私のレパートリー (コンサートでよく演奏するピアノ曲)
よく演奏する作品を5曲紹介します.同じ曲をいろいろな場所で演奏することで,曲の理解が深まり,また,演奏する際に様々な工夫を試みることができます.各曲の下段は,私が最近に演奏したコンサートです.・モーツァルト ピアノソナタ第15番 ハ長調 K.545
札幌2002年,伊達市2002年.
・ドビュッシー ベルガマスク組曲
伊達市2002年,札幌市2001年10月,釧路市2001年1月.
・シューマン 謝肉祭 作品9
札幌1997年,伊達市1995年.
・ショパン 舟歌 嬰へ長調 作品60
札幌2002年12月,伊達市2002年10月,伊達市1995年.
・ベートーベン ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27-2 「月光」
札幌2002年12月,伊達市2002年10月,札幌2000年7月,札幌2000年4月.
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モーツァルト (Wolfgang Amadeus Mozart, 1756-1791)ピアノソナタ第15番 ハ長調 K.545
1788年作曲
「初心者のための小ピアノソナタ」というタイトルを,モーツァルト自身が書き残していて,彼の作品の中でも特に簡素に書かれています.ですから技術的にもやさしく,子供の教材としてよく使われる「ソナチネアルバム」の中にも収められています. 多くの人に広く親しまれているモーツァルトのソナタです.
第1楽章 アレグロ 4/4拍子
とても覚えやすいメロディで,かわいらしく小気味いい感じがします. ただ,右手左手共に,細かい動きがたくさん出てくるため,勢いにまかせて演奏すると,どんどんスピードが上がってしまいます.しかし,常に安定した速さが要 求されます.それでいて落ち着きすぎると,生き生きした感じがでないので,要注意です.小さい子供の技術でも演奏はできまが, それをいかに芸術として表現できるかが,演奏者の最大のポイントです.音の粒(大きさ,質など)を揃え,何度も出てくるトリル (装飾音)は,目立ちすぎたり,全体から浮いたりしないようにします.また,音の長さや休符を,楽譜に忠実に弾くことで,音楽 の流れや切れを正確に表現できます.第2楽章 アンダンテ 3/4拍子
アンダンテとは,(歩くくらいの速さで)という意味で,速いか遅いかを決めるのが,難しいテンポ表示です.ですからこの曲は演 奏者によって,かなり速さに違いがあります. 私は現時点では,どちらかというとあまり遅くならず,優雅に流れる感じが理想と考えています.スタッカート(短く切って弾く 印)も何度か出てきますが,きつくならず,第2楽章の特徴(ゆったりと落ち着きのある楽章)が壊されないよう演奏します.強弱 の差も付けすぎると,落差が激しくなり,第1楽章,第3楽章との違いが際立たなくなります.ですからモーツァルトの曲は特に,[ f ]フォルテ(大きく演奏する),[ P] ピアノ(小さく演奏する)の量を,充分に考えて決めなくてはいけません.第3楽章 ロンド アレグレット 2/4拍子
右手と左手の掛け合いから始まり,スタッカートで演奏します.第2楽章と違い,ここではできるだけ短く,軽快に弾きます.それ とは対照的に,レガート(音を切らずになめらかに弾くこと)は,ペダルに頼ることなく,指で音の長さをきちんと保ち,それでい て,一定の速さを保たなければいけません.もう一つ演奏技術として必要なのが,スタッカートでもレガートでもないノンレガート という奏法です.それぞれの音がほんの少しだけ切れることをいいます.モーツァルトの曲では,よく使われる奏法で,技術的にか なり難しく,きちんとした脱力ができていなければ,音をうまくコントロールすることができません.(速い動きの時は,特にそれ ぞれの音の長さや強さが不揃いになりやすく,ノンレガートが裏目にでてしまいます)よく粒立ちという言葉を使いますが,まさに 粒がそろった演奏こそ,モーツァルトの曲にとって必要不可欠なことです.
ドビュッシー (Claude Dedussy, 1862-1918)ベルガマスク組曲
1890年作曲
第1曲 前奏曲
第2曲 メヌエット
第3曲 月の光
第4曲 パスピエドビュッシーはフランスを代表する作曲家です. 絵画でも良く使われることばですが,「印象派」という時代に活躍しました(*1). 組曲とは,いくつかの小さな曲が組み合わさって,1曲になっていることをいいます. この組曲は,4曲で1セットなのですが,それぞれの曲が充分に魅力的なので,よく単独でも演奏されます.ベルガマスクという言葉 は,ドビュッシーが留学していたことのある,イタリアのベルガモ地方からとったと言われています.その土地から受けた印象を作品 に残そうとしたのでしょう.
