ナラとの出会い





ナラは神戸市動物管理センターにいました。元の飼い主さんによってセンターに持ち込まれた犬でした。
飼い主が動物管理センターに持ち込むということは、それは多くの場合「死」を意味しています。
神戸市では、たとえ飼い主による持ち込みであっても、病気でない、人に対して攻撃性がない、高齢でないなど
条件を満たせば譲渡犬として生きる道が保障されます。センターで、里親を希望する人を待つのです。
ナラは新しいお家を待っていました・・・。

センターでボランティアをしている私がナラと出会ったのは4月の半ばでした。
ひどく怯えた子が、ボランティアの代表のMさんと一緒に部屋に入ってきました。
パッと見たとき、おともだちのワンコにそっくりなのが印象的でした。
やがてセンターで「ピピ」と名づけられました。人に怯えてビビッてばかりだから、ビビちゃん・・・
でも、女の子でビビリのビビちゃんではかわいそうかな?ということでピピになったのです。
「ピピちゃん」と呼びかけて散歩に誘っても、ただ目を大きく見開いてじっとうずくまっていました。
「あなたは誰?」「私をどうしようとしているの?」そう語っているような目でした。
吠えることも鳴くこともなく、ただピピちゃんはずっと・・・いつ目をやってもすわっていました。

センターにボランティアに行き始めて里親待機中のいろんなワンコたちに接していると、
とにかく楽しくて、かわいくて・・・みんなが早く自分のお家を持てたらいいのに、
と願わずにはいられませんでした。と同時に、「たとえひと時でも、我が家でゆっくり過ごしてもらえたら」と
思うようになり、ゴールデンウィーク中(センターの業務がお休みの間)のホームステイを希望しました。
「トチと相性が良さそうな子ならどの子でも預かります」とお伝えしていました。
そのため、トチも時々センターに連れて行き、私がボランティアをしている間待ってもらっていました。

センターには比較的長くいる子もいます。温かい家庭の雰囲気とは無縁の子がいます。
でも、この機会に我が家に・・・とホームステイが決まったのは、あの、人に怯えるピピちゃんでした。
人とじっくり接することで少しでも人になれていってくれたら・・・
そう願っての決定でした。私はそのときはあまり大袈裟に考えずに決定を受け入れました。
ホームステイを理解してくれた家族にも「人間のことが怖い子がくるから。うちでちょっとでも人になれてくれたらいいよね」
と話していました。先のことなど考えずに・・・ただトイレの失敗があるかもしれない、とペットシーツを購入し、
トチの子犬時代のケージを出して来て、迎える準備をしたのです。

我が家にやってきたピピちゃんは玄関に入ってすぐオシッコをしました。
慣れないことに私は慌ててトイレシートで後始末し、少しにおいをつけたシートを
トイレだとわかるように家の中にいくつか設置しました。
我が家に来てからも食欲は衰えませんでした。油断しているとトチの残したフードを狙います。
これがあのピピちゃんだろうか・・・いつも怯えて横の子にフードを横取りされそうになっていた、あのピピちゃん・・・

日を追うごとに、垂れていたピピちゃんのしっぽが立派に巻いてくるようになりました。
トチの後を追いかけて家中を散策しました。初めは逃げ場所だったケージでしたが、段々とピピちゃんの安らげる場所へと
変化していき、時には「ハウス」の声で、時には自分からケージの中に入っていきました。
トチの姿を見てお座りとお手を覚えました。トチのおもちゃが気に入って、気に入ったものからかじり始めました。
自分でかじっていたおもちゃを飛ばしてはまた取りに行き・・・ひとりでもよくあそんでいました。

我が家に来て3〜4日経つと、徐々に声を出すようになってきました。
それは淋しいとき。ひとりにされたと思ったとき。置いていかれたと思ったとき。
私がお風呂に入っているときにケージの中で鳴いていました。
私が部屋に戻って一旦なだめて寝ようとしても、なお私を求めて鳴いていました。
涙が止まりませんでした。

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