マイ、露天風呂
ある日のこと、母が私に、「露天風呂付き客室のある、旅館を見つけたんだけど、行ってみない?」と言った。
かなり前に、「誰に気がねなく1人きりで、のんびり露天風呂に入りたい」って話してたことを覚えていたのだろうか、突然言い出したのである。
案の定、料金は1泊3満5千円とかなり高い。
しかし、せっかくの話しだし、母の誕生日が間近でもあるし、これを逃したら、二度と行けないような気がして、両親を招待する!?とまではいかないが、わりかんということで、2001年の夏の終りに行くことになった。
行き先は伊豆稲取。宿泊は水生の庄(ミブノショウ)。
ただ、どこにも寄らず、旅館と自宅との往復ではつまらないので、今回は熱川の「バナナ鰐園」に行く事にした。
バナナ鰐園はその名のとおり、池に鰐がいて、温室にバナナの木や熱帯の植物があるという所。
温室なので、もちろんクーラーはない。
この夏の猛暑に行ったら、蒸し暑くて具合が悪くなってしまいそうだった。
やはりこの手の観光地は冬に行くにかぎる。
写真の説明:たくさんのバナナがなっている木が写っています。
それに鰐は、体温調節のために口を開けて、じっとしていて、「見ているほうも、あまり面白くないはね」と母が言っていた。
そして、再び電車に乗って、稲取駅へ。そこから車で10分ほどで旅館に到着。
ちょうどチェックインが始まる午後2時だった。
チェックインのとき、ロビーで抹茶とお菓子をいただいた。
美味しかったものの、お茶の作法など知らない私は、ちょっと恥ずかしかった。
あれで、よかったのだろうか。
部屋へと案内されると、暫くしてお部屋係から挨拶とともにもう1度、今度は緑茶とお饅頭が出てきた。
料金が高いのはこの辺にあるのかな!?
こうして、6時の夕食まで、何もすることがない。
まずは、明るいうちにお庭とか、写真を撮りながら一回り歩いてみた。
外では蝉、とりわけツクツクボウシが鳴いていて、暑いのにもかかわらず、夏の終りを感じさせた。
何故かふと、あの有名な松雄芭蕉の
「静けさや、岩にしみいる蝉の声」
という俳句を思い出してしまう。
そして、部屋のお風呂に入る前に、大浴場に行ってみた。
私と母だけで、他には誰もいなかった。
ここにも露天風呂があって、入ってみたが、まだ午後の3時過ぎだと、蝉時雨と夏の太陽があたって、とても暑かった。
なんかふしぎな感じである。
ここの旅館は丘の上にあるからなのか、それとも初秋だからなのか、日が暮れ始めると急に涼しくなる。
そう、涼しくなったので、部屋の露天風呂に入ってみた。
ドアを開けるなり、たくさんのヒグラシが鳴いていた。驚いた。
部屋はクーラーを入れていて、窓を閉めていたので、気がつかなかったのである。
木でできている浴槽の蓋を開けると、ちょうど良い湯加減で、すぐに入れるようになっていた。
よく、露天風呂は、木の葉や小枝とかが浮いていて、汚いという人もいるが、ここでは蓋がしてあるので、清潔である。
どのくらい時間が経ったのだろう。
ただ、ぼぉーっとお湯に浸かりながら、耳をすませ、まわりの音を聞いていた。しあわせ!
旅行のときはいつもいっしょで、別行動などしたことのない私が、突然姿を消してしまって、心配した母が様子を見にきたのである。
夕食はお刺身中心のお料理。
新鮮だからなのか、イセエビがこりこりしていて、美味しかった。
写真の説明:大きなお皿の上に、イセエビの他、数種類のお刺身が乗っています。
そして夕食後、あの幸せをもう1度と、再び入りに行った。
今度は虫の声。でも、やっぱり夜なので怖くなって、早々に出てきた。
翌朝入ったら、鳥の声がしていた。思わぬバードウォッチングならぬ、バードヒヤリングができた。
朝晩の風は、すっかり秋になっていて、涼しい。
木や草の匂いがして、とても海辺の町とは信じられない。
そして、日が上ると、また厳しい残暑である。
朝食を食べてチェックアウトをし、まっすぐ帰宅した。
写真の説明:家族3人、旅館の入り口の前で撮った写真。
私と父はいすに座り、母は立っています。
さすが、「伊豆の隠れ宿」と銘打ったこの旅館、鳥や虫の声以外、静かである。
館内どこを歩いても、他のお客さんとすれ違わない。
おそらく、10室ほどしかないためだろう。
旅先での人との出会を楽しみにしている人には物足りないかもしれない。
だけど、ときには人がいない静かな所に行きたくなることもある。
そんなとき、お薦めかもしれない。
また、全盲の場合、慣れない場所で、部屋から遠い大浴場でマイペースでそれも好きなときに入りに行くなんて、大変。
そのつど、誰かの手を借りなくてはならない。
今回、かなり贅沢してしまったが、
「好きなときに好きなだけ、自由に温泉を楽しめた」
それがいちばん嬉しかった。
Last update: 2002/05/19