第1曲 前奏曲
組曲の幕開けともいえる曲です.力強い音から繊細な音までと,幅広い音色が要求されます.ドビュッシーの曲すべてにいえることで すが,ペダルは細かく踏み変えるよりも,音の重なりを重視して,長めに踏むことが多くあります.それだけ音を混ぜ合わせた響きを 大切にし,ぼかしの良さを感じさせる音楽になっています.アルペジオ(いくつもの音を同時に弾かず,ほんの僅かずつ,ずらして演 奏すること)もその効果を引き立てています.この曲にも,ふんだんにアルペジオが出てきています.第2曲 メヌエット
メヌエットとは,宮廷など上流社会で流行した3拍子の踊りです. この曲は,ちょっとおどけたリズムが特徴で,軽やかに演奏します. 中間部は,劇的な盛り上がりをみせますが,後半また初めと同じリズムがでてきます. メヌエットといえば,どちらかというと,優雅なイメージがあるのですが,ドビュッシーは,かなり思い切った形をとり,俊敏でユーモラスな音楽 になっています.ただ「きわめてデリケートに」という指示が書いてあるので,演奏される音は,力任せにならず,常に指先のコント ロールが必要です.第3曲 月の光
単独で演奏されることもしばしばある,きわめて有名な1曲です. 初めは,和音の変化による音楽で出来ています.その変化は微妙で,一音たりとも外せません.第1曲でも述べた通り,和音の時は特 にペダルが重要で,音の重なりを大切に長めにペダルを踏み,時には半分だけ足を離す事によって,濁りだけを抑えることもあります. 中間部は,分散和音の連続で,更に立体感と勢いが出てきます.ただし速すぎるテンポは,せっかくの美しい響きをつぶしてしまうの で,要注意です.第4曲 パスピエ
パスピエもメヌエットと同様に,宮廷でもてはやされた舞曲です. メヌエットに比べ,非常に速いテンポの音楽です. この曲は,左手スタッカートの連続が特徴で,それぞれの音が離れているため,むらになりやすく,しかも軽く弾こうとすることで, ぬけやすくなるので,指先のコントロールと素早い手の動きが大切です.スピーディーに,どんどん音楽が展開していきます.場面の切り替 わりも早く,常に先を予測しながら演奏することで,途切れずに,流れにうまく乗ることが出来ます.(*1)印象派音楽とは,1890年〜1910年ころフランスを中心にあらわれ,光や影,色彩など情景から受ける印象を,音で表現しようと したものです.ほかにラヴェルやフォーレがいます.
シューマン (Robert Schumann, 1810-1856)謝肉祭 作品9
1835年作曲
第1曲 前口上
第2曲 ピエロ
第3曲 アルルカン
第4曲 高貴なワルツ
第5曲 オイゼビウス
第6曲 フロレスタン
第7曲 コケット
第8曲 返事
第9曲 蝶々
第10曲 踊る文字
第11曲 キャリーナ
第12曲 ショパン
第13曲 エストレラ
第14曲 めぐり会い
第15曲 パンタロンとコロンビーヌ
第16曲 ドイツ風ワルツ/間奏曲:パガニーニ
第17曲 告白
第18曲 散歩
第19曲 休息
第20曲 ペリシテ人と闘うダヴィッド同盟の行進シューマンは,音楽と文学(言葉)を関連させることを,積極的に行いました. この曲は,文学と直接的な関係はありません.しかし,当時シューマンが好意を寄せていた女性(エルネスティーネ)が,ボヘミア のアシュ(Asch)という町の出身で,その地名の文字を,音に当てはめて作曲しています(*1).
また,シューマンの持つ性質で,二面性(衝動的で外向的な面「フロレスタン」,夢想的で内省的な面「オイゼビウス」)(*2) が,この作品にもよく現れていて,その特徴をそれぞれの曲で,どちらに当たるのかを,意識することが求められます.
謝肉祭とは,ここでは仮面舞踏会のことで,自分に関係のある人物や,シューマン自身の顔を音楽に託して,表現しようとしていま す.ですから,それぞれの曲が違った個性を持ちながら,どこか関連性もあるのです.演奏する際には,曲と曲の間を充分あけたり, 間髪入れずに,次に進んだりと[曲間]が非常に大切になります. またシューマンの曲は,ハーモニー(和音)に特徴があり,ピアニストにとって,とても難しい形で出来ています.
どういう事かと申しますと,音がいくつにも重なっている時に,大抵は,一番上の音を出すことが多く,それは技術的にも問題なくできます.しか しシューマンの曲は,内声部がかなり重要な役割を持っているため,他の作曲家では,あまり使われない指の動きが,多分に出てき ます.そのため自然な演奏をすることは,非常に難しく,かなりの鍛錬が必要です.ピアニストとしても名高いシューマンが,指を 痛めてしまったのも,こんなすばらしい作品を数多く作曲したためではないでしょうか.
