。
9. Skymning 〜 夕焼け
フルートとマンドリンにレーナの哀愁を帯びたスキャットが交わってくる。消えて無くなりそうな儚さで、本アルバムはエンディングを迎える。グスタフによるオリジナル。
また本作はグルーパとスヴェン・パルクとの共同プロデュースである。スヴェンはちょうどこの時期、兄弟と共に“FiLur”なる同国フォーク・ミュージック・レーベルを立ち上げる。その第一弾リリースとなったのはグルーパのヨーナス・シーモンソン(flu,
bs)、エリカ・フリセル(fdl)、トーマス・リングダール(ss)からなるこれまた実験色の強いトリオ、カペラ・フリセルの作品「same
title」FiLur FILUR1 -LP- '90)である。しかしパルク兄弟のこのジャンルにおける革新的なプロデュースはまだ早すぎたようだ。その結果、このレーベルは短命に終わっている。しかし現在も彼等は音楽ビジネスに関わっており、フェスティヴァルをはじめとするイベントのプロデュースに携っている。
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