(*1) A(イ音)=ラ, S=Es(変ホ音)=ミ♭, C(ハ音)=ド, H(ロ音)=シ 上記にあるように,それぞれがドイツ語で音の頭文字にあたり,その音を,頻繁に曲の中に取り入れました.
(*2)シューマン自身が,それぞれの性質に架空の名前を付けました.
ショパン (Frederic Chopin, 1810-1849)舟歌 嬰へ長調 作品60 アレグレット 12/8拍子
1846年作曲
ショパンはピアノの詩人と言われ,たくさんのピアノ曲を残しましたが,舟歌は唯 一これだけです.そして,この曲は晩年の傑作 として,多くのピアニストたちが,好んで演奏しています.舟歌は通常6/8拍子なのですが,ショパンの舟歌は12/8拍子で書かれ ています(*1).これは,ショパンが,細かい音を数多く入れて表現しようとしたため,通常の拍子を用いずに作曲したためで す(*2).
舟歌は,ヴェネチアの船頭の歌が起源と言われていています。細長いゴンドラが波に揺れる様子を左手のリズムであらわし,その上で右手のメロディ(船頭の歌)が,自由に奏でられます. 左手は同じような動きが,長く続きますが,決して単調にならないよう神経を使わなければいけません.しかも動きが激しすぎない, 心地よい微妙な揺れが要求されます. ですから基本は,左手にあると言ってもいいでしょう.
右手は,技術的に難しい動きが多く出てきますが,それをいかに軽やかに,やわらかく演奏できるかがポイントです.絶対に左の 流れに逆らってはいけません. 常に気持ちをコントロールして,前に行きたい思いを抑えることで,この曲の持つ厳かさ,気品を表現できると思います.
ペダルも重要です.ハーフペダル(ペダルを軽く半分だけ踏むことによって、濁りをふせぐこと)を適所で使い,タイミングよく踏みかえることで,音楽が細切れにならず、美しいつながりを持ちます.全身の神経を使って,それでいて自然な演奏をすることが求められます.
(*1) 6/8拍子の舟歌は,メンデルスゾーン(1809−1847)やフォーレ(1845−1924)が作曲しています.
(*2) 6/8拍子は,12/8拍子よりも2倍の音が入ります.
ベートーベン (Ludwig van Beethoven, 1770-1827)ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 作品27−2 「月光」
1801年作曲
第1楽章 アダージョ ソステヌート 2/2拍子
ベートーベンの曲は,テンポ設定が非常に重要で,この楽章はその点が特に難しいところです.2分の2拍子で書かれているので, もたつかず大きな流れで演奏し,4拍子よりも,はるかに深く長く,一定に呼吸を保たなければいけません. だからこそベートーベンは,この拍子にこだわりを持っていたに違いないと思います.しかも楽譜があまりにもシンプルなので, (右手がずっと同じ3連音符,左手はオクターブの進行)いかにメロディに緊張感を持たせ,最後までそれを持続させるかが,もっ とも重要なポイントだと考えます.そして何度も出てくる類似した形の中に,ほんの微妙な変化を持たせることで(楽譜に書かれて いる小さいクレッシェンド,ディミニエンド)気付かないほどの,煌きを表現したいと思っています.第2楽章 アレグレット 3/4拍子
複合3部形式です.第1楽章とは対照的で,穏やかな中にも,力強さが見え隠れしていますので,第3楽章を常に頭において,演奏し なければいなければいけない,と感じます. レガートとスタッカートの兼ね合いが難しく,とかくスタッカートが甘くなります.でもこの場合,切れ味が悪いと,何とも間延び したつまらない演奏になってしまうので,スタッカートの弾き方には,細心の注意を払わなければいけません.また全てが和音で形 成されているので,どの部分を際立たせるかで,印象が随分変わります.しかも立体感を出すには,その点の工夫が不可欠です。私 は,特に左手の動きに重点を置いて,演奏する度に必ず再考しています.第3楽章 プレスト アジタート 4/4拍子
この曲の重心を担う楽章です.3楽章中で一番テンポが速く,爆発的なエネルギーを必要とします。緊迫した左手のスタッカート, 均整のとれた右手の16分音符,感情に流されずに,コントロールされた正確なテンポで演奏されなくてはいけません. 速すぎると,すべての音が充分に聴こえず,固まりとしての響きだけになりますが,私はあえて,できるだけすっきりと演奏するよ うに心掛けています. なぜなら既に,楽譜上の音だけで,充分に複雑な響きを感じ取ることができるからです. 何度も出てくる長い音符は,緊張感を無くしやすく,そこで一息入れてしまいがちです. 特に右手は,ほとんど休符がないので,そうなりやすいのですが,それではすべての演奏が台無しになってしまいます.第3楽章 は,初めの1音から最後まで途切れることのない, 一貫性を出すことが,とても重要です. それだけに,譜面上は長い曲ですが,一瞬のできごとのように感じていただけたら,すばらしいことだと思います.
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